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2章

第4話

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「生産職が冒険者やるなんぞ、百年早えーんだよ!」
「てめぇらお荷物は、俺ら戦士職と魔法職に貢献してりゃいいんだ」
「くっくっく、ちがいねぇ!」
「早く金払って弁償しやがれ! ギルドの物をなんだと思ってんだァ!?」

 状況を見かねたのか、すぐにナズナが近寄って声をかけてきた。

「さすがにこれ以上放置することはできません、マスター。ここは私が」

「いや手は出すな」

「……っ、なぜでしょうか?」

「こっちが手を出してきたところでそれを理由に追い出すって算段だろうからな」

 こういうヤツらは前世でも嫌というほど見てきたから分かる。
 相手が屈服するのを目的にして楽しんでいるような連中だ。
 
(構う必要はない。無視していれば自然と大人しくなるはずだ)

 修繕費について確認するために俺は改めて受付嬢に話しかけようとする。

 だが。

「ううん。弁償する必要なんてないよ」

 突然、どこからかそんな声が聞えてきた。

「それとちょっとおふざけがすぎるんじゃない、君たち? 新人いじめはよくないと思うよ?」
 
 そんなことを口にしながら人混みの中から姿を現したのは獣耳の若い女だった。

「あんッ!? んだてめーゴラァ!」
「俺たちに楯突くなら女でも容赦しねーぞ!」
「おい、待て。この女は……」

 男のうちの1人が何かに気付いたように目を大きく見開く。

「お、お前は……〝葬送の請負人キルアンダーテイカー〟!?」

「へぇ。ウチの名前知ってくれているんなんて、君。お利巧さんだね」

 そう楽しそうに獣耳の女は笑った。
 見るからに只者じゃない雰囲気が彼女にはある。

(〝葬送の請負人キルアンダーテイカー〟か。すごい異名だな)

 獣耳の女はとても露出度の高い冒険者服を着ていた。

 胸元からは大きな胸がはみ出して今にもこぼれ落ちそうだ。

 それでいてスタイルは抜群。
 長身で男受けしそうな引き締まったウエストをしている。

 透き通った顔立ちは誰が見ても美しいと唸るほどに整っていた。
 まさに美に愛された女だ。

(歳は俺とナズナよりも少し上ってところだな)

 魅惑的な大きな瞳を細めると、女は紫色のストレートヘアを振り払って背中に装着した剣に手を伸ばす。

 その時、ふさふさとした長い尻尾がかすかに動いた。

「これ以上、この子に何かいちゃもんつけるならウチが相手になるよ?」

「ヒッ!?」

 男はその場で尻もちをつくと、仲間たちのもとへと急いで逃げ帰る。

「ウチも登録の際にこの水晶を壊したことがあるんだよね~。ギルマスのチノとは同い年で昔からの知り合いでさ。チノに聞いたらこれは王国から無償で支給されるものだからべつに弁償する必要はないって言ってたけど?」

「この女……ギルマスの知り合いなのか!?」
「〝王国最強の女魔術師ウィッチシグルード〟チノ・アレンディオをこれだけフランクに呼ぶなんて……」
「〝葬送の請負人キルアンダーテイカー〟に目をつけられたら終わりだァ……」
「お、お前ら早くずらかるぞ……!」

 辺りでざわざわと騒ぐ声が聞えたかと思えば、一瞬のうちにして人だかりは消えてしまう。

 受付嬢もなぜかペコペコと俺に頭を下げて、「後のことはこちらで処理しておきますのでっ! エルハルト様ッ、大変失礼いたしましたッ……!」と慌てながら引き下がってしまう。

 そんな光景を目にしながら、巨乳の女はため息をついた。
 
「チノが不在だからってこれだよ。居る時は騒ぎなんか起こさないくせに~」

 そんなことを独り言ちながら、背中に装着した剣からスッと手を離す。
 その手慣れた動きを見て、俺は女が並みの冒険者でないことを瞬時に悟った。

(多分、Aランク以上の冒険者だな)

 そういう者はちょっとした動きを見れば分かってしまう。
 どうしても熟練された動作が仕草に滲み出てしまうものなのだ。

「ありがとう。助かったぞ」

 俺は女に手を差し出しながら礼を言った。
 
「なーに。これも先輩の務めだよ、新人君♪」

 女は笑顔で俺の手を握り返す。
 綺麗で細い指をしているが、手のひらには厚いまめがいくつかできていた。
 
 それだけでも相手が幾多の修羅場を潜り抜けてきた熟練者であることがよく分かる。

「今度は気をつけてね~。この辺りの男たちは血気盛んなのが多いからさ」

「ああ、忠告助かる。それで先輩ってことは、あんたはこのギルドに所属してるんだよな?」

「うん。と言っても、今は各領を渡り歩くさすらいの冒険者だけどね」

 女がそう口にすると、獣耳と尻尾がぴょこぴょこと小さく動いた。

(獣族……いや、混血ハーフか)

 獣族と人族の混血ハーフは身体能力がずば抜けて高いからこうして冒険者をやっている場合がある。

 だが、その数はそこまで多くないはずだ。
 かなり珍しいと言える。

 俺は女の方を見ながら、気になっていたことを訊ねてみた。
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