俺とシロ(second)

マネキネコ

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61. ギャルがきた!

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 ダンジョン・スチールのことを知った坂井隊長さかいたいちょう自衛隊じえいたいキャンプ地の方へ一目散いちもくさんけていった。

 夕方になり、祭りの準備をしていた人々が消えた境内けいだいはいつもの静寂せいじゃくさを取り戻していた。

 そんな中、俺は竹箒たけぼうきを持ってもくもくと石畳いしだたみの上をいていた。

 「いやー、皆さんがいそがしくしてるのに何もお手伝いできなくて申し訳ない」

 声をけてきたのは本条ほんじょう 剛志つよしさん。言わずと知れたマリアベルの(元)お父さんだ。

 剛志さんがどうしてここに居るのかというと……。

 秋のシルバーウィークを利用しダンジョン(福岡)に来てレベリングしているのである。

 昨晩、家族みんなでこちらに来られ、1週間の予定で滞在たいざいすることになっている。

 実をいうと、これを企画したのはマリアベル (本条 葵) だったりするのだ。

 前回の滞在が終わってからこっち、ラインやスカイプなどを使って家族と連絡を取り合ってたようだね。

 まあ、家族なのだから当然のことだろうけど。

 それで都内の混乱ぶりを新聞やテレビだけではなく、実際当事者から耳にすれば不安にもなるだろう。

 今回の家族遠征かぞくえんせいも、そういった話の中で決まっていったそうだ。

 これから先、どうなるのか分からないのである。

 今のうちに少しでもレベルをあげ、安全マージンをかせぐことはなにも間違っていない。

 不測ふそくの事態にそなえるためにも体力アップは基本だからね。

 「あっ、お疲れ様です。どうでした、久しぶりにもぐった感想は?」

 「それがさー、最初は革鎧かわよろいの重さになれれなくて戸惑とまどいもあったんだけどさぁ。戦闘せんとうを重ねているうちに気にならなくなって、それからは案外余裕よゆうだったんだよねぇ。まぁシロさんが一緒だったから当然なんだけどねぇ。 それにしたってここの温泉は最高だよねー。今入ってきたところだけど疲れがスーと引いちゃったよ」

 こちらにもれてきたからなのか、東京人独特どくとくしゃべり方で会話をする剛志さん。

 かなり長い時間温泉にかっていたのだろうか、顔と首が真っ赤である。

 「ゆっくり身体を休めて、明日からも頑張ってください!」

 「うん、ありがとう。それじゃあまた後ほど!」

 そう言って剛志さんはタオルで汗をぬぐいながら母屋の方に入っていった。





 すると入れ替わるようにシロとヤカンが飛び込んできた。

 「おー、シロもヤカンもおかえり! 今日はダンジョンでの案内係ありがとなー」

 しゃがみこんで両手を使い二匹をワチャワチャもふりたおした。

 最近は俺たちときたえているので、ヤカンもメキメキと力をつけている。

 それに紗月さつきのお気に入りでもある。

 学校から帰ってダンジョンに潜るときは、必ずヤカンを誘って連れていくようになった。

 「師匠ししょう、裏の駐車場の掃除そうじ終わったっすよ~」

 健太郎けんたろうが竹箒をかついで合流してきた。

 「おーうご苦労さん。もうすぐ晩ご飯だから手を洗って中に入ろうか」
 
 そういって俺が立ちあがったときである。

 参道さんどう石階段いしかいだんを上ってきたのは、

 (おお…………)

 ギャル来た――――っ!!

 そこに登場したのは神社にはまったくつかわしくない、ゆるふわパーマのパッキンギャルである。

 いや、明日から祭りだと考えればヤンキーやギャルだってありなのか?

 シロはトトトトっと軽いステップを踏みギャルをお出迎でむかえしている。

 こらこら、むやみに近づいてはいけません!

 シロは尻尾しっぽを振ってギャルの周りをクルクル回っている。

 「おーよしよし、可愛いワンコだなぁ。紗月んの子か? アメちゃん食べるか~?」

 シロは不〇家フジヤの棒付きキャンディーをもらっている。

 へっ? 犬にあめは普通にダメだろう。まぁシロは問題ないからいいけど。

 それにしてもシロってギャル好きなのか!?

 まぁシロの好みなので俺がとやかく言うつもりはないけどぉ。





 シロがギャルを連れてこちらに近寄ってきた。

 ――プププッ面白い!

 シロもギャルも同じようにキャンディーの棒を口から出しているのだ。

 「はぁーちかれたぁ。やっぱこの階段はないっしょ。エスカレーターにすべし」 

 なんか妙なこと言ってるし……。

 俺が対応しなければいけないのか? そうなのか?(汗)

