迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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2章

第10話

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 敷地の坂を登って本館の外壁が見えてくると、その門の前に立っている人物がいることにゼノとモニカは気付く。

 ポーラだ、と。
 その人物が誰か、2人にはすぐに分かった。

 途端に緊張感が走り抜けるが、相手はゼノとモニカが再びやって来たことに、まるで気付いていなかった。

 ポーラは何かを待つように、遠くの方をずっと眺めている。
 やがて、ゼノたちが彼女の視界に入るような距離まで近付くと……。

「!」

 大きく目を見開き、ポーラは驚きの声を上げる。
 
「……あ、貴女たちッ……。ど、どうして……!?」

 その声には、現れるはずのない者の姿を目撃して戸惑っているような、心慌意乱の感情が含まれていた。

 ポーラの様子がどこかおかしいことに気付いたのか、モニカは一瞬眉をひそめる。
 ゼノだけが、彼女が何に対して驚いているのかが分かっていた。

 だからこそ、何でもなさそうに声をかける。

「こんにちは、院長さん。また、お邪魔させていただきました」

「な……なんで、貴女たちがここに……」

 ポーラは相変わらず、混乱したように声を漏らしていた。

「ひょっとして、誰かが来るのを待っていたりします? たとえば……修道院護衛隊の方たちとか」

「!?」

「修道院護衛隊……?」
 
 頭にハテナマークを浮かべるモニカとは対照的に、ポーラはすべてを悟ったような、怒りに打ち震える表情を覗かせる。

「くっ……」

 そして、すぐさま踵を返すと、早足で本館の中へと入っていく。

「モニカ! 後を追いかけよう!」

「え? あ、はいっ……!」



 ◆



 館内へ足を踏み入れると、モニカは果敢にも後ろからポーラに向かって声を張り上げた。

「ま……待ってください、ポーラ院長っ! お話があるんです!」

「二度とここへは近付かないでと言ったはずです……!」

「でも、もう一度話を聞いてほしいんですっ!」

「貴女から聞く話など何もない!!」

 怒鳴りつけながら、ポーラは急いで礼拝堂の中へと入る。
 モニカもその後に続き、諦めずに訴え続けた。

「わたしは、マリア様の像を壊したりなどしていないんですっ! もう一度、きちんと最初から調べていただけませんか……?」

「1年も前の話を今さら! 早くここから出ていきなさいッ! さもなければ……」

 そこで、ポーラの動きがぴたりと止まる。
 彼女は祭壇の中に手を伸ばしていた。

 そして、そこから何かを取り出す。
 
「! それはっ……」
 
 ポーラが手にしていたのは、黄金の大きな弓矢であった。

「これを知らないわけじゃないですよね? ワルキューレの聖弓です。これ以上、ここに留まるようなら……躊躇なくこれを撃ちます!」

「ッ」

 後から追いかけてきたゼノが、モニカの横に立ち並びながら訊ねる。

「なんだ、あの武器は?」

「……この修道院に代々伝わる聖弓です。マリア様が悪党を追い払うのに使った武器と言われていて、ヒーラーでも扱える特殊な物なんです」

 そうモニカが答えたタイミングで――。
 
 ガチャッ。

 正面入口の扉が開く。
 すると、午前の日課を少し早めに終えたシスターたちが一斉に礼拝堂の中に現れる。

 おそらく、昼食を取るために、隣接する本館へ向かおうとしていたのだろう。

 そんな彼女らの姿を見てポーラはフッと笑みをこぼすと、すぐに大声を上げた。 

「皆さん、見てくださいッ! 以前追放したモニカさんが汚らわしい男を連れて、我々の神聖な修道院に足を踏み入れてきました! そして、たった今、あろうことか……自分を修道院へ戻さないのなら、ここで私を殺すと迫って来たのですッ!!」

「えっ?」

 モニカが驚きの声を上げるも、それはシスターたちの騒ぎ声によってかき消されてしまう。

「またアイツよ! 昨日、私たちの声に変な細工した下衆な男……」
「殺すって……きっと、悪霊に取り付かれているんだわ! この異常女っ!」
「貴女、恥を知りなさいよ! 追放された分際で、院長を脅迫しようなどと……」
「永久にここから立ち去ってください。やり方が卑怯ですわ……!」

「ち、違いますっ……! わたしはッ……話を聞いてください……!」

 何か言おうとするも、周りから一斉に罵声を浴びせられ、モニカの声は届かない。

 そんな光景を目の当たりにして、ポーラが礼拝堂へと駆け込んだ目的はこれだったんだ、とゼノは悟った。

 そうこうしているうちに、ポーラは矢を弓柄(ゆづか)にセットして、弦(つる)をゆっくりと引いていく。
 そして、照準をモニカに合わせてしまうと、そこでようやく勝ち誇ったような顔を浮かべた。

「モニカさぁーん? 貴女がマリア様の像を壊したんでしょう? あの時は認めなかったのですから、今、皆さんのいる前で……きちんとそれを認めなさい!」

「ぅっ……」

「そしたら、これを撃つのだけは見逃してあげますから。ね? さぁさぁ、今ここでちゃんと罪を告白しなさい! 〝私がマリア様の像を故意に破壊しました〟って……そう言いなさいよッ!!」

 ポーラの目は本気だ。
 この場でモニカに、罪を無理矢理認めさせようとしている。

 もちろん、そんなことをさせるわけにはいかなかった。
 ゼノはスッとモニカの前に立つ。

「ゼノさんっ……!?」

「ここは俺に任せてくれ」

 そう呟くと、ゼノはポーラに向き直った。

「ちょっと、そこを退きなさい! 私は今、モニカさんと真剣な話を……」

「1つだけ確認してもいいですか? 院長さん。あなたは、モニカが聖マリアの像を壊すところを直接その目で見たんですか?」

「は……はぁ……?」

「だって、普通は現場を目撃していないと、そこまで強く迫れないですよね? ましてや、相手の術式にスキルで制限をかけるなんて、そんなことはできないはずです」

「……ッ、何度も言ってます! その者が、マリア様の像を壊したんです!」

「なるほど……。そこまで確信があるってことは、現場を目撃したってことでいいですか?」

「え、ええ……っ! そうですッ! 私はこの目ではっきりと見ました! モニカさんがマリア様の像を壊す瞬間を!」

 ポーラがそう口にすると、シスターたちの間で黄色い歓声が上がる。
 よくぞ言ってくれたと、そんなモニカを一方的に責める空気が、そこにはすでに出来上がってしまっていた。

「っ……」

 それを見て、モニカは薄く下唇を噛む。

 本当にやっていないのに、どうして誰も信じてくれないのか。
 どうしようもない歯痒さで、モニカはぐるぐるに縛り付けられてしまっていた。

 すると、ちょうどそんなタイミングで。

 カラン、カラン……カラン、カラン。

 正午を告げる鐘がグリューゲル修道院に鳴り響く。
 
(……よし)

 ゼノはそれを確認すると、モニカの肩にそっと手を置く。
 そして、サッと縄を解くように、モニカの葛藤に終止符を打ってしまう。

 それは、ある一言から始まった。
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