僕とシロ

マネキネコ

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116.異変あり!

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 僕が伯爵はくしゃくになって ひと冬えた春光の候しゅんこうのこう。迷宮都市スパンクのアーガルムていに一通の手紙が届いた。

 汚れないよう何重にも巻かれた油紙を外していくと、中から和紙のような紙で出来た大きめの封筒ふうとうが出てきた。

 これはまた立派なものだな。赤い封蝋ふうろうにも堂々とスタンプが押してある。

 僕は以前アンリエッタにもらったワッペンをインベントリーから取り出した。

 うん、同じ紋章もんしょうだね。ローザン王国からのもので間違いないようだ。

 さっそく、ペーパーナイフを使って封蝋の上を丁寧ていねいにカットして中の手紙を取り出した。

 まあ、内容は言うまでもないと思うけど、晩餐会ばんさんかいへの招待状しょうたいじょうである。

 日付がっていないのは、ここが隣国で距離があるということ。

 そして、叙爵じょしゃくされる僕のための晩餐会であるからだろう。

 実際、この辺境へんきょうからだとガルーダ大森林を迂回うかいしないといけないので、ざっと計算して70日程はかかってしまうだろう。

 日数もそうだが貴族の場合お金もかかるのだ。普通は行かないだろうね。





 それで一応、我が国の王宮にも知らせなくては と思っていると、これまた良いタイミングでアースレット様とロイド様がそろって温泉施設 あらため、『スパンク温泉』へ見えられた。

 「……と、いうことでローザン王国から招待しょうたいを受けましたので、しばらくしたら出たようにしておきますので」

 「うん、カルロきょう、報告ありがとう。これね私も行くから、実際に向かう日を知らせてくれるかい。準備してここに来るから」

 「ああ、そうなんですね。了解しました。護衛騎士ごえいきしと馬車などは先に出しておいてくださいね」

 「わかった、すぐ準備させるよ」

 なんでも、同じ招待状がこちらの王宮にも届いていたらしい。

 隣国の貴族を呼ぶのだ。来るか来ないかは別として、こちらの王宮にも招待状は出されるということだ。

 それが隣国の王宮に対する礼儀であるらしいのだ。




     ▽




 そうして気候きこうは初夏へと変わり、そろそろ旅の準備でもと考えていた矢先のこと、

 『近海に異変あり!』

 と、ダンジョン・ムラカミ より連絡が入ってきた。

 ザルツ島の東の海上から正体不明の艦船かんせんが多数接近中とのこと、どの様に対処たいしょすればいいのかうかがってきたのだ。

 スラミガ帝国だよな。性懲しょうこりもなくまたやって来たようだ。

 艦船の数は大小あわせておよそ1300せき。かなりの団体さんだな……。

 とりあえず、 大きな渦潮うずしおを作って逃がさないようにだけお願いしておいた。
 
 「シロ、また来ているようだなぁ。どうする?」

 「んん、泳ぎたいのか? う~ん、まっ、敵さんは逃げようがないからそれでもいいか」

 「じゃあ、家のメンバーだけで行くとしようか」

 「えっ、ちびちゃん連れていくのか? ……うん、いいけど。じゃあ、みんなで行くか!」

 と、いうことで今回の出撃は僕と従魔じゅうまたちで行こうとしていたのだが、

 「待ってください。わたしはダメなんですか?」

 クロナである。

 「う~ん、ダメってことはないけど、今回は海だぞ。れるかもしれないぞ?」

 「だ、大丈夫です。前つくってもらった水着もありますし! ポンタもいますから」

 う~ん、そういうことでは……。それに、クロナ育っているだろう? 絶対パツンパツンだぞ。水着は……。

 それに、海水浴とは……違うよね!? シロも横で尻尾らないの!





 結局、クロナふくめたみんなで出掛けることになった。

 今回のメンバーは、僕、クロナ、シロ、ヤカン、ユキ、ちびちゃん、ピーチャン、ポンタと何でも来い! のフルメンバー。

 敵さんが少しあわれになってきた。

 でも、アーガルム家のモットーが『ヤルときゃヤル』だから手は抜かないつもりだ。

 とりあえず、僕とシロ、クロナとポンタでバランの町サイドまで転移。他のメンバーは様子見の後で召喚しょうかんする手筈てはずになっている。

 町の様子を伺うため、北門からバランの町へ入った。

 先ずは冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドまでの間、町の様子を見ていったのだが普段と変わりは無いように思う。

 スラミガ帝国の艦船が接近している情報は、まだバランの町には届いていないようだ。

 僕たちは冒険者ギルドに足を踏み入れた。

 ――ひしっ!

 ん、デカ猫である。

 周りを見回すと、併設へいせつされた食堂のテーブルからこちらに手を振っている少女が一人。





 そう、ローザン王国の第2王女ミルキィであった。彼女もまた、過去の記憶を持つ転生者なのである。

 しかし、その恰好かっこうなのだが……なぜにメイド? 確か、ローザンの王宮メイドが着ていたヤツだよな。

 僕は可愛いメイド服を着こんで、優雅ゆうがにティーカップを口にあてている その少女の側へ歩み寄り、

 「よう、可愛い王宮メイドさんがどうしてここに居るんだ? それから お前、かなり目立っているぞ」

 「え、そう、これならどこへでも溶け込めるかなって思っていたのに……ダメねぇ」

 「いやいや、メイド服は大丈夫だぞ。ただ、お前の髪型と仕草 そしてたたずまいが一般人とはかけ離れているんだよ」

 「ふ~ん、そうなんだ。それじゃ仕方ないわね。それはそうと、チャトはいつまでへばり付いてるのかしら」

 そういえば、いまだにチャトを腰にくっつけたままだったな。

 僕はとなりのテーブルを片付けていた給仕きゅうじにハーブティーを2つ頼むと、クロナと共にミルキィのテーブルについている椅子いすへ腰掛けるのであった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『春光の候』=春の日差しがきらめく頃となりましたが。という意味ですね。月振りすると楽なのですが、今度は大陸の位置でも季節が変わるし……。それにしても、70日の行程はどうなの? 馬車で行けば途中雨降ったり何だりで、そのくらいはね。貴族の場合は野宿は有りえませんので沢山のお金がかかるのです。
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