底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ

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2章

第26話 コラボ配信の約束

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「素敵ですわ!」

「え」

「優太さまは、紫月しづきさんのためにダンジョンに潜っていらっしゃるのですわね。ふつうできないことですわ!」

「そ、そうでしょうか?」

「実はわたくし、同業のダンチューバーが苦手でして・・・。皆さん、目的がスパチャでお金を稼ぐことだけに向いてるんですもの。ですから、そういう理由もあって。これまでどなたともおコラボしてこなかったんですの」

 そこで紫月が口を開く。

「いちじよじの所属タレントは、男女問わずコラボしてることが多いですよね?」

「ええ、事務所からも頼まれたりしてるんですが。お断りしてますわ。どうしても馴染めないので」

 どうやら。
 陽子さんがダンジョン配信してるのは、お金稼ぎが理由じゃないみたいで。

(ダンジョンが自分らしくいられる唯一の場所だから、か)

 その気持ちわかるな。

 陽子さんの本心に触れられたような気がして。
 距離が少しだけ近くなった気がする。



「・・・ですが! 優太さまとなら、ぜひおコラボしてみたいですわ~♡」

「僕ですか?」

「はい♪」

「でも、僕のチャンネルは登録者がほんと少ないですし」
 
 さっきスマホで確認したけど。
 現在のチャンネル登録者数は150人くらい。

 数日前までは3人にも満たなかったから。
 そう考えると、めちゃくちゃ伸びたんだけど。

(さすがに登録者が200万人いる陽子さんとは釣り合わないよね)

 けど。
 陽子さんは気にならないみたいで。

 いくぶん前のめりになりながら言ってくる。

「もし、ハードル高いと感じるようでしたら、わたくしのチャンネルにゲストとして出演してくださいませ。わたくしが上手くリードいたしますわ」

「はぁ」

「優太さまは普段どおりダンジョンを探索してくださればそれで充分ですわ。わたくしはあとからついて行きますので」

「とくになんかできるわけじゃないですけど」

「ぜんぜーん構いませんわ♡ それにこれは助けていただいたお礼でもありますもの♪」

「でもいいんでしょうか? いろいろと騒がれちゃいそうですけど」

 ダンチューバー界隈に詳しくない僕でも。
 さすがにわかる。
 
(アイドルの陽子さんとコラボなんて。荒れるんじゃないかな)

 ばんっ!

 そのとき。
 テーブルを叩いて熱く立ち上がる陽子さん。

「その件はまったく問題ないですわ! 事務所にも優太さまのことは命のご恩人と説明しておりますし。それに先ほどもお伝えしたように、殿方とのおコラボはまったく禁止されておりませんのよ? むしろ推奨すらされておりますわ」

「なるほど・・・」

「それにわたくしごとではございますが、これはリスナーの皆さんに直接お話するいい機会でもありますし。優太さまにとっても悪い話じゃないと思いますの。手前味噌ではありますが、わたくしのチャンネルに出演されることで優太さまの知名度はグンッと上がって、チャンネル登録者数は爆増しますわよ♡」

 たしかに。
 陽子さんが言ってることはもっともで。

 これまではとくにチャンネル登録者数は気にしてなかったけど。
 
 実は、増えることでいくつかメリットがある。

(たしか1000人超えると、ライセンス試験を受けたり、スパチャを解放したりできるんだっけ?)

 また、10万人を超えると。
 探索者として世間に与える影響力を考慮され、政府から助成金を貰えるようになるらしい。
 
 10万人ってのは、夢のまた夢だけど。
 1000人はちょっとだけ現実的かな。

 とくに受験資格を得ることは、今後ダンジョン探索を進める上で必要になってくるかもしれない。

「登録者が増えれば、それだけ収益を得られるチャンスが広がりますわ~♪ きっと今とは違った景色を見ることができるはずですの。優太さま、いかがかしら?」

 僕のことを思って陽子さんはここまで言ってくれてるわけで。
  
(とくに断る理由もないし。いいかな)



「そういうことでしたら。ぜひお願いします」

「本当ですかっ!? ありがとう存じますわ、優太さまぁぁ♡ ではさっそく明日にでも!」

「あ、明日っ?」

「はぁい♪ 善は急げと言いますし」

「でも、今日は東京に帰るんじゃ・・・」

「え? え、えーっとぉ・・・。そうでしたわっ! 実はこんなこともあろうかと。駅前のホテルを予約しておりましたのっ! お、ほほほ~」

 すごいっ。
 こうなることを予測してホテルまで予約してたなんて。

 なんていうか、真似できない行動力だよね。

「というわけで優太さまっ!  本日はこのあたりで失礼させていただきますわ。紫月さんも、長々とお邪魔してしまい申し訳ありませんでしたわ」

「いえ。こちらもとくにお構いできなくてすみませんでした」

「とんでもございませんわ。紅茶、美味しゅうございました。それではまた。明日の夕方にこちらへお伺いいたしますわ」

「あの、本当にいいんですか? 学校とかご両親とかは」

「も、もちろん・・・! そのあたりも抜かりありませんことよっ!? 明日は土曜日ですので、学校はお休みですし。親にも愛知に行く旨はきちんと話しておりますのでっ。ご心配には及びませんわ~!」

 ものすごい早口でシャットアウトする陽子さん。
 口を挟むタイミングがまったくなくて。

「それではおふたりとも。ごきげんよう~。また明日~♪」
 
 どこか慌てたように。
 陽子さんはお辞儀してから即座に立ち去ってしまう。



 がちゃん。

 玄関のドアが閉まると、僕は紫月と顔を見合わせた。

「お兄さま。明日はがんばってください」

「うん・・・。なんかすごい人だったね」

「陽子さんとのコラボ楽しみです。明日も自宅で応援してますね」

 なんにしても。
 
 紫月が嬉しそうで。
 それだけで陽子さんと約束してよかったなって思えた。
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