俺とシロ(second)

マネキネコ

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39. 良き時代

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 俺たちの乗った車は東京駅に到着した。

 剛志つよしさんが駅前のレンタカー屋にて、ワンボックスカーの乗りすて処理しょりをおこなっている。

 ここで、福岡行きのメンバーをあげておこうかな。

 まずはカンバック組である、俺・シロ・メアリー・マリアベル・チャト・紗月さつき・キロの5人と2匹。

 そして今回、一緒に福岡へ来ることになったマリアベル (葵) の家族である、剛志さん (父) ・久実くみさん (母) ・かえで (妹) の3人。

 新丸ビルへ入った俺たちは、ビュッフェ・ランチのお店で昼食をとることになった。

 ガラス張りの店内は明るく開放感かいほうかんがあって女性たちは大喜びしている。

 ただ、この店があるのは新丸ビルの5階なわけで……。

 俺はシロとメアリーを連れ、階段の方にまわろうとしていたのだったが、

 『ハコ、いける、たのしい、となり、メアリー、いっしょ』

 そのように、シロが念話で伝えてきたのだ。

 「うん。シロにぃが付いててくれるなら、わたしあのハコに乗るの頑張ってみる!」

 (ハコって……、エレベーターのことであってるよな)

 なんと、シロが一緒にいればメアリーはエレベーターに乗っても全然平気なのだ。

 シロは光学迷彩こうがくめいさいを掛けているので姿は見えてないが、何かいやしのパワーでも出しているのだろうか……。とにかく、メアリーが苦しむこともなく大丈夫だったのだ。

 (それにしてもメアリーのやつ、なんのためらいもなく即決そっけつだったよな)

 メアリーがシロにいだいている信頼感しんらいかん半端はんぱないよな。

 今だに『シロにぃシロにぃ』となついているいし、ホントに兄妹きょうだいみたいだ。

 ………………

 急に福岡行きが決まって、旅支度たびじたくが不十分な本条ほんじょう家のみなさん。ここで自由時間をとって買い物などを済ませることにした。

 シロとチャトは新幹線のせまい車内を嫌ってか、散歩でもしながら表で待っているそうだ。

 まあ、新丸ビルの先には皇居こうきょがあるので散策さんさくしがいもあるだろうね。普通に陛下に会って来そうである。

 自由にしててもいいが、くれぐれも車には気をつけるように言っておく。

 (シロにぶち当たったら車の方がただでは済まない)

 シロ用のデイバック (マジックバッグ) には干し肉や牛丼なんかを入れて持たせてあげた。

 そして俺たちは新幹線しんかんせんのホームへあがった。





 「ゲン様、まもなく博多駅に到着しますよ」

 「う、うん? ああ、ようやく着いたのか」

 いつの間にか眠っていたようだ。

 隣りの席にはキロが座っており、居眠りしている俺にブランケットを掛けてくれていた。

 時計を見ると23時15分。

 なんとか、日をまたがずに帰ってこれたみたいだな……。

 というのも地震の影響えいきょうから、京都付近で2時間ほど緊急停車きんきゅうていしゃしていたのだ。

 ――やれやれである。

 筑紫口ちくしぐち(新幹線ホーム側)の改札かいさつをとおって表に出ると、駅のロータリーではタクシー待ちによる長蛇の列ができていた。

 俺はみんなを案内しながら、高架下こうかしたの細い路地を大ガード下に向け進んでいく。

 この時間なら周りにある飲み屋も終了しており、人がほとんど通っていないのだ。

 そして路地を右へ折れ、大ガード下に入ったところで一人ずつ光学迷彩こうがくめいさいを掛けていく。

 みんな消えたところで、一気にダンジョン転移。

 俺たちはようやく老松神社おいまつじんじゃに帰ることができた。

 ――長旅お疲れ様でした。

 みんなに疲れが見える中、なぜか紗月だけがテカテカしていて元気に見えるな。

 今も張りきって、みんなにお茶を出している。

 新幹線の中ではずっと本 (ラノベ) を読んでいたようだし、たっぷりと異世界成分を吸収できて満足なんだろうなぁ。

 明日からのダンジョン探索で何かしでかさないか、ちょっと心配になってきたよ。

 母屋おもやではしげるさんがあたたかくむかえてくれる中、マリアベルが家族を紹介していった。

 今日のところは顔合わせだけをおこない、みんなと一緒に地下秘密基地へ下りていく。

 食堂にて牛丼弁当を出し、腹を満たしたあとは温泉に入って休んでもらうことにする。

 「みなさんお疲れ様でした。温泉浴場はこちらになります。ゆっくりとおくつろぎくださいませ」

 キロが基地内を案内している間に、俺は東京に残してきたシロを召喚しょうかんして呼び戻した。

 そしてリビングへ入り、缶ビールやフルーツ牛乳、スナック菓子などをテーブルの上に用意しておく。

 しかし、風呂から上がったみんなは歓談かんだんもほどほどに、それぞれの部屋へ散っていった。

 まあ、時間も遅かったし、旅疲れでクタクタだったよね。

 明日 (今日) からのダンジョン探索たんさくそなえて、今夜はしっかりと休んでおくんなまし。

 みんながいなくなったリビング。

 ノックの音とともにフウガが現れると、俺がいなかった数日間の状況じょうきょうを報告してきた。

 茂さんがLv.4になったことや、慶子けいこがここで寝泊ねとまりするようになったこと、賽銭さいせんを盗もうとしていたオヤジがつかまったこと、神社に住み着いているのら猫に「とび三毛」が一匹加わったことなど……、些細ささいなことでも報告をあげるようにさせている。

