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第3章
9話
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無事に『レギヤド竜炎城』から脱出すると、ゲントとレモンはしばらく山岳地帯を歩き、近くに待機してもらっていた御者に手伝ってもらい、バヌーたちを馬車へと乗せた。
「マスター! 皆さん、お乗せしたみたですよぉ~?」
「了解」
そのあとでレモンも一緒にワゴンへと乗り込む。
「すみません。あとのことはよろしくお願いします」
「待ってなくてホントに大丈夫?」
「はい。ジョネスさんもアウラさんも怪我されてると思いますので。今日は早くロゲスへ帰してあげてください」
一応、レモンが『治癒の書』の回復魔法を唱えていたが、2人は依然として気絶したままだった。
バヌーに至っては廃人のようにぶつぶつとうわ言を呟いている。
すでにレモンがバヌーに手錠をしているため、彼が抵抗をしてくる心配はなかった。
「わかったよ。ゲント、気をつけて帰って来てね?」
「はい」
実はゲントはダンジョンの崩壊を避けるため、『レギヤド竜炎城』の中にモンスターを倒さずにいくつか残していた。
ワゴンから顔を出して手を振るレモンに、ゲントもルルムとともに手を振って応える。
馬車が山岳地帯を下り、姿が見えなくなるまで見送った。
「それにしても。ぜんぶレモンさんの読みどおりでしたねっ!?」
「うん」
「ここまで計画したとおりの展開になるなんてすごいです~!」
ルルムがそう言うように、本当にレモンが想定したような展開となっていた。
ことのきっかけは一昨日の朝。
レモンがゲントのもとを訪ねて来たことがはじまりだった。
***
その日の朝。
いつものようにバヌーに頼まれたクエストをこなすため、ゲントがダンジョンへ向かう準備を宿屋の一室でしていると部屋のチャイムが鳴る。
「え・・・レモンさん?」
「・・・」
ドアを開けると、そこには無言で立つレモンの姿があった。
心なしか思いつめたような複雑な表情を浮かべている。
「どうしたんですか? 今日はお休みのはずじゃ・・・」
「こんな朝早くにごめんなさい。出発前にどうしてもゲントに伝えておきたいことがあって」
その声がかすかに震えていることにゲントは気づく。
彼女がなにか大きな決意をして、こんな行動に出ていることをすぐ感じ取った。
「こんなところで立ち話だと冷えますので。よかったら中へ入ってください」
きっと大事な話があるに違いない。
そう考えたゲントは彼女を部屋の中へと招き入れる。
「ふぇぇ~? なんでレモンさんがここにいるんですかぁぁ~~ねむねむ・・・」
まだ寝ぼけ気味のルルムはいったん放置し、ゲントはレモンを椅子へと案内する。
温かい紅茶を入れて渡すと、彼女はマグカップにゆっくり口をつけた。
「・・・」
一口飲み終えると、レモンは紅茶の湯気に目を向けたまま黙り込んでしまう。
心の中でまだ葛藤があるのかもしれない。
それがわかったからこそ。
ゲントはなにも言わず、ただ黙って彼女のそばにいた。
そして。
ようやく心の中で決心がついたのか、レモンはふと声を漏らす。
「・・・ウチには、歳の離れた弟と妹がいるんだ」
そんな風に話を切り出した彼女は、淡々とこれまでの経緯を打ち明けていく。
貧しい農家に生まれ、ロゲスへ家族3人でやって来たこと。
弟と妹のために冒険者となる決意をして、魔法学院を主席で卒業したこと。
そこでバヌーに目をつけられてしまったこと。
弟と妹を盾にされているため、パーティーを抜けたくても抜け出せないこと。
赤裸々なその告白を聞いてゲントは少なからず衝撃を受けた。
まさかレモンにそんな背景があったとは思っていなかったからだ。
それに信頼していたバヌーの裏の顔も知ってしまい、さすがにショックが隠せない。
「うぅぅっ~・・・レモンさん、涙ぐましいですぅ・・・。弟さんや妹ちゃんのためにぃ・・・」
