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3章
第13話
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「いやぁ~隠すような真似をしてすまなかった、エルハルト殿! お主を招いたのはほかでもない。オリヴィアを救ってくれた礼を言うためだったのだ!」
「エルハルト様。改めてお礼をお伝えさせてください。先日は見ず知らずのわたくしのために賊を追い払ってくださり本当にありがとうございました。エルハルト様はわたくしの命の恩人です」
「前も言ったが俺は当然のことをしただけだ。だからそう何度も感謝されるとかえって申し訳ない気がしてくる」
ましてや相手は一国の王女様だったんだ。
こんな風に言われるのはなんだかこそばゆい。
「エルハルト殿、そう謙遜するな! お主が助けに現れなかったら余はオリヴィアを失っていたかもしれぬ。妻に先立たれた余としてはそんなことになればきっと耐えられなかったに違いない。本当に感謝してもしきれぬぞ!」
国王の話によればオリヴィアは数週間ほどかけて王国で暮らす領民たちの暮らしぶりをその目で見て周っていたのだという。
王女様がそんな風にして国中を見て周るのはかなり稀だ。
どうもこれはオリヴィアたっての希望だったようだ。
国王としては反対だったようだが。
「王族は一部の者たちからはどうしても恨まれる立場にあるからな。余も公務の最中に街の中で襲撃を受けたことがある。だから余は反対だったのだが……オリヴィアが言うことを聞かなくてな」
「わがままを言って申し訳ありませんでした、お父様。ですがどうしてもシグルードで暮らす人々の姿をその目で見てみたかったのです」
「何も責めているわけじゃないのだぞ、オリヴィアよ! 父としては愛娘がこんな風に立派に育ってくれて嬉しく思っておる! ガッハハッ!」
どうやら国王はオリヴィアには甘いようだ。
(けれど領民の目線に立って社会勉強しようなんてなかなか王女様が言い出せることじゃないぞ)
大したもんだ、オリヴィアは。
あの後、王国騎士団の調査によって賊たちのアジトを特定することに成功し、一網打尽にすることができたようだ。
「こいつはエルハルト殿に助けられたことを本当に嬉しく思っておってな。実はこれまでずっとお主のことを探し続けていたのだ。名前を聞くことができなかったという話だったからなぁ~」
それでバルハラの冒険者ギルドでの俺の活躍を耳にして、ひょっとしてと思い招いたのが今回の真相ってことらしい。
たしかに魔法を一切使わないSランク冒険者っていうのは相当珍しいからな。
俺が剣だけで賊どもを倒したことをオリヴィアは覚えていたんだろう。
「あの時はお名前をきちんとお聞きできなかったことが心残りでした。ですからまたこうしてお会いすることができて大変光栄に思います、エルハルト様」
「そういうことだったのか。最初から本当のことを言ってくれたら変に警戒なんてしなかったんだが」
「いやぁすまぬ! オリヴィアには隠れてお主が本当に自分を救った男なのかどうか確認してもらっていたのだ。なにぶん繊細な問題だったのでな。仮に違っていたとするとそれは厄介なことになる」
「繊細な問題?」
俺がそう訊ねるとオリヴィアは顔をほんのりと赤くさせる。
「エルハルト殿。改めて訊ねるのだが、隣りにおる乙女子はお主の女――つまり細君ではないのだな?」
「ナズナは俺のパートナーだ。そういうのとは違うぞ」
「むぅ……」
ナズナはなぜか少し怒ったように頬を膨らませた。
間違ったことを言ったつもりはないんだが。
「そうかそうか! それを聞いて安心したぞ! オリヴィアよ。ちゃんと自分の口から言えるか?」
「は、はい……お父様……」
オリヴィアは恥ずかしそうにもじもじとしつつも、やがて背筋を正して俺の方をはっきりと見る。
「エルハルト様……。その、わたくしと……婚約していただけないでしょうか……?」
いきなり予想の斜め上の言葉が飛んできた。
前の世界でも何度か同じようなことを言われた経験はあるが、王女に婚約を迫られたのはこれが初めてだぞ。
あいかわらず隣りに並ぶナズナの顔は険しい。
「繊細な問題とはつまりこのことでな? オリヴィアはエルハルト殿の嫁になりたいと考えておるのだ」
国王がそう口にするとオリヴィアは胸元で指を組みながら懇願してきた。
「エルハルト様っ! どうか婚約してください……! わたくし、エルハルト様のためならなんでもするつもりですから……」
その頬は紅潮している。
きっとこんなことを言うのは生まれて初めてで恥ずかしくてたまらないんだろう。
だが。
「オリヴィア。その気持ちは素直に嬉しい。けどすぐに答えることはできない」
さすがに即答で頷くわけにもいかない。
というよりもオリヴィアは俺なんかと婚約して本当に幸せなのか?
