俺とシロ

マネキネコ

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86 ツーハイム

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 俺は覚醒かくせいしたマリアベルにこの世界のことを大まかに説明していった。

 もちろん魔法や魔獣まじゅうのことも含めてである。

 すると先程さきほどまで、

 「えっ、うそ。マジかぁー」

 と頭を抱えてうなだれていたマリアベルだったが、ようやく現実を受け入れ始めたようだ。

 そこで俺は気になっている事をたずねてみた。

 「マリアベルは今3歳だ。その……今までの記憶きおくはどうなってるんだ?」

 すると彼女はひたいに指をあて、

 「マリアベルとしての記憶も有るわよ。あちら (前世) の記憶と混在こんざいしてる感じかしら。だからみんなの事もわかるし、優しくされたのも覚えているわよ」 

 なるほど、それは良かった。

 一からすべてを説明するとなると大変だからなぁ。





 それから、いろいろと話をしていく中で……、

 転生前てんせいまえの名前は本条ほんじょう あおい。17歳の高校生だったそうだ。

 なんでも、

 学校からの帰り道、公園に住む野良猫のらねこにエサを与えるのが日課だったという。

 しかしその日、彼女を見つけた子猫は嬉しさのあまりニャーニャー鳴きながら道路に飛び出してきたそうだ。

 「あっ、あぶない!」

 反射的に猫をかばおうとした彼女であったが……。

 おそらくは、最後に目に入ったトラックにはねられて死んだのだろうということだった。

 (うわ――っ、トラックにはねられて異世界転生いせかいてんせいなんて、まさに王道おうどうだよな)

 「なによ私ばっかり。あんたのことも教えなさいよねぇ」

 お互い女神さま経由の転生なんだよね。マリアベルは直接女神さまに会ってはいないようだが。

 俺の方はすこし特殊とくしゅだが、シロのことも含めてあらかた教えてやった。

 「うわー、おっさんじゃん。でも今は…………なかなかいい線いってると思うわよ」

 「そりゃどうも」

 彼女的にはストライクだったようだ。

 (しかし3歳児に言われてもな~。ハハハハハッ)

 そうこうしてるうちに、みんなが風呂から上がってきたので「話はまた今度ね!」ということになった。

 熊親子とはここで別れ、マリアベルはメイドさん達と王城へ、俺たちは大公邸へとそれぞれ帰っていった。

 さてさて彼女のことも気にかかるところだが、まずは自分の足元を固めていかないとだな。

 やる事は山積みだし、明日もいそがしくなるな。





 そして次の日。

 今日は午後から家宰かさいになる人物が訪ねてくる事になっている。

 もちろん会う時はシロも一緒だぞ。……心細いので。

 昼食のあとお呼びがかかったので、俺はシロを連れて応接間おうせつまへと入った。

 すると一人の男性がソファーの横で貴族礼きぞくれいをとっている。

 もちろん俺に対してだ。

 今まで貴族礼をしたことはあっても、された事はこれが初めてになる。

 どう対処していいかわからず、すこしあせってしまったのは内緒だ。

 横にいるシロの頭を撫でることで、何とか気持ちを落ち着かせ普通に対応する。

 「私がゲンです。これからしっかりと頼みますね。どうぞ座ってください」

 すると男性はかしこまったまま、

 「お初にお目にかかります。私はシオン・ラファールと申します。よろしくお願いいたします」

 そう言い終わるや、ススッと立ち上がってササッとソファーへ腰掛けているのだが。

 その所作がどうに入っているというか、美しいというか……。

 すると、アラン家の執事しつじが紅茶を入れてくれる。

 「さ、お茶をどうぞ。そんな固くならずに楽にしてください」(俺がな!)

 「はい、ありがとうございます。いただきます」 

 二人で紅茶に口をつける。

 「…………」

 「…………」

 う~ん、やはり俺から話を振らないといけないのかな。

 ……仕方ない。

 「ラファールと言うとラファール辺境伯へんきょうはくゆかりの者か?」

 「はい、ご主人様。私はラファール辺境伯家の5男で年齢は19歳になります。ここに来る前はモルガン家の王都別邸おうとべっていにて執事しつじとして働いておりました」

 「やはりそうなのか。時に、アリス様はお元気か?」

 「えっ、ご主人様はアリスをご存知ぞんじなのですか?」

 「うん知っているよ。一度お会いしたからね」

 するとシオンはあごに手をやり思案顔。隣にお座りしているシロをじっと見つめ、

 「もしや……、サミラスの街道にてオーク40頭を一瞬で片付けた伝説でんせつの冒険者というのは……」

 「俺とここに居るシロだな。しかし伝説とは……。少々オーバーではないかな」

 「いえいえ、オーバーなどととんでもない。あのままでは全滅ぜんめつもあり得たと騎士団からもうかがっております。アリスがもの凄い魔法を見たと興奮して話しておりました。その節は妹を助けて頂きましてありがとうございました!」

 このような感じだが、つかみ・・・はなんとかなったかな。





 それからは時間も忘れ、本当にいろいろと話をした。

 何せこっちは貴族のキの字も知らないのだから。

 (これから先、シオンには苦労を掛けるんだろうなぁ)

 そして話題は家名へと移った。

 俺が考えた家名は【ツーハイム】。ゲン・ツーハイムだな。

 あと、紋章もんしょうの方もちゃんと考えたよ。

 デザイン的にはたて (カイト・シールド) をベースに大きな月を描き、フェンリルのシロをどどーんと真ん中に持ってきた。

 それでモットーなんかを入れるリボンのおびには【一期一会いちごいちえ】と入れてみた。

 大和魂やまとだましいを受け継ぐのだ! 異世界だけどね。



 意味を尋ねられると、茶道の心得やら武士道とはなんたるかなど表現が難しいのだが。

 とにかくカッコイイのだ!

