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5章
第2話
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それからゼノは、リチャードに言われた通り、モニカとアーシャにも声をかけて、急いで冒険者ギルドへと向かった。
まだ夜も明けていない中、強制的に《爆音》の魔法で起こされたため、アーシャはかなり不機嫌だ。
「朝が苦手だからって、あんな魔法で叩き起こすんじゃねーぜっ!」
「どうしても起きなかったから、つい」
「少しは、恋する乙女の気持ちも考えろよなぁ! アタシだって、ゼノにすっぴん見られるのはイヤなんだぜ!?」
「アーシャ姉。すっぴんも綺麗だから、羨ましい……」
「んぁっ? きゅ、急になんだよっ? いつものガキんちょらしくねーじゃんか!?」
と言いつつも、珍しくベルに褒められてアーシャは嬉しそうにする。
それで怒りも吹き飛んでしまったようだ。
「ふぁぁ~眠いですぅ……。こんな朝から、どんな用なんでしょうかぁ……」
隣りで並んで歩くモニカも、目を擦りながら眠たそうにしている。
「3人とも本当に申し訳ない。どうも、【天空の魔導団】宛てに、王都から緊急の招集がかかったみたいなんだ」
そんなことを話しているうちに、あっという間にギルドへと到着する。
館の中へ足を踏み入れると、そこにはダニエルとリチャードの姿があった。
「んおぉぅ! ゼノ、来たかッ!!」
「おはようございます、ダニエルさん」
そうゼノが挨拶したところで、アーシャがすぐさま背中に装着したクロノスアクス・改を取り出して、ダニエルの前に叩きつける。
バゴンッ!!
「ダニエルのおっさんよぉ! んな朝っぱらからアタシたちを呼びつけるとは、いい度胸してんじゃねーかっ!」
「い、いやぁ……すみません、アーシャ様ッ!! 緊急の招集だと、魔導勅書が届いたもんで……ハハハッ」
魔導勅書とは、君主が《転送》の魔法によって、各領の冒険者ギルドへ送る手紙のことだ。
「だとしても、少しは時間を選べって! アタシは朝がだーーいっ嫌いなんだよっ!」
「アーシャ、少し落ち着け。ダニエルさんも、仕方なく俺たちを呼んだんだろうし」
「っ……。そりゃ、そうなんだろーけどよ……」
「それで、どんな用件なんでしょうか?」
モニカがそう訊ねると、代わりにリチャードが答える。
「それなんだけどねぇ。どうも、昨晩に突然、王国内にバハムートが現れたらしいんだよ」
「……バハムート……!? バハムートって、あの……魔大陸にいるって言われている獄獣ですよね!? 結界があって、魔大陸からは出られないはずなのに、どうしてッ……」
そんな声を漏らすモニカの横で、アーシャもベルも同じように驚きの表情を浮かべていた。
もちろん、ゼノも大きく驚いた。
(バハムートって言ったら、人魔大戦の頃、魔王エレシュキガルの右腕としてメルカディアン大陸で暴れ回った獄獣だ……)
当時は、大賢者ゼノがバハムートを倒したわけだが、今この世界に彼はいない。
その話が本当だとすると、相当に厄介な相手がアスター王国に出現したということになる。
「魔大陸からどうやってこっちの大陸へ渡って来たのかは、まだ詳しく分かってないみたいだねぇ。けど、バハムートが出現したのは事実だから。今、現場近くには、宮廷近衛師団が来ていて、これから対策を講じるって話なんだよん」
「なっ! 宮廷近衛師団って……あの宮廷近衛師団かよ!?」
それに対して真っ先に声を上げたのはアーシャだ。
「アスター最強の術使い集団じゃねーか!」
それを耳にして、ゼノも驚いた。
(……宮廷近衛師団か。すごいな……)
宮廷近衛師団は、君主直属の戦闘部隊である。
精鋭のみによって編成されており、アスター王国では一番の強さを誇るとも言われている。
彼らが出てきたということは、それだけ敵が危険であるということの証でもあった。
「でも、宮廷近衛師団が出動してるのなら、なんで俺たちに招集がかかったんでしょうか?」
すると、ダニエルは嬉しそうにカウンターをバン!と叩く。
