迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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6章

第4話

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 パン、パンッ!

 ウガンは、わざとらしく手を叩くと、驚いた表情を作りながらゼノのもとへと向かう。

「おぉ! やはりルイスだ……! 我が息子よ! こんなところで偶然ではないかっ!」

 そのままウガンは、大げさにゼノに抱きつくと、小声で耳打ちをした。

「……ルイス、生きていたのだな?」

「!」

「どうやって、あの迷宮から抜け出したのかは知らんが、ここは大人しく私の言うことに従え……。そうすれば、いずれお前をハワード家に戻してやる……」

 そこまで口にすると、ウガンは作り笑いを浮かべてゼノから離れた。

「ええぇっ~!? ちょっと待ってくださいっ! この方、本当にゼノ様のお父様なんですか!?」

「……ルイス? それがお兄ちゃんの本名??」

 混乱した様子のモニカとベルとは対照的に、アーシャは唇に親指を当てて、複雑そうにゼノを見ていた。

「息子? これはどういうことか、ハワード卿。ゼノがそなたの息子だというのか?」

「ええ、左様でございます。以前、陛下とお話させていただいた際に出た次男というのが、こいつなのでございます。本当の名はルイスと申しまして、ゼノというのは仮の名なのです」

「だが、余が聞いていた話と違うぞ? そなたの次男は、【魔力固定の儀】において命を落としたのではなかったのか? どういうことかきちんと説明をしろ」

「ハッ!」

 言われた通り、ウガンはギュスターヴにこれまでの経緯を口にした。
 
 もちろん、そのどれも嘘だ。
 だが、ウガンが口にすると、さも真実かのように響くから不思議であった。



「……こいつは、陛下もご存じの通り、非常に高い魔力値をもって生まれてきたのですが、幼い頃から体が弱く、ずっと床に伏しておりまして……。将来、魔導官として奉公に出したとしても、王宮に迷惑をかけるだけだと思い、ならばいっそのこと、鬼籍にした方がよいのではないかと考えたのです」

「つまり、【魔力固定の儀】で魔力の暴走により命を失ったというのは、虚偽の報告であったと……?」

「嘘をついてしまったこと、誠に申し訳ございません……。深く反省しております。実際は、【魔力固定の儀】で、無事に高い魔力値で固定させることに成功し、それからは我が邸宅でずっと養生をさせておったのです」

 そこで、すかさずアーシャがゼノに声をかける。

「おいゼノ! いいのかよ!? 事実と全然違うじゃねーか!!」

「……」

「そうですよ。ゼノ様、おっしゃってたじゃないですか。お父様に、迷宮に廃棄されたって……」

 2人がそんな風にゼノに話しかけていると、ギュスターヴの鋭い声が間に割って入る。

「そなたたち、少し静かにしたまえ。余は今、ハワード卿に話を聞いておるのだぞ」

「くッ」

 拳をぐっと握り締め、アーシャが隣りを覗き込むも、ゼノは俯いたままであった。

「ハワード卿よ。続きを話せ」

「あ、はい。それでですね……。養生を続けさせているうちに、こいつの病状は徐々に回復していきまして……。15歳の成人式を迎える頃には、すっかり元気になっておったんです。ですから、今度こそ王国へ奉公させるために、マスクスで冒険者をやらせることにしたのですよ。ゼノという名は、大賢者様にあやかって付けましてねぇ……ヘヘッ。私も未だに信じられないのです。こいつが、バハムートを倒すまでに成長したなんてね」

「では、なぜ、前回の面会の際に、ゼノが生きていることを申告しなかったのだ?」

「へっ!? あーいや……それは、あれですっ! 貴族が冒険者をやっているなんてことがバレたら、辞めさせられると思ったのですよ……ハハッ。それは、王国のためにもならないと思いましてね……? 大変心苦しくあったのですが、ある程度の成果が出るまでは黙っていることにしたのです。その件も、大変申し訳なく思っております」

