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第3章
16話
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(誰かがやらないといけないよな)
ただ、その役目を担うのが自分だとは、ゲントにはどうしても思えなかった。
会社では役職もないただの平社員なのだ。
社長はおろか、国王なんてとてもじゃないが自分には務まらないとゲントは思う。
「すみません。たぶん、俺を買いかぶりすぎだと思います」
「いえ、決してそんなことはありません。例の生配信、実はわたくしも拝見させていただいておりました。いっさい魔法を使わず、剣だけ特S級ドラゴン相手に圧倒するさまは、正直言って惚れ惚れいたしました」
そう口にしながら、マルシルは頬をほんのりと赤くさせた。
「それになんと言っても。レモンさんのために取った行動も素晴らしかったです。あの男らしさには・・・恥ずかしながら胸がキュンとなりました♡」
「それはウチも思ったよ! 正直、アレで一瞬好きになりかけたし~♪」
隣りに並ぶレモンがしれっとそんな言葉を呟く。
「ああっ~! 皆さんずるいですぅ~!! マスターへの愛情はルルムだって負けてませんからぁぁ~~!!」
サキュバスの少女もひとりメラメラと燃えていた。
(なんていうか・・・これ以上ないくらいのモテ期到来だよなぁ)
自分の置かれた状況をどこか俯瞰的にゲントは眺める。
ただ、根底には異性に対する苦手意識がどうしても存在するので、ゲントはやはりその話を受け入れられない。
(そもそも女性と付き合ったことすらない童貞なんだし。いきなり結婚だなんていうのは・・・。正直、ハードルが高すぎるんだよね)
しかし、状況は待ってはくれない。
「ですから・・・どうかお願いです! 疑似婚でかまいません。ぜひわたくしとご婚約していただけないでしょうか?」
「いや、それは・・・」
「このとおりです! お願いいたします、ゲントさま」
丁寧に頭を下げる王女の姿を見てレモンが小声で話しかけてくる。
「ここはきちんと応える場面でしょ? 疑似婚なんだしいいじゃん?」
「と言われましても・・・」
「ゲント! 男見せないと! 王女さまを悲しませちゃダメだって」
レモンは真剣そのものだ。
どうやら逃がすつもりはないらしい。
「実はちょ~っと内心複雑なんですけどぉ~・・・。マスターがお幸せになるのでしたら、ルルムも全力応援させていただきますっー!!」
ルルムも宙で指を組みながら応援してくれていた。
さすがにこれだけまわりを固められていたら、もう逃げることはできない。
(はぁ、マジか・・・)
決心せざるを得ない状況まで追い込まれ、ようやくゲントは頷く。
「・・・わかりました。こんなおっさんの自分でいいのでしたら・・・。マルシルさま、どうかよろしくお願いします」
「本当でしょうか!? ゲントさまぁ! ありがとうございますっ~~!」
これまでの上品な立ち振る舞いが嘘のように、マルシルは目を輝かせて無邪気に飛び跳ねて喜ぶ。
ルルムとレモンからも、ぱちぱちぱち~!と拍手が送られた。
「ですが、あまり期待しないでください。人を先導するようなタイプではないので」
仕事の経験上、ゲントは自分の実力がよくわかっていた。
人の上に立てる人間ではないということを。
ただ、それもなぜか伝わらない。
「そんな謙遜なさらないでください。ゲントさまならこの国をかならずいい方向へと導いてくださるはずです!」
一国の命運を左右するというのに、マルシルは全信頼をゲントに寄せていた。
とここで。
なにを思ったのか、マルシルは突然壇上からレッドカーペットの上に降り立つ。
そして、そのままゆっくりとゲントの近くまで迫っていき・・・。
「ではさっそくですが、ゲントさま。ここで誓いのキスを」
「はいぃぃ~~!?」
ルルムが大声を上げて慌てながら間に入ってくる。
「ちょっと王女さま! なに言ってるんですかぁぁぁ~~!?」
手をバタバタと振って遮るも、当然のことながらマルシルにはルルムの姿が見えていない。
なおも一歩、唇を差し出してゲントに迫る。
「いや、さすがにそれは・・・」
「そーですよぉぉ~~!! こんなところでなんてぇぇ・・・はわわぁぁ~~!?」
ゲントが異を唱えるもマルシルは姿勢を崩さない。
想いが高まりすぎたのか、今ここで既成事実を作ろうとしているようだ。
ぷるぷるに潤った王女の唇がゲントの目の前まで迫るが――。
「はーい! ストーップ!」
ここでレモンが間に入ってくる。
「・・・っ、なぜお止めになるのですか?」
「王女さま。はじめてのキスは婚礼の儀までとっておくものですよ?」
「うっ・・・。レモンさん、笑顔が怖いです・・・」
なんにしても助かったようだ。
隣りでルルムもホッとしたようにため息をつく。
「はああぁぁ~~。心臓に悪いですぅ~~。レモンさんぐっじょぶですっ♪」
「・・・わかりました。それでは婚礼の儀までキスはお預けですね。ゲントさま。これからよろしくお願いいたします」
「はい。こちらこそ、どうぞお願いします」
こうして。
各人各様の想いが入り乱れた面会はここでいったん幕を閉じることに。
