底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
33 / 84
3章

第33話 3rdダンジョン Ⅴ

しおりを挟む


 これはまだ、事務所が男二人で経営されていた頃の話。

 


 九条氏が経営する事務所に勤める伊藤は、両手に沢山のお菓子を持って歩いていた。

 道ですれ違う人々が時々不思議そうな顔をして振り返る。ああ、透明のビニール袋にするんじゃなかった、と彼は後悔した。

 ぶら下げている袋の中にはポッキーで溢れかえっていた。

 ここ最近、かなり内容的に厳しい調査があり、昨日夜ようやく解決を迎えた。多分、あの九条さんだから家にも帰らず事務所で寝入っているに違いない。そう彼は確信していた。

 仕事を終えた後、普通の人間ならば酒を飲んだり、美味しい食事をしたりして打ち上げるだろうが彼は違う。酒よりA5ランクのステーキより好きなものがある。

 見慣れたビルに入りエレベーターで5階へ上がる。一番奥の扉を開けた途端、まずソファから飛び出ている足が見えた。やはり、九条氏だった。

「九条さーん! 疲れてるのわかりますけど、風邪ひきますよー?」

 呆れて彼は大きな声をかける。寝起きの悪い九条氏は普通の呼びかけではなかなか起きない。ため息をついた伊藤は、持っていた袋からポッキーを取り出して一本寝ている男の口に突っ込んだ。そこでようやく、ゆっくり九条氏が目を開ける。

「九条さーん!」

「……ふぁい」

「せめて仮眠室で寝たらどうですか! 風邪ひきますよ」

 寝起きのぼんやりした顔で、とりあえずもぐもぐと棒を食べる。面倒くさそうに起き上がった彼の後頭部には立派な寝癖がついていた。

「まあ今回の調査大変だったでしょうけどー。普通家の方がゆっくりできるじゃないですか、こんな狭いソファで寝なくても」

「帰るのが面倒で、次の日出勤するのも面倒で」

「もう、今日は休みにして帰ったらどうですか」

「ところで伊藤さん、ずいぶんまた大量に購入してきてくださったんですね?」

 九条氏は置いてあるビニール袋を指さした。普段から事務所には大量のポッキーのストックがあるのだが、今日はまた山盛りだ。

 伊藤がああ、と思い出したようにいう。

「ほら、今日って11月11日! ポッキーの日じゃないですか、安売りしてたから沢山買っちゃいました!」

 笑顔でそう告げた途端だ。九条氏が目を丸くして勢いよく伊藤を振り返る。その様子に少し驚いた伊藤がたじろいだ。

「え。ど、どうしました九条さん」

「……不覚」

「え?」

「私ともあろうが……そんな一大イベントを忘れていたなど……! 土下座して謝りたい……」

「誰に土下座するつもりなんですか」

 呆れて伊藤は言う。

 この九条という男、天然なのかいつも人とズレているし意味がわからないことが多々ある。そんな彼に突っ込むのも伊藤の仕事の一つだ。

「そもそも一大イベントって言ったって、何かするわけでもないでしょう? 普通の人は今日はポッキー食べよ♪ ってなるけど、九条さんは毎日食べてるんだから」

「いえ、毎年この日はポッキーが生まれてきたことに感謝して三食ポッキーにするようにしてるんです」

「彼女の誕生日と勘違いしてませんか?」

「何言ってるんですか伊藤さん、私今彼女なんていませんよ」

「たとえですよ、例ええええ!!」

 だめだ、ツッコミ疲れる! 毎日毎日、どうして九条さんはこんなにボケてるんだ! 伊藤は心の中で嘆く。

 九条氏ははあと切なげにため息をつき、新しくポッキーを齧った。

「忘れていたなんて……ポッキーの日を……」

「前から思ってたんですけど九条さん、もし今彼女がいたとして、ポッキーと私どっちが好きなの!? って迫られたらどうするつもりなんですか」

 自分でも馬鹿馬鹿しいと思う質問を投げかけた。でもそういう状況が安易に想像ついてしまう。てゆうか経験あるんじゃないかな九条さん。

 彼はぽりぽりとお菓子を食べながら平然と言った。

「そんなことを言う人とはお付き合いしません」

「わあ……揺るがないなあ……」

「その代わり私も相手が好きなものは尊重します。相手が好きなものを否定するのはいかなる仲でも行わないべきだと思います」

 まあ、意外とまともな答え。伊藤は納得する。九条さんの場合度を超えてるんだけども。

 九条氏はなお続ける。

「伊藤さんお米好きですよね」

「好きですよ、日本人ですもん、米ない生活なんて無理です」

「私の場合それがたまたまポッキーだっただけです。おにぎりと同じ立ち位置です。主食でこれがないと無理なんです」

「ううん、なんかうまいこと言って納得させられてる気がするけど、とりあえずいつか九条さんと付き合う彼女は大変だろうなってことだけはわかりましたよ」

「それは同感です」

「同感するんですか」

 伊藤は大きく笑う。顔はいいけど中身これじゃあな。扱いが上手い人じゃなきゃ九条さんの相手は務まらない。

 そう思えば、彼女じゃなくたって……。今この事務所でもう一人誰かを雇いたがってるけど、九条さんとペアで調査するなんてめちゃくちゃ苦労するだろうな。どんな人が来るかわからないけど、今から心配だ。

「どうしました伊藤さん」

「いや。もしうちにもう一人増えたとして、その人は大変だろうなって同情してたんです」

「はあ、霊相手に働くのは根気がいりますからね」

(霊よりも九条さんとやって行く方が根気いると思う)

 口には出さず、心の中だけで彼はつぶやいた。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

羨んでいたダンジョンはおれが勇者として救った異世界に酷似している~帰還した現代では無職業(ノージョブ)でも異世界で培った力で成り上がる~

むらくも航
ファンタジー
☆カクヨムにてでローファンタジー部門最高日間3位、週間4位を獲得! 【第1章完結】ダンジョン出現後、職業(ジョブ)持ちが名乗りを上げる中、無職業(ノージョブ)のおれはダンジョンを疎んでいた。しかし異世界転生を経て、帰還してみればダンジョンのあらゆるものが見たことのあるものだった。 現代では、まだそこまでダンジョン探索は進んでいないようだ。その中でおれは、異世界で誰も知らない事まで知っている。これなら無職業(ノージョブ)のおれもダンジョンに挑める。おれはダンジョンで成り上がる。 これは勇者として異世界を救った、元負け組天野 翔(あまの かける)が異世界で得た力で現代ダンジョンに挑む物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...