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異世界転移編
第72話 フィールダー領
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フィールダー領___
ある日、少女は農作業をしていた。
「たく、なんで私がこんな事をしなくてはなりませんの!」
少女はぐちぐちと一人で小言を呟きながら、たわわに実った小麦を根本から器用に刈り取っている。
今も株の小麦を逆手に持つ様に軽く引っ張り、鎌を手前に勢いよく引く様にして根元から刈り取った。
「上手く刈り取れる様になってきたじゃないか」
「何ヶ月も作業してればこれくらいできる様になりますわよ、お義母様」
少女は、声をかけてきた恰幅のいい女性に憎まれ口でそう答えた。
「そうかい、そりゃいいこった」
お義母様と呼ばれた女性はそう言ってガハハと豪快に笑った。
この少女の名前はトリエ。ドラゴニア聖国の王女であったが、起こした粗相の結果、政略結婚によってこの男爵家へと嫁いで来た。
ワガママ放題であったのだから、農業男爵家に嫁ぐなど無理かと思われたが、何とかやっている。
と言うのも、嫁いだ当初は元王女と言う事で傲慢で、農業をバカにして作業などする気は無かった。
しかし、どんなに傲慢で口が悪くとも、目の前にいる義母は笑顔で笑って少しでも農業をさせようとするのだ。
城にいた頃の護衛の騎士よりもガタイが良く、威圧感のある義母に、護衛もなく一人のトリエは渋々ながらも従って農作業をする事になった。
慣れない作業に文句を言いながらも義母に習って作業するトリエに、義母は厳しくも優しく接してくれた。
毎日のご飯は城でのご飯と違って平民が食べる物と一緒で凝ったものではないが、城で食べていたものよりも何倍も美味しく感じ、食べる量も増えてしまったので、体重が増えるのを心配したが、太るよりむしろスタイルは良くなった気がする。
とは言え、農作業で連日の筋肉痛。
貴族の嫁の役目である子作りを行える状態ではなかった。
それでも、義母は勿論、夫となった男爵も、先に居た第二夫人もトリエを家族としてとても良く扱ってくれた。
結果、プライドがあるので憎まれ口を叩くものの、農作業をきっちりとこなし、煌びやかなドレスを脱ぎ捨ててモンペ姿で農作業をしているのだ。
「トリエさん、お義母さん、そろそろお昼にしましょうね」
トリエが立ち上がったタイミングで2人に声をかけてきたのは、第二夫人のレミーであった。
スラっとして線の細い体に短めだがサラサラの金髪。とても、農作業をする様には見えない。
しかし、小麦色になるまで日焼けして、トリエの何倍もの量の小麦を収穫し終わり担いで来たのをみると、その見た目に似合わぬ力強さを感じる。
「レミーさん、旦那様は?」
「ああ、ミールもそろそろ来ると思いますよ」
ミールは聞いての通りこの領地の男爵で、トリエとレミーの夫である。
「おーい、そろそろ昼にするさー!」
噂をすれば、貴族とは言えない泥まみれの姿で顔に跳ねた泥を拭いながらミールもやって来た。
ミールは母に似て、ガタイが良く、裏表のない腹の探り合いなどより農作業が好きなおじさんであった。
と言っても、見た目が40代に見えるだけで、まだ20代後半とムツキよりも若いのだが。
ちなみに、ここにはいない前男爵、ミールの父は早々に息子に家督を譲り、自分の趣味でもある家事に邁進する為に主夫をやっている。
その為、農作業を早めに切り上げて持って来た弁当を取りに行き昼ご飯の準備をしてくれている事だろう。
「ミール様、だいへんだぁ!」
その平和な田舎の風景に、領民の1人が慌ててやって来た。
「どうした、そんなに慌てて」
慌てる領民をミールが落ち着かせようとするが、領民はそんな場合ではないと慌てて言葉を繋いだ。
「向こうの方から大量の兵士達がやって来るだ!」
この領地は、隣国と隣り合わせの領地である。
その隣国の名前はダスティブ王国。
ダスティブ王国は、宣戦布告と同時、エクリアから各領地に連絡が届く前に進軍を開始したのだ。
