女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
74 / 77
第3章

24話

しおりを挟む
「魔界――それは四面世界におけるひとつの世界なんです」

 ルルムは言葉を絞り出すように静かに口にする。
 その口調は、これまでにないくらい大人びたものだった。

「ルルムはそこで家族と一緒に平和に暮らしてました。ですがある時、エスデスがやって来て・・・」

「エスデス?」

「魔界第7防衛師団長――エスデス。それがこの世界で魔王と呼ばれてる者の名なんです」

 ルルムによれば、エスデスは冷酷な女帝のような見た目をしているのだという。
 年齢は2万3000歳。

 もともとエスデスは、魔界に侵攻してくる神族に対抗するべく、師団長として最前線で防衛する役を担っていたようだ。

 ただいつまで経っても敵が攻め込んでくる様子はない。
 また、魔族が積極的に神界へ攻め込む様子がないことも不満に思っていたようだ。

「エスデスは魔界では有名な野心家でした」
 
 やがて。
 エスデスは魔界の掟を破り、1人で異世界へと向かう。

 魔界に現存する七つの魔剣のうちの1本を盗み出し、同時にルルムも攫った。

「そこでルルムは、エスデスのスキルによって葬冥の魔剣ケイオスヴァレスティと一体化させられてしまったんです」
 
 そのあと。
 フィフネルに降り立ったエスデスは、魔剣を『黄金の王国ニンフィア』周辺の地脈に突き刺し、大地を腐らせて魔境を発生させる。 

 どうやら有識者たちの予測は当たっていたようだ。

「でも、どうしてルルムを攫ったんだろう? 魔界ではほかにも大勢が暮らしてるんだよね?」

「それはきっと、ルルムが【巫剣みつるぎ】のスキルを所有してたからだと思います」

「【巫剣】?」

 このスキルの所有者は、魔界に現存する魔剣の性能を限界を越えて引き出すことが可能なのだという。
 記憶のないルルムが葬冥の魔剣の使い方を熟知していたのも、【巫剣】のスキルが発動していたためだったようだ。

 魔界では穢れを知らない美しい少女にだけこのスキルが覚醒するようだ。

 これをエスデスは悪用した。

 本来組み合わせてはならない【巫剣】所有者であるルルムと葬冥の魔剣を一体化させたことにより、マイナスの大きな反動が生じ、魔剣には邪悪な力が宿ることに。

 ルルムによれば、もともと魔剣には悪しき力は宿っていないのだという。
 種族繁栄の祈願に用いる厳かな魔具という話だ。

 それを聞いてもいまいちピンとこないゲントだったが、魔剣が本来は戦闘で使うような代物ではないということだけは理解できた。

「ですが、マスターに魔剣を引き抜いてもらったおかげで、ルルムは一時的にもとの姿を取り戻すことができました。だから、ずっとマスターには感謝してるんです。あの時、見つけてくださったことに」

「いや、あれはたまたまなんだ」

 特別感謝されるようなことをしたつもりはないとゲントは考えていた。
 
 ただ偶然にも。
 ゲントの取った行動によって黒の一帯の浸食は止まった。

 また、それにより魔剣からも邪悪な力が消え去ったようだ。

「あのさ。話の途中で申し訳ないんだけど、ちょっと気になる点があって。聞いてもいいかな?」

「なんでしょう?」

「さっきからスキルがどうこうってふつうに話してるけど・・・。もしかしてスキルって、魔族だけが使えるものだったりする?」

「そうですね。スキルは魔族専用の異能になります」

「やっぱり・・・」

(どうりでおかしいと思ったんだ)

 この異世界の住人がスキルを使っていないことをゲントはずっと不思議に思っていた。
 振り返ってみれば、フェルンのステータス画面にもスキルの項目は存在しなかったことをゲントは思い出す。

「逆に魔法は神族専用の異能なんです」

「え? そうなの?」

 これも初耳だった。
 クロノとしてこの異世界へ降り立った時も、プロセルピナの口からそんな話を聞いた覚えはない。

「魔法は神族しか使えない・・・。ということは、魔族は魔法が使えないということになります」

「まあ、そうなるよね」

 自分でそう口にしながらゲントは納得していた。
 〝魔族は魔素マナの呪縛から解放されてる〟という予測が当たっていたからだ。

(魔法が使えない。つまり、魔族の体内にはそもそも魔素が存在しないんだ)

 魔力総量がゼロだった理由もここでようやく判然とする。

「ここまでお聞きになってなにか矛盾に気付きませんか?」

「矛盾?」

「エスデスに関することです。なにをこの異世界に持ち込んだのでしょう?」

「あぁ・・・魔導書か」

 魔族は魔法が使えない。
 にもかかわらず、エスデスは魔導書をフィフネルに持ち込んでいる。

 たしかにおかしい。

「実はエスデスが持ち込んだ26冊の魔導書はコピーされたものなんです」

「え?」

「オリジナルは神界で保管されてます。あれら26冊の魔導書は、魔族が神族から盗んだものなんですよ」

(なるほど。だから、魔法が使えないはずのエスデスは魔導書を所有してたのか)

 だが、そうなると新たな疑問が浮かんできた。
 
「でもさ。どうしてそんなものをわざわざ持ち込んだんだろう?」

 魔素を植え付けたことで人々の寿命を奪い、旧約をもとに争わせることが目的だったというのはなんとなく理解できるが、戦術としては少しまわりくどいようにゲントには思えた。

「その答えは簡単です。神族に対抗するためです」

「神族に? どうして異世界に魔導書を持ち込むことが神族に対抗することになるの?」

「その前に一度確認させてください、マスター。魔族には魔法が効かないということはご存じでしょうか?」

「うん。それなら女神さまから聞いてる」

「逆に神族にはスキルが効きません。ですが、魔法なら効き目があるんです」

「そうなの?」

「ここまで説明すれば、なんとなく理解できるんじゃないでしょうか? ヒト族が魔法を使えるようになり、たとえば体を乗っ取ることができるのだとすれば・・・」

 そこまで聞いて、ゲントはルルムの言いたいことを理解する。

「つまり・・・魔法が使えるようになった人々に乗り移って、魔法を使って神族に対抗しようと考えたってこと?」

「さすがマスター、そのとおりです。実はこれはエスデスだけじゃなくて、魔王として異世界に降り立つ者の伝統的な戦術でもあるんですよ」

「そうなんだ」

(異世界の人々に魔素を植え付けたり、魔導書を持ち込んだりしたのは、すべて神族に対抗するためだったのか)

 魔族の伝統的な戦術を理解していたからこそ、グラディウスは大聖文書の中で人々に警告を与えることができたのだろう。

「ごめん。ついでにあとひとつ質問なんだけど・・・」

「どうぞ」

「魔族はさ。神族とどれくらいの期間争ってるの?」

 さらっと聞き流してしまっているがこれはけっこう重要な内容だった。
 神族が魔族と争いを繰り広げているなんてこともまた、ゲントはプロセルピナから聞いたことがなかった。

「それは・・・ルルムも詳しくはわからないんです。ですが、気の遠くなるほどの長い時間、両種族は争い続けてるとだけは聞いてますね」

 どうやらそれは四面世界とやらとに関係があるようだ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。 果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...