「喜べゼノ!! この前のルーファウスを捕らえた功績が認められたんだッ! 宮廷近衛師団の戦力となってほしいと、女王陛下直々のお達しだ! 俺様も、ギルドマスターとして鼻が高いぞぉぉ!!」
「女王様から直々のご指名なんて……ゼノ様、すごいですよっ!」
「だな! やっぱ、アタシの男を見る目に狂いはなかったぜ! けど、陛下もゼノの凄さに気付くのが遅すぎだけどな!」
そんな風に浮かれる面々だったが、これまで黙っていたベルが一言呟く。
「……でも、獄獣は魔族の中でとても危険な存在……。亜人族の間では、スカージ諸島の島々を一晩で壊滅させたっていう伝承も残っているし……」
それを聞いて、ゼノは頷く。
(そうだ……。ベルの言う通り、浮かれているような状況じゃない)
ぐっと気を引き締めると、ゼノはダニエルに訊ねた。
「もう少し、詳しく状況を教えていただけますか?」
「お、おう……? そうだな」
それからゼノは、詳しい戦況を耳にすることになった。
◆
ダニエルの話によれば、バハムートが出現したのは、王領からもほど近いクレルモン領のサザンギル大湿原とのことであった。
昨晩、突如上空から姿を現したバハムートは、サザンギル大湿原に降り立つと、そこら一帯を一瞬のうちにして、火の海に変えてしまったらしい。
サザンギル大湿原は、王都サーガから比較的近い距離にあるため、いち早くバハムートを討伐する必要がある、とダニエルは口にした。
「今は、クレルモン領の領都ルアに宮廷近衛師団が集まってて、作戦を練っているって話だッ! ゼノ、まずはそこへ行って指示を仰いでくれ!!」
「ちょ……ちょっと待ってくださいっ! ルアの町なんて、マスクスから馬車を使っても三週間ほどかかりますよ!?」
モニカが慌てたように間に割って入ってくる。
ひょっとすると、以前にもルアを訪れたことがあるのかもしれない。
「でも、ゼノくんなら、ルアまで簡単に行くことができちゃうんじゃないのかな?」
ゼノはすぐに、リチャードが言わんとしていることが分かった。
たしかに《テレポート》の魔法を使えば、一瞬でルアに到着することができる。
しかも、運の良いことにゼノは今、《テレポート》の魔石を所持していた。
(……だけど、俺がこの魔石を持っていなかったら、クレルモン領なんてそう簡単に行けなかったはずだ)
もしかして、ギュスターヴ女王はそこまで読んでいて、自分たちを招集したのではないか、とゼノは一瞬思う。
だが、どうやらそれは、深読みのし過ぎだったようだ。
「もちろん、女王陛下にはゼノの情報は伝わってるはずだぞ? 規格外の天才魔導師だってな。てめぇが未発見魔法を扱えるって話まで伝わってるかは分からねーが、中級魔法の《テレポート》は当然扱えるって思ったんだろ。んで、実際はどうなんだぁ?」
「はい。今なら《テレポート》は使えます」
「は? そーなのかよっ? この前は、《テレポート》の魔法は滅多に使えねーって言ってなかったか?」
不思議そうに声を上げるアーシャに対して、ゼノは丁寧に説明する。
「☆3の魔石だからね。けど、昨日〔魔導ガチャ〕で魔石を召喚した時にたまたま出たんだ」
「つまり、ゼノくんは今すぐにでもルアへ向かえるってことかな?」
「そういうことになりますね」
「んんぉッ!! さすがゼノだ! 【天空の魔導団】のリーダーとして、よろしく頼むぞッ!!」
ダニエルは左目の眼帯を釣り上げると、笑顔でサムズアップしてくる。
だが、ゼノはそれについて、すぐに頷くことができなかった。
「ま、でも久しぶりに強い相手と戦えそーなのは嬉しいぜ。くぅぅ~! なんか想像したらワクワクしてきたぜっ!」
「……この状況でワクワクできるとか、アーシャ姉やっぱおかしい……」
「アーシャさんのこれは、病気みたいなものですから♪」
「んだよっ。宮廷近衛師団の活躍も、間近で見られるかもしれねーんだぜ!? んなチャンス滅多にねーよ!」
レヴェナント旅団が相手の時と異なり、アーシャはバハムート討伐に乗り気のようだ。
今回は、宮廷近衛師団が駆けつけているということもあり、少しだけ楽観的に考えているのかもしれない。
――だが、しかし。
ゼノは、そんな風に楽観的になることはできなかった。
(今度こそ、俺が1人で行くべきなんじゃないのか?)
