俺とシロ（second）

24. ふたりの成長

　……紗月さつきの回想と妄想から入ります……


　その日学校が休みだった私は、巫女みことして朝から家 (神社) の手伝いをしていた。

　午前中にやる仕事といっても、もっぱら境内けいだいのお掃除そうじばかり。

　たまに授与所じゅよしょに呼ばれて、お札やお守りをお渡しするぐらいかな。

　”夏越なごしの祓はらえ” の神事は週はじめに終わっているので、今日は参拝者さんぱいしゃも少なくのんびりとしていた。

　「紗月、ちょっと行ってくるからなぁ。何かあったら電話してくれ」

　「うん、わかった。いってらっしゃーい」

　お父さんは近くのホームセンターへ出かけていった。

　最近、地震が多くなったから祭壇さいだんなどを補強するための金具がいるのだとか。

　さーて、お掃除のつづきを……

　――ドクン！

　心臓がはねたような感覚にとらわれた。

　『え、なに？　また地震！？』

　そのわりにはスマホの地震警報じしんけいほうは鳴らないし、いつまでたっても地面が揺ゆれることもない。

　「…………？」

　なによ、脅おどかさないでよねぇ。

　私は天を仰あおぎながら文句をいった。

　見上げれば、澄すみきった青空が広がっており、

　それを横切るように、すぅーと真っすぐに一本の飛行機雲が走っていた。

　『今日はいい天気になりそうね～』

　しばらく飛行機雲を観察したあと、目線を参道へともどした。

　すると、鳥居とりいの先にある石階段に男の人と一匹の白いわんちゃんが背を向けて座っているのが見えた。

　『散歩の途中なのかな？　そうだ！　お茶席も設もうけてあるし、せっかくだからお茶を飲んでいってもらおう』





　あぁ、びっくりした～。

　まさか、外人さんだなんて思わないよぉ。それにかなりのイケメン。

　お茶を飲むようにお誘さそいしたら、『まずはお参りからだろう』ってことで、一緒について境内けいだいを案内した。

　すると、なんていうか……、すっごく日本人っぽいの。

　拝礼はいれいする姿なんか亡くなったおじいちゃんにそっくり、すごくほっこりしちゃった。

　それからお茶を出し、話を聞いてみたらびっくり。だって異世界から来たなんて言ってるし、なにそれー。

　わたしの読んでたラノベの主人公みたいで興奮こうふんマックスだよぉ。キャー！

　シロちゃんと異世界で転生して、その異世界からこっちの世界に転移してきた？　それって今流行の異世界転移？　

　何言ってるのか良くわからないけど、とにかく凄すごいの！

　それで行くあてもなく困ってたみたいで、ゲンさんとシロちゃんは、しばらくこの老松神社に逗留とうりゅうすることになった。

　………………

　あれから、まだ一月も経っていないけど、私を取り巻く環境かんきょうは大きく変わろうとしている。

　イケメンのゲンさんに可愛いシロちゃん、そして何んといっても慶子けいこさんの存在が大きい。

　あれで私ぐらいの孫まごがいるということだけど、全然そんな風には見えないよ。

　だって、祥子しょうこおばさんよりも若い感じなんだもん。

　祥子おばさん (45歳) は家うちのお父さんの姉で、子供は男子 (成人) が二人いる。

　そうそう、このまえ慶子さんとカラオケに行ってきたんだけど、歌がすっごく上手いの！　ついつい聞き惚ほれちゃった。

　それに私の話もよく聞いてくれるの。すっごく優しくて、なんだかお母さんができたみたい……。

　でも、今はライバルなの。

　――恋の？

　違う違う、ダンジョン探索たんさくのよ。

　「どちらが先にゴブリン・キングを倒して10階層をクリアするか競争ね！」

　慶子さんが冗談めかして言ったことだけど、

　そんな途轍とてつもない目標に向かって、ふたりでチャレンジ中なのです。

　私は学校に通っているから少し出遅れた感はあるけれど、そこは若さで挽回ばんかいするんだから！

　そして、いきなり飛び込んできた異世界旅行。

　海外旅行の経験もない私がだよ。

　きゃ――――っ！　バタバタバタバタ！　（ベッドでバタ足）

　馬車とか乗れるのかな。宮殿きゅうでんを見てみたいな。そして王子様。婚約破棄こんやくはき！？

　きゃ――――っ！　きゃ――――っ！　きゃ――――――――――っ！　バタバタバタバタバタバタ！

　紗月の妄想もうそうは続いていくのであった……。





　7月27日月曜日。

　間近に迫った異世界 (サーメクス) 渡航とこうに備え、

　今日はダンジョン探索を休んで、昼からは買い物にあてている。

　「お昼は一緒に食べましょう」と慶子も出てきていた。

　ダンジョン探索を開始してからこれまで、二人をみっちりと鍛きたえてやりましたわー。

