上 下
66 / 84
5章

第66話 旅立ち

しおりを挟む
「お兄さま。お荷物の方はいかがでしょうか?」

「うん。言われたとおり確認したよ。問題ないかな」

「あとは新幹線のチケットですね」

「ちゃんとあるね。それで、紫月しづき。ほんとにひとりで大丈夫?」

「私のことはお気になさらないでください。むしろ、お兄さまがきちんと東京にたどり着けるかの方が心配です」

「たぶん平気・・・なはず」

「うふふ♪ なんかお兄さまらしいですね」

 実際に東京へ行くのははじめてのことで。
 正直、ちょっと不安もある。

 それに。

(紫月と離れるのがこんな悲しいなんて)

 シスコンみたいでなんか嫌だから。
 口では言わないけど。
 
 ぶっちゃけ、けっこうツラい。

 思い返してみると。
 紫月とは生まれてからずっと一緒だった。

 こんな風に離れ離れになるのもはじめてのことだし。

(いや、なに感傷に浸ってるんだ。あさってには帰ってくるじゃん)

 くどくど考えてたら、いつまで経っても出発できない。
 紫月もなおさら不安になるだろうしね。

「それじゃ。そろそろ行ってくるよ」

「はい。よい結果となるように自宅こちらで祈ってますね。お兄さま、お気をつけて」

「うん。紫月も元気で」

 どことなく大げさな別れを告げると。
 玄関のドアを開けて外へ出る。

 ふわっと、夕方の涼しい風が吹き抜けた。
 
 こうして。
 手を振る妹に見送られながら、僕は生まれ育った街を出ることに。



 ◇◇◇



 そのあと。

 いくつかの電車を乗り継いで、新幹線で2時間とちょっと。

(うわぁ・・・)

 ターミナルの駅に降り立ち、人の数にまず圧倒される。
 
 夏休みということもあって。

 キャリーバッグを持った観光客や外国人、ファミリーや若い学生の姿が目立つ。
 ふだんよりも人が多いのかも。

(それにしてもすごい)

 さすが日本の首都。

 よく眠らない街とか言うけど。

 東京に来て実際に体験してみないと、言葉の真の意味はわからないかも。
 夜に輝くビルの群れや色鮮やかなネオンが眩しい。

 それで、この真下には。
 無数のダンジョンが広がってて。

 道を急ぐ大勢の人々は、そのことをまるで気にしてないように見えた。

(当たり前のように日常に溶け込んでるよね)

 僕なんか。
 ほとんどダンジョンが現れてからの世界しか知らないわけだけど。

 それでも。
 ちょっとした違和感はある。
 
 これはいったいなんなんだろう、って。

 だからこそ。
 
 人類未踏の最深部を目指すことは、とても意義のあることだって言えた。

 そのためにもまずは。
 クランが課す試験を突破して、ライセンスを入手する必要があって。

(うん。頑張ろう)

 今日は近くのホテルに泊まって。
 明日は探索者クランへと赴き、受験することになってる。

 きらめく夜の東京を歩き。

 僕は明日への期待に胸を膨らませた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に

菊池 快晴
ファンタジー
「誰も見てくれない……」 黒羽黒斗は、呪術の力でダンジョン配信者をしていたが、地味すぎるせいで視聴者が伸びなかった。 自らをブラックと名乗り、中二病キャラクターで必死に頑張るも空回り。 そんなある日、ダンジョンの最下層で超人気配信者、君内風華を呪術で偶然にも助ける。 その素早すぎる動き、ボスすらも即死させる呪術が最凶すぎると話題になり、黒斗ことブラックの信者が増えていく。 だが当の本人は真面目すぎるので「人気配信者ってすごいなあ」と勘違い。 これは、主人公ブラックが正体を隠しながらも最凶呪術で無双しまくる物語である。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に

菊池 快晴
ファンタジー
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪が美少女で、うっかり最凶剣術を披露しすぎたところ、どうやらヤバすぎると話題に 謎の大剣豪こと宮本椿姫は、叔父の死をきっかけに岡山の集落から都内に引っ越しをしてきた。 宮本流を世間に広める為、己の研鑽の為にダンジョンで籠っていると、いつのまにか掲示板で話題となる。 「配信の片隅で無双している大剣豪がいるんだが」 宮本椿姫は相棒と共に配信を始め、徐々に知名度があがり、その剣技を世に知らしめていく。 これは、謎の大剣豪こと宮本椿姫が、ダンジョンを通じて世界に衝撃を与えていく――ちょっと百合の雰囲気もあるお話です。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...