俺とシロ

マネキネコ

文字の大きさ
上 下
67 / 107

63 単独突破

しおりを挟む
 メアリーはニコニコだし、シロはフリフリだし。(ボス部屋の前です)

 さあ、どうすんのよ俺?

 「…………」

 否! 流されてはいか~ん。

 ――その前にメシだ。

 俺たちは昼食をとることにした。

 今日はたまたま市場でコッペパンを見つけたので、そのコッペパンにナイフで切れ目を入れ串焼くしやき肉と葉野菜を一緒にはさんで食べてみることにした。

 もちろんシロも同じものを作ってあげている。仲間外なかまはずれはいけない。

 俺とメアリーは手に持って、シロはいつものようにフライパンに入れて食べている。

 なかなか美味しい。美味しいのだが……。

 やっぱり、塩だけではちょっとさびしいかな。

 (ケチャップかマヨネーズが欲しくなるよなぁ)

 だけどトマトは見たことないし、おなんか作ってないだろう。

 いや、ビネガーがあればワンチャンあるのか。

 ただ、そのビネガーで作ったマヨネーズがうまいかどうか?

 カボスみたいな酸っぱいみかんの方がいけるんじゃね?

 「…………!」

 あっ、いかんいかん。

 今はそんなことを考えている場合ではなかった。

 ボスへの挑戦をどうやってあきらめさせるかだよな。

 う~ん、お昼寝中にこっそり家に帰るのも、ひとつの手なんだけど……。

 しばらく口をきいてくれなくなるかもな~。

 おおっ寝たか。

 今日もはりきってモンスターを倒してたからなぁ。

 どれ、――鑑定!


 メアリー・クルーガー Lv10

 年齢    6
 状態   通常
 HP   39/40
 MP   51/33(+20)
 筋力    24
 防御    17
 魔防    21
 敏捷    32(+5)
 器用    19
 知力    22

【スキル】   魔法適性(光・風・水・聖) 魔力操作(4) 槍術(1)
【魔法】    光魔法(2)  水魔法(3)  聖魔法 (1)
        風魔法(3)  身体強化(1)
【称号】    大公の庶子、シロの妹、ゲンの家族、兎の天敵、
【加護】    ユカリーナ・サーメクス


 やりが良く振れてると思ったらスキルが生えていたか。

 カニサイ先生の稽古けいこでもがんばっていたからな。

 う~ん伸びてる。伸びてるけどまだ届いてないよなぁ。

 あらためてボス戦を考えていく。

 魔法も有効だけど今回は数が多いからね。メアリーのMPだと広域魔法で2発というところか。

 ――やっぱりきびしい。

 ゴブリンライダーまでは何とかいけるだろうが、そのあとにゴブリンキングが控えているしな。

 体力がきちゃうだろう。

 そのように考え込んでいると、いつの間にかシロが目の前にお座りしていた。

 「ん…………」

 俺はシロの頭をでながら、

 「シロはどう思う。やっぱメアリーには無理だよなぁ」

 『いける、あそぶ、まもる、ふよ、けっかい、うれしい』

 「…………!?」

 おおっ、なるほど付与ふよか! その手があったか。

 防御結界ぼうぎょけっかいを付与してやるんだな。

 それならあるいは……。

 う~ん、しかしなぁ。

 『いけるよ!』とでも言うかのように、シロはなんども頷いている。

 そうか……、じゃあやらせてみるか。

 ダメなら次があるわけだしな。よ~し!

 俺が決意を固めていると、ちょうどメアリーが起きてきた。

 目をこすりながらよたよたと近寄ってきて、ポスンと俺のひざの上にすわる。

 ――かわいい。

 こうして頭をでているとさっきの決意もゆるんでしまうよなぁ。





 俺たちはボス戦に向けて最終的なブリーフィングに入った。

 まずは『勝つ』イメージからだ。

 その上でどのように展開てんかいさせていくか。

 ゴブリンライダーをいかにまとめて倒すのか。

 ………………

 大まかな戦略せんりゃくれたはずだ。

 思い通りにいくとは限らないが、これも経験だ。力尽ちからつきるまでやってみればいい。

 シロに結界魔法を付与してもらったメアリー。

 俺たちに手を振ると巨大な鉄扉の前にちょこんと立った。

 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!

