迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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2章

第9話

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 夜。
 ゼノたちがテントを張る遠く離れた茂みで、蠢く影が複数あった。

 その数は全部で4つ。
 グリューゲル修道院所属の護衛隊の者たちの影だ。
 
 そのうちの1人である隊長が、隊員たちに向けて静かに話を切り出す。

「標的は2人だ。用心棒の男は魔導師で、こちらの存在に気付けば、魔法を使ってくる可能性がある。十分に注意しろ」

「ですが、隊長。本当に殺してよろしいのですか? 女は元シスターという話ですが」

 望遠鏡をしまいながら、護衛隊員の1人が口にする。

「問題ない。女は、マリア様の像を破壊した背教者だと院長は話していた。それに、修道院の者たちを皆殺しにするという脅迫まで行ったという。聖マリア教の信徒を守るためにも、我々は職務を全うするだけだ。行くぞ」

 隊長の号令に、その場にいる全員が頷く。
 彼らもまた、熱心な聖マリア教の信徒であった。

 大聖女マリアの像を破壊し、院長であるポーラを脅迫してきた事実は、信徒の彼らにとって決して許されるものではない。
 たとえ、血なまぐさい行為に及んだとしても、背教者にはそれ相応の天罰が下るべきだと、修道院護衛隊の全員は考えていた。

 4人で陣形を整えながら、彼らは慎重に前進していく。
 皆、〈弓術〉の使い手――アーチャーだった。

 〈弓術〉は、魔導師が相手ならば、一番有利の術式と言える。
 当然、彼らの頭の中には、魔導師が扱う13種類の魔法すべてが入っていた。

 だから、万が一、相手がこちらの存在に気付いて魔法を使ってきたとしてもその対策は万全だ。

 たとえ、上級魔法の《時間停止》と《支配》を使用してきたとしても、きちんと距離さえ確保しておけば、相手の術中にはまらないことを、この場にいる全員が熟知していた。

 弓を手に取り、いつでも術式が発動できる構えのまま、4人はゆっくりと草むらを進んで行く。
 そのまま歩いてしばらくすると、標的が宿泊しているテントの輪郭が、夜闇の中に徐々に浮かび上がってくる。

「……いいか? 私の合図で〈エアレイド・アロー〉を一斉に放つぞ」

 その言葉に隊員たちは一斉に頷く。
 〈エアレイド・アロー〉は、遠く離れた位置からでも、標的に向けて攻撃を当てることができる術式だ。

 矢を弓柄ゆづかにセットし、つるをゆっくりと引いていく。

「隊長。こちらはいつでも発動可能です」

 隊員の1人がそう口にすると、他の2人も頷き合う。

「よし。それでは私の合図で一斉に術式を発動する。3、2、1……」

 隊長がカウントを読み上げた、その時――。

「やっぱりか」

「!?」

 4人の背後で何者かの声が上がる。
 
「皆さん、院長さんの命令でここまでやって来たんですね?」

「なっ……」

 暗闇に浮かぶ影の姿が明らかになると、修道院護衛隊の者たちはハッと息を呑んだ。

「魔導師っ!? どうしてここに……!?」

 隊長が矢を向ける先には、ゼノの姿があった。
 
 他の3人もすぐに矢の照準をゼノに合わせるも、カチカチと手元を震わせてしまう。
 突然、ゼノがこの場に現れたことに、まだ理解が追いついていないのだ。

「どこから現れたッ!? 我々はたしかに、お前ら2人がテントの中に入るのを確認してたんだぞ……!」

「念のために、テントの中で《監視》の魔法を使っておいたんですよ。俺たちがキャンプしているこの周辺に、誰かが入って来たらすぐに分かるように」

「《監視》の魔法っ……? 一体、何を言って……」

 すると、そんな会話の隙を突く形で、

「〈エアレイド・アロー〉!」

 隊員の1人がゼノに目がけて術式を発動する。

 が。

「っ!?」

 シューーン!

 風の矢は空を切って、あらぬ方向へと飛んでいく。
 外すのが難しいくらいの至近距離だったが、隊員は攻撃を当てることができない。

 それもそのはず。
 一瞬のうちにして、ゼノが姿を消したからだ。

「……っと。少しヒヤっとしました」

「お、お……お前ッ、何者なんだ!?」

 手元をカチカチと震わせながら、まるで得体の知れない化物でも見るような目つきで、隊長はゼノに矢を向ける。

「さっきから俺が使っているのは《透明》っていう魔法なんです。これ、結構便利ですよ? 時間内なら、好きなように姿を現したり消したりすることができるので」

「た、隊長ッ! コイツは早く殺さないと危険です……術式発動のご命令を!」

 先行して攻撃を仕掛けた隊員が、矢を新たにセットしながら叫ぶ。
 隊長は彼の言葉にすぐに頷いた。

「陣形整えッ!」

 その号令に、隊員たちは素早く横並びになってゼノに照準を合わせる。

「〈エアレイド・アロー〉放てッーーー!!」

  シューーン! シューーン!