この前は、モニカとアーシャに強引に押し切られてしまったが、今回の敵は魔大陸に潜む獄獣だ。
バハムートの戦闘力については未だ謎な部分が多いが、四獄獣の1体に数えられ、人魔大戦中は、アスター王国の町をいくつか壊滅させたという伝承も残っている。
けれど、もちろんゼノも分かっていた。
自分の力は、非力だということを。
自分の力だけで、Sランク冒険者になれたわけではないということを。
すべて、周りにいる仲間たちのおかげなのだ。
この場で3人を置き去りにして自分だけが向かうということは、彼女たちを信用していないことと同義であった。
「……お兄ちゃん?」
ベルが心配そうに覗き込んでくる。
見れば、モニカもアーシャも、同じような顔でゼノに目を向けていた。
(いや……。俺が迷ってどうするんだ。【天空の魔導団】のリーダーは俺なんだ)
先頭に立つ者が迷っていたら、皆も心を決めることができない。
だから、ゼノは3人にこう訊ねた。
「みんな……本当にいいのか?」
すると、彼女らは全員笑顔を見せて頷く。
「当たり前じゃん? 何言ってんだ、早く行こうぜ!」
「前にもお伝えしました。ゼノ様が赴くのでしたら、危険な目に遭わせるわけにはいきません。何かあれば、すぐにわたしが治療して差し上げますから♪」
「ベルも行きたい……。お兄ちゃんと一緒なら、バハムートだって倒せる……」
「ありがとう、みんな。よし……。準備ができたら、すぐに出発しよう!」
ゼノの言葉に、【天空の魔導団】の面々は声を上げる。
こうして、ゼノたちはクレルモン領の領都ルアへ向かうことになった。
まだ夜も明けていない中、強制的に《爆音》の魔法で起こされたため、アーシャはかなり不機嫌だ。
「朝が苦手だからって、あんな魔法で叩き起こすんじゃねーぜっ!」
「どうしても起きなかったから、つい」
「少しは、恋する乙女の気持ちも考えろよなぁ! アタシだって、ゼノにすっぴん見られるのはイヤなんだぜ!?」
「アーシャ姉。すっぴんも綺麗だから、羨ましい……」
「んぁっ? きゅ、急になんだよっ? いつものガキんちょらしくねーじゃんか!?」
と言いつつも、珍しくベルに褒められてアーシャは嬉しそうにする。
それで怒りも吹き飛んでしまったようだ。
「ふぁぁ~眠いですぅ……。こんな朝から、どんな用なんでしょうかぁ……」
隣りで並んで歩くモニカも、目を擦りながら眠たそうにしている。
「3人とも本当に申し訳ない。どうも、【天空の魔導団】宛てに、王都から緊急の招集がかかったみたいなんだ」
そんなことを話しているうちに、あっという間にギルドへと到着する。
館の中へ足を踏み入れると、そこにはダニエルとリチャードの姿があった。
「んおぉぅ! ゼノ、来たかッ!!」
「おはようございます、ダニエルさん」
そうゼノが挨拶したところで、アーシャがすぐさま背中に装着したクロノスアクス・改を取り出して、ダニエルの前に叩きつける。
バゴンッ!!