平和な領地に、刻一刻と兵士の大群が迫ってくるのであった。
ある日、少女は農作業をしていた。
「たく、なんで私がこんな事をしなくてはなりませんの!」
少女はぐちぐちと一人で小言を呟きながら、たわわに実った小麦を根本から器用に刈り取っている。
今も株の小麦を逆手に持つ様に軽く引っ張り、鎌を手前に勢いよく引く様にして根元から刈り取った。
「上手く刈り取れる様になってきたじゃないか」
「何ヶ月も作業してればこれくらいできる様になりますわよ、お義母様」
少女は、声をかけてきた恰幅のいい女性に憎まれ口でそう答えた。
「そうかい、そりゃいいこった」
お義母様と呼ばれた女性はそう言ってガハハと豪快に笑った。
この少女の名前はトリエ。ドラゴニア聖国の王女であったが、起こした粗相の結果、政略結婚によってこの男爵家へと嫁いで来た。
ワガママ放題であったのだから、農業男爵家に嫁ぐなど無理かと思われたが、何とかやっている。
と言うのも、嫁いだ当初は元王女と言う事で傲慢で、農業をバカにして作業などする気は無かった。
しかし、どんなに傲慢で口が悪くとも、目の前にいる義母は笑顔で笑って少しでも農業をさせようとするのだ。
城にいた頃の護衛の騎士よりもガタイが良く、威圧感のある義母に、護衛もなく一人のトリエは渋々ながらも従って農作業をする事になった。
慣れない作業に文句を言いながらも義母に習って作業するトリエに、義母は厳しくも優しく接してくれた。
毎日のご飯は城でのご飯と違って平民が食べる物と一緒で凝ったものではないが、城で食べていたものよりも何倍も美味しく感じ、食べる量も増えてしまったので、体重が増えるのを心配したが、太るよりむしろスタイルは良くなった気がする。
とは言え、農作業で連日の筋肉痛。
貴族の嫁の役目である子作りを行える状態ではなかった。
それでも、義母は勿論、夫となった男爵も、先に居た第二夫人もトリエを家族としてとても良く扱ってくれた。
結果、プライドがあるので憎まれ口を叩くものの、農作業をきっちりとこなし、煌びやかなドレスを脱ぎ捨ててモンペ姿で農作業をしているのだ。
「トリエさん、お義母さん、そろそろお昼にしましょうね」
トリエが立ち上がったタイミングで2人に声をかけてきたのは、第二夫人のレミーであった。
スラっとして線の細い体に短めだがサラサラの金髪。とても、農作業をする様には見えない。
しかし、小麦色になるまで日焼けして、トリエの何倍もの量の小麦を収穫し終わり担いで来たのをみると、その見た目に似合わぬ力強さを感じる。
「レミーさん、旦那様は?」
「ああ、ミールもそろそろ来ると思いますよ」
ミールは聞いての通りこの領地の男爵で、トリエとレミーの夫である。
「おーい、そろそろ昼にするさー!」
噂をすれば、貴族とは言えない泥まみれの姿で顔に跳ねた泥を拭いながらミールもやって来た。
ミールは母に似て、ガタイが良く、裏表のない腹の探り合いなどより農作業が好きなおじさんであった。
と言っても、見た目が40代に見えるだけで、まだ20代後半とムツキよりも若いのだが。
ちなみに、ここにはいない前男爵、ミールの父は早々に息子に家督を譲り、自分の趣味でもある家事に邁進する為に主夫をやっている。
その為、農作業を早めに切り上げて持って来た弁当を取りに行き昼ご飯の準備をしてくれている事だろう。
「ミール様、だいへんだぁ!」
その平和な田舎の風景に、領民の1人が慌ててやって来た。
「どうした、そんなに慌てて」
慌てる領民をミールが落ち着かせようとするが、領民はそんな場合ではないと慌てて言葉を繋いだ。
「向こうの方から大量の兵士達がやって来るだ!」
この領地は、隣国と隣り合わせの領地である。
その隣国の名前はダスティブ王国。
ダスティブ王国は、宣戦布告と同時、エクリアから各領地に連絡が届く前に進軍を開始したのだ。
平和な領地に、刻一刻と兵士の大群が迫ってくるのであった。
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