すると状況を見かねたのか。
国王はこんな言葉を付け加えてきた。
「エルハルト様。改めてお礼をお伝えさせてください。先日は見ず知らずのわたくしのために賊を追い払ってくださり本当にありがとうございました。エルハルト様はわたくしの命の恩人です」
「前も言ったが俺は当然のことをしただけだ。だからそう何度も感謝されるとかえって申し訳ない気がしてくる」
ましてや相手は一国の王女様だったんだ。
こんな風に言われるのはなんだかこそばゆい。
「エルハルト殿、そう謙遜するな! お主が助けに現れなかったら余はオリヴィアを失っていたかもしれぬ。妻に先立たれた余としてはそんなことになればきっと耐えられなかったに違いない。本当に感謝してもしきれぬぞ!」
国王の話によればオリヴィアは数週間ほどかけて王国で暮らす領民たちの暮らしぶりをその目で見て周っていたのだという。
王女様がそんな風にして国中を見て周るのはかなり稀だ。
どうもこれはオリヴィアたっての希望だったようだ。
国王としては反対だったようだが。
「王族は一部の者たちからはどうしても恨まれる立場にあるからな。余も公務の最中に街の中で襲撃を受けたことがある。だから余は反対だったのだが……オリヴィアが言うことを聞かなくてな」
「わがままを言って申し訳ありませんでした、お父様。ですがどうしてもシグルードで暮らす人々の姿をその目で見てみたかったのです」
「何も責めているわけじゃないのだぞ、オリヴィアよ! 父としては愛娘がこんな風に立派に育ってくれて嬉しく思っておる! ガッハハッ!」
どうやら国王はオリヴィアには甘いようだ。
(けれど領民の目線に立って社会勉強しようなんてなかなか王女様が言い出せることじゃないぞ)
大したもんだ、オリヴィアは。
あの後、王国騎士団の調査によって賊たちのアジトを特定することに成功し、一網打尽にすることができたようだ。
「こいつはエルハルト殿に助けられたことを本当に嬉しく思っておってな。実はこれまでずっとお主のことを探し続けていたのだ。名前を聞くことができなかったという話だったからなぁ~」
それでバルハラの冒険者ギルドでの俺の活躍を耳にして、ひょっとしてと思い招いたのが今回の真相ってことらしい。
たしかに魔法を一切使わないSランク冒険者っていうのは相当珍しいからな。
俺が剣だけで賊どもを倒したことをオリヴィアは覚えていたんだろう。
「あの時はお名前をきちんとお聞きできなかったことが心残りでした。ですからまたこうしてお会いすることができて大変光栄に思います、エルハルト様」
「そういうことだったのか。最初から本当のことを言ってくれたら変に警戒なんてしなかったんだが」
「いやぁすまぬ! オリヴィアには隠れてお主が本当に自分を救った男なのかどうか確認してもらっていたのだ。なにぶん繊細な問題だったのでな。仮に違っていたとするとそれは厄介なことになる」
「繊細な問題?」
俺がそう訊ねるとオリヴィアは顔をほんのりと赤くさせる。
「エルハルト殿。改めて訊ねるのだが、隣りにおる乙女子はお主の女――つまり細君ではないのだな?」
「ナズナは俺のパートナーだ。そういうのとは違うぞ」
「むぅ……」
ナズナはなぜか少し怒ったように頬を膨らませた。
間違ったことを言ったつもりはないんだが。
「そうかそうか! それを聞いて安心したぞ! オリヴィアよ。ちゃんと自分の口から言えるか?」
「は、はい……お父様……」
オリヴィアは恥ずかしそうにもじもじとしつつも、やがて背筋を正して俺の方をはっきりと見る。
「エルハルト様……。その、わたくしと……婚約していただけないでしょうか……?」
いきなり予想の斜め上の言葉が飛んできた。
前の世界でも何度か同じようなことを言われた経験はあるが、王女に婚約を迫られたのはこれが初めてだぞ。
あいかわらず隣りに並ぶナズナの顔は険しい。
「繊細な問題とはつまりこのことでな? オリヴィアはエルハルト殿の嫁になりたいと考えておるのだ」
国王がそう口にするとオリヴィアは胸元で指を組みながら懇願してきた。
「エルハルト様っ! どうか婚約してください……! わたくし、エルハルト様のためならなんでもするつもりですから……」
その頬は紅潮している。
きっとこんなことを言うのは生まれて初めてで恥ずかしくてたまらないんだろう。
だが。
「オリヴィア。その気持ちは素直に嬉しい。けどすぐに答えることはできない」
さすがに即答で頷くわけにもいかない。
というよりもオリヴィアは俺なんかと婚約して本当に幸せなのか?
すると状況を見かねたのか。
国王はこんな言葉を付け加えてきた。
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