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73. フランツ
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僕は今、リマの町 南門すぐの所にある衛兵詰め所に来ている。
入れられた部屋は窓もない10畳ほどの部屋で、真ん中に四角い机と椅子が3脚。
さながら取調室のような所で、僕は奥の椅子に座るようにと言われた。
歓迎されている訳ではなさそうだ。
心当たりは、やはり昨日の盗賊かな。あれは、町公認だったとか?
まあ、それはないだろうが何が出ますやら、少し楽しみになってきたな。
あれから、どれくらい経ったのだろう。いろいろ考えていたので半刻(1時間)程だろうか、ドアの外の衛兵が誰かと喋っているのが聞えてきた。
すると、ノックもなくドアが開き、
「いやーごめんごめん、仕事が立て込んでてね」
入って来たのは、衛兵隊らしく細マッチョの青年。歳の頃は20代半ばといったところか。
「ごめんね~、上手く話が通っていなくて。場所を移すからボクについて来てくれるかな~」
そして連れて来られた部屋は、さっきの部屋よりは幾分いい感じの部屋だ。ちゃんと窓も有るし、椅子がソファーに変わっている。
ちょっとした応接室のような感じか。まあ、衛兵隊の詰め所だからな。こんなものだろう。
「ここは1人で大丈夫だから、君たちは下がってていいよ。用がある時はまた呼ぶから」
この隊長と呼ばれていた青年は、お茶を持ってきた隊員とソファーの後ろに立っていた隊員を部屋の外へ出してしまった。
「今日は悪かったねー、まずはお茶でも飲んでよ。話はそれからしよう」
そう言うと青年も前のソファーに腰掛け、お茶を煽るようにぐびぐび飲んでいる。
僕もお茶で一服し、木製のミニジョッキを前のテーブルに戻した。
「へー、大したものだ。こんな所で出されたお茶なんか普通手を付けないだろう」
「まあ、あなたがいろいろ気を使っているのが見えましたので、あまり疑うのも失礼かなと……」
「さすがだねー、『カルロ男爵』 ようこそリマの町へ! 私はフランツ。ここの領主をしている」
「…………」
「あれっ、疑われているのかな? え、ええッと……」
慌てたように、フランツと名乗った青年は周りを見回したりポケットに手を突っ込んだりしている。
「ぷぷっ、いえ失礼。違うのですよ……。 違いますよね……」
「ああ、もうバレちゃったのか。でも笑う事ないでしょ。これでもザークの領主なんだよー」
「くくっ、そ、そうですね。お初にお目にかかります。フランツ伯爵様」
「あ~もう、まだ笑ってるし。けっこう得意だったんだよ変化魔法は」
「それで、僕に何かご用があったのでは?」
「もういいよ! 帰っていい。 東門から冒険者が来たと聞いたから、どんなヤツか見てみたくてね」
「そうですか。それは有難いのですが、そんなに珍しかったですか?」
「ああ、そうだよ。ここ1年ではじめてだよ東門、つまり北からの冒険者はね」
「その少ない理由は何であるとお思いですか?」
「そんなもの、大森林からの魔獣に決まっている。何を言っているんだい」
「…………」
「他に何か理由があると?」
なるほど、領主は知らない……っと。まあ、あんな事は普通しないよね~。
てことは、騎士団、もしくは魔法士団ということか? 騎士団はあんなセコイ事しないよな。
残るは、『魔法士団』ということか。
しかし、魔法士団はエルフ組の子飼いのはず、どう出てくるか様子を見てみるかな。
「それが、リマに入る直前にチンケな盗賊に襲われましてね。大変でしたよ」
「なんだって、盗賊? それは無いよ、ここには王国騎士団や魔法士団が駐屯しているんだ。いくらチンケな盗賊でもそんな愚はおかさないだろう」
「いったいどの辺りで襲われたんだい。ヨーラン村とかそっちの方だろう」
「いえ、ほんの目の前です。リマの町と砦への分岐点からちょっと行った所ですよ」
「分岐って直ぐそこじゃないか! いや、では何で衛兵に知らせないんだ。おかしいだろう」
「あ~、まあ、そうなんですけど。面倒になりそうだったもので……そのう……」
「あ――、なんでそんな大事なこと言わないかな~。もう、そいつら逃げてるでしょう。これは責任問題になるかもよ」
「いえ、捕らえました」 (小声)
「ふ、ふぇっ、今なんと?」 (小声)
「だから、捕まえてますよ! 盗賊も、一緒に行動していたオーク共もみーんな」
「みーんな?」
それからが、また大変だった。
詳しい経緯を領主に話して聞かせ、夜だというのに衛兵の練兵場まで連れて来られた。
そして、篝火が焚かれ衛兵たちが見守る中、例のエルフ3人組と オークは1匹だけ、パラライズが利いている状態で排出した。
気がついた3人組は、はじめはワーワー騒ぎ立てていたが、僕が ”爵位持ち” だと知ると 途端に大人しくなった。
貴族の当主には『無礼打ち』が認められているからである。
そうして、後のことは領主であるフランツに任せて、僕はみんなが待つ宿屋に引き上げることにした。
これからみんなで屋敷に来ないかと誘われはしたが、明日も依頼があるからと丁重にお断りしておいた。
”それでも” ということで明日の夕刻に馬車を差し向けるので、領主邸まで来るようにとお願いされてしまった。
僕もさすがに、このお誘いは断ることが出来なかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
おお、これはカルロのピンチと思いヒヤヒヤしていたら、領主フランツのわがままでしたねー。これで魔法省の重鎮なのでしょうか? 何か色んな顔をもってそうですよね。言葉通り。ところで、カルロは何故かエルフや目上の人には鑑定をあまりつかいませんよね~。まあ、エルフにはバレる危険もあるのかな。
入れられた部屋は窓もない10畳ほどの部屋で、真ん中に四角い机と椅子が3脚。
さながら取調室のような所で、僕は奥の椅子に座るようにと言われた。
歓迎されている訳ではなさそうだ。
心当たりは、やはり昨日の盗賊かな。あれは、町公認だったとか?
