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4章
第5話
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「……はぁっ、はぁ……っぁ……んはぁ……!」
小高い丘に、いくつかの遺跡が建ち並ぶラウプホルツ古戦場跡。
夕陽が差し込む中、エルフの少女が汗を流しながら必死で走っていた。
この逃走劇は、彼女にとって一世一代の賭けでもあった。
今、逃げなければ、自分は恐ろしい悪行に手を染めてしまう。
そんな思いが少女の中にはあった。
後ろを振り返れば、紅のマントを羽織った集団――レヴェナント旅団の構成員たちが追いかけて来ている。
全部で10人ほどいた。
「てめぇー! 待ちやがれ、ベル! 勝手に逃げやがって!」
「奴隷の分際で、俺たちの裏をかくとはいい度胸だ」
「くそが! 逃げ切れると思うなよッ……!」
(っ……)
立ち止まれば、確実に捕まってしまう。
〝ベル〟と呼ばれたエルフの少女は、さらに脚を加速させた。
亜人族は人族に比べて俊敏性に長けている。
そのため、基本的には人族よりも速く走ることができた。
しかし、相手は大人の男たちだ。
子供相手なら逃げ切れる場面であったが、過酷な訓練を受けたレヴェナント旅団の構成員の前ではそれも難しい状況にあった。
「はぁっ……はぁ……っぁ……!」
ベルは、とにかく足を必死で前に出し続けた。
ここで逃げ切らなければ、またあの地獄のような日々に逆戻りだと分かっていたからだ。
(もうイヤっ……あんなこと、絶対にしたくない……)
必死で逃げ続けるベルの後方から怒鳴り声が聞える。
「あの奴隷……! ちょこまかと……ふざけやがって!」
後を追っているうちの1人が、走りながら弓矢を手にして術式発動の構えに移る。
「〈トニトルス・アロー〉!」
その瞬間、雷の矢がベルの背中にめがけて飛んで行く。
シューーン!
「……うっ……!」
一瞬、矢先がベルの右腕をかすめた。
「ち、外したか……。おい、お前ら!」
「分かってる。俺たちも連続で仕掛けるぞ」
「了解した!」
弓矢を手にした構成員たちは、走りながら〈トニトルス・アロー〉を一斉に発動する。
シューーン! シューーン!
数本の雷の矢が、ものすごいスピードで飛んでいく。
それに気付いたベルが、後ろを振り返ったその時。
(……ッ、ダメっ……!!)
構成員の男たちでも、予期していなかったことが起きる。
突如、ベルの右手の甲に、光の紋章が現れたのだ。
それは瞬く間に、ベルの全身を覆うような大きさまで広がっていき、やがて巨大な赤色の光の盾となる。
その直後。
盾からものすごい勢いで業火が放たれた。
ズズズズズドゴオオオオオオォッーーーーー!!
数本の雷の矢は、一瞬のうちにして焼け消えてしまう。
「〔ブレイジングバッシュ〕!? 一旦、攻撃は中止にしろッ……!」
「くっ、これでも反応しちまうのかよ……」
「やっぱり、とんでもねー力を持ってやがる。あの奴隷……!」
構成員の男たちが弓矢をしまうのを確認しながら、ベルは自らの力に改めて恐怖した。
なぜなら、今しがたのスキルは、彼女が意図して発動したものではないからだ。
ベルが所有する〔ブレイジングバッシュ〕というスキルは、自らの命が危険になると、勝手に発動してしまうのである。
(イヤぁ……)
ベルは、自分が怖かった。
もうどうすればいいのか分からず、再び無我夢中で走り始める。
が。
その逃走劇は、呆気なく幕を閉じる。
「……っ、きゃっ!?」
遺跡の段差に躓いてしまい、ベルはその場で派手に転んでしまう。
(……ぅ、うっ……)
体もボロボロとなり、すでに気力も限界が近付いていた。
「アイツ、転んだぞ! 今がチャンスだっ……!」
「ったく……手間取らせやがって!」
「〔ブレイジングバッシュ〕を発動される前に一気に捕らえる!」
レヴェナント旅団の構成員たちは、倒れたベルのもとへゆっくりとにじり寄っていく。
「ひっ!?」
恐怖心から立ち上がることもできず、ベルはただ、男たちが迫って来る様子を目で追うことしかできない。
「このまま逃げられたなんてことになれば、大目玉を食らっちまう……!」
「絶対に捕まえてやるからな……大人しくしてろよ」
「あと少しだ。一斉に飛びかかって捕まえるぞ……!」
一歩、また一歩と。
構成員の男たちは、慎重な足取りでベルに近付いていく。
(……だ、誰か……助けてっ……。お願い…………ゼノ!!)