　慶子はいよいよ8階層かいそうへ突入。

　ホーンラビットコロシアムまであと少しのところまできている。

　もう動きが老人のものではない。

　参道の石階段も一つ飛ばしであがってくるしな。

　顔も体つきも一段と若返えり、40代といっても通りそうだ。

　本人はルンルン気分なのだが、『あまり目立つことはするんじゃないぞ！』と、しっかりクギを差しておいた。――やれやれ。

　そして、もうひと方。

　ほらほら紗月も降りてきなさい。

　景色がいいからって屋根やねには登っちゃダメでしょ。猫じゃないんだから。

　はぁ――っ、もう！

　こんな時期は目立ったらダメなんだってばよ。

　慶子がLv.8に、紗月はLv.4にと、この短期間で二人ともよく頑張ったとおもう。

　それで紗月が1週間がんばって上げたステータスがこちら、


　サツキ・シンリョウジ　Lv.4

　年齢　　　　17
　状態　　　  通常
　ＨＰ　　　 22/22
　ＭＰ　　　 10/10
　筋力　　　　12
　防御　　　　10
　魔防　　　　  9
　敏捷　　　　13
　器用　　　　10
　知力　　　　11

【スキル】　　　魔法適性（聖・火）　魔力操作（1）
【称号】　　　　巫女、
【加護】　　　　ユカリーナ・サーメクス


　うん、いい感じで上がってるな。

　コボルトやゴブリンとも単体なら問題なくさばけるようになったし、戦いには慣なれてきたみたいだね。

　槍術のスキルが生えたらフロアボス (5階層) に挑戦してもいいかも。





　みんなのステイタスを一通り確認していたら、びっくり！

　慶子の魔力操作まりょくそうさが3になっているのだ。

　（……これは）

　茂しげるさんと紗月は未だに1のままである。

　3者とも同じ時期に女神さまから加護かごを授さずかっているというのに……。

　みんなも頑張って訓練はしているようだから、これは才能さいのうの違いということなのだろうか？

　シロをちらっと見やったが、『な～に？』と舌をだして尻尾をふっている。――可愛い。

　昼までには、まだ時間があるな。

　慶子に結界けっかい魔法を教えることにした。

　この結界魔法というのは魔法の素養そようがあれば誰でも使うことができるが、適性を持つものであれば幅広く強固な結界を展開することが可能になる。

　ドーム型の結界を出して、パーティーみんなを守ったりできるのだ。

　シロと慶子を呼ぶと、何故か紗月までが俺のそばに寄ってきた。

　まあ、興味があるなら近くで見させておくか……。

　って、だから近いから！　紗月の肩を両手で押しかえす。（汗）

　まずは掌てのひらの上に10㎝の立方体りっぽうたいを作る訓練だ。

　「魔法は一にも二にもイメージだぞ。確しっかりとイメージすることで維持いじできる時間や消費しょうひするMPに違いがでてくるからな」

　最初はどのようにイメージを固めるのか、なかなか掴つかめないものだ。

　そこで、手を繋つないでイメージを流してやったり、一緒に魔法を発動させて練習していくのだ。

　何回か魔法の発動を失敗したあとで、

　「じゃあ、今度はシロと一緒にやってみて」

　そう促うながしてみた。

　慶子は大きく深呼吸したあとシロの背中に左手をのせて、

　「結界！」

　すると、右掌みぎてのひらに立方体の結界が形成けいせいされていた。

　――成功だ。

　結界魔法もしっかりと習得しゅうとくできたようだ。

　あとは地道な訓練を重ね、出来ることを増やしていくしかない。ガンバレ！

　慶子は回復魔法かいふくまほうの適性も持っているが、こちらは怪我けがをしてないと魔法をかけたときの状態が確認できない。

　なので、向こうへ渡ってから孤児院こじいんの子供たちを治療ちりょうしてもらうことにしよう。

　外で遊びまわる子供たちは、どうしても生傷なまきずが絶えないからね。





　さて、昼食の時間になったが。

　今日はみんなで冷やし中華を作ることにした。

　錦糸卵きんしたまごの係、野菜やハムを切る係、麺めんを茹ゆでて氷水で冷やす係に別れて手早く調理していった。

　そして、茂さんがネリネリしてくれた和辛子を器のへりに乗っけてみんなで頂く。

　もちろんシロも一緒だ。

　「「「「いただきまーす」」」」

　はぁ――――っ、これは旨い！

　ふんわり甘い錦糸卵きんしたまご、やわらかいチャーシュー、シャキシャキのきゅうり、つるつる麺めんの喉のどごしも良い。

　冷やし中華って、この季節きせつには最高のご馳走ちそうだよね。






7月27日 (月曜日) 　
次の満月は7月29日
ダンジョン覚醒まで41日・101日