俺とシロ(second)

マネキネコ

文字の大きさ
上 下
79 / 82

74. 会談

しおりを挟む
 そして週明けの月曜日。

 俺としげるさんは静かに・・・昼食をすませた。

 あ、そうそう誤解ごかいのないようにいっておくと、神職しんしょくである茂さんや神社の子である紗月さつきは食事中の会話は基本的にしないのだ。

 『食事中は私語をつつしむ』

 王国の貴族においてもほとんどがそうであるため、俺自身たいした違和感はない。

 二人でいる時はお互いもくもくと食べるだけなので食事の時間は割と短かかったりするのだ。

 昼食のあと、居間でお茶をすすりながら談笑だんしょうしていると、

 ――ピンポーン!

 玄関から呼び鈴の音が聞えてきた。

 「あ、みえたようだね」

 茂さんは立ちあがると、いそいそと玄関の方へ向かっていった。

 今日の茂さんは白衣びゃくえに薄いもんが入った紫のはかま神職しんしょくでいうところの平服姿である。

 時計を見ると午後1時を少しまわったところだ。

 茂さんの案内により居間へ入ってきたのは3人。男性が二人に女性が一人。

 その内の一人は俺たちもよく知る人物、坂井隊長さかいたいちょうであった。

 それぞれに座布団ざぶとんを配り、まずは自己紹介じこしょうかい

 男性の方は坂井隊長直属ちょくぞくの上官で、

 陸上自衛隊りくじょうじえいたいダンジョン対策小隊たいさくしょうたい、小隊長の笹井ささい2等陸尉りくい

 年の頃は20代半ばで迷彩服めいさいふくを着用している。

 女性の方は内閣府ないかくふからおみえの渡住佳奈子とずみかなこさん。

 こちらは20代後半といったこころかな。

 丸首ブラウスの上にこんのパンツスーツ。

 髪は高めのお団子だんごヘアーで、かっちりした印象いんしょうをうける。

 いかにもデキる女性という感じかな。

 内閣府では、この度【ダンジョン調査室ちょうさしつ】なるものが新設されており、現地調査げんちちょうさのため、こちらに派遣はけんされてきたそうだ。





 ペットボトルに入ったお茶かミネラルウォーター、お好きな方をどうぞと全員に配っていく。

 まあ、どのみち話は長くなりそうだからね。

 飲み物が行き渡ったことを確認した俺は、一呼吸おいてから話しはじめた。

 「初めてみえる方もいらっしゃいますので、改めてダンジョンのあらましや役割やくわりについてご説明させて頂きます。なお質問される際は話が終ってから順にお願いいたします」

 なぜダンジョンが出現したのか? 

 どうしてダンジョンが必要なのか?

 くだいてゆっくり説明していった。

 予備知識よびちしきのある自衛隊の方は真摯しんしに聞いておられたが、

 内閣府からみえられた渡住さんはというと、

 『まるで異世界いせかいでの出来事のようだわ』

 『そんな非科学的ひかがくてきなことが本当に?』

 『婚約破棄こんやくはきする王子さまはいないのかしら?』

 にわかに信じられないといった面持おももちで、ブツブツと独り言を連発していた。

 さらにはダンジョンが力を及ぼせる範囲はんいのことや、魔素まその放出によって、これから起こるであろう魔獣まじゅうの出現などについても注意をうながしていく。

 そしてこれらの現象げんしょうは日本だけにとどまらず、近い未来この地球全体で起こってくることも言及げんきゅうしておいた。

 ある程度の受け答えを終えたとここで、

 それぞれに頭を整理する時間がいるだろうと、一旦休憩きゅうけいはさむことにした。

 するといつ入ってきたのかメイド服を着たタマとキロがあらわれ、

 コーヒーか紅茶かを各自にたずねた後、その場でポットからカップへ注いで渡していく。

 うん、洗練せんれんされたいつもの所作しょさだね。

 えっ、畳の上だけど足元はどうなっているのか?

