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5章
第79話 ライセンス試験・前哨戦 Ⅰ
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コツコツと。
やけにひんやりとした館内に滝沢さんの靴音が響く。
まるで、処刑台へと向かってるような。
そんな鬱蒼とした空気が僕らの間には流れていた。
星宮さんの顔には。
さっきまで楽しく食事してた人とは別人みたいに、緊張の色が浮かんでる。
僕も似たような表情をしてるに違いない。
(いや。なに怖がってるんだ)
ただ試験を受けるだけ。
なにも命を奪われるわけじゃない。
そう自分に言い聞かせるも・・・。
どうしても星宮さんの言葉が引っかかる。
〝ここ1年でライセンスを取得した探索者はゼロ〟
そんなことってあるのかな?
いくら受験者の数が減ってるって言っても。
誰もライセンスを取得できてないってのは、さすがにおかしい気がした。
そんなことを考えながら歩いてると。
バンッ!
いきなり館のドアが開け放たれる。
「えっ? 外に出ちゃうんですか?」
「はい。試験は探索者クランの外で行われます」
「へ、へぇ・・・」
顔を引きつらせる星宮さん。
完全にビビっちゃってる感じだ。
まあけど。
これはある程度予測できたことで。
試験は講習とはぜんぜん違う。
力を示さなくちゃいけないわけだし、館内でってわけにもいかないよね。
◇◇◇
そのあとしばらく。
滝沢さんの背中を追いながら、だだっ広い空間を歩いてると。
(あ)
ちょうどフロアの真ん中に人影が見えてくる。
間違いない、ユイさんだ。
その凛とした立ち姿は講習の時とはまったく違って。
(ものすごいオーラ・・・)
さっきはじめてユイさんを見た時と同じような圧を感じる。
眼光は鋭く。
まるで獲物を見定めるように、ユイさんは僕らがやって来るのを待ってた。
「(ねぇ、国崎っ。あれ、ホントにユイ? 雰囲気ヤバくないっ・・・?)」
「(僕もそれは思ったところです)」
お互いに小声で話しながら。
この段階になって、僕らはようやく理解する。
厳しい試験官と・・・ユイさんが呼ばれていた意味を。
「星宮らむねさま、国崎優太さま。両名お連れしました」
「うん、ありがとう。あとはあたしが責任持って引き受けるよ」
「それではよろしくお願いします」
引き渡しを終えると。
改めて一礼してから、滝沢さんが去っていく。
あとには僕と星宮さん、それとユイさんだけが残された。
「料理はどうだったかな?」
「えっ? あー・・・はいっ! す、すっごく美味しかったですよっ~?」
「ふふ。それはよかった」
微笑むユイさんだけど。
今は穏やかさは、まるで感じられない。
内にとんでもない熱量を抱えたまま。
平然を装って僕らに接している。
それを感じ取ってるんだろう。
星宮さんは、さっきよりもかなり萎縮してしまってた。
「講習の終わりにも話したと思うけど、午後は本試験となるから。ふたりともその認識で大丈夫?」
ユイさんの言葉に。
僕も星宮さんもゆっくり頷く。
「よろしい。あとこれは念のため確認するんだけど。ふたりとも、本当にこのまま試験を受けるってことでいいかい? もし体調が悪くなったり、自信がなくなったりで、今回は辞退したいってことなら・・・。今ならまだ引き返せるけど」
まるで最終通告のように。
僕たちにそれぞれ目を向けるユイさん。
――今ならまだ引き返せる。
その言葉が不気味に宙で糸引くようで。
「・・・」
星宮さんはぐっと息をのみ、なにか考え込むように黙り込む。
でも。
すぐに首を縦に動かした。
それを見て、僕も同じように頷く。
「・・・そうか。わかったよ。ふたりとも、意志は固そうだね」
やけにひんやりとした館内に滝沢さんの靴音が響く。
まるで、処刑台へと向かってるような。
そんな鬱蒼とした空気が僕らの間には流れていた。
星宮さんの顔には。
さっきまで楽しく食事してた人とは別人みたいに、緊張の色が浮かんでる。
僕も似たような表情をしてるに違いない。
(いや。なに怖がってるんだ)
ただ試験を受けるだけ。
なにも命を奪われるわけじゃない。
そう自分に言い聞かせるも・・・。
どうしても星宮さんの言葉が引っかかる。
〝ここ1年でライセンスを取得した探索者はゼロ〟
そんなことってあるのかな?
いくら受験者の数が減ってるって言っても。
誰もライセンスを取得できてないってのは、さすがにおかしい気がした。
そんなことを考えながら歩いてると。
バンッ!
いきなり館のドアが開け放たれる。
「えっ? 外に出ちゃうんですか?」
「はい。試験は探索者クランの外で行われます」
「へ、へぇ・・・」
顔を引きつらせる星宮さん。
完全にビビっちゃってる感じだ。
まあけど。
これはある程度予測できたことで。
試験は講習とはぜんぜん違う。
力を示さなくちゃいけないわけだし、館内でってわけにもいかないよね。
◇◇◇
そのあとしばらく。
滝沢さんの背中を追いながら、だだっ広い空間を歩いてると。
(あ)
ちょうどフロアの真ん中に人影が見えてくる。
間違いない、ユイさんだ。
その凛とした立ち姿は講習の時とはまったく違って。
(ものすごいオーラ・・・)
さっきはじめてユイさんを見た時と同じような圧を感じる。
眼光は鋭く。
まるで獲物を見定めるように、ユイさんは僕らがやって来るのを待ってた。
「(ねぇ、国崎っ。あれ、ホントにユイ? 雰囲気ヤバくないっ・・・?)」
「(僕もそれは思ったところです)」
お互いに小声で話しながら。
この段階になって、僕らはようやく理解する。
厳しい試験官と・・・ユイさんが呼ばれていた意味を。
「星宮らむねさま、国崎優太さま。両名お連れしました」
「うん、ありがとう。あとはあたしが責任持って引き受けるよ」
「それではよろしくお願いします」
引き渡しを終えると。
改めて一礼してから、滝沢さんが去っていく。
あとには僕と星宮さん、それとユイさんだけが残された。
「料理はどうだったかな?」
「えっ? あー・・・はいっ! す、すっごく美味しかったですよっ~?」
「ふふ。それはよかった」
微笑むユイさんだけど。
今は穏やかさは、まるで感じられない。
内にとんでもない熱量を抱えたまま。
平然を装って僕らに接している。
それを感じ取ってるんだろう。
星宮さんは、さっきよりもかなり萎縮してしまってた。
「講習の終わりにも話したと思うけど、午後は本試験となるから。ふたりともその認識で大丈夫?」
ユイさんの言葉に。
僕も星宮さんもゆっくり頷く。
「よろしい。あとこれは念のため確認するんだけど。ふたりとも、本当にこのまま試験を受けるってことでいいかい? もし体調が悪くなったり、自信がなくなったりで、今回は辞退したいってことなら・・・。今ならまだ引き返せるけど」
まるで最終通告のように。
僕たちにそれぞれ目を向けるユイさん。
――今ならまだ引き返せる。
その言葉が不気味に宙で糸引くようで。
「・・・」
星宮さんはぐっと息をのみ、なにか考え込むように黙り込む。
でも。
すぐに首を縦に動かした。
それを見て、僕も同じように頷く。
「・・・そうか。わかったよ。ふたりとも、意志は固そうだね」
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