 すると横から健太郎が、

 「よぉマリじゃねーか、来るの明日じゃなかったのか?」

 「え~~~。あんた誰?」

 「誰っておまっ、中学校のとき同じクラスだったじゃねーか!」

 マリと呼ばれたギャルは目を細めたあと、

 「ほぇ、健太郎じゃーん! あんたここで何してんの? 病院は? 立ってるし」

 「お、おまっ、男子に向かって立ってるとか言うなー」

 「健太郎の知り合いなのか?」

 「師匠、こいつはマリ。小学校、中学校は一緒だったっす。こんなナリしてますがこいつ高校デビューっす!」

 「な~に師匠ってぇ~。うける~」

 何故なぜだかわからなかったが、ウケてはいるようだ。

 「きゃー、どちゃくそイケメンじゃん。ちょっと健太郎紹介してちょ!」 

 テンションが急に上がったギャルマリ。

 「師匠はなぁ、お前みたいなヤツに軽々しく紹介出来るようなお人じゃないんだよ!」

 「ハァ――なにそれ。カッコつけてんの~? 童貞どうていのくせしてうける~」

 「……フフフッ。よく聞け俺はなぁすでに経験済みだ!」

 「な~に~、見栄張っちゃってぇ~」

 「見栄じゃねー!」

 「その不敵ふてきな笑いが~そもそもキモいんですけど~。どうせその辺の安ソープ行ってていよく抜いてもらっただけでしょう、キリンくん♪」

 「うぐっ!」

 健太郎は微妙びみょうな一線をかれ、ダメージを受けて凹んでしまった。

 ――ライフは残りわずかだ。

 あきらめろ健太郎。どうあがいても口で女子にかなうはずがないのだ。

 「んっ、そのキリンくんってのは何だ?」

 「師匠、それは……」

 つまりはこういう事らしい。

 キリン → K・I・R・I・N → 彼女・いない・歴・イコール・年齢。

 ここに童貞・経験は関係ない。

 なるほど、うまいこと言うなぁ。ギャル語の方はよくわからないけど。





 いや~、実に面白い掛け合かけあいを見せてもらった。

 健太郎の善戦ぜんせんむなしく、口では彼女の方が三枚ぐらい上だったな。

 「俺はゲン、そしてそこに居るのが愛犬のシロだ。これからよろしくな」

 「はっ、はひっ! わたし茉莉香まりかっていいます。こちらこそ、よろしくお願いします!」 

 俺がにっこり笑うと、ギャルマリは顔を赤くしてうつむいてしまった。

 「ああっ、マリ来てたんだー。こっちよ こっち!」

 紗月が登場しギャルマリを引っ張っていった。

 「……師匠~、オレ彼女が欲しいっす」

 「それは金じゃ買えないから、自分の力で頑張るしかないなー」

 「ですよね~。なんかめちゃめちゃ腹へったっす」

 まぁ奴隷どれいなら、異世界いせかいで買えないこともないのだが……。

 その気になられては困るので、言いはしないけど。

 今晩はいつになくさわがしくなりそうだな。

 その後は健太郎と手を洗ってからシロとヤカンを連れて家にはいった。 

 居間に入ったところで、

 人数が多くなることを見越みこし、隣りの部屋からテーブルを出そうかとふすまを開けた。

 (デカっ!)「……す、すまん!」

 ――すぐに襖を閉めた。

  おそらくは明日着用する巫女服みこふくを合わせていたのだろうが。パープルの下着姿でいるギャルマリと目が合ってしまった。

  大きな声を出さないところは流石さすがにギャルである。きもわっている。 





 そのまましばらくみんなとテレビを見ていると、襖が開き紗月とギャルマリが連れだって居間の方へ出てきた。

 ギャルマリはテーブルに着くと俺を見てニッコリと笑い、

 「どちゃくそハズいんですけど……。この件は高くつくかんね!」

 「まぁ故意こいではないんだが申し訳ないことをした。俺にできる事があるなら何なりと言ってくれ」

 「えっ、それマジ。ヤバたんなんですけどぉ」 

 さてさて何を言ってくることやら。楽しみにしておきましょうかね。

 「そんでー、シロたんはいいんだけど。そこにいるキツネさんは何?」

 「んっ、見えるのか?」

 「うん、白くて可愛いキツネさんだよね。わたし的にはスコなんだけど」

 ほう、ヤカンが見えているのか。

 外では何も言ってこなかったよな。とすると……、この部屋か?

 神気しんきが満ちているこの部屋なら、確かに見えていてもおかしくはないのか……。

 まあ、ここにいるみんなは魔力操作まりょくそうさの訓練をしているから普通に見えてるんだけどね。

 「その白狐びゃっこはヤカン。俺の従魔じゅうまだな」

 「そっか~、ヤカンたんですかぁ。おけまる!」

 「紗月様のご友人でございますか? わたくしはヤカンと申します。よろしくお願いいたします」

 いつもの様にヤカンが挨拶あいさつしてしまった。

 「さ……、紗月!! さつきー!!」

 のけりながら大声をだすギャルマリ。

 すると紗月が居間に顔をだし、

 「な~にマリ、大きな声をだして」

 「だ、だってしゃべったんだよきつねのヤカンが。ホントだよ!」 

 おぉーい、ギャル語はどこいったー。ビックリするとに戻るらしい。

 「なに言ってるのよー。ヤカンだから喋るに決まってるじゃない。ほんとにもう、いそがしいんだからね!」 

 そういうと紗月は台所へ戻っていった。

 「…………」

 唖然あぜんとしているギャルマリ。……乙。

 気をつけないと、ああ見えて紗月も天然なところがあるからね。 

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