僕とシロ

マネキネコ

文字の大きさ
上 下
74 / 137

70. エマも一緒

しおりを挟む
 こちらに帰郷ききょうして10日。いつまでも、のんびりやっている訳にはいかない。

 王室からの依頼いらいは、『ガルーダ大森林の様子を見る』だったのでこれはすでにクリアされている。

 しかし、内容が分かってくると何やらムズムズしてきて落ち着かない。

 そこで僕は様子見を兼ね、ザーク伯爵領はくしゃくりょうにあるリマの町に行ってみることにした。

 ロイド様の話によれば、ここを納める ”ザーク伯爵” は魔法省の重鎮じゅうちんであるようだ。

 例のドムス公爵派に属しており派閥内はばつないでの序列じょれつも高いという。

 というのも、ここザーク伯爵領が王国において「重要拠点じゅうようきょてん」になっているからである。

 そして、リマの町を出た東の国境付近こっきょうふきんには大きなとりできずいてあり、ガルーダ大森林からあふれ出してくる魔獣まじゅう駆逐くちくを行なっているのだ。

 これをになっているのが、精鋭せいえい クルーガー王国騎士団きしだんである。

 リマの砦には、3隊ある王国騎士団内の一隊が常駐じょうちゅうしており、魔獣の警戒けいかい及び駆逐任務くちくにんむにあたっている。





 「よう、ガンツ。どんな感じだ」

 「おお、カルロか。出来上がっておるぞ。さやもガタがきておったんで新調しておいたぞ」

 今日は調整に出していた愛用のバスターソードを受け取りに来ているのだ。

 長年使っているせいで、つかや鞘が痛んでいたのだ。

 そして、『ようやくこいつを使えるようになったのだな』と、感慨かんがいもひとしおである。

 受け取ったそれは外装が一新されており、一見 違うもののように見える。

 だが、鞘から抜き放ちかまえてみると、ついニヤリと顔がほころんでしまう。

 うん、良いな。やはりこれだよな。

 「どうじゃ。最初は違和感いわかんはあろうが、他に何かあるかのう?」

 「全然なし。また使ってやれるのが ただ嬉しくてな」

 「おうおう、泣かせることを言ってくれるわい。それはワシがきたえた中でもトップクラスじゃ。今、同じ物を作れと言われても無理かもしれん」

 「ああ、大事に使わせてもらうよ。それで、いくら払えば良い」

 「そんなもんはいらん! ただ、今度帰って来たら、その『蒸留酒じょうりゅうしゅ』の話をくわしく聞かせるのじゃぞ」

 「ああ、それもあったな。そろそろ始めないと寝かせる期間も必要だからな」

 「そうじゃ。また一緒にみたいじゃろうが」

 僕はながめていた剣を鞘に納めると、カウンターの上にウイスキーを1びんおいて、

 「また、来る」

 と言い残しガンツの工房を後にした。





 やかたに帰った僕は準備を整え、リビングでみんなの集まるのを待っていた。

 ただ、ひとつ問題が残っている。そう、エマたんである。

 服のすそをガッツリつかんで離してくれない。――どうしたものか。

 「あら~カルロ、もてもてね~。最後の夏休みなんだから、妹と素敵な思い出をつくるのも良いものですよ」

 「そうでしょう。クロナちゃんもそう思うわよね~。あなたにとっても妹になるのですからぁ」

 「はい、エレノア様。わたしが責任をもって面倒めんどうを見ますからどうぞ、ご安心を」

 「まあ、クロナちゃん。私のことはお母様でいいのよ~。娘が1人増えて私も嬉しいわ~」

 「はい、お母様。その……嬉しいです!」

 「…………」

 あ~ぁ、クロナのやつ エマと手をつないでしまったよ。

 ……まったく母様には勝てる気がしない。はぁ、仕方ないか。

 僕はもうあきらめて、クロナにエマの旅支度たびじたくを頼むのであった。





 それから、一緒に同行するエルフ姉妹であるが、姉のキリノさんはこの10日でいろんなことを学んだようだ。

 今は、妹と同じような冒険者の出で立ちいでたちである。

 まあ、この美人姉妹は何を着ても似合いそうではあるが、あのス〇フキンだけはやめてほしい。

 そして、妖精ようせいだから要らないとか言わないで、パンツもはいてほしいのだ。

 おお、クロナとエマが戻ってきたな。シロが荷物にもつを預かっている。

 「それではエレノア母様、行ってきます。 帰りは10日後ぐらいになると思います」

 「はいはい、いってらっしゃい! おみやげは気にしないでいいから、エマも行儀よくするんですよ」

 「はい、エマ 良い子にしまーす」

 「じゃあ、これね」

 エレノア母様はエマとクロナに大銀貨を1枚づつ渡している。なるほど、お小遣こづかいか。

 すると、キリノさんとコリノさんにも渡している。――そして僕にも。

 「これで良いわね、仲間外れはなしよ。みんな気をつけて行くのよ、いってらっしゃい!」

 僕は、もらった大銀貨を見ながら、『やっぱり、かなわないや』と心でつぶやき、そっとポッケにしまった。





 ダンジョンによる転移とシロによる転移魔法を併用へいようし、僕らはこの前おとずれたリマの町へと続く街道に出てきた。

 コリノさんが言うには、南に1キロ程行けばとりでとリマの町が見えてくるということだ。

 僕らはリマの町を目指し街道に沿って歩き始めた。

 「カルロ兄さま、見えてきました! あの壁のところですよね?」

 シロにまたがり先頭を行っていたエマが、こちらを振り返りうったえてきた。

 「ああ、そうだ。左のが砦だな。僕達は町の方に行くから、右のあれだな」

 すると、街道の先にチラチラと動く物体が目にはいった。

 はて、魔物だろうか?

 まだ100mはあるだろうか、向こうも此方こちらに気づいたようでじわじわ距離をちぢめてきている。

 「カルロ氏、あれはゴブリンのようだね」

 キリノさんは、そう言いながら背負っていた弓を下ろし 保護していた布を解いていく。

 エマの方は短槍たんそうを手に持ち、シロはすでに走り出していた。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――
エレノア母様の強力な後押しで同行することになったエマ。確かに学園最後の夏休み、何か思い出も必要でしょうが……。体よく、押しつけられたのかもしれません。だってあのまま行かれたら、ギャン泣きのエマを誰が面倒みるのでしょうね。真相は分かりませんが……。まあ、楽しく行きましょう!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...