僕とシロ

マネキネコ

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118.帰っていきました

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 僕たちは今、ダンジョン・ムラカミ の上空に来ている。と言っても一面に大海原おおうなばらが広がっているだけなのだが。

 その大海原には5つの大きな渦潮うずしおが形成されており、その中をスラミガ帝国の艦船かんせんがグルグル回っている状態だ。

 「これはまた、壮観そうかんだなぁ。見ろ! まるで船がゴミのようだ! ハハハハハッ」

 「もう あんたは~、ただそれが言いたかっただけでしょうが。少し高度を下げなさいよ、これじゃ何も分からないじゃない」

 「ハハハッ! 了解。ピーチャン高度を少し下げてくれ」

 ピーチャンは渦潮の周りを大きく旋回せんかいしながら徐々に高度を落としていく。

 「ええ~と、シロたちはどこだ~? おっ、あれか! 結界を使って宙に浮いているようだな。今日は泳ぐとか言っていたけど、どうするつもりだろう?」

 おっ、3匹とも海に飛び込んだな。って、早い! 渦潮の中の艦船に向かって進み出した。

 すると、目の前に浮かぶ3せきの船が突然 爆発して炎上しはじめた。

 「おお、何をしたんだ! まだ、結構な距離はあるよな」

 「主様ぬしさま、あれはファイヤーボールですね」

 「ヤカンは今のが見えたのか?」

 「はい、シロさんの口から高密度こうみつどに固められた複数のファイヤーボールが発射されていますね。ですから、着弾ちゃくだんと同時に爆発して大炎上を引き起こしているのです」

 「今度はユキの方ですね。ウォーターボールです。あれは分かりやすいですね」

 分かり易い……て言うか、デカいな! あんなのがブチ当たったら……ほら見ろ、船体が真っ二つじゃないか。

 周りは海なので水媒体みずばいたいは無限だからな。海で水魔法というのはマジで半端はんぱないよな。





 すると、シロもユキもれてきたのか一回の攻撃で10隻20隻と沈めはじめた。それに移動速度がめちゃくちゃ早い。

 ……犬かきだよな? スクリューなんか付いてないよな。

 上から見た感じでは、ちびちゃんを背に乗せて3匹でスイスイ。何ともなごむ様子なのだが、やっていることは 相当えげつないのだ。

 そして、あっという間に渦潮の1軍を片付けて もう次に行こうとしているし。

 なお、攻めて来たとはいえ全滅ぜんめつさせるのは忍びないので、5%程は残すようにしているのだ。それで頑張って国に帰ってほしい。

 さて、見ていても仕方がないので僕たちも参戦することにした。

 といっても、光学迷彩こうがくめいさいをかけたピーチャンの背中から攻撃魔法の雨を降らせるだけなのだが。

 僕、クロナ、ミルキィ、ヤカン、チャトはそれぞれが思い思いの魔法を敵艦隊てきかんたいに落としていった。

 その結果、わずか1刻 (2時間) 程で1300隻いたスラミガ帝国の艦船も50隻までに減り、渦潮を解いた海を力なくパラパラと帰っていった。

 「はぁ~、帰っていったわね。これだけやっつけちゃえば、そうそうは来れないでしょう」

 「そうだな、あちらにとって海軍がどれ程の戦力的ウエートを占めているかは知らないが、今回のことは結構な痛手いたでだと思うぞ? 下手をすれば周りの国に滅ぼされる可能性だってあるよな」

 「ああ、そういうことね。スラミガ帝国って今までかなり強引にやってきているから、周りの国からは 結構な恨みを買っているでしょうね」

 「よっしゃ、もうすぐ昼だし、シンゲン温泉でご飯食べて温泉に入ろう」

 「俺はそこの漁港ぎょこうで魚を仕入れていくから、向こうで待っていてくれるか?」

 「はい、カルロさま。向うで火を起こして鍋を用意しておきますので」

 「そうだな、それで頼む。ミルキィもそれでいいよな、チャトも魚食うだろう?」

 「もちろんニャ!」

 「はーい、了解よ。今日はお刺身が食べられるの? 醤油しょうゆはあるのよね」

 「おう、まかしとけ! ワサビもあるからな」





 僕はみんなと一旦別れ、ザルツ島のカスイの港町へ飛んだ。

 ピーチャンと共に港に降り立ち光学迷彩を解く。そのまま人の流れを頼りに進み、港近くの市場のような場所にたどり着いた。

 おおー、何にか知らないが人が集まって盛り上がっている場所があるぞ。

 近くに寄ってみると、何艘なんそうもの漁船だろうか? そこから木で組み上げられたクレーンにより水揚げされていく多くの魚。 

 おー、すごい量だなこれは。1本40~60㎝の魚がゴロゴロ台車に積み込まれ運ばれていく。

 あれってカツオだよな。魚体には薄っすら縞模様しまもようがはしっている。

 それに、まるまるしていて、とてもうまそうだ。

 集まった人に話を聞いてみると、島の北側水域きたがわすいいきに出ていた漁船団が先程 港に戻ってきたらしいのだ。

 しかも、どの船も大漁たいりょうでこれから処理や加工、バランの港へと大忙おおいそがしになるそうだ。

 僕は市場に戻り、水揚げされたばかりのカツオをトロ箱4つ、20本仕入れることができた。

 これはもう、”刺身” と ”カツオのたたき” で決定だろう! うぉ――、心がおどるなぁ。

 よし、みんなを呼ぶぞ! 今日は『カツオ祭り』だ。ひゃっほぉー!

 そのあとも、僕は市場を回っていろんな魚介類ぎょかいるいを仕入れていくのであった。

 そして、ダンジョン転移を利用してアーガルム本邸、王都カルロ邸、蒸留所じょうりゅうしょのガンツなどにも声を掛けてまわったのだ。

 その結果、シンゲン温泉にはアーガルム両やしきのメイド隊が入り乱れる形となり、

 その中にはエマの顔も、アンリエッタの顔も、エレノア母様の顔も、そしてセーラの顔まで見えていた。

 調子に乗ったカルロはいったいどのあたりまで声を掛けにいったのであろうか……。






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『見ろ! まるで船がゴミのようだ! ハハハハハッ』の元ネタは皆さんご存知ラピュタの悪役ムスカのセリフですね。使い古されていますが、シチュエーションが合うとバッチリはまりますね。 トロ箱は漁船や魚市場などでよく見かける お魚を入れる木でできた浅めの箱のことです。『トロ』は底引き網漁のトロール船で使われていたのでそう呼ばれています。
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