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Falling 1
三人目の堕天使
しおりを挟む「はぁ、濡れた羽おっもい……」
びしょ濡れになった白い羽を絞りながら、ユールは向こう岸でぶつぶつ文句を言っている。
「あんたは何もたもたしてるの、平泳ぎでゆったり来るんじゃないわよ!」
「泳ぎ方くらい何だっていいだろ!」
生涯で唯一会得できた泳法を非難されながら、俺は何とか岸まで辿り着く。
「カイネ様!大丈夫ですの!?」
メルメルは聖水の湖から上ろうとする俺に駆け寄り、素早く俺の両の手を取る。
ありがとう、出来ればもう少し早く手伝いに来て欲しかった。
「わ、私も手伝いますよ!」
何か知らんがルルフェルも来た。
両手はメルメルが掴んでいるので、空いていた両足を掴まれた。
「やめろぉ!浮いてる浮いてる!俺をどうしたいんだ!?」
四肢を掴まれ大の字で宙に浮かされた俺は、ベタっと腹から陸に降ろされる。
「雑……日に日に扱いが雑になってる……」
そんなことをぼやいて、ぐったりうつ伏せになっている俺の顔を、メルメルが覗き込んだ。
「あのぉ……カイネ様?」
俺はこの時、初めてメルメルをまじまじと見た。
……何でこの子は頭に花が咲いてるんだろう?
ていうか、しゃがみ込んでるからこれ角度的に……。
「な、何だよ?」
下から見上げる形になっているので、見えてはいけないものが見えそうで、俺は思わず目を逸らす。
「さっそくで申し訳ありませんが、私の天輪を外して欲しいのですわ」
そう言えばそうだった。
天使の輪っかを壊すのが俺の役目だった。
こいつの場合、輪っかが花で隠れてるから余計に忘れていた。
「そうですよカイネさん、天使でいる間は神様の管理下なんですから!早く楽にしてあげてください!」
誤解を招きそうな言い方でルルフェルも急かしてきた。
「分かったよ、それじゃあ早速いくぞ」
俺は天輪破壊専用の黒いのを出す。
そいつを出して、俺はメルメルの輪へ右手を伸ばすが……。
「ひゃん!!」
いきなり高い声を出して、メルメルは一歩飛び退いた。
何だって言うんだ?
「きゅ、急に花びらを刺激しないで欲しいですわ!!」
「え……?」
顔を赤らめながら何を言うかと思えば、人間の感覚ではよく分からないことを言い出した。
確かに、輪が花で隠れてたからちょっと花弁の部分にも触れたが、それが何だと言うのか……。
「何やってんのよ、ヘンタイ」
「カイネさん、そういうのに興味がある年頃なのは分かりますけれども……」
困惑していると、横の二人も口々に俺を責め立ててきた。
「違ッ、そんなつもりじゃ……!難解なんだよ!お前らの生態はぁ!!」
予想外の理不尽なイベントに、俺は自らの身の潔白を叫ぶ。
ええい、頬を染めながらチラチラ俺を見るな!
「ほら!さっさと済ますぞ!!」
もじもじしているメルメル。
そんな天使に向かって、強引に勢い任せで輪を壊しに行った。
「そんな乱暴にされると私、ドキドキしちゃいますわ……♡」
「うるせー!!大人しくしてろ!!」
こいつら、三人それぞれ違うタイプのめんどくささがある。
こうして俺は、三つ目の天輪を壊したのだった。
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