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2章

第15話

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 ベルセルクオーディンを倒したその瞬間、【デーモンスレイヤー】は音もなく壊れた。
 
(さすがに持たなかったか)

 けど役目は果たしたぞ。
 俺は灰と化した武器に感謝する。

(ディーネの大剣を勝手に使ってしまったわけだし、あとできちんと謝らないとだな)

 そんなことを考えていると頭の中でアナウンスが鳴り響く。

 『《ヴァルキリーの技巧》のレベルが[1]上がりました。』
 『《金字塔の鍛造》のレベルが[1]上がりました。』

 同時に二つのスキルレベルが上がったようだ。
 念のためにステータスを確認しておく。

------------------------------
【エルハルト・ラングハイム】
クラス:錬金鍛冶師
Lv:1
HP:10/10
MP:1/1
攻撃力:1
防御力:1+30
魔法力:1
素早さ:1
幸運:1

【固有スキル】
《マナ分解》
《強化付与》
《調薬》
《錬成大工》

【特殊スキル】
《ヴァルキリーの技巧 Lv.3》
《金字塔の鍛造 Lv.3》

天賦ギフト
《碧星級竜王》
《叡智の伝授》

【武器】
なし

【防具】
戦士の服
グレートコート
------------------------------

 《ヴァルキリーの技巧》も《金字塔の鍛造》もレベル3になってるな。
 ようやくこの特殊スキルがどうやったらレベルが上がるのか分かってきたぞ。

 多分、スキルを使用した上で敵を倒し、経験値が一定数入るとレベルが上がるんだ。

「ん?」

 その時。
 ベルセルクオーディンが消え去った場所に輝く何かが落ちていることに気付く。
 
(【煌星の時水晶】か。かなりのレアアイテムだな)

 もとから落ちていたのかドロップアイテムなのかは分からなかったが、こんなものが拾えるなんて運が良い。

 そうこうしているうちにナズナが俺のもとまで駆けつけて来た。

「マスター、お疲れ様です。見事な剣捌きでした」

「そっちは怪我なかったか?」

「私の方は特に問題はありません。あの、ディーネさんを見ていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。案内してくれ」

「はい。こちらになります」



 ◇◇◇



 俺はナズナに案内される形でディーネが休んでいるところまでやって来た。

 たしかに応急処置は終えたようだが、まだ息も荒く安心できる状況とは言えなかった。
 追加で治癒草を飲ませる必要がある。

 その後、《天竜眼》を使って治癒に使えそうな素材をナズナに集めてもらうと、俺は《調薬》のスキルで【超回復の草】を完成させた。

 それを飲ませてしばらくすると、ディーネは意識を取り戻した。

「……ん……、ハァ、はぁ…………っ、ウチは……」
 
 ディーネは一度辛そうに息を吐き出すと、むくっと体を起き上がらせる。
 あれだけ真っ赤に染まっていた衣服も今は元通りに戻っていた。

「気付いたか」

「……えっ? な、なんで……エルハルト君が……?」

「ディーネさん、お体の具合はいかがでしょうか?」

「体? たしかウチはベルセルクオーディンに槍で刺されて、それで…………え?」

 ナズナの問いに対してディーネは戸惑ったような声を上げる。
 
 混乱するのも無理はないか。
 なんせ死にかけていたわけだからな。

「あの魔物ならマスターが倒されました。ですからご安心ください」

「マスターって……エルハルト君が? ちょっと待って……。まさかベルセルクオーディンを倒しちゃったの?」

「はい。実はマスターはとてもお強いんです」

「嘘でしょ……。ウチでもまったく歯が立たなかったのに。エルハルト君が倒しちゃったなんて……」

 ディーネは唖然としたまま大きな瞳をぱちくりとさせていた。
 まあ、この反応も無理はない。

「それにマスターはディーネさんの傷も治してしまいました。目を覚ましてくれて本当によかったです」

「ウチの傷も治療してくれちゃったの……?」

「ああ」

「エルハルト君って……本当はすごい子だったんだね。お姉さん、ちょっと驚いちゃったよ」

「だから心配するな。今は自分の身を案じていろ。どうだ? 立ち上がれそうか?」

「……っ。ごめん、立つのはちょっと無理そうかも……」

 体を起き上がらせることはできたようだが、まだ立ち上がるまではできないようだ。

「さっきディーネには【超回復の草】っていう治癒草を飲んでもらったんだが、こいつは効き目が出るまでに少し時間がかかるんだ。それまでの間背負ってやるから。俺に掴まってくれ」

「いや……さすがにそこまでしてもらうのは悪いよ」

「そんなこと言ってる状況じゃないだろ?」

「でも、ウチは一応お姉さんだし……」

 どこかバツが悪そうにしながら、獣耳を折りたたんでディーネは恥ずかしそうに俯く。
 上級剣士の自分が俺なんかに助けられるとは思っていなかったんだろうな。

 だが、今はそんなことを気にしていられるような場面じゃない。
 こんなところに留まっていたら、魔物だっていつ襲いかかって来るか分からないんだ。

「このままここで夜を迎えたいのか?」

「それはイヤだなぁ……」

「だったら、俺の背中に早く掴まってくれ」

「ぅぐぅ」

 尻尾をぴょこぴょこと動かして悩みつつも、最終的にディーネは了承してくれた。

 ディーネを背負うと、量感のある大きな二つの膨らみがぷにぃと当たる。
 ナズナとはまた違った柔らかさのある胸だった。

「エルハルト君っ! お姉さん、そ、その……重くない!?」

「このくらい全然余裕だぞ」

「そ、そうっ? にゃはは……。じゃあ、お願いします……」

「任せておけ」

 自分が体をぴったりと密着させていることにもディーネは気付いていないみたいだし、俺が気にするだけ野暮ってもんだ。

 ディーネをおんぶしたままナズナの盾に護られる形で来た道を戻っていく。
 そうして俺たちはユリウス大森林から無事に脱出することに成功した。
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