玉座の間を出ると、どっと疲れが押し寄せてくるゲントであった。
ただ、その役目を担うのが自分だとは、ゲントにはどうしても思えなかった。
会社では役職もないただの平社員なのだ。
社長はおろか、国王なんてとてもじゃないが自分には務まらないとゲントは思う。
「すみません。たぶん、俺を買いかぶりすぎだと思います」
「いえ、決してそんなことはありません。例の生配信、実はわたくしも拝見させていただいておりました。いっさい魔法を使わず、剣だけ特S級ドラゴン相手に圧倒するさまは、正直言って惚れ惚れいたしました」
そう口にしながら、マルシルは頬をほんのりと赤くさせた。
「それになんと言っても。レモンさんのために取った行動も素晴らしかったです。あの男らしさには・・・恥ずかしながら胸がキュンとなりました♡」
「それはウチも思ったよ! 正直、アレで一瞬好きになりかけたし~♪」
隣りに並ぶレモンがしれっとそんな言葉を呟く。
「ああっ~! 皆さんずるいですぅ~!! マスターへの愛情はルルムだって負けてませんからぁぁ~~!!」
サキュバスの少女もひとりメラメラと燃えていた。
(なんていうか・・・これ以上ないくらいのモテ期到来だよなぁ)
自分の置かれた状況をどこか俯瞰的にゲントは眺める。
ただ、根底には異性に対する苦手意識がどうしても存在するので、ゲントはやはりその話を受け入れられない。
(そもそも女性と付き合ったことすらない童貞なんだし。いきなり結婚だなんていうのは・・・。正直、ハードルが高すぎるんだよね)
しかし、状況は待ってはくれない。
「ですから・・・どうかお願いです! 疑似婚でかまいません。ぜひわたくしとご婚約していただけないでしょうか?」
「いや、それは・・・」
「このとおりです! お願いいたします、ゲントさま」
丁寧に頭を下げる王女の姿を見てレモンが小声で話しかけてくる。
「ここはきちんと応える場面でしょ? 疑似婚なんだしいいじゃん?」
「と言われましても・・・」
「ゲント! 男見せないと! 王女さまを悲しませちゃダメだって」
レモンは真剣そのものだ。
どうやら逃がすつもりはないらしい。
「実はちょ~っと内心複雑なんですけどぉ~・・・。マスターがお幸せになるのでしたら、ルルムも全力応援させていただきますっー!!」
ルルムも宙で指を組みながら応援してくれていた。
さすがにこれだけまわりを固められていたら、もう逃げることはできない。
(はぁ、マジか・・・)
決心せざるを得ない状況まで追い込まれ、ようやくゲントは頷く。
「・・・わかりました。こんなおっさんの自分でいいのでしたら・・・。マルシルさま、どうかよろしくお願いします」
「本当でしょうか!? ゲントさまぁ! ありがとうございますっ~~!」
これまでの上品な立ち振る舞いが嘘のように、マルシルは目を輝かせて無邪気に飛び跳ねて喜ぶ。
ルルムとレモンからも、ぱちぱちぱち~!と拍手が送られた。
「ですが、あまり期待しないでください。人を先導するようなタイプではないので」
仕事の経験上、ゲントは自分の実力がよくわかっていた。
人の上に立てる人間ではないということを。
ただ、それもなぜか伝わらない。
「そんな謙遜なさらないでください。ゲントさまならこの国をかならずいい方向へと導いてくださるはずです!」
一国の命運を左右するというのに、マルシルは全信頼をゲントに寄せていた。
とここで。
なにを思ったのか、マルシルは突然壇上からレッドカーペットの上に降り立つ。
そして、そのままゆっくりとゲントの近くまで迫っていき・・・。
「ではさっそくですが、ゲントさま。ここで誓いのキスを」
「はいぃぃ~~!?」
ルルムが大声を上げて慌てながら間に入ってくる。
「ちょっと王女さま! なに言ってるんですかぁぁぁ~~!?」
手をバタバタと振って遮るも、当然のことながらマルシルにはルルムの姿が見えていない。
なおも一歩、唇を差し出してゲントに迫る。
「いや、さすがにそれは・・・」
「そーですよぉぉ~~!! こんなところでなんてぇぇ・・・はわわぁぁ~~!?」
ゲントが異を唱えるもマルシルは姿勢を崩さない。
想いが高まりすぎたのか、今ここで既成事実を作ろうとしているようだ。
ぷるぷるに潤った王女の唇がゲントの目の前まで迫るが――。
「はーい! ストーップ!」
ここでレモンが間に入ってくる。
「・・・っ、なぜお止めになるのですか?」
「王女さま。はじめてのキスは婚礼の儀までとっておくものですよ?」
「うっ・・・。レモンさん、笑顔が怖いです・・・」
なんにしても助かったようだ。
隣りでルルムもホッとしたようにため息をつく。
「はああぁぁ~~。心臓に悪いですぅ~~。レモンさんぐっじょぶですっ♪」
「・・・わかりました。それでは婚礼の儀までキスはお預けですね。ゲントさま。これからよろしくお願いいたします」
「はい。こちらこそ、どうぞお願いします」
こうして。
各人各様の想いが入り乱れた面会はここでいったん幕を閉じることに。
玉座の間を出ると、どっと疲れが押し寄せてくるゲントであった。
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