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Falling 2

5枚も割ったらもう言い逃れできないですね!

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 宝石の天使、ラピス。
 その能力は宝石だけで大聖堂を建てるという、世界中の大富豪が集まってもできないような事をやってのける、他の天使達にも負けない大概規格外のものだった。
 こんな個々の能力のアベレージが高いのに、どうしてどんぐりが……。
 そこまで思ったところで、俺はふとあることが脳裏をよぎり、ラピスに質問してみた。

「なあ、ラピス。参考までに聞くけど、もしかしてその能力ってダイヤとか無限に出せるのか?」

 俺達は勝手にここを楽園にするとか言ってるけど、一応ここは流刑地だ。
 いつになるかは知らんが、いずれあの国の連中が次の罪人を連れてくるだろう。
 その時、俺が宝石を自由に生み出す力を見せつけてやったらどうだ?
 また、手のひらをくるくるひっくり返して、俺を手に入れたいと躍起になるだろう。
 大量の宝石をくれてやれば、無罪放免どころか、裏に回して一気に上級貴族に返り咲き……。
 
 と、つい悪い顔をして妄想していると、そんな俺を不思議そうに見つめるエルが目に入った。
 目が合うとエルは、訳も分からずニコっと笑い小首を傾げた。

「あっぶねえ!!何考えてんだ俺!?あんな国に誰が媚び売るかっつーの、バーカ!」
「わっ!急に何スか!? 」

 やばいルートに突入しそうだったところを、無邪気な微笑みのおかげで、すんでのところで踏み止まった。
 突然大声を出されたラピスは驚いて飛び退いた後、一瞬の悪人面を見られていたのか、釘を刺すようにチクッと一言。

「……あの、宝石はいくらでも出せるッスけど、変な目的で使うなら出してあげないッスからね?」

 コンプラ意識の高いラピスは眉をひそめる。
 図星をつかれた俺は、小声で「分かってるよ」と返すのが精一杯だった。
 大声出すわ、悪い顔するわで、この時点でだいぶ変なやつだと思われていそうだ。

「でも、堕天したらカイネ様に力を奪われますわよ?」

 俺を牽制するラピスに、今度はメルメルがそう言った。
 奪われるとは人聞きの悪い、仕様だ仕様。

「奪われ……え、なんスかそれ!?人間に天使の権能をって、それ絶対まずいやつじゃないスか!」

 それを聞いたラピスは慌てふためく。
 きっと、普通の天使的に考えればそうなんだろう。
 きっと、こいつらがあっさり手放し過ぎなんだろう、後先考えずに。

「仕方ないですよ、なぜか堕天と同時にカイネさんに能力持ってかれちゃう仕組みになってるので。でも大丈夫ですよ!カイネさんは、口が悪くて第一印象はあまり良くないですけど、徐々に良くなってきますから!」

 ここでずっと黙っていたルルフェルが、ギリギリ罵倒の方が勝るような言い方で、ラピスを説得しに来た。
 ていうか、堕天してる時点で既にまずさは振り切っていると思う。

「ル、ルルフェル様がそう仰るのなら……」

 ラピスは納得した。
 ずっと縦社会で生きてきたんだろうな。
 上下関係に敏感なのか、大天使だったルルフェルの言う事は素直に聞いた。

「あの、でも一つだけ心に留めておいて欲しいッス。宝石の価値は、値段や見た目の綺麗さじゃないッス。人間と同じで中身が、その宝石に込められた思いが、その宝石を色鮮やかに彩るんスよ」

 取って付けたように、ラピスは急に綺麗な事を言い出した。
 そして、天使に直々にありがたい話を聞かされていると、ユールが何やらぬるっと近づいてくる。

「よかったわね、大切なのは見た目じゃないって」
「何でそれ俺に言うんだよ!地元じゃ、塩顔イケメンで通ってんだぞ!」

 こっちに寄ってきた時点で何かくると思ったが、こいつは隙きあらば言葉のナイフを投げてくる。

「うふふ、心配なさらなくてもカイネ様は、中も外も十分素敵ですわ!うふふ」
「何笑ってんだ!何も面白い事言ってねーからな!」

 メルメルはフォローしてくれたが、笑いを堪え切れていないその顔のせいで、素直に喜べない。
 そんな2人に気を取られていると、ラピスがぐいっと顔を近づけてきた。

「今はアタシと話してるんスよ!さっきの話、ちゃんと分かったッスか!?」
「わ、分かったよ!ごめんって」

 言い聞かせるように叱ってくるラピスを、少し母さんみたいなやつだなと思ったが、それは心の中にぐっとしまい込んだ。

「OKッス!じゃ、早速パリーンとお願いするッス!」

 俺が謝ると、ラピスは二つ返事でずいっと頭を差し出してきた。
 早く堕天させてくれと言う事らしい。

「え?もう、やるのか?能力の他にも不死身じゃなくなるらしいし、トイレにも行くようになるぞ?」
 
 切り替えが早過ぎて思わず聞き返してしまったが、彼女は迷いなく即答する。

「こっちもそれなりの覚悟で天界を出たんス。そんなの想定済みだし、そうじゃなくてももう後には引けないッスよ!」

 その力強い瞳に、俺はもうそれ以上心配は必要ないと感じた。
 堕天と聞いて、何か唇突き出してきたやつとは大違いだ。
 俺は右手から堕天の黒い霧を出し、ラピスに歩み寄る。
 気丈には振る舞っていたものの、やっぱり怖いのかラピスは少しだけ震えている。
 毎回この天輪を割る瞬間は、すごい悪い事をしている気になる。
 実際、悪い事なんだろうが。
 5回目でもこの妙な罪悪感には慣れない、俺は変に勿体ぶらずさっと終わらせようとした。
 

── パリンッ!


 ガラスが弾けたような音が響き渡り、同時にラピスがビクッと肩を振るわせた。

「ふええ、案外あっさり割れるんスねぇ……」

 身構えた割には呆気なく終わり、ラピスは少し拍子抜けしたという様子だった。
 輪が無くなった頭上を、何度も手で確認している。
 そして、確認が終わって気が済んだラピスは、改めてこちらへ向き直った。

「とにかくこれで無事にアタシもみなさんの仲間入りッス!これからお世話になるッスね!メルっち、カイネっち、エルっち、ルルフェル様……」

 カ、カイネっち……?
 いきなり愛称で呼ばれた俺は、びっくりしつつも少し満更でもないような気分になる。
 距離感の詰め方が、クラスの目立つ女子みたいで何かドキッとした。
 だが、そのささやかな俺のふわふわした感情もすぐに掻き消される。


「ちょっと待ってください!!」


 突然、ルルフェルが待ったをかけたのだ。
 言葉を途中で遮られたラピスも、元大天使に何か失言をしてしまったのかと、見るからに戸惑っている。
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