迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
77 / 90
5章

第8話

しおりを挟む
「や、やったぞ……!」 

 バハムートが巨大な穴の奥深くへ落ちていってしまうのを確認すると、ゼノは縁へと静かに降り立つ。
 聖剣クレイモアを地面に突き刺すと、大きく息を吐き出した。

「……はぁ……はぁっ……なんとか、なったぁ……」

 そして、そのままその場に倒れ込んでしまう。

「……っ、はぁ……こんなに、体力を使ったのは……初めてだよ……」

 ルーファウスを捕らえた時も、ここまで苦戦することはなかった、とゼノは思う。
 
 この直前、バハムートは宮廷近衛師団の者たちと激しい戦闘を繰り広げていた。
 いかに獄獣が強敵だったかをゼノは思い知る。

「……そうだ。みんなは……」 

 いつまでもここで休んでいられないことに気付くと、ゼノはすぐに起き上がって、モニカたちのもとへ駆けつけようとする。

 だが、その時。

(!?)

 ゼノは、穴の異変に気付いた。
 その直後。

「――ッ、ギュオオオオオオオォォォ~~~~~ッッ!!!」 

 なんと、傷だらけのバハムートが最後の気力を振り絞って、奈落の底から浮上してきたのだ。

「くッ! マジかっ……!」 

 ゼノは、再び聖剣を手に取って相手の襲撃に備えようとする。

 ――しかし。

「ギュオオオオォォ……」 

 巨大な翼竜は、ふらふらと上空を旋回するも、すぐに穴の縁へと墜落してしまう。
 その場で倒れると、尻尾を丸めたまま動かなくなってしまった。

「……な、なんだっ?」 

 ギラつかせていた赤色の眼は、いつの間にか青色に変わっている。
 目の前にゼノがいるというのに、襲って来るような気配はない。
 
「おーい……大丈夫かぁ……?」 

 聖剣クレイモアを構えながら、恐る恐る声をかけるも相手の反応はなかった。
 黒い鱗で覆われた巨大な体躯を上下にさせながら、じっとうずくまって、体力を回復させているようにも見える。
 
 バハムートに戦う意識がないことが分かると、ゼノも聖剣をホルスターへと戻した。

(息をしてるようだから、死んではいないみたいだけど……)

 それからしばらく待っても、状況は変わらなかった。



(……相手に戦意がない以上、攻撃を仕掛けることはできないし)

 そもそもゼノは、手持ちの魔石をほとんど使い果たしてしまっていた。
 だから、これ以上バハムートに攻撃を与えることはできない。

「でもこれだと、きちんと討伐したとは言えないよな」

 戦意がないのを確認できたとはいえ、バハムートはまだこうして生きている。
 またいつ、先程のように襲いかかってくるか分からない状況なのだ。

(せめて、これ以上危害を加える意思がないことが、確認できればいいんだけど)

 そこでふと、ゼノはあることを思い出す。

(……あ、そうだ。たしか、さっき《言語理解》っていう魔石を手に入れたよな?)

 すぐに「ステータスオープン」と唱えると、ゼノは光のディスプレイ上で、《言語理解》の項目をタップする。

----------

☆4《言語理解》
内容:対象魔族1体と言語によって意思疎通をはかることができる/終年

----------

「……終年……?」
 
 つまり、この魔法を使ってしまえば、対象の魔族1体と一生会話することが可能になるわけだ。

 亜人族と人族は使っている言語が同じなので、簡単に話すことができるが、魔族の場合は大きく異なる。
 意思疎通ができない相手というのが魔族なのだ。

 まだ、彼らと会話するというイメージが上手く湧かないゼノであったが、この場面では一番役立つ魔石と言えた。

(物は試しだ。一度使ってみよう) 