少女がそう願ったタイミングで――。
「《氷焉の斬鉄》!」
シュズゥゥゥゥーーーーーン!!
何者かの大声とともに、鋭く氷結した槍が一斉に構成員たちの進路に降り注ぐ。
次の刹那。
ベルの目の前に、黒いローブを羽織った男が現れた。
(!?)
その姿を目にして、ベルは思わずハッと息を呑む。
なぜなら……。
そこには、彼女が望んた〝ゼノ〟の姿があったからだった。
◆
《追跡》の魔法を使って、レヴェナント旅団の足取りを追っていたゼノたちは、半日かけて彼らがラウプホルツ古戦場跡というカロリング領最南端の遺跡に身を隠していることを突き止めた。
「多分、あそこで間違いない。旅団が潜んでいるはずだ」
光の追跡痕がそこで途切れていることを確認すると、ゼノは2人にそう伝える。
「どうすんだ、ゼノ?」
「一旦、イニストラードに戻って、マシューさんにこのことを報告しましょうか?」
「いや……このまま相手陣営に乗り込んだ方がいい気がする」
光の追跡痕はラチャオ村から一直線にのびていたため、レヴェナント旅団は村を焼き払ってからずっとラウプホルツ古戦場跡に身を潜めていたことになる。
ということはつまり、次の行動にいつ出るか分からない状況にあると言えた。
(イニストラードに戻っている間にも、新たな行動を始めてしまうかもしれない)
いくらカロリング侯爵騎士団が警護に当たっているからといって、レヴェナント旅団が反逆行為を開始したら、被害を出さずにいることは難しいに違いなかった。
「俺はそう思うんだけど……2人はどうかな?」
「へっ! もちろん、答えは決まってるぜ! アタシは惚れた男に全力でついて行く!」
「わたしもです! ゼノ様を危険な目に遭わせるわけにはいきませんから♪」
「うん。それじゃ、このままアジトへ向かおう」
モニカとアーシャが頷くのを確認すると、ゼノはラウプホルツ古戦場跡へ向かって歩き始めた。
西日が差し込む中。
小高い丘を目指してしばらく進んでいると、ふとモニカが声を上げる。
「……ゼノ様。なにか声が聞えませんか?」
「声?」
「おいっ! あそこに誰かいるぜ……!」
アーシャが指さす方向へ目を向ければ、たしかにそこには複数の人影があった。
全部で10以上ある。
「あれは……おそらく、レヴェナント旅団の紅マントです! 本当にいましたよ、ゼノ様っ!」
「どうするっ? このまま奇襲をかけるか!?」
アーシャは、背中からクロノスアクス・改を取り出して、早くも臨戦態勢だ。
モニカも緊張気味に、小高い丘へと視線を向けていた。
「いや、ちょっと待ってくれ……。何か様子がおかしい気がする」
ゼノの目には、ある1人の者を残りの全員で追いかけているように映った。
(……なんだ? 何をしているんだ?)
