僕とシロ

マネキネコ

文字の大きさ
上 下
85 / 137

81. 気づけよ!

しおりを挟む
 おお、蒼龍そうりゅうのヤツ そろそろ起きそうだぞ。空に浮いたまま身じろぎしている。

 「では、手筈通てはずどおりに草原まで転移させるぞ」

 ピーチャンはシロの頭に、僕とヤカンはシロの背に乗っている。

 ヤカンが前にお座りして、ミニ龍は僕が抱っこしている形だ。

 僕たちはリマの町から南に20キロの地点、つまりスタンピードの現場近くに転移してきた。

 まあ、ここならば町からも十分離れているし、スタンピードのさなか街道を通る者もいない。

 少々、あばれたところで誰にも迷惑はかからないだろう。

 それに、こいつが表に居れば、出てきた魔獣まじゅうおのずと大森林に帰って行くだろうしな。

 しっかしデカいなー。どのくらいだ。伸ばせば150mは有りそうだよな。

 こんなのが上空でうねってたら、そりゃ逃げるわな。……ホントいい迷惑である。

 ミィーミィー、ミィーミィー。

 ミニ龍は草原の中をはいはいして、楽しそうに動き回っている。――可愛い。

 こいつも、早く何とかしてやりたいな。

 暖かく見つめる そのミニ龍には、腕が前2本しか生えていなかった。





 『ウウ、アゴがぁ……。ニンゲン ナニをシタ。ココはドコダ!』

 「特に何もしてないよ。都合が悪かったから場所を変えただけだな。お前さんの居た所は……ほら、あっちだ」

 僕は左手で大森林を指差しながら答えてやった。

 『フフッ、ドコマデモ ワレをバカにシオッテ。コウカイサセテヤル!』

 おや、またブレスか? まったく芸のない。

 「ピーチャン、電光石火でんこうせっかだ!」

 「ピー!」

 ピーチャンは返事をすると、素早く「電光石火」のスキルを発動させ蒼龍の喉元のどもとめがけて突っ込んでいく。

 すごい! 目にも止らぬ早さだ。

 ――グギョッ、ブヘッ。

 攻撃を受けた蒼龍は翻筋斗打もんどりうって悶絶もんぜつしている。

 さすがピーチャンだ! 

 あの小さい小鳥サイズのピーチャンが、如何いかににあのような巨大龍をひっくり返せるのか?

 その答えは龍種の最大の弱点、「逆鱗げきりん」にあるのだ。

 逆鱗とは、龍の喉元に1枚だけ生えている「小さな逆さ向きのうろこ」の事である。

 ここを強打されると、どんなに強靭きょうじんな龍といえどもご覧のような有様になるのだ。

 であるから、普段はこれを隠しわからないようにしているのだが、コイツはさっきまでノビていたからな。

 それで、しっかり調査済みだったという訳だ。





 蒼龍をのし・・凱旋がいせんしてきたピーチャンは、僕たちの頭上を嬉しそうに回っている。

 そして、またしても一緒に喜んでいるミニ龍。

 いいのか、ヤラレているのはお前の親なんだぞ。後で泣いても知らないからな。

 しかし、まさか従魔に……? 

 いや、いや、いや、鑑定なんかしないぞ! (汗)

 『オ、オノレ~。クソ、クソ、クソ――。サキにコウゲキさえデキレバ、コンナ ブザマなコトには』

 …………。

 まーだ、そんなこと言ってるのか。

 そろそろ気づけよ! まったく。

 「なんだ~、先に攻撃したいのか? それなら早く言ってくれよぉ」

 『ナニ、イイノカ。サキにヤッテモ。ホントにヤッチャウぞ』

 「どうすんだ? みんなでここに立ってればいいのか。こんな感じか?」

 「ソ、ソノママでオネガイシマす。ヨロシクです」

  と、何かボソボソと言いながら蒼龍は50m程上にあがり停止。

 そして、長めのタメをつくった後、僕たちに向け思いっきりブレスを吐いた。


 チュウィーン ボッ! ズガァ――――――ン!! 
  

 炎がまばたき――爆烈ばくれつ! 突風が周囲の草木を薙ぎ倒なぎたおす!

 『フフッ、フハハハハハハ。バカなニンゲンめ、コレデハ ナニもノコッテはイマイ』





 しばらくして、周囲に立ち込めていた煙が晴れていく……。

 するとそこには、月のクレーターのように丸くえぐれた地面が現れた。

 そして悠然ゆうぜんとしていたはずの蒼龍だが、目に入った光景に驚愕きょうがくせずにはいられなかった。

 なぜならば、僕たちがそのクレーターの ど真ん中に浮いていたからだ。

 まあ、一歩も動いていないだけなのだが、爆発で立っていた地面が無くなってしまったのだ。

 だから正確には、結界の上に立っているということになるかな。

 「これで終わりか? 次はこちらの番でいいよな。……おおい、何処どこに行くんだ? 待てよ」

 「ぬし様、ヤカンにお任せください!」

 とヤカンが前に出ると、氷魔法の「フリーズ」を行使する。

 そうすると、逃げていく蒼龍の半身が氷漬けにされ、じわじわ地面に下りてくる。

 「なんだ~、つれないなぁ。挨拶も無しで行ってしまうのか?」

 『…………』

 「なんだよ、そんなおびえることないだろう。あっ、寒いのか? では、この氷を鱗ごといでやるかな」

 『カ、カンベンしてクダサイ。モウ、2ドとコノヘンにはチカヨリマセンから』

 「そうか、そこまで言うなら今回だけは見逃すけど、他所でも大人しくするんだぞ」

 『ハイ、ココロエました』

 「それから、この子は僕が預かるからな。変なちょっかいは掛けないように」

 『ハイ、ココロエました』





 そして、『行って良し』と許可を出すと、蒼龍はそそくさと南東方面に消えていった。

 これで、しばらくは戻っては来ないだろう。

 ついでにアズライトの鉱石群も頂いて、ダンジョンの中に貯蔵ちょぞうしとくかな。

 「しかし、派手にやっちゃったなぁ」

 そう言いながら、僕は目の前に広がる巨大クレーターをしばらくのあいだ見渡すのであった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――
翻筋斗打つ(もんどりうつ)ですが、空中を大きく回るという意味です。「もんどり」は「もとどり」がなまったもので、この「もとどり」とは、まげの元の部分を指します。ようは頭についてる「ちょんまげ」を打つぐらい回るという事なのです。ミニ龍はどうもカルロの従魔になったようですね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...