僕とシロ

マネキネコ

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85. みんなの家

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 僕の一日はシロの散歩から始まる。

 ここは王都にある貴族街きぞくがいの中なのだ。

 普通に歩いてるだけでも随所ずいしょで衛兵に止められる。治安ちあんを守るためなので文句もいえない。

 貴族街の道は馬車での移動がほとんどなので、使用人すらめったに見かけることはない。

 仕方がないので転移陣を利用し温泉施設おんせんしせつへ出たあと、そのまま山脈のすそ野を走っている。

 雨降り時には、ダンジョン・スパンク のリビングに創造そうぞうした「稲荷山いなりさん」を散策さんさくして帰るのだ。





 ところが最近では、『朝のダンジョン散策』へわってしまったのだ。

 その原因となっているのはこの方、おてんば娘のエマである。

 「カルロ兄様、エマお菓子が食べたいです!」

 「おお、そうか。じゃあまた、あのお菓子屋さんにでも行ってみるか?」

 「ええっ、まぁ。あの店のクッキーや焼き菓子はとても美味しいのですが……高いですし、もっと色々いっぱい食べたいのです」

 「そうか。……では、今度の休みにダンジョンに連れて行ってあげるよ」

 「…………」

 「なんだぁ、ダメだったか。困ったな~」

 「あの~、カルロ兄さま。朝の散歩にダンジョンはダメですかぁ~~~」

 おお、来たなぁ。

 例のごとく『上目づかい』が炸裂さくれつしている。

 しかも今回は、両手を胸の前で組んだ ”おいのりポーズ” つきだ。

 あざとい……。でも可愛いんだよな~これが。

 ここで断ったら、もう二度としてくれないかもしれない。

 見れなくなってもいいのか? もちろんいくない。いくないよ。だって可愛いんだもん。

 「わかった。明日からそうしよう。シロもそれで良いよな」

 向こうの方で、シロがコクコクうなずき尻尾を振っていた。

 「やたっ!」

 両手を握りしめてのガッツポーズ。

 ホントに『妹』とはいちいち可愛い生物いきものだよなぁ。





 「こんな感じでどうじゃ! これで本当に味に違いがでるのじゃろうか?」

 今やっているのは、蒸留器じょうりゅうきの上の部分。熱せられた蒸気を冷やす冷却用のくだの交換である。

 この管の形状や長さによっても酒の味に違いが出てくるのだ。

 だだ、どの工程が良くて、どれが悪いのかは少し寝かせてから様子を見ていくしかない。

 この寝かせる工程も、樽のサイズ、オーク材の種類などで大きく変わっていくのだ。

 樽においては、コンクリートで作ったものや空気を一切通さないステンレスで出来たものまでいろいろ存在している。

 こうなってくると、味や香りを『変えない』ことの方が重要になってくるだろう。

 個人で楽しむ分なら、適当に造って飲んで「今年はこの味かぁ~」で終わるのだが。

 商売をする為には、まだ何年も試行錯誤しこうさくごを繰り返す必要がありそうだ。

 買ったはいいが、昨年と味が違う酒なんか誰も買わないだろうしな。

 「まあ、わしとしてはこのままでも一向に構わんのじゃが、前にもらったウイスキーとかいう酒は旨かったのでな。楽しみじゃわい」

 「同じ物はできないけど、自分の好みに合わせてブレンドもできるから楽しさも倍増だよ」

 「来年には初期ロットが試せるから、いろいろ出来るようになるよ」

 「本当に楽しみじゃ。1年がこんなに長いものだと始めて思ったわい」





 外から戻った僕が、2階のリビングでゆるりとお茶を飲んでいると、

 ――ドスン! ドスン! タタタタタッ。

 上で誰かがドタバタやっているのが聞えてきた。

 「なあココ、上で何をやっているんだ? 何かの工事か」

 僕はリビングに居た犬人族いぬびとぞくメイドのココに上の音についてたずねてみた。

 「いえ、これはリンのしわざかと……」

 「ああ、リンのヤツか。いったい何をやっているんだ?」

 「大掃除おおそうじでございます! ほうきをもって格闘中です」

 んん、やかたを改装した際、最後の仕上げで大掃除は行っていたはずだが。

 シロが反応していないので、大したことではないのだろうが。

 少し気になった僕はトイレに行ったついでに上へあがってみることにした。

 音がしていたのはこっちの方だったか。

 ……ここは屋根裏やねうらの物置部屋ではなかったか? 静かにドアを開けてみる。

 奥の小さな木窓きまどは開けられているようだが、部屋の中は薄暗い。

 僕は小さな声でメイドの名を呼んでみた。

 「リン、いるのか……。どこだ?」

 と、その時だった。

 ――バチコーン!!

 ひびききわたるゆかを叩く音。





 「ニャッハッハ、参ったかネズ公ども。今日はこのぐらいにしといてやるニャン」

 そこには右手に箒、左手には捕まえたネズミの尻尾をもった、猫耳メイドのリンがいさましく仁王立におうだちしていた。

 そして、僕が居ることに気づいたリンは、

 「ああ~、ご主人様ニャ! 見て見て、みーんなリンが捕まえたのニャン」

 そう、豪語ごうごするリンの腰ベルトには、目が×印になったネズミが3匹ぶら下がっていた。

 「おおー、流石リンだな。他の子は逃げて回るのにすごいぞ~」

 そう言って、リンの頭をやさしくでてやった。

 「ところで、その捕まえたネズミはどうすんだ。まさか食べるのか?」(笑)

 「ニャニャ、お腹が空かないと食べないニャ。これは素揚すあげしてヤカン様にあげるのニャン」

 「ヤカンに?」

 「そうニャ、ヤカン様にはいろいろ助けて頂いてるニャ。だから、これはお返しニャン」

 話を聞くと、暗い所にあかりをともしてくれたり、暑い日には氷をもらったりしているそうだ。

 なるほど、みんなで仲良くやっているようだね。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――
おてんば娘のエマ。そしてエマに激甘なカルロ。上目づかいはやはり良いもののようです。大きくなったらやらなくなるでしょうから今の内です。お酒造りも大変なようです。樽に使われているオーク材。長年保存することでこの木の香りがお酒に移っていくのです。バニラの香りがするオーク材などは有名ですね。
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