42 / 74
Falling 2
俺は育ちがいいから
しおりを挟むラピスの能力は、自分がイメージできる宝石を生み出せるというものだ。
形・大きさなどの調節の他、目の前の物にくっつけて出す事も可能なので、宝石とは言いつつも物を作るのに適した力らしい。
ただ出した後は硬くて加工もできないから、完全に俺の出し具合にかかっている。
という訳で、俺は能力の本来の持ち主であるラピスに、使い方をレクチャーしてもらっていたのだが…。
「何スか、そのきったないのは!何をどうイメージしたら、そんなんなるんスか!?」
俺の生み出したヘドロみたいな失敗作を見て、ラピスは「ふざけてるんスか」とプンプン叱ってくる。
でも、俺は至って真面目だ。
さっきラピスは、最悪自分の手が宝石になる事があると言っていたが、そういう状態をイメージしてしまうと、本当にそうなってしまうらしい。
ダメだと分かっていればいるほど、頭に浮かんでしまうのは人間の性だ。
慎重に、慎重に、変な事を考えないよう過剰に意識し過ぎた結果、意図しない何かを生み出してしまっていた。
リベンジを試みる俺は、今度は立派なダイヤの剣をイメージして左手をかざす。
「くそ、これでどうだ!?」
すると、俺の手からダイヤ製の小さい蛍光灯みたいな物がカランと転がった。
そのキラキラ光るしょうもない棒を2人で呆然と見つめた後、ラピスは一言呟いた。
「……及第点ッスね」
「え、マジで?」
そんな感じで数時間、俺はみっちりラピスの指導を受けた。
ラピスの厳しくも褒めて伸ばし、かと思ったら突き離したりする巧みなコーチングの甲斐あって、俺は大体の宝石は出せるようになった。
石の造形や接合も持ち前のセンスでそつなくこなせるようになり、ラピスに「学校に建築科でもあったんスか」と言わしめた程だ。
一段落ついて俺が休憩していると、ラピスが隣りに座って話しかけてきた。
「にしてもカイネっちは、思ったより落ち着いてるッスね。人間って、手から宝石が出てきたら、目の色変えてはしゃぐものかと思ってたッス」
「まあ……俺は一応貴族だったし、育ちがいいから」
結構な偏見を言うなと思ったが、実際金目の物を見慣れているはずの俺でも、最初は少し悪い事を考えてしまっていた。平民以下だったらまずかったかもしれない。
「雑念が多いと上手く扱えない力ッスから、カイネっちみたいな人でよかったッス!人間って、すぐ宝石欲しさに紛争とか起こすんで、結構怖いんスよ。だから、アタシがこそっと山とかに宝石補充しといて、バランス取ったりして……」
「そんなお菓子探しゲームみたいな事されてんの!?」
人間の手元に宝石がどうやって届くのか。
俺が誰も信じてくれないような裏話を、思いがけず聞いてしまったところで……。
「ねえ、もう練習終わり?」
俺達が休憩しているのを見たユール達が飛んできた。
「ああ、大体はな」
ユールはそう返事した俺を、もう直した寝癖をさっと隠して睨んでくる。
「ふーん……じゃ、早く作ってよ。ほら、まずはこの海岸の端から端までよ」
ユールは適当に指を差しながら、無茶苦茶な指示をする。
「親方ぁ、先にあいつしばいていいですか?」
「まあまあ、後でユールっぴ達にも手伝って貰うッスから。しばいちゃダメッスよ」
しばきに監督者の許可は下りなかった。
あと、やっぱりユールだけは「ぴ」の方がしっくりくる。
「ふふん。現場はチームワークが大事なのよ、カイネっちぃ」
「うるせえ、このぴっぴ」
俺がユールと小競り合いをしていると、唐突にラピスが思い出したように言った。
「あ、そう言えば、お城建てる位置なんスけど……。あの辺はどうッスかね?」
ラピスは設計図を見ながら長さを目測で確認し、無難そうな位置を指した。
「でも、これだとあそこの果樹園と少し場所被りませんか?ちょこっと果樹園の方、削らないと無理ですよ?」
すると、それに対してルルフェルが問題点を指摘した。
「そんなの植物達が可哀想ですわ!はんたーい!開発はんたーい!環境破壊反対ですわー!」
その発言に、今度はメルメルが反対する。
「じゃあ、あっちの小屋取り壊したら?いい感じのスペースが出来るわよ」
「いや、あれは残そうぜ。俺達の活躍次第で、いずれ文化遺産になるかもしれないだろ」
こうして環境保護派と文化財保護派の見解もあり、城の位置について皆で考える事になった。
潮風を一身に感じたいシーサイド派も出てきたし、あんまり中の方に入ると狼派にうるさく言われそうだしで、議論は白熱した。
一度作り始めてから、やっぱり移動しようなんて言われたら溜まったもんじゃない。
こういう時は、しっかりお互いの意見を出し合うべきだ。
だが、そんな俺達の事情などつゆ知らずの、割と聞き慣れた声がその場に響いた。
「カーイネー!!わしじゃけどぉー!!おるかのぉー!?のぉー!?」
いつもより妙に元気なルプスルガルの声を聞き、俺は顔を見る前から面倒な気持ちで一杯になった。
0
お気に入りに追加
280
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました
璃音
ファンタジー
主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。
果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?
これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。
闇属性転移者の冒険録
三日月新
ファンタジー
異世界に召喚された影山武(タケル)は、素敵な冒険が始まる予感がしていた。
ところが、闇属性だからと強制転移されてしまう。
頼れる者がいない異世界で、タケルは元冒険者に助けられる。生き方と戦い方を教わると、ついに彼の冒険が始まる。
強力な魔物や冒険者と死闘を繰り広げながら、タケルはSランク冒険者を目指す。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる