迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
71 / 90
5章

第2話

しおりを挟む
 それからゼノは、リチャードに言われた通り、モニカとアーシャにも声をかけて、急いで冒険者ギルドへと向かった。

 まだ夜も明けていない中、強制的に《爆音》の魔法で起こされたため、アーシャはかなり不機嫌だ。

「朝が苦手だからって、あんな魔法で叩き起こすんじゃねーぜっ!」

「どうしても起きなかったから、つい」

「少しは、恋する乙女の気持ちも考えろよなぁ! アタシだって、ゼノにすっぴん見られるのはイヤなんだぜ!?」

「アーシャ姉。すっぴんも綺麗だから、羨ましい……」

「んぁっ? きゅ、急になんだよっ? いつものガキんちょらしくねーじゃんか!?」

 と言いつつも、珍しくベルに褒められてアーシャは嬉しそうにする。
 それで怒りも吹き飛んでしまったようだ。
 
「ふぁぁ~眠いですぅ……。こんな朝から、どんな用なんでしょうかぁ……」

 隣りで並んで歩くモニカも、目を擦りながら眠たそうにしている。

「3人とも本当に申し訳ない。どうも、【天空の魔導団クランセレスティアル】宛てに、王都から緊急の招集がかかったみたいなんだ」

 そんなことを話しているうちに、あっという間にギルドへと到着する。
 館の中へ足を踏み入れると、そこにはダニエルとリチャードの姿があった。

「んおぉぅ! ゼノ、来たかッ!!」

「おはようございます、ダニエルさん」

 そうゼノが挨拶したところで、アーシャがすぐさま背中に装着したクロノスアクス・改を取り出して、ダニエルの前に叩きつける。

 バゴンッ!!

「ダニエルのおっさんよぉ! んな朝っぱらからアタシたちを呼びつけるとは、いい度胸してんじゃねーかっ!」

「い、いやぁ……すみません、アーシャ様ッ!! 緊急の招集だと、魔導勅書が届いたもんで……ハハハッ」

 魔導勅書とは、君主が《転送》の魔法によって、各領の冒険者ギルドへ送る手紙のことだ。

「だとしても、少しは時間を選べって! アタシは朝がだーーいっ嫌いなんだよっ!」

「アーシャ、少し落ち着け。ダニエルさんも、仕方なく俺たちを呼んだんだろうし」

「っ……。そりゃ、そうなんだろーけどよ……」

「それで、どんな用件なんでしょうか?」

 モニカがそう訊ねると、代わりにリチャードが答える。

「それなんだけどねぇ。どうも、昨晩に突然、王国内にバハムートが現れたらしいんだよ」

「……バハムート……!? バハムートって、あの……魔大陸にいるって言われている獄獣ですよね!? 結界があって、魔大陸からは出られないはずなのに、どうしてッ……」

 そんな声を漏らすモニカの横で、アーシャもベルも同じように驚きの表情を浮かべていた。
 もちろん、ゼノも大きく驚いた。

(バハムートって言ったら、人魔大戦の頃、魔王エレシュキガルの右腕としてメルカディアン大陸で暴れ回った獄獣だ……)

 当時は、大賢者ゼノがバハムートを倒したわけだが、今この世界に彼はいない。
 その話が本当だとすると、相当に厄介な相手がアスター王国に出現したということになる。

「魔大陸からどうやってこっちの大陸へ渡って来たのかは、まだ詳しく分かってないみたいだねぇ。けど、バハムートが出現したのは事実だから。今、現場近くには、宮廷近衛師団が来ていて、これから対策を講じるって話なんだよん」

「なっ! 宮廷近衛師団って……あの宮廷近衛師団かよ!?」 

 それに対して真っ先に声を上げたのはアーシャだ。

「アスター最強の術使い集団じゃねーか!」

 それを耳にして、ゼノも驚いた。

(……宮廷近衛師団か。すごいな……)
 
 宮廷近衛師団は、君主直属の戦闘部隊である。
 精鋭のみによって編成されており、アスター王国では一番の強さを誇るとも言われている。

 彼らが出てきたということは、それだけ敵が危険であるということの証でもあった。

「でも、宮廷近衛師団が出動してるのなら、なんで俺たちに招集がかかったんでしょうか?」

 すると、ダニエルは嬉しそうにカウンターをバン!と叩く。

「喜べゼノ!! この前のルーファウスを捕らえた功績が認められたんだッ! 宮廷近衛師団の戦力となってほしいと、女王陛下直々のお達しだ! 俺様も、ギルドマスターとして鼻が高いぞぉぉ!!」

「女王様から直々のご指名なんて……ゼノ様、すごいですよっ!」

「だな! やっぱ、アタシの男を見る目に狂いはなかったぜ! けど、陛下もゼノの凄さに気付くのが遅すぎだけどな!」

 そんな風に浮かれる面々だったが、これまで黙っていたベルが一言呟く。

「……でも、獄獣は魔族の中でとても危険な存在……。亜人族の間では、スカージ諸島の島々を一晩で壊滅させたっていう伝承も残っているし……」

 それを聞いて、ゼノは頷く。

(そうだ……。ベルの言う通り、浮かれているような状況じゃない)