 扉が奥へ開いていき、いよいよ戦闘開始である。

 ボス部屋に入ったメアリーはひとりでトコトコ中を進んでいく。

 ゴブリンライダー共は半円状はんえんじょう突撃体制とつげきたいせいのまま動かない。

 (今回も完全なる舐めプである)

 相手が動かないのならエアハンマーより殺傷力さっしょうりょくの高いカッター系での殲滅せんめつがいいだろう。

 敵との相対距離そうたいきょりが15m程に迫った時。

 メアリーは『ガオーの手ポーズ』をとり目の前にいるゴブリンライダーに向けた。

 「デビルカッター!」 (おい!

 次の瞬間、小さい手から繰り出される三日月型のやいばがゴブリンとブラックウルフを切り裂いていく。

 (おおっ、さすがは正義のヒーローの必殺技。イメージがしっかりしてる分、威力いりょくが半端ないな)

 中心付近にいた5対のゴブリンライダーはその場でくずれおちた。

 そのサイドにいた2対も手傷を負ったのか動きが鈍い。

 「グギャ――――――ッ!」

 奥にいたゴブリンキングが奇声きせいを発すると、あわてたように動きだす3騎のゴブリンライダー。

 てんでバラバラに突っ込んでくる。

 それを見ていたメアリーは短槍を両手で持ちわずかに腰をおとす。

 瞬時に動ける態勢をとって待ち受けているのだ。

 (ホントに6歳? 疑いたくなるほど落ち着いてるよなぁ)

 まず左側から1騎のゴブリンライダーが向かってくる。

 これに対してメアリーは素早い動きで正面に立つと、すれ違いざまブラックウルフの前足をすくうようにいだ。

 前足を失ったブラックウルフはつんのめるように崩れ、上に乗っていたゴブリンは大きく前方に投げ出された。

 グシャっと地面に叩きつけられたゴブリン。

 これはかなりのダメージだろう。

 魔石に変わっていないので生きてはいるんだろうが、立ち上がる気配はない。

 そして残った2騎のゴブリンライダーもまたたく間に倒されていった。

 傷を負って戦線を離れているモンスターもいるが、奴らはもはや脅威きょういではない。

 すると、いよいよゴブリンキングとのたたかいとなる。

 ゴブリンキングの方はというと……、(またしても) 十字槍じゅうじやりを頭上でまわしている。

 (この光景、何度も見ているときてくるよなぁ)

 さて、この2mはあるゴブリンキングにメアリーはどういどんでいくのかな。





 もう1回、大きい魔法を放てるぐらいにはMPを残しているはず。

 だけど魔法は撃たないようだ。

 メアリーはゴブリンキングの正面に立つと、槍を半身はんみ正眼せいがんかまえる。

 身体からは気勢きせいがあがる。身体強化・・・・だ。

 これを目にしたヤツも槍をまわすのは止め、しっかりと構えてきた。

 それと同時にメアリーは左手一本でヤツの鳩尾みぞおちえぐりにいくがかろうじてはじかれる。

 (速い! なんて動きをするんだ。これではまばたきすら出来ないぞ!)

 メアリーが放った短槍のがヤツの左肩ひだりかたに突き刺さる。

 この電光石火でんこうせっかともいえる素早い攻撃にヤツはひるんでしまった。

 するとメアリーはこのすきを逃さず次々に槍を打ち込んでいく。

 狙いはもっぱらヤツのひざだ。

 ゴブリンキングも防戦しているのだが槍の速さと正確さが違う。

 それに一発大きいのは狙わず、ヤツが放つ槍を右へ左へとかわしながら小刻こきざみにけずっていくのだ。

 これでは、もうすべがないだろう。ヤツの両膝はすでに血塗ちまみれだ。

 やがて崩れ落ちるように両膝を突いたゴブリンキング。

 ――勝負は決した。

 大振りになった槍を軽くかわし、

 膝立ひざだちになったお陰でねらいやすくなった喉元のどもとをメアリーは丁寧ていねいつらぬいた。

 しばらく藻掻もがいていたヤツも、やがて動かなくなり前のめりに沈んでいく。

 ――ボンッ!