 そこは……、ご想像そうぞうにおまかせいたします。

 だけど、みなさん目を丸くして固まってますね。

 ツーハイム邸ではごくありふれた光景ではあるのだけれど、こちらではメイドを目にすることも珍しいからね。

 ピロリロリン♪ ピロリロリン♪

 あっ 若干一名、スマホで撮影さつえいしてる人がいる。

 でも、すぐにタマがスマホを没収ぼっしゅう、ダメダメと顔をよこに振っているぞ。

 あ~ぁ、消去させられちゃったよ。

 まぁ無断撮影むだんさつえいはマナー違反ですよね。メイド喫茶きっさでやったら一発退場ものです。

 コーヒー飲みながらみんなで雑談ざつだんをしていると、

 「このまえ教えて頂いたダンジョン鉄ですが、昨日ようやく試作品しさくひんである銃剣じゅうけんが届きまして。使ってみたら、ものすごい切れ味でしたよ」

 「そうですか、お役に立てたようで良かったです。要は魔力をびた鉄が必要だということです。これがミスリル合金にまでなると、あの台詞せりふが口から出ますよ」

 ――今宵の斬鉄剣はひと味違うぞ――





 しばし休憩を挟んだ後、俺は話を再開させた。

 いよいよレベルアップについての話だ。

 これに関しては早くスタートが切れる日本がかなり有利になってくるはずだ。

 まぁそのうちアメリカあたりがぎつけて、『俺達も入れろ』と圧力をかけてくるかもしれないけど。

 レベルの概念がいねん数値表示すうちひょうじについて説明していく。

 スキルの出現しゅつげんは実際にダンジョンに入って探索たんさくしながら確認していくしかない。

 【剣術】や【槍術そうじゅつ】などの戦闘系せんとうけいスキル、【採掘さいくつ】や【栽培さいばい】といった生産系スキル、さらには【鑑定かんてい】や【魔力操作まりょくそうさ】といった重要なスキルもあるけど、これらはダンジョンに入らないと出現しないのだ。

 せっかくなので坂井隊長のステータスをのぞいてみることにしよう。――鑑定!


 ジロウ・サカイ  Lv.2

 年齢    23
 状態    通常
 HP    36/36
 MP    4/4
 筋力    16
 防御    12
 魔防     4
 敏捷    13
 器用    13
 知力     4
【スキル】   槍術(1)鑑定(1)


 元々自衛隊で体をきたえてきたからだろうか、基礎値きそちはやや高めだな。

 MPは低いけど、これからの努力次第ということで。

 ダンジョン探索がメインになるなら、【身体強化】につながる【魔力操作】のスキルは是非ぜひともほしいところだけど。

 【槍術】のスキルがあるのは……、

 銃剣術じゅうけんじゅつは槍術の延長えんちょうということなのだろうか?

 さらに【鑑定】スキルが出現している。

 これは帰りにでも鑑定のやり方について教えてあげないとな。





 ここからはダンジョンで手に入るドロップ品についての話をしよう。

 ドロップ品のトップはやはり魔石ませきということになるのだろうか。

 魔石からエネルギーを取り出すにしても、魔道具の原料として使うにしても、これからの研究次第ということになる。

 よって、魔石がどのくらいの価値をもつのか、現時点ではわからない。
 
 あとはメジャーなところでいうとポーション類があげられる。

 ヒールポーション・ハイヒールポーションは外傷がいしょうに効果をもたらすが、脳出血のうしゅっけつ動脈瘤どうみゃくりゅうといった一部の疾患しっかんにも効果があったりするのだ。

 つまり、体内の血管を正常化せいじょうかさせる作用があるのだ。

 これを発表すると医学会がひっくり返るな。

 どうするかは日本政府に任せるが、慎重しんちょうにやらないと全世界が日本のダンジョンをロックオンすることになる。

 おや渡住さん。 スマホを持ってどこかへ行っちゃったよ。トイレかな?