 ぐっと気を引き締めると、ゼノはダニエルに訊ねた。

「もう少し、詳しく状況を教えていただけますか?」

「お、おう……? そうだな」

 それからゼノは、詳しい戦況を耳にすることになった。



 ◆



 ダニエルの話によれば、バハムートが出現したのは、王領からもほど近いクレルモン領のサザンギル大湿原とのことであった。

 昨晩、突如上空から姿を現したバハムートは、サザンギル大湿原に降り立つと、そこら一帯を一瞬のうちにして、火の海に変えてしまったらしい。

 サザンギル大湿原は、王都サーガから比較的近い距離にあるため、いち早くバハムートを討伐する必要がある、とダニエルは口にした。

「今は、クレルモン領の領都ルアに宮廷近衛師団が集まってて、作戦を練っているって話だッ! ゼノ、まずはそこへ行って指示を仰いでくれ!!」

「ちょ……ちょっと待ってくださいっ! ルアの町なんて、マスクスから馬車を使っても三週間ほどかかりますよ!?」

 モニカが慌てたように間に割って入ってくる。
 ひょっとすると、以前にもルアを訪れたことがあるのかもしれない。
 
「でも、ゼノくんなら、ルアまで簡単に行くことができちゃうんじゃないのかな?」

 ゼノはすぐに、リチャードが言わんとしていることが分かった。
 
 たしかに《テレポート》の魔法を使えば、一瞬でルアに到着することができる。
 しかも、運の良いことにゼノは今、《テレポート》の魔石を所持していた。

(……だけど、俺がこの魔石を持っていなかったら、クレルモン領なんてそう簡単に行けなかったはずだ)

 もしかして、ギュスターヴ女王はそこまで読んでいて、自分たちを招集したのではないか、とゼノは一瞬思う。
 だが、どうやらそれは、深読みのし過ぎだったようだ。
  
「もちろん、女王陛下にはゼノの情報は伝わってるはずだぞ? 規格外の天才魔導師だってな。てめぇが未発見魔法を扱えるって話まで伝わってるかは分からねーが、中級魔法の《テレポート》は当然扱えるって思ったんだろ。んで、実際はどうなんだぁ?」

「はい。今なら《テレポート》は使えます」

「は? そーなのかよっ? この前は、《テレポート》の魔法は滅多に使えねーって言ってなかったか?」

 不思議そうに声を上げるアーシャに対して、ゼノは丁寧に説明する。

「☆3の魔石だからね。けど、昨日〔魔導ガチャ〕で魔石を召喚した時にたまたま出たんだ」

「つまり、ゼノくんは今すぐにでもルアへ向かえるってことかな?」

「そういうことになりますね」

「んんぉッ!! さすがゼノだ! 【天空の魔導団クランセレスティアル】のリーダーとして、よろしく頼むぞッ!!」

 ダニエルは左目の眼帯を釣り上げると、笑顔でサムズアップしてくる。
 だが、ゼノはそれについて、すぐに頷くことができなかった。

「ま、でも久しぶりに強い相手と戦えそーなのは嬉しいぜ。くぅぅ~! なんか想像したらワクワクしてきたぜっ!」

「……この状況でワクワクできるとか、アーシャ姉やっぱおかしい……」

「アーシャさんのこれは、病気みたいなものですから♪」

「んだよっ。宮廷近衛師団の活躍も、間近で見られるかもしれねーんだぜ!? んなチャンス滅多にねーよ!」

 レヴェナント旅団が相手の時と異なり、アーシャはバハムート討伐に乗り気のようだ。
 今回は、宮廷近衛師団が駆けつけているということもあり、少しだけ楽観的に考えているのかもしれない。

 ――だが、しかし。
 
 ゼノは、そんな風に楽観的になることはできなかった。
 
(今度こそ、俺が1人で行くべきなんじゃないのか?)

 この前は、モニカとアーシャに強引に押し切られてしまったが、今回の敵は魔大陸に潜む獄獣だ。

 バハムートの戦闘力については未だ謎な部分が多いが、四獄獣の1体に数えられ、人魔大戦中は、アスター王国の町をいくつか壊滅させたという伝承も残っている。

 けれど、もちろんゼノも分かっていた。

 自分の力は、非力だということを。
 自分の力だけで、Sランク冒険者になれたわけではないということを。

 すべて、周りにいる仲間たちのおかげなのだ。

 この場で3人を置き去りにして自分だけが向かうということは、彼女たちを信用していないことと同義であった。

「……お兄ちゃん?」 

 ベルが心配そうに覗き込んでくる。
 見れば、モニカもアーシャも、同じような顔でゼノに目を向けていた。

(いや……。俺が迷ってどうするんだ。【天空の魔導団クランセレスティアル】のリーダーは俺なんだ) 

 先頭に立つ者が迷っていたら、皆も心を決めることができない。
 だから、ゼノは3人にこう訊ねた。

「みんな……本当にいいのか?」 

 すると、彼女らは全員笑顔を見せて頷く。
 
「当たり前じゃん? 何言ってんだ、早く行こうぜ!」

「前にもお伝えしました。ゼノ様が赴くのでしたら、危険な目に遭わせるわけにはいきません。何かあれば、すぐにわたしが治療して差し上げますから♪」

「ベルも行きたい……。お兄ちゃんと一緒なら、バハムートだって倒せる……」

「ありがとう、みんな。よし……。準備ができたら、すぐに出発しよう!」 

 ゼノの言葉に、【天空の魔導団クランセレスティアル】の面々は声を上げる。
 こうして、ゼノたちはクレルモン領の領都ルアへ向かうことになった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...