まあ、それはないだろうが何が出ますやら、少し楽しみになってきたな。
あれから、どれくらい経ったのだろう。いろいろ考えていたので半刻(1時間)程だろうか、ドアの外の衛兵が誰かと喋っているのが聞えてきた。
すると、ノックもなくドアが開き、
「いやーごめんごめん、仕事が立て込んでてね」
入って来たのは、衛兵隊らしく細マッチョの青年。歳の頃は20代半ばといったところか。
「ごめんね~、上手く話が通っていなくて。場所を移すからボクについて来てくれるかな~」
そして連れて来られた部屋は、さっきの部屋よりは幾分いい感じの部屋だ。ちゃんと窓も有るし、椅子がソファーに変わっている。
ちょっとした応接室のような感じか。まあ、衛兵隊の詰め所だからな。こんなものだろう。
「ここは1人で大丈夫だから、君たちは下がってていいよ。用がある時はまた呼ぶから」
この隊長と呼ばれていた青年は、お茶を持ってきた隊員とソファーの後ろに立っていた隊員を部屋の外へ出してしまった。
「今日は悪かったねー、まずはお茶でも飲んでよ。話はそれからしよう」
そう言うと青年も前のソファーに腰掛け、お茶を煽るようにぐびぐび飲んでいる。
僕もお茶で一服し、木製のミニジョッキを前のテーブルに戻した。
「へー、大したものだ。こんな所で出されたお茶なんか普通手を付けないだろう」
「まあ、あなたがいろいろ気を使っているのが見えましたので、あまり疑うのも失礼かなと……」
「さすがだねー、『カルロ男爵』 ようこそリマの町へ! 私はフランツ。ここの領主をしている」
「…………」
「あれっ、疑われているのかな? え、ええッと……」
慌てたように、フランツと名乗った青年は周りを見回したりポケットに手を突っ込んだりしている。
「ぷぷっ、いえ失礼。違うのですよ……。 違いますよね……」
「ああ、もうバレちゃったのか。でも笑う事ないでしょ。これでもザークの領主なんだよー」
「くくっ、そ、そうですね。お初にお目にかかります。フランツ伯爵様」
「あ~もう、まだ笑ってるし。けっこう得意だったんだよ変化魔法は」
「それで、僕に何かご用があったのでは?」
「もういいよ! 帰っていい。 東門から冒険者が来たと聞いたから、どんなヤツか見てみたくてね」
「そうですか。それは有難いのですが、そんなに珍しかったですか?」
「ああ、そうだよ。ここ1年ではじめてだよ東門、つまり北からの冒険者はね」
「その少ない理由は何であるとお思いですか?」
「そんなもの、大森林からの魔獣に決まっている。何を言っているんだい」
「…………」
「他に何か理由があると?」
なるほど、領主は知らない……っと。まあ、あんな事は普通しないよね~。
てことは、騎士団、もしくは魔法士団ということか? 騎士団はあんなセコイ事しないよな。
残るは、『魔法士団』ということか。
しかし、魔法士団はエルフ組の子飼いのはず、どう出てくるか様子を見てみるかな。
「それが、リマに入る直前にチンケな盗賊に襲われましてね。大変でしたよ」
「なんだって、盗賊? それは無いよ、ここには王国騎士団や魔法士団が駐屯しているんだ。いくらチンケな盗賊でもそんな愚はおかさないだろう」
「いったいどの辺りで襲われたんだい。ヨーラン村とかそっちの方だろう」
「いえ、ほんの目の前です。リマの町と砦への分岐点からちょっと行った所ですよ」
「分岐って直ぐそこじゃないか! いや、では何で衛兵に知らせないんだ。おかしいだろう」
「あ~、まあ、そうなんですけど。面倒になりそうだったもので……そのう……」
「あ――、なんでそんな大事なこと言わないかな~。もう、そいつら逃げてるでしょう。これは責任問題になるかもよ」
「いえ、捕らえました」 (小声)
「ふ、ふぇっ、今なんと?」 (小声)
「だから、捕まえてますよ! 盗賊も、一緒に行動していたオーク共もみーんな」
「みーんな?」
それからが、また大変だった。
詳しい経緯を領主に話して聞かせ、夜だというのに衛兵の練兵場まで連れて来られた。
そして、篝火が焚かれ衛兵たちが見守る中、例のエルフ3人組と オークは1匹だけ、パラライズが利いている状態で排出した。
気がついた3人組は、はじめはワーワー騒ぎ立てていたが、僕が ”爵位持ち” だと知ると 途端に大人しくなった。
貴族の当主には『無礼打ち』が認められているからである。
そうして、後のことは領主であるフランツに任せて、僕はみんなが待つ宿屋に引き上げることにした。
これからみんなで屋敷に来ないかと誘われはしたが、明日も依頼があるからと丁重にお断りしておいた。
”それでも” ということで明日の夕刻に馬車を差し向けるので、領主邸まで来るようにとお願いされてしまった。
僕もさすがに、このお誘いは断ることが出来なかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
おお、これはカルロのピンチと思いヒヤヒヤしていたら、領主フランツのわがままでしたねー。これで魔法省の重鎮なのでしょうか? 何か色んな顔をもってそうですよね。言葉通り。ところで、カルロは何故かエルフや目上の人には鑑定をあまりつかいませんよね~。まあ、エルフにはバレる危険もあるのかな。
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