 次は鉱物資源こうぶつしげんについてだな。

 ダンジョンのフィールド内では鉄を中心に様々な鉱石がれる。

 ここでいう鉄とはもちろん【ダンジョン・スチール (迷宮鉄) 】のことであるが、運が良ければコロンと宝石やミスリルが採れたりもするのだ。まさに宝の山だね。

 【採掘】スキルが出現した人は鉱石を積極的にねらっていくのもありかもしれない。

 そして【宝箱たからばこ】。

 これについては説明はいらないと思うけど。

 中身の一例をあげるなら、

 各種ポーション・剣や盾といった武具類・金やミスリルのインゴット・宝石や装飾品・能力を伸ばすアイテム・マジックバッグ・単発魔法の使い捨てスクロールなどなど、楽しみいっぱい夢いっぱいの仕様になっている。

 「私は魔法のスクロールとやらを使ってみたいですね」

 「能力を伸ばすアイテムとは魅力的みりょくてきです」

 「サービス、サービスぅ♪」

 なに言ってるのかわからない人がいますねぇ。トイレからはいつ戻ってきたのでしょう?

 それからわな付きの宝箱も1割ほどあるので注意してほしいです。

 特に毒ガスなんかはみんなを巻き込んでしまいますからね。





 その他は……、

 そうそう、転移魔法陣とボス部屋のある階層の説明もいるな。

 1パーティーが6人制であることなど一通り説明していく。

 そして最後に、

 【魔力操作まりょくそうさ】の訓練について説明をおこなった。

 地道に毎日続けることの重要性をといていく。 

 『では実際にやってみましょう』というこになり、

 坂井隊長を相手に、まずは魔力感知から試してもらう。

 魔力感知ができたら、瞑想めいそうしてもらいながら訓練のやり方を指導しどうしていく。 

 「これを行うことで何が変わったりするんですか?」

 坂井隊長からの問いかけに、

 「まず【魔力操作】のスキルを得ることで魔法に対する防御力ぼうぎょりょくが上がります。それに頑張って【身体強化】のスキルまで取れれば戦闘力が飛躍的ひやくてきに向上しますよ。上の階層かいそうを目指していくなら必須ひっすですね」

 「私たちも頑張ればス〇パーサイヤ人になれるということですね」

 「MPを使用するので無限というわけではありませんけど」

 渡住さんの言葉に、ニッコリ笑って返しておく。

 これで話は大方おおかた終わった訳だが。

 あっ、……それ聞きますよねぇ。

 【赤いヤツ】の話。

 まあ、すでに目星めぼしもついてるようだし。

 んん~、どうすっかな……。

 よし、ここはすっぱりと言ってしまおう! 

 「実をいいますと彼は【勇者ゆうしゃ】なんですよね」

 「はっ?」

 「えっ!」

 「勇者さま♪」

 渡住さんはこういうの大好物なんだね。

 今はほっといて話を続けますよ。

 「本当です。彼は女神から選ばれたこの世界の【勇者】なのです」

 「女神……ですか」

 「伊耶那美命いざなみのみこととか?」

 「ああっ女神さまっ」

 (おお、坂井隊長はなかなかいい線いってる。イザナミも創造神そうぞうしんだからね。 渡住さんは……うん、すこしだまろうか)

 「まぁ女神とかが出てくるとどうしても胡散臭うさんくさくはなってしまいますけど……。 しかし考えてもみてください。地表にはダンジョンが現れ、人々にはスキルがそなわるような異常事態いじょうじたいです。これらをかんがみれば、そう ”ありえない話” でもないでしょう」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「まあ、ですから、彼を保護ほごするといいますか。こんな世の中ですので、さらされないよう気を配ってあげてください」

 一度お会いしたいということなので、本人の意向いこうも踏まえて近々セッティングすることになった。

 「わかってあるとは思いますが、これまでお話したことは内々の話しとしてとどめ、情報漏洩じょうほうろうえいには十分なご配慮をお願いいたします」

 茂さんは言葉を述べたあとに頭をさげる。

 まわりの者も、それに合わせるように一礼して今回の会談は終了した。






10月5日 (月曜日)  
次の満月は10月26日
ダンジョン覚醒まで31日

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

処理中です...