「……」

 深々と頭を下げるウガンの姿を、ギュスターヴは目を細めて一瞥する。





 そんな2人のやり取りを傍で見ていたモニカとベルは、たまらずといった感じで声を上げた。

「あの人、嘘ついてる……」

「ええ。ゼノ様から聞いた話とまったく違います」

「お兄ちゃん……。なんで何も言わないの?」

 アーシャもモニカとベルと一緒に、隣りに目を向ける。
 ゼノは、依然として黙ったままであった。 

「(ゼノ……)」





「……ふむ、なるほど。そういうことであったのか。そなたが虚偽の申告をしていた件は、ここでは一旦置いておくとして……。これで疑問が解けたぞ。たしかに、魔力値9999を持って生まれたのだとすれば、未発見魔法が扱える点や、バハムートを倒したことの納得もいく。おかしいと思ったのだ。これほどの逸材が貴族ではなく、冒険者として生きているのがな。我が王国への奉仕だったというわけか」

「左様でございます。虚偽の報告をした件については、どのような罰も受けるつもりでございます」

 もちろん、ウガンにはそんなつもりなど、これっぽっちもなかった。

 彼には分かってたのだ。
 偉大な息子を育てた功績が認められ、嘘の罪も帳消しになる、と。

 そして、それはウガンの思った通りとなる。
 
「……まあよい。正直に話したことで大目に見るとしよう。それよりも余は、このような規格外の魔導師を育てたそなたの功績を称えたいと思うぞ」

「ハッ! ありがとうございます!」

「先程のひと芝居も、何か理由があったのだろう?」

「ええ。誠に恐縮ではございますが、このような再会を演出した方が、陛下にも我々親子のことで、ご興味を持っていただけると考えまして……ヘヘッ」

「なかなかに小賢しい手を使いおる。だが……。そなたの目論みは無事に成功したようだ」

 ギュスターヴが上機嫌なことをチャンスと思ったのか、ウガンはここで一気に攻勢をかける。

「……それで、偶然を装って、本日一緒に訪ねたわけなのですが……。こいつを陛下のもとで使っていただけないかと思いましてね。な?」

 そう言って、ウガンはゼノに同意を求める。

「手前味噌になりますが、このモノはきっと陛下のお役に立つはずです。その代わりと言ってはなんですが……。アーロンの失態による降爵の件は、考えを改めていただけないかと……」

「フッ、そなたも現金な男よ。こんな回りくどい手を使って、余に取り入ろうとしたか。次男を取引の材料にするその魂胆……なかなかに面白い」

 そこで、ギュスターヴは暫しの間考える素振りを見せた後、こう続ける。

「……ふむ、分かった。そなたの度胸に免じて、今回の件は特別に水に流すこととする」

「ハァッ! ありがたき幸せ! ほら、ルイス! お前も頭を下げろ……!」

「……っ」

 ゼノの頭を無理やり下げようとするウガンの姿を見て、アーシャが背中のクロノスアクス・改に手を伸ばした。

「もおぉぉーーガマンならねぇッ!!」

 そのまま大斧を引き抜くと、目の前に振りかざす。
 アーシャは、もう猫を被ることはやめ、ギュスターヴに向けてぶっきら棒に言い放った。

「陛下! そのオッサンはまだ嘘をついてるぜ!」

「……なに? まだ嘘をついてるだと……?」 

 アーシャに加勢するように、すぐにモニカとベルが続いた。

「そうですっ! ゼノ様は、誰かに命じられて冒険者をやられているわけじゃありません!」

「それに……お兄ちゃんはモノじゃない……!」

「どういうことだ、ハワード卿。その者たちの言う通りなのか?」

「い、いえ……私はッ……」

 一瞬、狼狽えるウガンであったが、アーシャの顔を見てあることに気付く。

「……っ、貴女は……まさか、ゴンザーガ家の……アーシャ嬢?」

「そうだ! アタシがアーシャ・ゴンザーガだ! ハワード卿……正直見損なったぜ。陛下に対してこんな風に平然と嘘をつき続けるとか、同じ貴族として恥ずかしいぜ……!」

 だが、そんなアーシャの言葉もウガンには響かなかったようだ。

「……そうでしたか。クククッ、ゴンザーガ家のご令嬢がねぇ……」

 やがて。
 にやりと口元を曲げると、毅然と言い放った。
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