ゼノは、昼間のガチャで手に入れた《クレアボヤンス》の魔石を魔導袋から取り出すと、それをすぐさま聖剣クレイモアのくぼみにはめ込む。
「《クレアボヤンス》」
光輝く剣身に手を当てながらそう唱えると、遠方の集団の様子がゼノの目にはっきりと飛び込んできた。
どうやら、白銀髪の少女を大人の男たちが追いかけているようだ。
「ゼノ、何か分かったのか?」
「どういう状況かはまだ分からないけど……。でも、女の子が追われてる」
「女の子ですか?」
「ああ……」
その時。
直感的に、何か嫌な予感をゼノは抱いた。
そして、あの少女を助けなければ……という思いになる。
「モニカ! アーシャ! ひとまずあの集団の後を追ってみようっ!」
そう声を上げると、ゼノの足は自然と動いた。
小高い丘に、いくつかの遺跡が建ち並ぶラウプホルツ古戦場跡。
夕陽が差し込む中、エルフの少女が汗を流しながら必死で走っていた。
この逃走劇は、彼女にとって一世一代の賭けでもあった。
今、逃げなければ、自分は恐ろしい悪行に手を染めてしまう。
そんな思いが少女の中にはあった。
後ろを振り返れば、紅のマントを羽織った集団――レヴェナント旅団の構成員たちが追いかけて来ている。
全部で10人ほどいた。
「てめぇー! 待ちやがれ、ベル! 勝手に逃げやがって!」
「奴隷の分際で、俺たちの裏をかくとはいい度胸だ」
「くそが! 逃げ切れると思うなよッ……!」
(っ……)
立ち止まれば、確実に捕まってしまう。
〝ベル〟と呼ばれたエルフの少女は、さらに脚を加速させた。
亜人族は人族に比べて俊敏性に長けている。
そのため、基本的には人族よりも速く走ることができた。
しかし、相手は大人の男たちだ。
子供相手なら逃げ切れる場面であったが、過酷な訓練を受けたレヴェナント旅団の構成員の前ではそれも難しい状況にあった。
「はぁっ……はぁ……っぁ……!」
ベルは、とにかく足を必死で前に出し続けた。
ここで逃げ切らなければ、またあの地獄のような日々に逆戻りだと分かっていたからだ。
(もうイヤっ……あんなこと、絶対にしたくない……)
必死で逃げ続けるベルの後方から怒鳴り声が聞える。
「あの奴隷……! ちょこまかと……ふざけやがって!」
後を追っているうちの1人が、走りながら弓矢を手にして術式発動の構えに移る。
「〈トニトルス・アロー〉!」
その瞬間、雷の矢がベルの背中にめがけて飛んで行く。
シューーン!
「……うっ……!」
一瞬、矢先がベルの右腕をかすめた。
「ち、外したか……。おい、お前ら!」
「分かってる。俺たちも連続で仕掛けるぞ」
「了解した!」
弓矢を手にした構成員たちは、走りながら〈トニトルス・アロー〉を一斉に発動する。
シューーン! シューーン!
数本の雷の矢が、ものすごいスピードで飛んでいく。
それに気付いたベルが、後ろを振り返ったその時。
(……ッ、ダメっ……!!)
構成員の男たちでも、予期していなかったことが起きる。
突如、ベルの右手の甲に、光の紋章が現れたのだ。
それは瞬く間に、ベルの全身を覆うような大きさまで広がっていき、やがて巨大な赤色の光の盾となる。
その直後。
盾からものすごい勢いで業火が放たれた。
ズズズズズドゴオオオオオオォッーーーーー!!
数本の雷の矢は、一瞬のうちにして焼け消えてしまう。
「〔ブレイジングバッシュ〕!? 一旦、攻撃は中止にしろッ……!」
「くっ、これでも反応しちまうのかよ……」
「やっぱり、とんでもねー力を持ってやがる。あの奴隷……!」
構成員の男たちが弓矢をしまうのを確認しながら、ベルは自らの力に改めて恐怖した。
なぜなら、今しがたのスキルは、彼女が意図して発動したものではないからだ。
ベルが所有する〔ブレイジングバッシュ〕というスキルは、自らの命が危険になると、勝手に発動してしまうのである。
(イヤぁ……)
ベルは、自分が怖かった。
もうどうすればいいのか分からず、再び無我夢中で走り始める。
が。
その逃走劇は、呆気なく幕を閉じる。
「……っ、きゃっ!?」
遺跡の段差に躓いてしまい、ベルはその場で派手に転んでしまう。
(……ぅ、うっ……)
体もボロボロとなり、すでに気力も限界が近付いていた。
「アイツ、転んだぞ! 今がチャンスだっ……!」
「ったく……手間取らせやがって!」
「〔ブレイジングバッシュ〕を発動される前に一気に捕らえる!」
レヴェナント旅団の構成員たちは、倒れたベルのもとへゆっくりとにじり寄っていく。
「ひっ!?」
恐怖心から立ち上がることもできず、ベルはただ、男たちが迫って来る様子を目で追うことしかできない。
「このまま逃げられたなんてことになれば、大目玉を食らっちまう……!」
「絶対に捕まえてやるからな……大人しくしてろよ」
「あと少しだ。一斉に飛びかかって捕まえるぞ……!」
一歩、また一歩と。
構成員の男たちは、慎重な足取りでベルに近付いていく。
(……だ、誰か……助けてっ……。お願い…………ゼノ!!)
少女がそう願ったタイミングで――。
「《氷焉の斬鉄》!」
シュズゥゥゥゥーーーーーン!!
何者かの大声とともに、鋭く氷結した槍が一斉に構成員たちの進路に降り注ぐ。
次の刹那。
ベルの目の前に、黒いローブを羽織った男が現れた。
(!?)
その姿を目にして、ベルは思わずハッと息を呑む。
なぜなら……。
そこには、彼女が望んた〝ゼノ〟の姿があったからだった。
◆
《追跡》の魔法を使って、レヴェナント旅団の足取りを追っていたゼノたちは、半日かけて彼らがラウプホルツ古戦場跡というカロリング領最南端の遺跡に身を隠していることを突き止めた。
「多分、あそこで間違いない。旅団が潜んでいるはずだ」
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「どうすんだ、ゼノ?」
「一旦、イニストラードに戻って、マシューさんにこのことを報告しましょうか?」
「いや……このまま相手陣営に乗り込んだ方がいい気がする」
光の追跡痕はラチャオ村から一直線にのびていたため、レヴェナント旅団は村を焼き払ってからずっとラウプホルツ古戦場跡に身を潜めていたことになる。
ということはつまり、次の行動にいつ出るか分からない状況にあると言えた。
(イニストラードに戻っている間にも、新たな行動を始めてしまうかもしれない)
いくらカロリング侯爵騎士団が警護に当たっているからといって、レヴェナント旅団が反逆行為を開始したら、被害を出さずにいることは難しいに違いなかった。
「俺はそう思うんだけど……2人はどうかな?」
「へっ! もちろん、答えは決まってるぜ! アタシは惚れた男に全力でついて行く!」
「わたしもです! ゼノ様を危険な目に遭わせるわけにはいきませんから♪」
「うん。それじゃ、このままアジトへ向かおう」
モニカとアーシャが頷くのを確認すると、ゼノはラウプホルツ古戦場跡へ向かって歩き始めた。
西日が差し込む中。
小高い丘を目指してしばらく進んでいると、ふとモニカが声を上げる。
「……ゼノ様。なにか声が聞えませんか?」
「声?」
「おいっ! あそこに誰かいるぜ……!」
アーシャが指さす方向へ目を向ければ、たしかにそこには複数の人影があった。
全部で10以上ある。
「あれは……おそらく、レヴェナント旅団の紅マントです! 本当にいましたよ、ゼノ様っ!」
「どうするっ? このまま奇襲をかけるか!?」
アーシャは、背中からクロノスアクス・改を取り出して、早くも臨戦態勢だ。
モニカも緊張気味に、小高い丘へと視線を向けていた。
「いや、ちょっと待ってくれ……。何か様子がおかしい気がする」
ゼノの目には、ある1人の者を残りの全員で追いかけているように映った。
(……なんだ? 何をしているんだ?)
ゼノは、昼間のガチャで手に入れた《クレアボヤンス》の魔石を魔導袋から取り出すと、それをすぐさま聖剣クレイモアのくぼみにはめ込む。
「《クレアボヤンス》」
光輝く剣身に手を当てながらそう唱えると、遠方の集団の様子がゼノの目にはっきりと飛び込んできた。
どうやら、白銀髪の少女を大人の男たちが追いかけているようだ。
「ゼノ、何か分かったのか?」
「どういう状況かはまだ分からないけど……。でも、女の子が追われてる」
「女の子ですか?」
「ああ……」
その時。
直感的に、何か嫌な予感をゼノは抱いた。
そして、あの少女を助けなければ……という思いになる。
「モニカ! アーシャ! ひとまずあの集団の後を追ってみようっ!」
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