 そして大きな音とともに魔石へと変わった。

 あとは油断なく残りのモンスターを掃討そうとうして、

 ここにメアリーは10階層のボス戦において単独制覇たんどくせいはを果たした。





 出口の扉が静かに開いていく。

 俺は感動のあまり動けないでいた。

 いつもの調子でまわりの魔石を集め終えたメアリーが俺の元に戻ってくる。

 涙を流しながらたたずんでいる俺をみて、心配そうに手をつないでくれた。

 「どうしたの~?」

 「ごめんなぁ~。かっこいいメアリーを見ていたら嬉しくなって泣いちゃったよぉ」

 首をかしげてくるメアリーに俺は正直な気持ちを伝えた。

 するとメアリーはニッコリ笑って、

 「ゲンパパ行こっ! シロにぃが待ってるよ」 

 小さな手でグイグイ俺を引っ張っていく。

 ああ――――っ、これほど『ビデオカメラ』が欲しいと思ったことはない。

 そっと心にきざんでおくか……。

 メアリーを抱えて転移台座てんいだいざぎょくに触れさせた。

 これでみんな10階層を突破だ。

 この先俺たちは一緒に攻略していける。

 こんなにうれしい事はない……。





 昼過ぎてからはボス戦だけだったので時間は十分にある。

 そこで俺たちはダンジョンリビングに行ってみることにした。

 (サラ。ダンジョンリビングへやってくれ)

 [はいマスター。了解しました]

 次の瞬間、俺たちは何もない・・・・草原の真ん中に立っていた。

 (おおいサラ。なんで草原なんだよ?)

 [はい。これはマスターがまだ何も設定されていないためです]

 (なるほど設定か……。で、どーすればいいんだ)

 [はい、マスターが想像そうぞうされたものを出来る限り再現いたします]

 想像するだけで近いものを作ってくれるのだろうか?

 (それじゃあ、こんなのはどうだ。 太陽はこう・海はこう・白い砂浜すなはま夫婦岩めおといわ・そして海の家うみのいえだぁ)

 (それにそうそう、海の家には調理場ちょうりばがあって、鉄板焼きグリル・ビールサーバーは無理だろうからエールのたるを置いてたらいには氷だ。かき氷機・手漕ぎボート・浮き輪・ビーチボール。そしてシャワー室があって、隣はジャグジーバスなら最高!)

 (そんなところだが出来るのか?)

 [はい、お任せください。………………いかがでしょうか]

 おお――――っ。なんかそれらしく出来てるよなぁ。

 細部さいぶはおいおいめていくとしよう。風呂の温度とかもあるしな。

 ああ、でも思ったよりゆったりできそうな空間になったかな。





 しかし、なんだよココ。

 海の家やジャグジーバスはともかく、ここの周りの自然はどう見てもホンモノだよな。

 そして海はしっかり海水だった。

 この世界にも海はあるようで、それを参考にしているらしい。

 ジャグジーは普通のお湯だったな。

 できたら温泉がいいので、今度ダンジョンの近くを掘ってもらうとするか。

 シロとメアリーは楽しそうに砂浜を駆けまわっている。

 海に入ろうとメアリーが全裸 (はだか) になっていたので、

 これだけは着ておけと、貫頭衣かんとういを頭からかぶせた。

 つつしみは大事だぞぉ。

 しかしまあ、砂浜を走る犬と少女って絵になっていいよね。

 さ――て、おやつにクレープと冷たいアイスティーでも作りますかね。

 俺を泣かせるほど頑張ってくれたメアリーのために。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し
ファンタジー
 16歳になったら教会で良いアビリティを貰い、幼馴染たちと一緒にダンジョンを攻略する。それが子供の頃からウォールが見ていた夢だった。  だが、彼が運命の日に教会で受け取ったのはノーアビリティという現実と不名誉。幼馴染たちにも見限られたウォールは、いっそ盗賊の弟子にでもなってやろうと盗賊の隠れ家として噂されている山奥の宿舎に向かった。  そこでウォールが出会ったのは、かつて自分と同じようにノーアビリティを宣告されたものの、後になって強力なアビリティを得た者たちだった。ウォールは彼らの助力も得て、やがて最高クラスのアビリティを手にすることになる。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

処理中です...