僕とシロ

マネキネコ

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94. エマは頑張った

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 春たけなわのころとなった。あちらに居れば花見のシーズンといったところだろうか。

 エマをはじめ、やしきの家人達もこぞって朝の散歩に参加している。

 散歩……なのか? いや、なにか少し違うよなぁ。

 朝マックのようなので、朝ダンジョンというのはどうなんだろう? 

 まあ、メンバーがメンバーだから危機的状況ききてきじょうきょうおちいることはまず無いし、例えケガをしてもポーションもあれば回復魔法だってある。

 だからって、芋ほり遠足のようなノリで来られても……ねぇ。――もう、いいか。

 朝のわずかな時間であるので半刻 (1時間)程であろうか。

 だが、1日も欠かさず毎日なのだ。それに案内役がいるものだからモンスターとのエンカウント率が通常の3~4倍。

 さらに忘年会の折、女神さまより『祝福』をさずけられているためレベルアップが早いのだ。

 家人達のレベルはLv.3~Lv.4と すでに一般人とは呼べなくなっている。

 そしてこの方! うちのママンであるエレノア母様がやたらと張り切っているのだ。

 なぜ、それほど張り切ってらっしゃるのか? 

 ……エイジングケアと呼んで良いのだろうか、レベルが上がれば肌細胞はださいぼうも活発化するからである。

 ママンの前で口がすべったのである。ほんのちょっとだけ……。

 すると、エレノア母様は朝の散歩だけにとどまらず ”個別に連れて行け” とまで言いだす始末でなだめるのが大変だったのだ。

 そのお陰か、現在Lv.7とみんなと比べてもぐんを抜いている状態なのだ。

 まあ、女神さまから『加護』を頂いていることも大きいのだが。





 エマも、縮小化しゅくしょうかが出来るようになったミュウと銀狼族のダイゴを連れ朝のダンジョンを駆け巡かけめぐっている。

 「エマねーたん、取ってきた!」

 「まー、ダイゴえらいわねぇ。スティックゼリーとモロッコヨーグルトね。魔石はこっちの袋よ」

 「うん、わかったー」

 「さあ、次いくわよ! お姉ちゃんに付いてきなさい」

 エマは調子にのってグングン進んで行く、ミュウが止めるのも聞かずに……。

 そして、20m程中規模ちゅうきぼホールに入った時のこと。

 そこにはガラの悪そうな冒険者が3人、ホールの隅で座り込んでたむろしていた。

 「ああ~、何だ~、ようやくスケが来たと思ったらガキ2人にへびが1匹だぜぇ」

 「身なりはいっちょ前だな~おい。どこぞのお貴族様のポーターじゃねぇのか?」

 「まあ、いいや。こいつらエサにしてどこぞのお貴族様の身ぐるみいでお身体もいただいちまおうぜぇ」

 「何なのあんた達、気色悪いわねー。そこ、どきなさいよ!」

 「ヘッヘッヘッ、威勢いせいのいいガキだぜ。お口の悪い子にはおしおきが必要だなぁ。すっぽんぽんにひん剥いてやる」

 「近寄らないでよ! くさいのが移るでしょう」

 「まあ、そう言うなよ。仲良くしようぜ~」

 そう言って1人の男が向かってきたと同時に、エマのエアハンマーが炸裂。  

 ――ドゥ―ン!

 空気がふるえ、向かってきた男は吹き飛ばされ 奥の壁にブチ当たって沈黙ちんもくした。





 残り2人の男は呆気あっけに取られている。

 そのあいだに距離を開け、ダイゴをかばいながら臨戦態勢りんせんたいせいをとった。

 「このクソガキ、何しやがった! もう、許さねーぞ」

 二人の男は剣とナイフを持ってジワジワとこちらに近づいてくる。

 『これは仕方ないわね。なるべく使いたくはなかったけど……』

 「ダイゴ、目をつぶって耳を押さえなさい。ミュウおねがい!」

 その言葉を受けたミュウはふよふよ浮いたまま前に出てくると口を開け、


 ――キュィ―ン・ドォ――――ン!!


 しばらくして、けむり砂埃すなぼこりが晴れていき周りが見通せるようになった。

 「あ、ああ、…………」

 エマは驚愕きょうがくしていた。

 何故なぜなら、エマが今 目にしている先には、ただただ何も無い空間が広がっていたからだ。

 先程の男達はもちろん、ルームの壁すらそこには存在していなかった。

 「エマねーたん?」

 「…………」 





 すると異変を感じたその現場にカルロとシロがけつけてきた。

 「エマ、無事か? こ、これは何があったんだ」

 「カ、カルロ兄様。エマは……。ううっ、うえっぐ、うえっぐ」

 「ああ、無理にしゃべらなくていい。ゆっくりでいいぞ 良くがんばったなぁ。エマはえらいぞ」

 下を向いて涙をポトポト落とすエマを抱きしめながら、僕は浅はかであった自分を責めた。

 いくら力が強くても、子供たちだけで行動させていい場所ではない。

 『いつもの事だから』『毎日の事だから』と、どこか勘違かんちがいしていたのだ。

 僕はバカだ! ここはダンジョン。モンスターも出るが本当に怖いのは人間のはずだろうが。

 仲間を見捨てる者、騙し討だましうちする者、中で待ち伏まちぶせている盗賊。知ってただろう、何をやっているんだよ!

 僕はエマを抱いたままプルプルふるえていた。情けない自分がはがゆいのだ。

 「今日はもう帰ろう。話はいつでも聞くからな」





 その日、翌日と学園はお休みした。

 数日たち、落ち着いたところで話を聞いてみると やはり襲われていたそうだ。

 エマひとりなら逃げることも楽にできたであろうが、”ダイゴを守らなくては” と奮闘ふんとうしたようだ。

 弱い子供たちをおそうようなやからは消えて当然なのだが、初めて人をあやめたエマが心配だったのだ……。

 しかし、休みが明けた次の日からエマは元気に朝ダンジョンに参加している。

 こちらの人間は魔獣まじゅうなどが身近におり、いつも死と隣り合わせで生きている。

 だからなのか、その環境のせいで心も強くなっているのであろう。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――
さすがエレノア母様。美に関わると恐ろしいほどの情熱ですね。そして、エマはダイゴという弟が出来て”良いとこ見せたくて”周りが見えてませんでしたね。と、いってもまだ10歳。これは引率者であるカルロの責任でしょう。それにしてもミュウのブレスは凄すぎです。ダンジョン内での使用は禁止しないと、巻き込まれる者が出るでしょうね
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