「ダニエルのおっさんよぉ! んな朝っぱらからアタシたちを呼びつけるとは、いい度胸してんじゃねーかっ!」
「い、いやぁ……すみません、アーシャ様ッ!! 緊急の招集だと、魔導勅書が届いたもんで……ハハハッ」
魔導勅書とは、君主が《転送》の魔法によって、各領の冒険者ギルドへ送る手紙のことだ。
「だとしても、少しは時間を選べって! アタシは朝がだーーいっ嫌いなんだよっ!」
「アーシャ、少し落ち着け。ダニエルさんも、仕方なく俺たちを呼んだんだろうし」
「っ……。そりゃ、そうなんだろーけどよ……」
「それで、どんな用件なんでしょうか?」
モニカがそう訊ねると、代わりにリチャードが答える。
「それなんだけどねぇ。どうも、昨晩に突然、王国内にバハムートが現れたらしいんだよ」
「……バハムート……!? バハムートって、あの……魔大陸にいるって言われている獄獣ですよね!? 結界があって、魔大陸からは出られないはずなのに、どうしてッ……」
そんな声を漏らすモニカの横で、アーシャもベルも同じように驚きの表情を浮かべていた。
もちろん、ゼノも大きく驚いた。
(バハムートって言ったら、人魔大戦の頃、魔王エレシュキガルの右腕としてメルカディアン大陸で暴れ回った獄獣だ……)
当時は、大賢者ゼノがバハムートを倒したわけだが、今この世界に彼はいない。
その話が本当だとすると、相当に厄介な相手がアスター王国に出現したということになる。
「魔大陸からどうやってこっちの大陸へ渡って来たのかは、まだ詳しく分かってないみたいだねぇ。けど、バハムートが出現したのは事実だから。今、現場近くには、宮廷近衛師団が来ていて、これから対策を講じるって話なんだよん」
「なっ! 宮廷近衛師団って……あの宮廷近衛師団かよ!?」
それに対して真っ先に声を上げたのはアーシャだ。
「アスター最強の術使い集団じゃねーか!」
それを耳にして、ゼノも驚いた。
(……宮廷近衛師団か。すごいな……)
宮廷近衛師団は、君主直属の戦闘部隊である。
精鋭のみによって編成されており、アスター王国では一番の強さを誇るとも言われている。
彼らが出てきたということは、それだけ敵が危険であるということの証でもあった。
「でも、宮廷近衛師団が出動してるのなら、なんで俺たちに招集がかかったんでしょうか?」
すると、ダニエルは嬉しそうにカウンターをバン!と叩く。
「喜べゼノ!! この前のルーファウスを捕らえた功績が認められたんだッ! 宮廷近衛師団の戦力となってほしいと、女王陛下直々のお達しだ! 俺様も、ギルドマスターとして鼻が高いぞぉぉ!!」
「女王様から直々のご指名なんて……ゼノ様、すごいですよっ!」
「だな! やっぱ、アタシの男を見る目に狂いはなかったぜ! けど、陛下もゼノの凄さに気付くのが遅すぎだけどな!」
そんな風に浮かれる面々だったが、これまで黙っていたベルが一言呟く。
「……でも、獄獣は魔族の中でとても危険な存在……。亜人族の間では、スカージ諸島の島々を一晩で壊滅させたっていう伝承も残っているし……」
それを聞いて、ゼノは頷く。
(そうだ……。ベルの言う通り、浮かれているような状況じゃない)
ぐっと気を引き締めると、ゼノはダニエルに訊ねた。
「もう少し、詳しく状況を教えていただけますか?」
「お、おう……? そうだな」
それからゼノは、詳しい戦況を耳にすることになった。
◆
ダニエルの話によれば、バハムートが出現したのは、王領からもほど近いクレルモン領のサザンギル大湿原とのことであった。
昨晩、突如上空から姿を現したバハムートは、サザンギル大湿原に降り立つと、そこら一帯を一瞬のうちにして、火の海に変えてしまったらしい。
サザンギル大湿原は、王都サーガから比較的近い距離にあるため、いち早くバハムートを討伐する必要がある、とダニエルは口にした。
「今は、クレルモン領の領都ルアに宮廷近衛師団が集まってて、作戦を練っているって話だッ! ゼノ、まずはそこへ行って指示を仰いでくれ!!」
「ちょ……ちょっと待ってくださいっ! ルアの町なんて、マスクスから馬車を使っても三週間ほどかかりますよ!?」
モニカが慌てたように間に割って入ってくる。
