30 / 90
2章
第4話
しおりを挟む
「……え!? フォーゲラングの聖女様!?」
「どうも……」
モニカは少しだけバツが悪そうに小さく頭を下げる。
「うわぁ~! こんな所で奇遇だなっ! 元気だったか?」
「まぁまぁ、ですね……」
「というか、どうしてここにいるんだ? フォーゲラングの村で仕事があったんじゃ……」
あれだけ熱心に、村から出て行ってくれと主張していた彼女がマスクスにいることに、ゼノは疑問を抱く。
「……それは……」
「それは?」
「……」
モニカは一度俯くも、すぐに顔を上げて人差し指を突き立てながらゼノに迫った。
「……貴方のせいで! わたしは村にいられなくなったんですぅ!」
「!」
「どう責任を取ってくれるんですかぁ~!? 全部、貴方のせいなんですよっー!」
そこでゼノは思い出す。
(そっか……。俺があんな風に、大々的に魔法を使って治療してしまったから。ヘンな噂が広まって、村に居づらくなってしまったんだ)
事情を理解したゼノは、すぐに頭を下げて謝罪した。
「ごめんっ! あの節は、本当に申し訳ないことをしたよ……」
「むぅ~! 今さら謝られたって遅いんですから! この、このぉ……キザったらしの変態ロクでなしやろぉーーぅ!!」
「へっ?」
そう言い放つと、モニカはそのままバタバタと音を立てながらギルドから出て行ってしまう。
(なんだぁ……?)
混乱するゼノに対してティナが声をかける。
「ゼノさん。やっぱり、あの子と知り合いだったんですね」
「あ、はい。マスクスへ来る前に一度会ったことがありまして」
「彼女……この一週間、うちのギルドに入り浸ってます。気付きませんでしたか? ずっとゼノさんの姿を目で追ってたんですよ」
「ハ……? 一週間!?」
「あの子、隠れてるつもりだったんだろうけど。僕らにはバレバレだったねぇ」
(なんだよそれ、ちょっと怖いっ……)
「僕は、ゼノくんのファンなのかなって思ってたんだけどねぇ。でも、今の態度を見ると、かなり危ない感じ? ストーカー気質なところがあるんじゃないかな?」
「ストーカー!?」
そこまで恨みを買っていたのかと、本格的に落ち込むゼノであったが。
「……私が、ゼノさんにワイド山のクエストを依頼した日。実は、ゼノさんがギルドから出て行った後、あの子が受付までやって来たんです。『ゼノさんを甘く見ないでください!』『あの人は、ものすっ~ごく強い魔導師なんですから!』って言って」
「え……」
「そりゃもうすごかったねぇ。君へ対するとてつもない愛情を僕は感じたよん。かなり重そうな感じだったけどねぇ~くくっ」
「ちょっと、リチャードさんは黙って!」
「……ハイ、ごめんなさい」
ティナはリチャードを隣りの席へ追い返すと、おほんと咳払いをしてからゼノに向き直る。
「これまでずっとゼノさんの姿を目で追っていたのは、あんな風に怒りたかったからじゃないと思うんです」
「……」
「きっと、彼女はゼノさんに何か話したいことがあるんだと思いますよ。だから、追いかけてあげてください」
「……っ、分かりました。ありがとうございます!」
ゼノは一度お辞儀をすると、急いで受付カウンターを後にした。
◆
冒険者ギルドの扉を開けると、すぐにモニカの姿は見つかった。
彼女は出入口の柱にもたれて、うな垂れていたのだ。
「っ!?」
ゼノの姿を見つけると、モニカは途端に驚いた表情を覗かせる。
「な、なんで……」
その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
ドスン!
すぐさまモニカの前で跪くと、ゼノは館の玄関ポーチに思いっきり額をぶつける。
「えぇっ!?」
そして、誠心込めて謝罪するのだった。
「聖女様、本当にすまなかった。心からお詫びするよ」
「ちょっと……こんな所でやめてください。他の方が見てますって……」
モニカは恥ずかしそうに周りを気にする素振りを見せる。
出入口ということもあり、ギルドを行き交う冒険者たちは、不思議そうな顔で2人の姿を横目に眺めていた。
けれど、ゼノは構うことなく土下座を続ける。
「こんなことで許されるとは思ってないけど……。俺にできることがあれば何でも言ってくれ」
「っ」
「力になれることはないか? 聖女様の役に立ちたいんだ」
モニカは、玄関ポーチに額を押し当て続けるゼノの姿を見下ろしながら、静かに唇を噛む。
見上げずとも、ゼノには分かった。
彼女が何か口にしようと迷っている、と。
――やがて。
「ふぅ……」
モニカは小さく息を吐き出すと、観念したようにこう呟く。
「……1つだけ、あります……」
「なんだ? 俺にできることなら、なんでも言ってくれ」
そこでようやく顔を上げると、ゼノはモニカに目を向けた。
「明日の朝一番……」
「明日?」
「ここに集合です! あとは、その時に話しますからっ……!」
捨て台詞のようにそう吐きつけると、モニカは走ってその場から立ち去ってしまう。
ゼノは、狐につままれたように、彼女の後ろ姿を見送るのだった。
「どうも……」
モニカは少しだけバツが悪そうに小さく頭を下げる。
「うわぁ~! こんな所で奇遇だなっ! 元気だったか?」
「まぁまぁ、ですね……」
「というか、どうしてここにいるんだ? フォーゲラングの村で仕事があったんじゃ……」
あれだけ熱心に、村から出て行ってくれと主張していた彼女がマスクスにいることに、ゼノは疑問を抱く。
「……それは……」
「それは?」
「……」
モニカは一度俯くも、すぐに顔を上げて人差し指を突き立てながらゼノに迫った。
「……貴方のせいで! わたしは村にいられなくなったんですぅ!」
「!」
「どう責任を取ってくれるんですかぁ~!? 全部、貴方のせいなんですよっー!」
そこでゼノは思い出す。
(そっか……。俺があんな風に、大々的に魔法を使って治療してしまったから。ヘンな噂が広まって、村に居づらくなってしまったんだ)
事情を理解したゼノは、すぐに頭を下げて謝罪した。
「ごめんっ! あの節は、本当に申し訳ないことをしたよ……」
「むぅ~! 今さら謝られたって遅いんですから! この、このぉ……キザったらしの変態ロクでなしやろぉーーぅ!!」
「へっ?」
そう言い放つと、モニカはそのままバタバタと音を立てながらギルドから出て行ってしまう。
(なんだぁ……?)
