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Falling 2
本当の理由
しおりを挟む「……ったく、変な声出すから泣いてんのかと思っただろ」
変に深読みしてしまったのが、無性に恥ずかしく思えた。
「フフフ……残念でした。私、生まれてこの方泣いたことないので!」
「嘘つけ!裏で泣いてそうなくせに!そのうち必ず泣かしてやっからな!」
「心配してくれてたんですね、やっぱりカイネさんは優しいです!」
こいつ……。
忘れた頃に泣かしにいくからな、どうしてやろうか。
「……それで、カイネさん」
俺が子供のような悪巧みをしていると、流れを切るようにルルフェルが言葉を挟む。
「もうちょっとだけ、私の話をさせてもらってもいいですか?」
「え?あ、ああ」
そう言えばさっき言ってたな、もう少し付き合えって。
「私が天界にいた時の話です。今話しておかないと、また言えなそうな気がしたので」
段々と分かってきた。
ルルフェルが真面目な話をしたい時は、若干声色が違う。
今みたいに。
「前にお話ししましたよね?私が処刑担当の天使だったこと」
「ああ……」
そんな話すんのか?
お互い全裸の状態で。
「なので、私は天界では少し怖がられていて……。お友達も少なかったんです」
「気にすんなよ、俺も少なかったし」
何で変なフォロー入れちゃったんだよ。
余計なカミングアウトしちまった……。
「その数少ない友人の中に、人間へ贈るギフトを作る天使がいました。カイネさん達がスキルと呼ぶあの能力のことです」
「スキルを……作る?」
昔から人間が天使から授かっていたスキル。
そういうものなんだと深く考えたこともなかったが、あれ天使の手作りだったのか……。
「はい。私達は同時期に生まれて、こんな私にも裏表なく接してくれて……。そう、一番の親友でした」
「何だよ、よかったじゃん」
俺よりしっかりした交友関係築いてそうじゃねえか、ユール達もいるし。
変に気を遣って損したと思ったが、そんな俺の楽観的な考えは、その後のルルフェルの言葉ですぐに崩れ去った。
「彼女は、私が処刑した最後の天使でした」
俺は言葉を失った。
何の前触れもなく、淡々と語られるその言葉に。
「彼女は堕天スキルを隠れて作った罪で、処刑されることになったんです。あの時の私は、与えられた仕事を実行するしかありませんでした……。私はこの手で、親友の命を奪ったんです……」
自嘲気味に語るルルフェルに、俺はかける言葉が見つからなかった。
水面に映る自分の瞳を、じっと覗いているだけだった。
「彼女の死の間際、私は最後にこのスキルを託されました。このスキルで、誰も傷つかなくていい、自由な世界をと……」
不自然なほど整然としていたルルフェルの声が、段々と感情的になっていくのが分かった。
震えるようなその声を、俺はただじっと聴いていた。
「知ってるんです。彼女があんなスキルを作ったのは、私が処刑を続けることに耐えられなくなっていたからだって……。私を自由にするためなんだって……!」
こんな天界にとって不都合なスキルが、なぜ作られたのか。
俺は全然考えていなかった。
そんなことも考えなくなる程、ここでの生活に慣れ切っていた。
「だから私は、必ず創らなきゃいけないんです。みんなが自由で居られる楽園を。それが私に出来る……最後の償いです」
顔を見なくても分かる。
背中越しにでも感じられる決意に満ちた声だった。
「今のうちですよ、ここから出ていくなら」
「……え?」
突然、吐き捨てるように言われた言葉に俺は困惑した。
「私達のことを神様は知ってるでしょうけど、直接手を出してくることはないと思います、そういう方なので。でも、この先どんな危険なことがあるか分かりません……今日みたいに」
確かに今日はやばかった。
まさか、悪魔なんて冗談みたいなものが出てくるなんて思わなかった。
ルルフェルがあんなに強くなければ、あそこで全滅だったかもしれない。
でも……。
「今さらですけど、これ以上カイネさんが危険な目に遭う必要はありません。……ただ、天輪を壊す時だけはカイネさんの所へ行かせてください、それ以外は私が……」
「おい、勝手なことばっか言ってんなよ」
俺はルルフェルの言葉を遮った。
「俺達でやるって言っただろ。一度決めたのに、そんな簡単に出ていけるかよ。それにあんな国なんかもう戻りたくねーし、そもそも戻れねーし」
「でも、私は!仲間の命を奪うための、あなたの傍にいていい存在じゃ……!」
居ても立っても居られなくなった俺は、もう一度ルルフェルの言葉を遮る。
「らしくねーな!!俺はお前の……!」
── バシャア!!
「ちょっと!?カイネさん!?」
感情がヒートアップした俺は、水飛沫を上げて勢いよく立ち上がったが、ルルフェルの悲鳴にも似た声でその事態に気付く。
何も考えずに正面を向いていた俺は……。
「うおおお!!?」
丸出しだった。
こんなものを見たのは初めてだったんだろう、目を丸くしたルルフェルの顔が忘れられない。
「お、俺の堕天使が……!」
全速力で湯船に戻ったが、時すでに遅し。
「も、もう上がれよお前!!」
「へ?や、でもその、私も何も着てないですよ……?」
「うるせえ!!俺、後ろ向いてっから!早くしろ!のぼせちまうだろ、しんみり長話しやがって!」
最後に俺は何か言いかけたが、丸出してしまったインパクトのせいで、もう何を言おうとしたのか自分でも思い出せない。
ただ、あのままだと、俺はあいつに言わせてはならない言葉を言わせてしまうような気がした。
だから、いいんだ。
代わりに見せてはならないものを見せてしまったとしても……。
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