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Falling 2

俺は育ちがいいから

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 ラピスの能力は、自分がイメージできる宝石を生み出せるというものだ。
 形・大きさなどの調節の他、目の前の物にくっつけて出す事も可能なので、宝石とは言いつつも物を作るのに適した力らしい。
 ただ出した後は硬くて加工もできないから、完全に俺の出し具合にかかっている。
 という訳で、俺は能力の本来の持ち主であるラピスに、使い方をレクチャーしてもらっていたのだが…。

「何スか、そのきったないのは!何をどうイメージしたら、そんなんなるんスか!?」 

 俺の生み出したヘドロみたいな失敗作を見て、ラピスは「ふざけてるんスか」とプンプン叱ってくる。
 でも、俺は至って真面目だ。
 さっきラピスは、最悪自分の手が宝石になる事があると言っていたが、そういう状態をイメージしてしまうと、本当にそうなってしまうらしい。
 ダメだと分かっていればいるほど、頭に浮かんでしまうのは人間の性だ。
 慎重に、慎重に、変な事を考えないよう過剰に意識し過ぎた結果、意図しない何かを生み出してしまっていた。
 リベンジを試みる俺は、今度は立派なダイヤの剣をイメージして左手をかざす。

「くそ、これでどうだ!?」
 
 すると、俺の手からダイヤ製の小さい蛍光灯みたいな物がカランと転がった。
 そのキラキラ光るしょうもない棒を2人で呆然と見つめた後、ラピスは一言呟いた。

「……及第点ッスね」
「え、マジで?」 

 そんな感じで数時間、俺はみっちりラピスの指導を受けた。
 ラピスの厳しくも褒めて伸ばし、かと思ったら突き離したりする巧みなコーチングの甲斐あって、俺は大体の宝石は出せるようになった。
 石の造形や接合も持ち前のセンスでそつなくこなせるようになり、ラピスに「学校に建築科でもあったんスか」と言わしめた程だ。
 一段落ついて俺が休憩していると、ラピスが隣りに座って話しかけてきた。

「にしてもカイネっちは、思ったより落ち着いてるッスね。人間って、手から宝石が出てきたら、目の色変えてはしゃぐものかと思ってたッス」
「まあ……俺は一応貴族だったし、育ちがいいから」

 結構な偏見を言うなと思ったが、実際金目の物を見慣れているはずの俺でも、最初は少し悪い事を考えてしまっていた。平民以下だったらまずかったかもしれない。

「雑念が多いと上手く扱えない力ッスから、カイネっちみたいな人でよかったッス!人間って、すぐ宝石欲しさに紛争とか起こすんで、結構怖いんスよ。だから、アタシがこそっと山とかに宝石補充しといて、バランス取ったりして……」
「そんなお菓子探しゲームみたいな事されてんの!?」

 人間の手元に宝石がどうやって届くのか。
 俺が誰も信じてくれないような裏話を、思いがけず聞いてしまったところで……。


「ねえ、もう練習終わり?」


 俺達が休憩しているのを見たユール達が飛んできた。

「ああ、大体はな」

 ユールはそう返事した俺を、もう直した寝癖をさっと隠して睨んでくる。

「ふーん……じゃ、早く作ってよ。ほら、まずはこの海岸の端から端までよ」

 ユールは適当に指を差しながら、無茶苦茶な指示をする。

「親方ぁ、先にあいつしばいていいですか?」 
「まあまあ、後でユールっぴ達にも手伝って貰うッスから。しばいちゃダメッスよ」

 しばきに監督者の許可は下りなかった。
 あと、やっぱりユールだけは「ぴ」の方がしっくりくる。

「ふふん。現場はチームワークが大事なのよ、カイネっちぃ」
「うるせえ、このぴっぴ」

 俺がユールと小競り合いをしていると、唐突にラピスが思い出したように言った。

「あ、そう言えば、お城建てる位置なんスけど……。あの辺はどうッスかね?」

  ラピスは設計図を見ながら長さを目測で確認し、無難そうな位置を指した。

「でも、これだとあそこの果樹園と少し場所被りませんか?ちょこっと果樹園の方、削らないと無理ですよ?」 

 すると、それに対してルルフェルが問題点を指摘した。

「そんなの植物達が可哀想ですわ!はんたーい!開発はんたーい!環境破壊反対ですわー!」 

 その発言に、今度はメルメルが反対する。

「じゃあ、あっちの小屋取り壊したら?いい感じのスペースが出来るわよ」
「いや、あれは残そうぜ。俺達の活躍次第で、いずれ文化遺産になるかもしれないだろ」

 こうして環境保護派と文化財保護派の見解もあり、城の位置について皆で考える事になった。
 潮風を一身に感じたいシーサイド派も出てきたし、あんまり中の方に入ると狼派にうるさく言われそうだしで、議論は白熱した。
 一度作り始めてから、やっぱり移動しようなんて言われたら溜まったもんじゃない。
 こういう時は、しっかりお互いの意見を出し合うべきだ。
 だが、そんな俺達の事情などつゆ知らずの、割と聞き慣れた声がその場に響いた。


「カーイネー!!わしじゃけどぉー!!おるかのぉー!?のぉー!?」


 いつもより妙に元気なルプスルガルの声を聞き、俺は顔を見る前から面倒な気持ちで一杯になった。
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