 その瞬間、無数の閃光がゼノに向かって飛んでいく。
 だが、それを回避することは、今のゼノにとって造作もないことであった。

 すぐさま姿を消して、相手の攻撃をいとも簡単に避ける。
 
「構うな! 繰り出し続けろぉぉーー!!」

 命令に従い、護衛隊員たちは、ゼノが消えた夜闇に向かって〈弓術〉を放ち続ける。
 休む間もなく〈エアレイド・アロー〉を浴びせ続ければ、いつかは相手に当たると隊長は考えていたのだ。

 だが、目の前に集中しすぎたせいか、その後ろはがら空きとなってしまっていた。
 また彼らは、ゼノが姿を消している間も自由に動き回れるということに気付いていなかった。

 容易く4人の裏を取ると、ゼノは聖剣クレイモアに新たな魔石をセットする。
 そして、そっとその場に姿を現した。

「悪いですけど、皆さんには少し眠っていただきます」

「後ろっ!?」

 隊長がゼノの存在に気付いた時にはすべてが遅かった。

「《雷帝の独楽エレキインパクト》」

 高く掲げた光の剣をゼノが思いっきり振り下ろすと、火花を散らした無数の稲妻が炸裂する。

 バチッバチッバチッバチッーーーーンッ!!

「「「「ぎゃあああぁぁぁっ~~~!?!?」」」」

 縦横無尽に駆け抜けた紫電により、彼らの全身は一瞬のうちにして黒焦げとなった。

 その場で倒れた修道院護衛隊の姿に目を落とすと、ゼノは小さくため息をつく。

「ふぅ……。4人も送り込んできたのか」

 彼らの熟練された立ち振る舞いから見ても、戦闘のプロであったのは間違いない、とゼノは思う。
 ポーラが自分たちを殺すつもりで刺客を送り込んできたことに、ゼノは考えを改めざるを得なかった。

「……あの院長さん。口で言って分かるような相手じゃなさそうだな……」

 まだ薄暗い夜空を見上げながら、ゼノはそんな風に思うのだった。



 ◆



 翌朝。

「モニカ、朝だ。起きてくれ」

「……ふわぁぁ~~。もぉ、朝なんですかぁ……?」

「随分とぐっすり寝てたな」

「ゼノさんが傍にいるって思ったら、なんか安心しちゃって。んんぅーー!」

「そうか」

 どうやらこの分だと、深夜の騒ぎには気付いていないだろう、とゼノは思った。

「それじゃ、準備ができ次第出発しよう。院長さんに会いに行くなら、早めに出ないと日課で籠ってしまうかもしれないから」

「はぁ~~い」

 気のない返事をしたところで、モニカはハッとする。
 
「ぇ……。ちょっと……待ってください。わたしの寝起きの顔、見ちゃいました……?」

「? もうとっくに見ているけど?」

「~~ッ!?」

「あっ。朝食が欲しいんなら、昨日の残りを調理しちゃうけど、どうする?」

「い、いりませんっ……! てか、乙女の朝はいろいろとやることがあるんで、今すぐここから出て行ってくださいぃ~~!!」

「お、おいっ……!?」

 恥ずかしそうに顔を赤くさせると、モニカはゼノを無理矢理テントから追い出すのだった。





 ――それから。

 すぐにキャンプを出発した2人は、再びグリューゲル修道院を目指して田舎道を歩いていた。
 徐々に、修道院が近付いて来るにつれて、モニカの顔が雲っていく。

「モニカ、大丈夫か?」

「え?」

「なんか、顔色が悪い気がするけど」

「へ、へーきです……。少し緊張してきただけですから」

「……」

 昨日は、何も考えずにポーラと会ったわけだが、モニカの過去を知った今、彼女の緊張感をまるで自分のことのようにゼノは感じていた。

 追放された場所へ再び戻ろうとしているのだ。
 
(俺は、こんな風にドミナリアへ戻れるだろうか?)

 モニカの肩は微かに震えている。

 しかし。
 それでも彼女は、決して歩みを止めようとはしなかった。

 そのまましばらく田園地帯を歩き続けると、やがてグリューゲル修道院の外観が小さく見えてくる。

 並んで歩くゼノは、隣りのモニカの顔を一度覗き込む。
 彼女はもう、まっすぐに前だけを見つめていた。

「行きましょう、ゼノさん」

「ああ」

 その言葉に頷くと、ゼノはモニカと一緒に修道院の敷地へと足を踏み入れた。
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