俺とシロ

マネキネコ

文字の大きさ
上 下
34 / 107

31 アーツ

しおりを挟む
 アーツ先生は怪訝けげんな表情で俺を見ている。

 「これは、どういうことだ!」

 ひゃー、アーツ先生怒ってます。――激オコです!

 「亡くなられた騎士の方3名はあちらにほうむられています」

 街道の脇、少し離れた場所を右掌みぎてのひらで示した。

 アーツ先生とその場所まで進み盛り土に向かって俺は手を合わせる。

 3秒ほど黙祷もくとうささげたあとアーツ先生と向き合った。

 「俺にはいろいろと秘密があります。それらを今すべてお話しすることは出来ません。これから起こる事も内密にお願いします」

 そう前置きしてからオークジェネラルの亡骸なきがらをインベントリーから取りだした。

 「こっ、これは……、本当だったのか」

 「はい、俺が魔法で止めを刺しました。あとのオークはすでに解体しており、各部のパーツはあるのですがオークそのものを出すことはかないません」 

 アーツ先生は未だに呆然ぼうぜんとしたままだ。

 「毎朝の訓練においてアーツ先生に教わった戦い方や貴族への礼のとり方・・・・・・・・・など、こんなに早く使うことになるとは思いませんでした」

 「ははっ、はははははっ! お前が何者なのか聞いたところで答えられんのだろう? 悪いヤツではないことは分かるぞ。もう何日も指導しているのだからなぁ」

 「……ありがとうございます」

 「そうかぁ、教えたことが役に立ったのだな……。これからもみっちりしごいてやるから覚悟しておけ!」 

 「はい、よろしくお願いします!」

 この度量の大きさに自然と頭が下がってしまう。





 俺はオークジェネラルを再びインベントリーへ納めシロの首に付いている鑑札を外した。

 人の気配がないことを確認して、シロにフルサイズの『フェンリル』になってもらった。

 その瞬間、アーツ先生は5m程後方へジャンプして長剣を抜き放っていた。

 「大丈夫です。これはシロ・・ですよ」

 俺はアーツ先生に向かってそう言ってやると……。

 ………3秒程フリーズしたのち剣を鞘に納めた。そして、

 「ハハハッ、ハハハハハッ!」

 両手を広げ目を輝かせながらシロに突っ込んでいった。

 「…………」

 俺はその光景を眺めながら、

 あ~ぁ、その顔は見せてはいけないやつだよなぁ。――よだれよだれ!

 アーツ先生は重度じゅうどのケモナーだったようだ。

 ………………

 俺はしばらくの間放置ほうちすることにした。

 そうして10分ほど時が過ぎ、ようやくアーツ先生は戻ってきた。――2つの意味で。

 「その……、ハハハハハッ! びっくりしてだな~」

 いやいやいや、もう無理です!

 よだれをぬぐいながらそんなことを言われても……。

 こやつは今からアーツね。――アーツ。

 「先生、今から『アーツ』って呼びますから」

 「うっ、おっ、おう!」 

 アーツもバツが悪かったのか下を向いて呟くように答えていた。





 「そろそろ夕方になるな。野営やえいするなら良い場所があるから案内するよ」

 「そうだな、今日のところは野営して明日の朝から周辺を探索たんさくするとしよう」

 「じゃぁ、シロ。二人乗るからいつもより少し大きいぐらいがいいかな」

 「ワン!」

 「さっ、後ろに乗ってくれ!」

 「の、乗ってくれって……。乗れるのか? フェンリルに」

 俺とアーツはシロの背にまたがりいつもの森の丘へ向かった。

 「さあ、着きましたよ。野営の準備をしましょうか」

 「俺は竈をこしらえて火を起こすからアーツはまきをお願いしてもいいか?」

 「お、おう! 薪だな」

 実をいうと、町を出て襲撃現場に達する道すがらかまど作りに使えそうな石をインベントリーに吸い込んでいたのだ。

 何回も使えるようにしっかりと竈を組んでいく。

 すると、高さ40㎝程の立派な竈が出来あがった。

 さらにテーブルや椅子をはじめ鍋や皿などもも出していく。

 あとは薪を取ってくれば調理することができるだろう。

 それじゃ俺も薪拾いに参加しますかね。

 シロに留守番を頼むと俺は背負い籠せおいかごを担いで森の丘を下っていった。





 俺が薪を集めて帰ってくるとアーツもすでに戻ってきており、竈からは薄っすらと煙が立ちのぼっていた。

 「火を点けてくれたんだな、助かるよ。ありがとう」 

 食材をテーブルへ出していきスープを作りはじめた。

 水が入った寸胴鍋を火にかけ、まな板の上で肉や野菜を切っていく。

 二人で楽しく話しながら料理を作っていく。

 だいぶ日も暮れて来たなぁ。

 スープが出来あがったので今度は厚く切った肉に長串を差していく。

 そうして、肉の両面に岩塩がんえんを擦り付け豪快ごうかいに焼いていく。

 シロ用の肉は何もつけずに数回あぶるだけだ。

 オークの肉は沢山あるのでガンガン焼いていった。

 最後にヤカンでお湯を沸かし紅茶をれてアーツに差し出した。

 彼女はそのミニジョッキを受け取りながら、

 「何か、野営じゃないみたいだな」

 「そうか~、まぁ、人前では出せない物もあるんだよな」





 「アーツはいつも1人なのか?」

 シロをもふりながら聞いてみた。

 すると、アーツは下を向き枝を拾って地面を突つきながら、

 「ああ、今は1人だな。ちょっと前まで女ばかり3人でパーティーを組んでいたんだが、些細ささいなことが原因で解散してしまってな。今思えばどうしてあんなことで・・・・・・・・・・と思うのだがその時はどうにもならなかった……」

 主語がないようなそんな語り口だ。ホントに些細ささいなことだったのだろう。

 「なんだぁ、その仲間は死んでしまったのか?」

 「何を言ってる、死んではいないぞ! ただ何処どこに居るのか分からないがな」

 ふ~ん、そうなのか……。

 「いいじゃないか。死んでないなら、また会えるさ。そして、何年経っていようが戻るんだよ自分たちの時間が。そして以前のように笑って話せるさ」 

 「……話せるだろうか?」

 アーツは自信なさげだ。俺は紅茶を飲み干しながら、

 「心配いらないよ。共に過ごした時間は無くなりはしないから……」

 「さて、一汗かいて寝るとするかな。今日の夜警やけいは必要ないからアーツもしっかり寝ろよ」

 「えっ、何でだ?」

 「シロが居るだけでけものはもちろん、魔獣まじゅうも寄って来ないから。しかも朝まで結界を張っているしな」

 俺はそう答えるとバスターソードを持ち日課にっかである素振りを始めていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...