俺とシロ(second)

マネキネコ

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20. デモンストレーション

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 頭に響いてくる声の感じだけで、カンゾーなんて名前をダンジョンに付けてしまった。

 これは俺の身体に元々そなわっている言語翻訳機能げんごほんやくきのうがそのように判断してしまうからだ。

 だってもう、『忍法ムササビ』と言って空を飛んでるハ○トリくんと、『にょにょ~ん』とちくわをくわえた獅子丸ししまるが頭から離れないのだからしかたがない。

 ダンジョン・カンゾーの管理者権限かんりしゃけんげんを取得した俺は、一旦神社へ戻ることにした。

 「カンゾーとはこれからいろいろと打ち合わせをしないとな。話すだけなら上の神社に居てもできるよな。ていうか情報交換をしないとまだ何もわからないだろう? とにかく帰ったら上から念話を送ってみるからその時はよろしく!」

 [了解したでござる主殿。また、いつでもお出でくだされ]

 少しだけカンゾーと話をして俺たちはダンジョンから外にでた。

 雨がパラパラと降りだしていたが転移で帰れるのでどうということはない。

 シロが開けてくれた穴には、念のため認識阻害にんしきそがいの結界をはっておく。

 (これで良し!)

 俺たちは本殿ほんでんの裏へ転移してから歩いて家に入った。

 穴掘りをがんばってくれた泥んこシロちゃんには、玄関先で浄化じょうかをかけさせキレイにしてから家にあがらせる。

 「ただいまー!」

 「やぁおかえりー。おや、何か見つかったようだね?」

 「えっ、ええ、まあ収穫はありましたよ」

 おおっしげるさん、なかなかに鋭い!

 何しにいったのか分かってるような口ぶりだ。

 「着てる服が前見せてくれた冒険者装備ぼうけんしゃそうびになってるからねぇ」

 ニカッと笑いながら指摘してきしてくれた。

 俺は自分の姿を見て……。

 「ハハハ! そうか、これではバレバレですよね~」

 ていうか、『どちらのコスプレイヤーさん?』と言われそうな恰好かっこうですよね。

 だけど、ダンジョンといえばコレなんだよなぁ。

 ――モンハンばりの革鎧かわよろい

 あまりにも着慣きなれていて、自分ではまったく違和感いわかんがないのだから困る。

 俺は装備をインベントリーに収納すると、いつものポロシャツとジーンズ姿で座布団ざぶとんに腰を下ろした。





 「ありましたよダンジョン! しっかり入り口も確認してきました」

 「えっ、本当かい。そこの雑木林ぞうきばやしの中にかい?」

 「はい、そうです。ここから歩いていける距離ですね」

 「えっ、なんだって! じゃあ、ここは危なくなるのかい? 大丈夫かな~?」

 にわかにあわてだした茂さん。 俺は落ち着いた表情で、

 「ここのダンジョンに関しては、そこまで警戒けいかいしなくても大丈夫だとおもいます」

 「そっ、そんなこと言ったって、あのダンジョンなんだろう? 今の地震もすごいけど、そのうちモンスターが中からうじゃうじゃと……」

 ……まあまあ、どうどう。

 茂さんが落ち着くまで、しばらく時間を要した。

 以前ダンジョンの話をした際、油断することがないように誇張こちょうして伝えていたのがいけなかった。

 だけど油断していると、本当に死んじゃうからね。

 「これからは地震のある日はあらかじめ分かるようになると思いますし、ここのダンジョンにおいてはモンスターが外に出てくるような事態にはなりませんから。……たぶん」

 「それはどうしてだい?」

 「理由は時がきたら必ずお話ししますから」

 と、この場はにごしておく。

 俺としても管理者になりはしたが、カンゾーと情報交換じょうほうこうかんをしながらじっくり検討してみないと、今の段階だと何とも言いようがないのだ。

 何ができて何ができないか、ある程度は把握はあくしないとな。

 余計な混乱を避けるためにも、ダンジョンの管理ができることは今言うべきではないだろう。

 ダンジョン・カンゾーは俺の管理下に入ったので、なんとか制御せいぎょはできるとおもう。

 伊達だてに10年、3つのダンジョンを管理してきたわけではないのだ。

 ただ、地球 (日本) に合わせての微調整びちょうせいは必要になってくるだろう。

 サブカルにれ親しんだ国民が無茶をやらかさないとも限らないし、宝箱の中味だって皆が喜ぶものに変えていかないとな。

 今ミスリルを出したところで、まだ研究もされていないのだから。

 ミスリルやオリハルコンなどを現代兵器げんだいへいきに使ったら、とんでもない物が出来あがりそうだよなぁ。

 ……できることなら、平和的に使ってほしいけどね。

 今回覚醒かくせいするダンジョンは日本にある3基だけとなっているが、地球全体では実際何基ぐらいの-ダンジョンが眠っているのだろうか。

 ダンジョンで採掘さいくつできる資源しげんを上手く研究し活用できれば、この国は世界に向けてイニシアチブを取ることも可能だろうけど……。





 あっ、そうだった。

 ダンジョン・カンゾーに連絡を入れないとな。

 (カンゾー聞こえるか?)

 [はっ、感明良好かんめいりょうこうでござる主殿あるじどの

 (お、おう。今のところここが俺の拠点きょてんになる)

 [了、登録したでござる]

 (それでカンゾー、覚醒の状況どうなんだ)

 [それがし起動覚醒きどうかくせいは現在94%。モンスターの配置も16階層まで進んでいるでござる]

 (では、今までの地震はどういった経緯けいいから来てるんだ?)

 [はっ、各部への伝達確認でんたつかくにんでござる]

 (それにしたって回数が多くないか?)

 [某の存在と力を知らしめる為の……、いわゆる ”デモンストレーション” でござるな]

 (ハッ、そうだったの?)

 [さようでござる]

 (伝達確認の方は仕方ないけど、デモンストレーションの方はもう少しひかえめにしてくれると助かる。地震エネルギーもこの前の7割程で頼む。それで十分に伝わるだろうから)

 [少々やり過ぎでござったか。7割も了!]

 (じゃあ、また何かあったら連絡するし、異常があるときはそちらからも呼びかけてくれ)

 [はっ、承知したでござる]

 まあ、デモンストレーションに関しては中止してもよかったのだが、ダンジョンも生き物なのだ。押さえつけられれば、いつか爆発するかもしれないしな。

 ていうか、パワーをもらっている存在をみずから減らしてしまうのはどうよ。って感じではある。

 女神さまも言ってたけど、共存きょうぞんしていくことが大事なんだよ。





 昼になったので何を食べようかと迷っている。

 えっ、さっき食べた牛丼? あれはおやつだいから気にしなくてOK!

 すると茂さんが俺に、

 「ゲンさんは寿司すしとかでも大丈夫?」 

 「寿司ですか? はい、俺もシロも問題ないですよ」

 「それは良かった。じゃあ10分ほどここの留守番頼めるかい?」

 茂さんはそう言い残すとスマホをポチポチしながら出ていった。

 「…………」

 テレビを見ながらシロと待っていると、茂さんは袋を手にぶら下げて帰ってきた。

 おいおい、ほんとに10分で帰ってきたよ。

 そして袋からテーブルに出されたものは、寿司の折り詰おりづめが二つと、あとは海鮮ばらちらしだ。

 おぉ――――っ!

 俺とシロが感動している間に、茂さんはお茶とお吸い物をトレイに乗せて居間に運んでいる。

 「さあ、、いただこうよ!」

 お茶とお吸い物を受けとって小皿に刺身醤油さしみしょうゆをさす。

 シロには海鮮ばらちらし。

 お座りしているシロの目の前に容器のふたをはずし置いてあげる。

 そろったところで、

 「「いただきます!」」

 まずはイカからパクッ!

 うま――――っ! 旨いよスシ○ー。

 ツンと鼻にぬけるわさびが、また良き。

 シロも尻尾を振りながらハグハグ食べている。喜んでいるようだ。

 いやー、旨かった。

 それはそうと、あんな短い時間でまさかお寿司だとは……。

 ――参りました。

 それで、どういう仕掛けなのか聞いてみたが、

 「これだよ!」

 茂さんはスマホを見せてくる。

 スマホで店に注文を入れておけば、取りにいった時には出来ているそうだ。

 「…………!」

 ああ――――っ! これ知ってる!

 見たことあるある、吉牛で。

 カレー屋とかほか弁屋でもやってるサービスなんだとか。 

 ほほーぅ、スマホっていろいろと便利なんだねぇ。





 俺とシロの二人分だから、結構なお値段ねだんになったはず。

 食べ終わったあとに料金を払おうとしたのだが……、茂さんはおごり・・・だからといって受け取らない。

 (う~ん仕方ないか)

 「今回はご馳走ちそうになりました」

 「うんうん、お粗末そまつさまでした」

 まあ、そのうちに何かのかたちで返せばいいだろう。

 ここはそう思うことにして、俺は次の話をはじめた。

 「茂さんはどんな得物えものがいいですかね?」

 「え、えもの? いのししとかの?」

 ――なるほど通じない。

 まあ、平和な日本だからね。

 「いえいえ武器のことですよ。ダンジョンとかで戦う際に何を使うかです。銃はダメでしょうから」 

 「ははは、そっちか。私も戦えた方がいいのかい」

 「もちろんです。特にこの場所はダンジョンのすぐそばです。魔獣まじゅうが出没することも頭に入れておくべきでしょう」

 俺がそうキッパリ答えると、茂さんは また悩みだした。

 これだけ人間が密集みっしゅうしているのだ。

 ダンジョンから排出はいしゅつされる魔素まその量も半端はんぱじゃないだろう。

 魔素まそが濃くなれば、かならず魔獣まじゅうが出てくるようになる。

 最初の魔獣が出現するまでに、そう時間はかからないだろう。

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