 注目している自衛隊じえいたいの方だが、今のところ目立った動きはないということだった。

 そして話は変わり、

 先日、フウガが発した情報から ”新たなダンジョン” の位置確認がとれたことはとても有意義なことであった。

 その件についてめてやると、

 「当然のことをしたまでです。お任せください!」

 フウガはほほの筋肉をゆるめ、すこし口角が上がっているようだった。

 これからも頑張がんばって欲しいものだ。





 そして次の日。(日付はすでに変わってます)

 いつものように茂さんとのダンジョン探索がはじまる。

 「あ、これは慶子さん、おはようございます。今日もよろしくお願いします」

 「茂さん、おはようございます! ダンジョン探索もこの辺りから徐々じょじょきびしくなってきますので、気を引き締めて臨みましょう。それに防具類も、そろそろ確りとしたものを身に着けられた方がよろしいでしょうね」

 まだ、午前3時だというのに慶子も元気に参戦してきた。

 裏口を出たところで朝の挨拶あいさつを交わし、そのまま転移陣を操作そうさしてダンジョンに突入していく。

 ………………

 戻ってきたら、シロと希望者を連れて散歩に出かける。

 相変わらず牛丼あつめをしている俺だが、最近はメアリーやキロが率先して牛丼屋をまわってくれるので助かっている。

 散歩のあとは、起きてきたマリアベルの家族と一緒に朝食となるわけだが……。

 この母屋の居間いまでは完全に手狭てぜまである。

 どうするのかと茂さんに目を向けると、

 「よし、男衆にはすこし手伝ってもらうかな」

 そう言うと、茂さんは部屋のふすまを外しはじめた。

 「この襖は重ねて、そっちの廊下ろうかに出して。それから…………」

 俺と剛志さんも、茂さんに言われるままテキパキと動いていく。

 急遽きゅうきょ、隣りの座敷ざしきへだてていた襖を取り外し、その部屋に立て掛けてあったテーブルを出してきて、居間のテーブルは横にしてくっつけた。

 おお、これなら10人居たって余裕だよな。

 ――――茂さん???

 その広くなった空間を、茂さんはニコニコしながらながめている。

 「なにやら嬉しそうですねぇ。いったいどうしたんですか?」

 「いやね、先代せんだいのお義父とうさんの時代は、よくこうして氏子うじこさん達が集まってワイワイやっていたなぁ……、なんて思いだしてね。つい嬉しくなったんだよ」

 なるほど、そんな良き時代もあったんだね。

 今の時代、氏子うじこ崇拝者すうはいしゃはめっきり少なくなったからなぁ。

 下の秘密基地に、すぐにでも大きな食堂を作ってやろうかと考えていたが……、やめた やめた!

 この母屋で十分だよな。

 台所はせまいけど、まあ工夫次第くふうしだいだろうし。

 また、焼肉パーティーでも開くとするかね。

 ……ホットプレートをあと2台ほど買っておかないとなぁ。





 さあ、朝食だ。

 朝ごはんの準備は紗月を中心に、慶子とキロ、そして久実さんが助っ人として台所に入っている。

 集まったみんなで長くなったテーブルをかこむ。

 シロはメアリーの隣りに、チャトは楓の隣りにそれぞれお座りしている。

 おお、みんなが一堂に会すると10人を超える大所帯おおじょたいだ。

 わいわいがやがやとにぎやかに朝食をかき込んでいく。

 片付けも女性たちがみんなでやっている。

 そんな中で、俺と茂さんと剛志さんの三人が集まって、これからのダンジョン探索をどのように進めていくか打ち合わせをおこなっていた。

 「あなた、私も参加しようと思うの。よろしくね!」

 ここで、久実さんの『私もやる!』宣言せんげんが出てしまった。

 本来はゆったりと温泉を満喫まんきつしながら、家族を見守るつもりでいたみたいだけれど……、慶子の年齢を聞いてしまったのだからしょうがない。

 まあ、あのハツラツとした動きはレベルアップによる恩恵おんけいともいえるが、

 あの見た目のはだつやは…………。

 (リカバリーで肌と筋肉を再構築さいこうちくした結果なのよねぇ)

 そういったことも含めて、もう一度みんなに座ってもらった。

 ダンジョンと地震の因果関係いんがかんけいなどについては以前に話しているので、ここでは簡単に流していく。

 次に、ダンジョンの攻略こうりゃくについてだが、こちらは事故がないようにしっかりと話をしていった。





 ここに集まっている者は全員が身内ということで、多少ぶっちゃけた話をさせてもらっている。

 俺は茂さんと目を合わせ、……そしてうなずく。

 茂さんはテーブルの中央に女神像を丁寧ていねいに設置した。

 そして女神像の正面へまわり込むと、何処どこから出してくるのか左手にはいつものしゃくが握られていた。

 その不思議な行動に呆気あっけにとられていた本条ほんじょう家の面々であったが、俺たちが次々と集まって正座していくのを見て、なにも言わず、それにならってくれた。

 今回は特別にフウガとキロも同席させている。

 みんながそろったところで、茂さんに合わせて女神像(ビキニ・パレオVer.)にいのりをささげていく。

 例によって本条家の三人は薄白い光におおっていた。

 それと、もう一人。キロの体も光っていたのである。

 確認のため、一人ひとり鑑定かんていを行っていく。

 (あれれ!?)

 まあ、加護かごさずかっているのはいいとして。

 なぜに魔法適性まほうてきせいまで、ここで授かっているのだろうか?

 (…………)

 これはアレか! 二回も授けるのが面倒めんどうになったとか……?

 いやいやいや、そんなはずはない。……ないよね。

 これはきっと女神さまのやさしさゆえのことなのだ。






8月16日 (日曜日)  
次の満月は8月28日
ダンジョン覚醒まで21日・81日

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