 あとはこのラフを紋章師もんしょうしに頼んで原画げんが木板もくはんのレリーフを制作してもらえばいいだろう。

 それで肝心かんじんな家なのだが、改装かいそう工事と家具などの搬入はんにゅうであと20日程かかるらしいのだ。

 その間にやしきで働く家人などをそろえていかなくてはならない。

 こちらもまったく分からないのでシオンに丸投げする。

 人員の募集・支度金したくきん・制服や各備品びひんなどをそろえる為、金貨30枚 (30万バース) 程を準備してほしいとのことだ。

 これに対しては、とりあえずクルーガー金貨5枚 (50万バース) をシオンに預けることにした。

 当面の給与もそこから出すようにと言っておく。

 これで王国から頂いた支度金はほぼ無くなってしまった。

 まだ馬やら馬車やらそろえる必要があるし、まだまだお金が掛かりそうだ。

 なにか金策きんさくしなくては……。

 工藤さんからゆずり受けた【お宝】をオークションに出してさばいていくのも有りだと思うが、日数のことを考えれば、ここはミスリルを換金かんきんした方が確実だろう。

 シオンは家の改装が終わるまでは宿屋に泊まり、こちらには毎日顔を出すそうだ。

 それに家付きの騎士団きしだんも要るのかなぁ?

 (自分だけの騎士団か……。いいな!)

 でも、どーやって集めたらいいんだ? 奴隷どれいとかでもいいのかなぁ。

 法衣子爵ほういししゃくなので20名までは持てるようになっているが、持たないなら持たないでいいらしい。

 その辺は明日にでもシオンに聞いてみよう。

 夕食のあとはメアリーが遊んでほしそうにしていたので、ひさしぶりに枕元で童話どうわ (人魚姫) を語って聞かせた。





 さて、今日は金策に行きますかね。

 俺はメアリーと朝食をとったあと馬車を借りシロと共に商業ギルドへ向かった。

 担当者の名前は忘れてしまったので、直接副ギルド長を呼んでもらえるようにお願いした。

 だが、受付の職員がアポイントがどうたらとか予約がなんちゃらとか言いだした。

 「…………」

 まあ、そうなるよなぁ。やっぱし。

 王城を出てからアラン邸に身を寄せている俺は、誰も文句を言わないことをいいことに平服を着ていたのだ。

 今の俺はどこから見ても、その辺を歩いている町の青年ぐらいにしか見えないだろう。

 職員は フンす! と鼻の穴を大きくしている。

 「子爵ししゃくのゲン・ツーハイムだが」

 俺はそう言い放つと宝剣を提示ていじした。

 それを目にした職員は飛び上がって驚き謝罪すると、すぐに別室へと案内してくれた。

 ついでにシロも一緒でいいかとたずねると二つ返事で許可された。

 通された別室は、この前訪れた時とは違ってかなり立派な部屋だ。

 テーブルには紅茶とお茶菓子がすぐに用意された。

 ――さすが貴族パワー。半端はんぱないよね。

 こうもガラリと対応が違ってくると、勘違かんちがいするヤツが出てくるのは仕方のない事かもしれない。

 お茶を頂きながら待つことしばし、

 ノックのあと扉が開いて、以前会った副ギルド長のヘケラーさんが部下をともなって入室してきた。

 「これは、これは、お久しぶりでございます。貴族様であられたとは ゲン様もお人が悪い」

 二人して貴族礼をとってくる。

 「いえいえ、じょされたのはまだ先日のことです。どうぞ座ってください」

 皆が着席し場が落ちついたところで、

 「本日は、どのようなご用件でお出でになられたのでしょうか?」

 「うん、今話したとおり私は爵位しゃくいたまわって間もないのだ。まぁ分かっているとは思うがいろいろと物入りでな……。そこで先日取引したミスリルの相場そうばがどうなっているか聞きたくてね」

 「はい、ミスリルにおいては以前として枯渇状態こかつじょうたいが続いております。相場もほとんど変わっておりません。 ……もしやお持ちなのですか? あのグレードのものでしたら1割、いいえ2割は高く取引できますが」

 (なるほど、相場は高いままだったか)

 前回が確か520,000バースだったから、これの2割増しで…… 624,000バースになるのか。

 それで何個売る? 

 たびたび取引していては、かえって目立つかな……。

 では思いきって5個いっとくか?

 ええ~といくらだ…… 3,120,000バースか。

 これだけ有ればどうにかなるかな。

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