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第1章
2話
しおりを挟む眩い光がおさまり、ゲントはゆっくりと目を開ける。
(ここは・・・)
なにやら煌びやかな広間にいることがすぐにわかる。
そして、そこが城の玉座の間であるとゲントが気づくのにそう時間はかからなかった。
はじめて目にする異世界のその光景に素直に感動してしまう。
(すごいぞ)
まるでゲームの世界に自分が入り込んだような感覚だったからだ。
広間の上段に設置された長椅子には、口元に大きなヒゲをたくわえた壮年の男が座っている。
ちょうど部長くらいの年齢かもしれないとゲントはとっさに思った。
「よくぞ参られた、賢者よ」
その言葉を聞いてすぐにピンとくる。
(なんか使命があって王様から召喚されたって感じなのかな)
ゲントの両側には、大勢の若い臣下たちがずらりと整列していた。
自分が今ものすごい場所にいることがわかる。
そのまま自分の恰好に目がいく。
今のゲントは仕事帰りのスーツ姿ではなく、チュニックにブリーチズ、革ブーツと、いかにもファンタジーっぽい恰好に変わっていた。
(ん?)
そこでゲントはある違和感を抱く。
(なんだ? なんか付けているのか?)
顔の上半分を隠すような仮面を自分が装着していることに気づいたのだ。
だが、国王がそれを指摘する様子はない。
ゆっくりと間をとってからこう話を続ける。
「先代の賢者が去ってからすでに1000年。フィフネルはふたたび混沌に飲み込まれようとしている」
国王は長椅子から立ち上がると、広間の中央に設置させた黄金の箱を指さす。
それに反応するように、箱の横に控えている黒いローブ姿の者がサッと上蓋を開けた。
手に持った杖を振りかざし、国王は大声で口にする。
「さあ賢者よ。前に出て聖剣を手に取り、賢者たるその資格を余に示したまえ」
(なるほどな。これで大賢者であることを証明するわけか)
ゲントは自分の置かれた状況を素早く察知した。
言われたとおり黄金の箱の前まで足を進めると、そっと中を覗き込む。
そこには純白の輝きを放つ神聖な剣がおさめられていた。
(これが、聖剣・・・)
その神々しいオーラを前に、ゲントは思わず圧倒されてしまう。
「もう取ってしまっていいんでしょうか?」
上蓋を支えるローブ姿の者に小声で確認すると、「どうぞ」という若い女の声が返ってくる。
その声にはどことなく緊張の色が含まれていた。
意を決すると、ゲントはおそるおそる箱の中に手を伸ばす。
やがて。
あと少しで剣身に触れようかというところで。
バヂィィーーン!!
ゲントの指は弾かれてしまう。
「え?」
その瞬間、玉座の間はしーんと静まり返った。
この場にいる誰もが信じられないという顔を浮かべながら。
直後、国王の怒声が鳴り響く。
「召喚士! きちんと賢者を召喚したのだろうな!」
「はい。そのはずなのですが・・・」
フードを目深にかぶったローブの女は困惑したように答える。
「おい! ちゃんと確認させろ」
「御意」
国王が興奮した様子で命令すると、まわりに控えていた臣下たちがいっせいにゲントを取り囲む。
強引に腕を掴まれ、再度箱の中に手を入れられるのだったが・・・。
バヂィィーーン!!
やはり、同じように手は弾かれてしまった。
「またも失敗か。どいつもこいつも使えん召喚士ばかりだ」
「あの・・・どういうことでしょうか?」
思わずそんな言葉が口から漏れる。
大賢者として異世界へやって来たつもりのゲントにとって、この状況はまったくの想定外だった。
「そなたはニセモノということだ」
低い声でそう呟くと、国王は懐から何やら書物を取り出す。
それを見てローブの女がすぐに反応した。
「それは・・・旧約魔導書?」
「フッ。この場で貴様を切り刻むことは容易いが、それだけでは余は満足できぬのでな。期待させおって・・・このでき損ないの召喚士が! 偽りの賢者ともども絶望の淵で苦しみもがいてから野垂れ死ぬがいい!」
目の前に不気味な魔法陣が立ち上がり、国王が詠唱文を詠み上げる。
「因果と呪詛の絡み合う糸を操りし、永劫の暗黒に踊る未曾有を捉えんと欲する――時空魔法レベル8〈無空終焉の混沌〉!」
ズドドドドドドドド!!
(!)
その瞬間。
ゲントの体はものすごい圧力に押し潰されるようにして、時空の渦へと飛ばされてしまうのだった。
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