いつの間にかルルムはすっかり目を覚まし、ゲントと一緒に話を聞いていた。
「弟と妹のこともあるし。バヌーには脅されてたから。このことは話さないつもりだったんだけど」
たしかに弱みを握られている彼女にとって、この告白はかなりリスクを伴う行動と言えた。
「でもさ。ゲントのこと想うと・・・どうしても許せないって気持ちになったんだよ」
「自分ですか?」
「うん。だって、利用されてるのになんとも思ってないんだもん」
数日悩んだ末。
レモンは自分の気持ちに嘘はつきたくないと、そんな考えに至ったのだという。
バヌーの悪事を暴く。
そんな思いが今の彼女を駆り立てているようだ。
「この前も言ったけどさ。あなた、相当なお人好しだよ? あんな低報酬でぽんぽんと頼みを引き受けるなんて」
「すみません」
ゲントとしては満足のいく対価だったが、傍から見ればそうではなかったらしい。
彼女にこんな行動を取らせてしまったのは、もとを辿れば自分が原因だ、とゲントは反省する。
「それに弟さんや妹さんのこと。まったく気づかなくてごめんなさい」
「いいんだよ、そのことは。言わなかったウチが悪いんだし。それよりも。もっと早くゲントに打ち明けてたらよかったって思うかな。そうすればさ。バヌーにいいように使われずに済んだって思うし」
「あの、バヌーさんは俺を利用してたってことなんでしょうか?」
「はぁ・・・。まだ気づいてなかったんだね」
呆れながらもレモンは頷く。
それを確認して、ゲントの中でもようやく心境の変化が起こった。
自分を雇ってくれたバヌーには感謝していたが。
レモンの話を聞いてしまった今、そういうわけにもいかないとゲントは思う。
(幼い子供たちを盾に脅すなんて・・・さすがにやりすぎだ)
これまでバヌーがレモンに行ってきた仕打ちを思えば、天罰が下って当然だと言えた。
「ゲント・・・協力してくれる?」
「わかりました」
「はいはいはーいっ!! ルルムもちゃ~んとご協力させていただきますよぉ~!!」
腕をぶるんぶるんと振ってルルムがアピールする。
そんなサキュバスの少女の明るさが今は救いだった。
「マスター! 皆さん、お乗せしたみたですよぉ~?」
「了解」
そのあとでレモンも一緒にワゴンへと乗り込む。
「すみません。あとのことはよろしくお願いします」
「待ってなくてホントに大丈夫?」
「はい。ジョネスさんもアウラさんも怪我されてると思いますので。今日は早くロゲスへ帰してあげてください」
一応、レモンが『治癒の書』の回復魔法を唱えていたが、2人は依然として気絶したままだった。
バヌーに至っては廃人のようにぶつぶつとうわ言を呟いている。
すでにレモンがバヌーに手錠をしているため、彼が抵抗をしてくる心配はなかった。
「わかったよ。ゲント、気をつけて帰って来てね?」
「はい」
実はゲントはダンジョンの崩壊を避けるため、『レギヤド竜炎城』の中にモンスターを倒さずにいくつか残していた。
ワゴンから顔を出して手を振るレモンに、ゲントもルルムとともに手を振って応える。
馬車が山岳地帯を下り、姿が見えなくなるまで見送った。
「それにしても。ぜんぶレモンさんの読みどおりでしたねっ!?」
「うん」
「ここまで計画したとおりの展開になるなんてすごいです~!」
ルルムがそう言うように、本当にレモンが想定したような展開となっていた。
ことのきっかけは一昨日の朝。
レモンがゲントのもとを訪ねて来たことがはじまりだった。
***
その日の朝。
いつものようにバヌーに頼まれたクエストをこなすため、ゲントがダンジョンへ向かう準備を宿屋の一室でしていると部屋のチャイムが鳴る。
「え・・・レモンさん?」
「・・・」
ドアを開けると、そこには無言で立つレモンの姿があった。
心なしか思いつめたような複雑な表情を浮かべている。
「どうしたんですか? 今日はお休みのはずじゃ・・・」
「こんな朝早くにごめんなさい。出発前にどうしてもゲントに伝えておきたいことがあって」
その声がかすかに震えていることにゲントは気づく。
彼女がなにか大きな決意をして、こんな行動に出ていることをすぐ感じ取った。
「こんなところで立ち話だと冷えますので。よかったら中へ入ってください」
きっと大事な話があるに違いない。
そう考えたゲントは彼女を部屋の中へと招き入れる。
「ふぇぇ~? なんでレモンさんがここにいるんですかぁぁ~~ねむねむ・・・」
まだ寝ぼけ気味のルルムはいったん放置し、ゲントはレモンを椅子へと案内する。
温かい紅茶を入れて渡すと、彼女はマグカップにゆっくり口をつけた。
「・・・」
一口飲み終えると、レモンは紅茶の湯気に目を向けたまま黙り込んでしまう。
心の中でまだ葛藤があるのかもしれない。
それがわかったからこそ。
ゲントはなにも言わず、ただ黙って彼女のそばにいた。
そして。
ようやく心の中で決心がついたのか、レモンはふと声を漏らす。
「・・・ウチには、歳の離れた弟と妹がいるんだ」
そんな風に話を切り出した彼女は、淡々とこれまでの経緯を打ち明けていく。
貧しい農家に生まれ、ロゲスへ家族3人でやって来たこと。
弟と妹のために冒険者となる決意をして、魔法学院を主席で卒業したこと。
そこでバヌーに目をつけられてしまったこと。
弟と妹を盾にされているため、パーティーを抜けたくても抜け出せないこと。
赤裸々なその告白を聞いてゲントは少なからず衝撃を受けた。
まさかレモンにそんな背景があったとは思っていなかったからだ。
それに信頼していたバヌーの裏の顔も知ってしまい、さすがにショックが隠せない。
「うぅぅっ~・・・レモンさん、涙ぐましいですぅ・・・。弟さんや妹ちゃんのためにぃ・・・」
いつの間にかルルムはすっかり目を覚まし、ゲントと一緒に話を聞いていた。
「弟と妹のこともあるし。バヌーには脅されてたから。このことは話さないつもりだったんだけど」
たしかに弱みを握られている彼女にとって、この告白はかなりリスクを伴う行動と言えた。
「でもさ。ゲントのこと想うと・・・どうしても許せないって気持ちになったんだよ」
「自分ですか?」
「うん。だって、利用されてるのになんとも思ってないんだもん」
数日悩んだ末。
レモンは自分の気持ちに嘘はつきたくないと、そんな考えに至ったのだという。
バヌーの悪事を暴く。
そんな思いが今の彼女を駆り立てているようだ。
「この前も言ったけどさ。あなた、相当なお人好しだよ? あんな低報酬でぽんぽんと頼みを引き受けるなんて」
「すみません」
ゲントとしては満足のいく対価だったが、傍から見ればそうではなかったらしい。
彼女にこんな行動を取らせてしまったのは、もとを辿れば自分が原因だ、とゲントは反省する。
「それに弟さんや妹さんのこと。まったく気づかなくてごめんなさい」
「いいんだよ、そのことは。言わなかったウチが悪いんだし。それよりも。もっと早くゲントに打ち明けてたらよかったって思うかな。そうすればさ。バヌーにいいように使われずに済んだって思うし」
「あの、バヌーさんは俺を利用してたってことなんでしょうか?」
「はぁ・・・。まだ気づいてなかったんだね」
呆れながらもレモンは頷く。
それを確認して、ゲントの中でもようやく心境の変化が起こった。
自分を雇ってくれたバヌーには感謝していたが。
レモンの話を聞いてしまった今、そういうわけにもいかないとゲントは思う。
(幼い子供たちを盾に脅すなんて・・・さすがにやりすぎだ)
これまでバヌーがレモンに行ってきた仕打ちを思えば、天罰が下って当然だと言えた。
「ゲント・・・協力してくれる?」
「わかりました」
「はいはいはーいっ!! ルルムもちゃ~んとご協力させていただきますよぉ~!!」
腕をぶるんぶるんと振ってルルムがアピールする。
そんなサキュバスの少女の明るさが今は救いだった。
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