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異世界新婚旅行編
第151話 問題
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ムツキ達は長旅の末、ついに新婚旅行の目的地である海のある国《シーランド王国》へ入る国境の門へと向かっていた。この世界の国境というのは、地球とはちがって空白の土地がある。
これは、地球よりも戦争が身近なこの世界で、すぐに他国に攻め込まれない為の工夫だが、この空間が広いほどに、過去の軋轢がある国といえる。
その空白の土地は、どちらの国でもない為無法地帯となりやすい。
しかし、今シーランドへと向かっている空白の土地は荒れた様子もなく距離も短かった。
国境で検問を受けると、シーランドへと入国できる。
ムツキ達には書状があるので入国もスムーズである。
「どうしたんですか、ムツキ様?」
国境を通り越して、馬車の中でニヤニヤとするムツキに、エレノアが質問をした。
「いや、ついに海にバカンスなんだなと思ったらついね」
南国へのバカンスは、ムツキの夢であった。
ブラック企業で出社がないリモートワークだからこその勤務時間無視で仕事のノルマを詰め込まれて家に鮨詰めになっていたムツキは、いつかは沖縄にバカンスに行きたいと夢見ながら屍のような社畜生活を送っていた。
沖縄ではないとは言え、日本人にとっては、その上のランクのグアムやハワイ。その上であろう幻の異世界の海がすぐそばなのである。
海を知らないエレノアやシャーリー、アイン、メルリスにもムツキは少ない知識でバカンスの良さを力説し、和気藹々とした雰囲気の馬車は、近くの街までトラブルもなく到着した。
まだ海は遠いらしく、潮の匂いがしているといった事はないが、街の雰囲気は国毎にだいぶ変わっていて、いよいよだという思いが高まる。
「こんな端の国まで旅してくるなんて物好きだね。何しに来たんだい?」
「はい。海を見たくて国を2つ越えてきました。もうすぐだと思うと、とても楽しみでなりません」
宿の女将さんが受付の時に話しかけてくれたので、ムツキは楽しみにしている海の話をした。
すると、女将さんは眉を下げてなんとも言えない暗い声で話し出した。
「あー、なんだか言いにくいんだけどね、海へは、行けないと思うよ」
「え?」
「うちの辺りは国王様が立ち入りを禁止してるんだ。 それで人がすまない土地には魔物が住むだろう? だから、海の方は誰も近付かないんだよ」
女将さんの口から語られる事実にムツキは愕然とした。
「まあ、なんだね。他にもいい所のある国だと言いたいけど、特段ないからねえ」
女将さんは苦笑いでそう伝えると、悲しそうな顔をするムツキに、エレノア達が優しく背中を撫でた。
エレノアに手を引かれ、アインに背中を押されながら、ムツキは部屋へと移動する。
少し先を歩いたシャーリーが部屋の鍵を開けて、部屋へと入った。
「ムツキ様、私達はトラブルもありましたが、この数ヶ月、ムツキ様とゆっくり旅した思い出はそれだけで日常と違った大切な宝物ですわ」
「それに、ムツキ様の強さなら魔物はどうって事ないでしょうし、国王に話してみれば海に行けるかもしれませんよ?」
エレノアとシャーリーがムツキを慰めて、アインも、ベッドに腰掛けたムツキを、自分がムツキにしてもらう時のように優しく頭を撫でている。
ムツキがアインを撫でる時は褒める時なのだが、落ち込んだムツキに、自分が嬉しいと思う事をしてあげようというアインの優しさであろう。
とりあえず、国王に事情を聞かなければどうにもならない為、シーランドの王都に向かう事にして、その日は眠りにつくのであった。
これは、地球よりも戦争が身近なこの世界で、すぐに他国に攻め込まれない為の工夫だが、この空間が広いほどに、過去の軋轢がある国といえる。
その空白の土地は、どちらの国でもない為無法地帯となりやすい。
しかし、今シーランドへと向かっている空白の土地は荒れた様子もなく距離も短かった。
国境で検問を受けると、シーランドへと入国できる。
ムツキ達には書状があるので入国もスムーズである。
「どうしたんですか、ムツキ様?」
国境を通り越して、馬車の中でニヤニヤとするムツキに、エレノアが質問をした。
「いや、ついに海にバカンスなんだなと思ったらついね」
南国へのバカンスは、ムツキの夢であった。
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沖縄ではないとは言え、日本人にとっては、その上のランクのグアムやハワイ。その上であろう幻の異世界の海がすぐそばなのである。
海を知らないエレノアやシャーリー、アイン、メルリスにもムツキは少ない知識でバカンスの良さを力説し、和気藹々とした雰囲気の馬車は、近くの街までトラブルもなく到着した。
まだ海は遠いらしく、潮の匂いがしているといった事はないが、街の雰囲気は国毎にだいぶ変わっていて、いよいよだという思いが高まる。
「こんな端の国まで旅してくるなんて物好きだね。何しに来たんだい?」
「はい。海を見たくて国を2つ越えてきました。もうすぐだと思うと、とても楽しみでなりません」
宿の女将さんが受付の時に話しかけてくれたので、ムツキは楽しみにしている海の話をした。
すると、女将さんは眉を下げてなんとも言えない暗い声で話し出した。
「あー、なんだか言いにくいんだけどね、海へは、行けないと思うよ」
「え?」
「うちの辺りは国王様が立ち入りを禁止してるんだ。 それで人がすまない土地には魔物が住むだろう? だから、海の方は誰も近付かないんだよ」
女将さんの口から語られる事実にムツキは愕然とした。
「まあ、なんだね。他にもいい所のある国だと言いたいけど、特段ないからねえ」
女将さんは苦笑いでそう伝えると、悲しそうな顔をするムツキに、エレノア達が優しく背中を撫でた。
エレノアに手を引かれ、アインに背中を押されながら、ムツキは部屋へと移動する。
少し先を歩いたシャーリーが部屋の鍵を開けて、部屋へと入った。
「ムツキ様、私達はトラブルもありましたが、この数ヶ月、ムツキ様とゆっくり旅した思い出はそれだけで日常と違った大切な宝物ですわ」
「それに、ムツキ様の強さなら魔物はどうって事ないでしょうし、国王に話してみれば海に行けるかもしれませんよ?」
エレノアとシャーリーがムツキを慰めて、アインも、ベッドに腰掛けたムツキを、自分がムツキにしてもらう時のように優しく頭を撫でている。
ムツキがアインを撫でる時は褒める時なのだが、落ち込んだムツキに、自分が嬉しいと思う事をしてあげようというアインの優しさであろう。
とりあえず、国王に事情を聞かなければどうにもならない為、シーランドの王都に向かう事にして、その日は眠りにつくのであった。
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