 ゼノは聖剣クレイモアに《言語理解》の魔石をはめ込むと、詠唱文を唱える。

「種族の壁を越え、我とかの者を対話させよ――《言語理解》」 

 自身の目の前で聖剣を突き立てながらそう唱えると、柔らかな光がバハムートの全身を包み込む。

「……これで、意思疎通がはかれるようになったのか?」

 半信半疑のまま、ゼノはバハムートに声をかけた。

「……あ、あのぉ……もしもし……」

「……」

「えっと……俺の声って、聞えてるのかな……?」

「……」

「……ダメか。もしかしたら、獄獣相手には効果がないのかも」

 ゼノがそう諦めようとしたところで。

『…………ン……、ここは……』

「えっ?」

 翼竜の巨大な体躯から、何か声のようなものが聞えた気がしたのだ。

 ゼノは、恐る恐るもう一度声をかける。

「……も、もしもーし、バハムートさん……?」

『人の、声…………?』

「うわぁっ!? やっぱり、バハムートがしゃべってる!?」

『……我は、一体…………』

 獄獣の声が聞えたことに興奮し、ゼノは思わずフランクに話しかけてしまう。

「バハムート。俺は魔導師のゼノだ。さっきは、いろいろと無茶してごめんな」

『……魔導師……ゼノ……? お主は……ゼノと申すのか……?』

「? 俺の名前を知ってるの?」

『……ッ、なぜだ……? 頭に靄がかかったようで……我は、お主と戦った記憶が……』 

 バハムートはまだ混乱しているのか、その口ぶりはどこかたどたどしい。

「それならさ。さっきまで俺たちは戦っていたんだよ」

『……戦っていた? ふむ……。言われてみれば、体の節々に痛みを感じるぞ……』

「そっか。けっこう本気であれこれとやっちゃったから。申し訳ない」

 モニカが近くにいれば、〈回復術〉で治療することもできたのだけど……。
 そんなことを思いつつ、ゼノはその前に確認しなければならないことを思い出す。

「……っと、そうだ。大事なことを言おうと思ってたんだ。悪いんだけどさ、これから町を襲ったりしないでほしいんだ」

『町……? 我が人の町を襲ったというのか?』

「いや、正確にはまだ襲ってないんだけど……。後ろを見れば分かるだろう? これだけ盛大に湿原を焼き払ったのはキミなんだ。それに、宮廷近衛師団の人たちも、だいぶキミにやられちゃったから」

『……まさか、我は……この場所で暴れ回っていたというのか?』

「うん、すげぇ強かった」

『それを……お主が止めてくれたと……?』

「そうだね。全力でやらせてもらったよ。じゃないと、みんな死んじゃうって思ったから」

『……ふむ、そうか……』

 そこでバハムートは一度頷くと、このように言葉を続ける。

『……どうやら我は、また自我を失ってしまったようだ……』

「自我を失った?」

 しばしの沈黙の後、バハムートは、以前自分の身に起こった出来事を口にする。
 その話によれば、400年以上前の人魔大戦の時も、今回と同じように我を忘れて暴走してしまったことがあったようなのだ。
 
 すると。
 そこで、バハムートはハッとしたように声を上げる。

『……ッ、そうだ……思い出したぞ! なぜ、こんな大事なことを忘れていたのか……。我はあの時も……ゼノ、お主に助けられたのだ』

「えっ?」

『以前、我が自我を失って人の町を襲った際、賢者を名乗るゼノという男が我を止めてくれたのだ。お主は、あのゼノなのではないか?』

「……あっ、いや……違うんだ。俺は、その大賢者様じゃないんだよ」

『しかし……。その黒いローブには見覚えがあるぞ?』

「えっと、このローブはその人から譲り受けた物なんだ」

『?』

「俺の名前も、大賢者様から受け継いだものなんだよ。話がややこしくてごめん」

『つまり……お主は、あのゼノではないのだな? ふむ、そうか……』

 首を横に振りながら、バハムートはなぜか残念そうだ。
 ひょっとすると、大賢者ゼノに何か言いたいことがあったのかもしれない。

「俺のお師匠様がさ。ゼノっていう名前を付けてくれたんだ」

『……お主の師匠か。さぞかし強いのだろうな』

「そりゃもちろん! お師匠様は、俺なんかよりもめちゃくちゃ強いし、かっこいいし、俺の憧れで……。それに、とびっきりの美人だ!」

『ほう』

「でも、今は死神の大迷宮っていうダンジョンに囚われていて……。俺は、その迷宮からお師匠様を助け出したくって冒険者をやっている。今回も、女王陛下から依頼を受けてこの湿原までやって来たんだよ」

 獄獣に何をしゃべっているんだ、とゼノはふと思った。
 相手は、先程まで命を懸けた死闘を繰り広げていた敵なのだ。

 本来ならば、ここでトドメを刺さなければならないはず……。

 けれど、ゼノにはそれができなかった。
 話をしてみてバハムートの事情が分かってしまうと、そんな気分にはなれなかったのだ。

 だから、ゼノは最後にもう一度確認してから、この場を立ち去ることにした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双

さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。 ある者は聖騎士の剣と盾、 ある者は聖女のローブ、 それぞれのスマホからアイテムが出現する。 そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。 ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか… if分岐の続編として、 「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...