混乱するゼノに対してティナが声をかける。
「ゼノさん。やっぱり、あの子と知り合いだったんですね」
「あ、はい。マスクスへ来る前に一度会ったことがありまして」
「彼女……この一週間、うちのギルドに入り浸ってます。気付きませんでしたか? ずっとゼノさんの姿を目で追ってたんですよ」
「ハ……? 一週間!?」
「あの子、隠れてるつもりだったんだろうけど。僕らにはバレバレだったねぇ」
(なんだよそれ、ちょっと怖いっ……)
「僕は、ゼノくんのファンなのかなって思ってたんだけどねぇ。でも、今の態度を見ると、かなり危ない感じ? ストーカー気質なところがあるんじゃないかな?」
「ストーカー!?」
そこまで恨みを買っていたのかと、本格的に落ち込むゼノであったが。
「……私が、ゼノさんにワイド山のクエストを依頼した日。実は、ゼノさんがギルドから出て行った後、あの子が受付までやって来たんです。『ゼノさんを甘く見ないでください!』『あの人は、ものすっ~ごく強い魔導師なんですから!』って言って」
「え……」
「そりゃもうすごかったねぇ。君へ対するとてつもない愛情を僕は感じたよん。かなり重そうな感じだったけどねぇ~くくっ」
「ちょっと、リチャードさんは黙って!」
「……ハイ、ごめんなさい」
ティナはリチャードを隣りの席へ追い返すと、おほんと咳払いをしてからゼノに向き直る。
「これまでずっとゼノさんの姿を目で追っていたのは、あんな風に怒りたかったからじゃないと思うんです」
「……」
「きっと、彼女はゼノさんに何か話したいことがあるんだと思いますよ。だから、追いかけてあげてください」
「……っ、分かりました。ありがとうございます!」
ゼノは一度お辞儀をすると、急いで受付カウンターを後にした。
◆
冒険者ギルドの扉を開けると、すぐにモニカの姿は見つかった。
彼女は出入口の柱にもたれて、うな垂れていたのだ。
「っ!?」
ゼノの姿を見つけると、モニカは途端に驚いた表情を覗かせる。
「な、なんで……」
その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
ドスン!
すぐさまモニカの前で跪くと、ゼノは館の玄関ポーチに思いっきり額をぶつける。
「えぇっ!?」
そして、誠心込めて謝罪するのだった。
「聖女様、本当にすまなかった。心からお詫びするよ」
「ちょっと……こんな所でやめてください。他の方が見てますって……」
モニカは恥ずかしそうに周りを気にする素振りを見せる。
出入口ということもあり、ギルドを行き交う冒険者たちは、不思議そうな顔で2人の姿を横目に眺めていた。
けれど、ゼノは構うことなく土下座を続ける。
「こんなことで許されるとは思ってないけど……。俺にできることがあれば何でも言ってくれ」
「っ」
「力になれることはないか? 聖女様の役に立ちたいんだ」
モニカは、玄関ポーチに額を押し当て続けるゼノの姿を見下ろしながら、静かに唇を噛む。
見上げずとも、ゼノには分かった。
彼女が何か口にしようと迷っている、と。
――やがて。
「ふぅ……」
モニカは小さく息を吐き出すと、観念したようにこう呟く。
「……1つだけ、あります……」
「なんだ? 俺にできることなら、なんでも言ってくれ」
そこでようやく顔を上げると、ゼノはモニカに目を向けた。
「明日の朝一番……」
「明日?」
「ここに集合です! あとは、その時に話しますからっ……!」
捨て台詞のようにそう吐きつけると、モニカは走ってその場から立ち去ってしまう。
ゼノは、狐につままれたように、彼女の後ろ姿を見送るのだった。
10
お気に入りに追加
997
あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

裏切り者扱いされた氷の魔術師、仲良くなった魔族と共に暮らします!
きょろ
ファンタジー
【※こちらの作品は『第17回ファンタジー小説大賞』用に執筆した為、既に書き終えてあります! 毎日1~2話投稿予定。9/30までに完結致します! 宜しくお願い致します】
勇者パーティの一員として、魔族と激戦を繰り広げた氷の魔術師・アッシュ。
儚くも魔王に辿り着く前に全滅してしまった勇者パーティ。
そこで氷の魔術師のアッシュだけが、囚われの身となってしまった挙句、
何故か彼は予期せずして魔族と親交を深めていた。
しかし、勇者パーティの一員としての使命を決して忘れずにいたアッシュ。
遂に囚われの身から解放され、仲間の待つ王都へと帰還。
だがそこで彼を待ち受けていたのは信じられない“絶望”だった。
裏切られ、全てを失った氷の魔術師アッシュ。
凍てつく程に冷たい感情が芽生えた彼が次にと行動…。
それは、親交深めた“魔族”との共生であった――。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる