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第1章
11話
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どす黒い大地を歩きながら、フェルンに聞いてわかったことがさらにいくつかあった。
まずはモンスターについてだ。
魔境で発生したモンスターは、そのあとホットスポットと呼ばれる場所からダンジョンへと移るらしい。
現在、五ノ国全体で150箇所ほどのダンジョンが確認されているということなので、魔境で誕生したモンスターは、これらのうちのどこかへと移っていることになる。
(ゲームやってていつも気になってたんだよな。ダンジョンのモンスターはいったいどこから湧いて出てくるのかって)
どうやらこちらの異世界では、そのような法則によってモンスターがダンジョンに出現しているようだ。
「ひとまずホットスポットを探そう。有識者の予測によれば、ホットスポットは虹色の輪のような形状をしてるらしいんだよ。そこはダンジョンに繋がってるから。ひょっとすると、そこを通じて町へと出られるかもしれない」
「そういうことでしたらルルムにお任せください~!! マスター! ホットスポットを探して来ますよぉ~♪」
「あっ・・・ちょっと」
ゲントが声をかける間もなく、ルルムは羽をぱたぱたとさせてどこかへ飛んでいってしまう。
少し心配となるもすぐに思い出す。
(もともとこの魔境にいたんだし。そんな心配しなくても大丈夫か)
ひとりで探しに出かけたルルムのことはいったん置いておき、ゲントはフェルンからさらにいろいろと話を聞いた。
次に確認したのは、今歩いているどす黒いこの大地――魔境についてだ。
かつてはフィフネルの中心地で聖地だったとのことだが、なぜこんな風に変わり果ててしまったのか。
さっきは聞きそびれてしまったが、ゲントはこのことも訊ねてみることに。
「当然の疑問だね」
「はい。モンスターがここで自然的に発生するってのはわかったんですけど。なんでこんな土地になってしまったんでしょうか?」
「ある出来事があってね。見てのとおり、おぞましい大地へと姿を変えてしまったんだ」
フェルンはそこで唇を薄く噛むと静かにこう続ける。
「突如、降臨した魔王が・・・この土地をこんな風に変えてしまったんだよ」
やはり存在したか、というのがゲントの率直な感想だった。
魔族の中で最強の存在。
異世界作品の定番と言えば魔王だからだ。
最近のアニメやラノベだといろいろなタイプの魔王が人気のようだが、ゲントにとって魔王といえば正統派のイメージしかない。
ゲームでいえばラスボス。
絶対的な悪を具現化した存在というのがゲントの印象だった。
「それだけじゃない。魔王は私たちヒト族のあり方も大きく変えてしまったんだよ」
「どういうことでしょうか?」
「それを理解してもらうためにも。まずはフィフネルの歴史について知ってもらう必要があるかな」
そこでフェルンはこの世界の成り立ちについて話しはじめた。
***
フィフネルに現存する最古の書物によれば、かつてこの世界は人々が争いを繰り広げる戦乱の世界であったのだという。
「文献によると、紀元前5000年頃には、この地にニンフィアが建国されてたみたいなんだ」
「そんな大昔から存在してたんですね」
「うん。そのたびにこの地では、いくつもの英雄が現れては、消えていったっていうのがフィフネルの正史だね。それは聖暦に切り替わるタイミングまで続くことになる。人々はずっと争い続けてきたんだよ」
日本でいうところの戦国時代がここフィフネルでは5000年以上も続いた計算だ。
(気の遠くなるような期間だな)
その壮大なスケールにゲントは思わず圧倒されそうになった。
「けど、それも終わりを迎えることになる」
「なにかあったんですか?」
「唯一神たるグラディウスがこの世界に降り立ったんだよ」
「唯一神・・・つまり、神さまですね」
「だから、女神に送られてこの世界へとやって来たっていうゲント君の話は冗談なんかじゃないって信じられるんだ。私たちフィフネルの民にとって、神族は当たり前に存在するものっていう認識だからね」
この異世界へと降り立ったグラディウスは、大きな御業によって人々の争いを調停したようだ。
そのあとグラディウスは、調停の証として聖剣と、今後の人々のあり方を示した大聖文書を置いて去っていく。
(あの聖剣は神さまがもたらしたものだったんだな)
「それで、グラディウスが世界に平和をもたらした日以降の暦を〝聖暦〟と呼んで区別してるんだよ」
「たしか聖暦1025年にクロノがフィフネルから去ったんですよね? 現在は聖暦何年なんでしょう?」
「今は聖暦2024年だね」
「えっ・・・2024年?」
驚いたことにこちらの世界も今は2024年なのだという。
聖暦と西暦の違いはあるにせよ、まったく同じ2024年ということになんとなく不思議な縁を感じつつ、ゲントはさらに耳を傾けた。
「グラディウスが世界に平和をもたらしてから1000年近くは人々は平和に暮らしたんだ。けれど・・・聖暦997年、それは突然起こった」
「魔王が降臨したんですか」
「そう。魔王がフィフネルへと降り立ったんだよ。26冊の魔導書をこの世界に持ち込んでね」
「えっ・・・? 魔導書を持ち込んだって・・・」
予期せぬ言葉にゲントは思わず声を上げてしまう。
新約も旧約も・・・。
魔導書はもとからこの異世界に存在するものだとばかり思っていたからだ。
「ゲント君が驚くのも無理はないよ。私もキミの前で当然のように使ってたし。でも、魔導書はもともとこの世界に存在しなかったものなんだ。魔王が持ち込んだものなのさ」
13冊の新約魔導書と13冊の旧約魔導書。
これらを魔王はフィフネルに持ち込んだらしい。
以降、人々は概念として新約魔導書を呼び出すことができるようになる。
「キミも知ってのとおり、旧約は新約と違って実物で存在するから。魔王が降臨時にフィフネルの各地に散りばめたんだ」
このことがのちに争いの火種を産むことになる、とフェルンは付け加えた。
「そんな経緯があったなんて・・・」
「驚くのはまだ早いよ。私はなにもこのことを指して、ヒト族のあり方を大きく変えてしまったって言ったわけじゃないんだよ」
どうやら、このこと以上にもっと衝撃的な話が続くようだ。
ゲントはグッと拳に力を込めると、フェルンの話に耳を傾けた。
まずはモンスターについてだ。
魔境で発生したモンスターは、そのあとホットスポットと呼ばれる場所からダンジョンへと移るらしい。
現在、五ノ国全体で150箇所ほどのダンジョンが確認されているということなので、魔境で誕生したモンスターは、これらのうちのどこかへと移っていることになる。
(ゲームやってていつも気になってたんだよな。ダンジョンのモンスターはいったいどこから湧いて出てくるのかって)
どうやらこちらの異世界では、そのような法則によってモンスターがダンジョンに出現しているようだ。
「ひとまずホットスポットを探そう。有識者の予測によれば、ホットスポットは虹色の輪のような形状をしてるらしいんだよ。そこはダンジョンに繋がってるから。ひょっとすると、そこを通じて町へと出られるかもしれない」
「そういうことでしたらルルムにお任せください~!! マスター! ホットスポットを探して来ますよぉ~♪」
「あっ・・・ちょっと」
ゲントが声をかける間もなく、ルルムは羽をぱたぱたとさせてどこかへ飛んでいってしまう。
少し心配となるもすぐに思い出す。
(もともとこの魔境にいたんだし。そんな心配しなくても大丈夫か)
ひとりで探しに出かけたルルムのことはいったん置いておき、ゲントはフェルンからさらにいろいろと話を聞いた。
次に確認したのは、今歩いているどす黒いこの大地――魔境についてだ。
かつてはフィフネルの中心地で聖地だったとのことだが、なぜこんな風に変わり果ててしまったのか。
さっきは聞きそびれてしまったが、ゲントはこのことも訊ねてみることに。
「当然の疑問だね」
「はい。モンスターがここで自然的に発生するってのはわかったんですけど。なんでこんな土地になってしまったんでしょうか?」
「ある出来事があってね。見てのとおり、おぞましい大地へと姿を変えてしまったんだ」
フェルンはそこで唇を薄く噛むと静かにこう続ける。
「突如、降臨した魔王が・・・この土地をこんな風に変えてしまったんだよ」
やはり存在したか、というのがゲントの率直な感想だった。
魔族の中で最強の存在。
異世界作品の定番と言えば魔王だからだ。
最近のアニメやラノベだといろいろなタイプの魔王が人気のようだが、ゲントにとって魔王といえば正統派のイメージしかない。
ゲームでいえばラスボス。
絶対的な悪を具現化した存在というのがゲントの印象だった。
「それだけじゃない。魔王は私たちヒト族のあり方も大きく変えてしまったんだよ」
「どういうことでしょうか?」
「それを理解してもらうためにも。まずはフィフネルの歴史について知ってもらう必要があるかな」
そこでフェルンはこの世界の成り立ちについて話しはじめた。
***
フィフネルに現存する最古の書物によれば、かつてこの世界は人々が争いを繰り広げる戦乱の世界であったのだという。
「文献によると、紀元前5000年頃には、この地にニンフィアが建国されてたみたいなんだ」
「そんな大昔から存在してたんですね」
「うん。そのたびにこの地では、いくつもの英雄が現れては、消えていったっていうのがフィフネルの正史だね。それは聖暦に切り替わるタイミングまで続くことになる。人々はずっと争い続けてきたんだよ」
日本でいうところの戦国時代がここフィフネルでは5000年以上も続いた計算だ。
(気の遠くなるような期間だな)
その壮大なスケールにゲントは思わず圧倒されそうになった。
「けど、それも終わりを迎えることになる」
「なにかあったんですか?」
「唯一神たるグラディウスがこの世界に降り立ったんだよ」
「唯一神・・・つまり、神さまですね」
「だから、女神に送られてこの世界へとやって来たっていうゲント君の話は冗談なんかじゃないって信じられるんだ。私たちフィフネルの民にとって、神族は当たり前に存在するものっていう認識だからね」
この異世界へと降り立ったグラディウスは、大きな御業によって人々の争いを調停したようだ。
そのあとグラディウスは、調停の証として聖剣と、今後の人々のあり方を示した大聖文書を置いて去っていく。
(あの聖剣は神さまがもたらしたものだったんだな)
「それで、グラディウスが世界に平和をもたらした日以降の暦を〝聖暦〟と呼んで区別してるんだよ」
「たしか聖暦1025年にクロノがフィフネルから去ったんですよね? 現在は聖暦何年なんでしょう?」
「今は聖暦2024年だね」
「えっ・・・2024年?」
驚いたことにこちらの世界も今は2024年なのだという。
聖暦と西暦の違いはあるにせよ、まったく同じ2024年ということになんとなく不思議な縁を感じつつ、ゲントはさらに耳を傾けた。
「グラディウスが世界に平和をもたらしてから1000年近くは人々は平和に暮らしたんだ。けれど・・・聖暦997年、それは突然起こった」
「魔王が降臨したんですか」
「そう。魔王がフィフネルへと降り立ったんだよ。26冊の魔導書をこの世界に持ち込んでね」
「えっ・・・? 魔導書を持ち込んだって・・・」
予期せぬ言葉にゲントは思わず声を上げてしまう。
新約も旧約も・・・。
魔導書はもとからこの異世界に存在するものだとばかり思っていたからだ。
「ゲント君が驚くのも無理はないよ。私もキミの前で当然のように使ってたし。でも、魔導書はもともとこの世界に存在しなかったものなんだ。魔王が持ち込んだものなのさ」
13冊の新約魔導書と13冊の旧約魔導書。
これらを魔王はフィフネルに持ち込んだらしい。
以降、人々は概念として新約魔導書を呼び出すことができるようになる。
「キミも知ってのとおり、旧約は新約と違って実物で存在するから。魔王が降臨時にフィフネルの各地に散りばめたんだ」
このことがのちに争いの火種を産むことになる、とフェルンは付け加えた。
「そんな経緯があったなんて・・・」
「驚くのはまだ早いよ。私はなにもこのことを指して、ヒト族のあり方を大きく変えてしまったって言ったわけじゃないんだよ」
どうやら、このこと以上にもっと衝撃的な話が続くようだ。
ゲントはグッと拳に力を込めると、フェルンの話に耳を傾けた。
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