上 下
103 / 159
異世界居住編

第101話 朝

しおりを挟む
 一夜が明けて、ムツキは、頬を叩く感触で目を覚ました。

 ムツキが体を起こすと、目の前にピリカが腕を組んで仁王立ちの様子で飛んでいた。

『おはようございます。ピリカ』

『おはよう、ムツキ。ムツキ、もうお昼前よ、お腹が空いたわ!』

 ピリカの言葉を聞いて、ムツキは飛び起きた。

「え、お昼ですか! みなさんはどうしてますか?」

 ついつい言葉に出てしまったムツキの言葉に、ピリカは首を傾げながら答えた。

『貴方の奥さんもみんな寝てるわよ?』

 ムツキは少しホッとした。自分だけが寝坊したわけではなかった。

 皆が寝坊してしまうくらいに、このベッドの寝心地が良かったからだろう。

『早くご飯にしましょうよ!』

 ムツキはピリカに急かされてベッドから降りて着替えを済ませてリビングへと向かう。

 ピリカも、妖精と言う事で魔力だけで食事の必要はなく、これまでは食事をせずに生きてきたのだが、ムツキと共に過ごす様になってムツキが食べている食べ物に興味を持ち、ムツキの物を分けでもらった事がある。

 それ以降、味覚と言う物の素晴らしさを知ったらしく、食べ物。特にムツキの作る食べ物に夢中である。

 リビングからキッチンで水を飲むと、ムツキはエレノア達を起こす前にご飯を作ってしまおうと決めた。

 お昼前だが、みんな寝起きなため、朝食の為に昨日の晩に用意しておいた物にする。

 冷蔵庫の中から、よく冷えたバットを取り出してアイランドキッチンに置いた。

 バットの中身は、甘い砂糖と濃厚なミルクで作った卵液をしっかりと吸い込んだパンがヒタヒタの状態で並んでいた。

 後は、これをバターでこんがりきつね色に焼き上げれば完成である。

 付け合わせは程よい塩味えんみのジャガイモのポタージュを温めておく。

 これは、風魔法でミルクとジャガイモをミキシングした手抜きスープに塩とコショウ。そして錬金術でコンソメスープをキューブ化した物を砕いて入れて味を整えた物だが、舌触りのいいちゃんとしたポタージュになっている。

 テーブルに人数分の食事を用意した頃には、リビングダイニングには甘い香りが充満していた。

『ムツキ、早く起こして食べましょう!』

 ピリカは我慢できないのか、自分の力では動かせないムツキの背中を一生懸命押す。

 ムツキはその行動を微笑ましく思いながらエレノア達を起こしに向かう。

 ムツキに起こされて、慌てて飛び起きる妻達の様子もとても可愛いと思ってしまうが、それを口に出すのは踏みとどまったムツキであった。

 そんな様子も、食事を始めて甘いフレンチトーストを一口食べればどうでも良くなってしまう。

 エレノア達はとろける甘さに頬を押さえ、ムツキの皿からは驚くべきスピードで一枚のフレンチトーストが無くなっていく。

 幸せな光景に微笑んで、ムツキも自分の分をナイフとフォークで切り分けて口に運ぶのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...