ひょっとすると、以前にもルアを訪れたことがあるのかもしれない。
「でも、ゼノくんなら、ルアまで簡単に行くことができちゃうんじゃないのかな?」
ゼノはすぐに、リチャードが言わんとしていることが分かった。
たしかに《テレポート》の魔法を使えば、一瞬でルアに到着することができる。
しかも、運の良いことにゼノは今、《テレポート》の魔石を所持していた。
(……だけど、俺がこの魔石を持っていなかったら、クレルモン領なんてそう簡単に行けなかったはずだ)
もしかして、ギュスターヴ女王はそこまで読んでいて、自分たちを招集したのではないか、とゼノは一瞬思う。
だが、どうやらそれは、深読みのし過ぎだったようだ。
「もちろん、女王陛下にはゼノの情報は伝わってるはずだぞ? 規格外の天才魔導師だってな。てめぇが未発見魔法を扱えるって話まで伝わってるかは分からねーが、中級魔法の《テレポート》は当然扱えるって思ったんだろ。んで、実際はどうなんだぁ?」
「はい。今なら《テレポート》は使えます」
「は? そーなのかよっ? この前は、《テレポート》の魔法は滅多に使えねーって言ってなかったか?」
不思議そうに声を上げるアーシャに対して、ゼノは丁寧に説明する。
「☆3の魔石だからね。けど、昨日〔魔導ガチャ〕で魔石を召喚した時にたまたま出たんだ」
「つまり、ゼノくんは今すぐにでもルアへ向かえるってことかな?」
「そういうことになりますね」
「んんぉッ!! さすがゼノだ! 【天空の魔導団】のリーダーとして、よろしく頼むぞッ!!」
ダニエルは左目の眼帯を釣り上げると、笑顔でサムズアップしてくる。
だが、ゼノはそれについて、すぐに頷くことができなかった。
「ま、でも久しぶりに強い相手と戦えそーなのは嬉しいぜ。くぅぅ~! なんか想像したらワクワクしてきたぜっ!」
「……この状況でワクワクできるとか、アーシャ姉やっぱおかしい……」
「アーシャさんのこれは、病気みたいなものですから♪」
「んだよっ。宮廷近衛師団の活躍も、間近で見られるかもしれねーんだぜ!? んなチャンス滅多にねーよ!」
レヴェナント旅団が相手の時と異なり、アーシャはバハムート討伐に乗り気のようだ。
今回は、宮廷近衛師団が駆けつけているということもあり、少しだけ楽観的に考えているのかもしれない。
――だが、しかし。
ゼノは、そんな風に楽観的になることはできなかった。
(今度こそ、俺が1人で行くべきなんじゃないのか?)
この前は、モニカとアーシャに強引に押し切られてしまったが、今回の敵は魔大陸に潜む獄獣だ。
バハムートの戦闘力については未だ謎な部分が多いが、四獄獣の1体に数えられ、人魔大戦中は、アスター王国の町をいくつか壊滅させたという伝承も残っている。
けれど、もちろんゼノも分かっていた。
自分の力は、非力だということを。
自分の力だけで、Sランク冒険者になれたわけではないということを。
すべて、周りにいる仲間たちのおかげなのだ。
この場で3人を置き去りにして自分だけが向かうということは、彼女たちを信用していないことと同義であった。
「……お兄ちゃん?」
ベルが心配そうに覗き込んでくる。
見れば、モニカもアーシャも、同じような顔でゼノに目を向けていた。
(いや……。俺が迷ってどうするんだ。【天空の魔導団】のリーダーは俺なんだ)
先頭に立つ者が迷っていたら、皆も心を決めることができない。
だから、ゼノは3人にこう訊ねた。
「みんな……本当にいいのか?」
すると、彼女らは全員笑顔を見せて頷く。
「当たり前じゃん? 何言ってんだ、早く行こうぜ!」
「前にもお伝えしました。ゼノ様が赴くのでしたら、危険な目に遭わせるわけにはいきません。何かあれば、すぐにわたしが治療して差し上げますから♪」
「ベルも行きたい……。お兄ちゃんと一緒なら、バハムートだって倒せる……」
「ありがとう、みんな。よし……。準備ができたら、すぐに出発しよう!」
ゼノの言葉に、【天空の魔導団】の面々は声を上げる。
こうして、ゼノたちはクレルモン領の領都ルアへ向かうことになった。
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