迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
27 / 90
2章

第1話

しおりを挟む
 遡ること1日前。

 モニカは逃げるようにしてフォーゲラングの村から出て行くゼノの姿を見送りながら考えていた。

(……あの人……。一体、どういう人なんですか……)

 頭の中に渦巻くのは、ゼノに言われた言葉の数々だ。

(未発見魔法? 剣に魔石をはめ込んで詠唱すると魔法が発動する? 意味が分かりません……)

 あんなものは、インチキに違いない。
 モニカは心の底からそう考えていた。

 が。

(……ですけど、あの剣があれば、わたしもあの人みたいに、もっと多くの人の傷を癒すことができるんじゃ……)

 自分では治せなかった婦人や女の子の病を、ゼノがいとも簡単に治療してしまったことは、モニカにとって、少なからずショックな出来事であった。
 それは、今の自分が満足に〈回復術〉を使えないというもどかしさに繋がっている。

 なんとかして、昔の自分に戻りたい。

「っ」

 そんな感情に突き動かされる形で、モニカはゼノの後を追うようにして走り出した。



 ◆



(……いたっ!)

 幸いにも、ゼノは村を出てから、まだ目の届く範囲に留まっていた。
 田舎道の真ん中で地図を広げたかと思うと、続けて光のディスプレイを手元に表示させる。

「なにやってるんでしょうか?」

 しばらくの間、少し離れた場所からゼノの様子を観察していたモニカだったが……。

「え? ちょ、ちょっと!?」

 光る剣を大きく天に突き立てた瞬間、ゼノは砂利を跳ね飛ばしながら、ものすごいスピードで田舎道を走り抜けて行く。

 モニカはあっという間に、彼の姿を見失ってしまった。

「なっ……」

 目の前にはただ、のどかな田園風景が広がっているだけだ。
 《疾走》の魔法を使ったに違いない、とすぐにモニカは思った。

「むきぃ~! ホントなんなんです、あの人っ! 発見済みの魔法も使えるんじゃないですかぁ!」

 撒かれたという事実に、モニカの怒りはなかなか収まらない。
 
「こうなったら、絶対に後をつけないと気が済みません」

 だが、彼がどこへ向かったのか、モニカには分からなかった。

(さっき、村を出て近くの町まで行こうと思っているとか言ってましたよね……)

 フォーゲラングの村から一番近い町と言えば、ゴンザーガ領の領都マスクスになる。
 駆け出して行った方角から考えても、おそらく間違いない。

 少し離れているが、徒歩で行けない距離でもなかった。

「でも、今から歩いて向かうってなると、マスクスに着くのは夜中ですね」

 今ならフォーゲラングの村へ引き返すこともできる。
 けれど。

(……わたしは、あの人を追うって決めたんです。なら、今はそれを果たすべきです)

 心を決めたモニカは、そのまま1人で田舎道を歩き始めた。



 ◆



「……はぁ、はぁっ……。やっと、着きましたぁ……」

 聖水を使いながら、なんとか幻獣を避けてマスクスまで辿り着けたはよかったが、すでに辺りは真っ暗だった。

「……っ、ですよね……」

 宿屋へ直行するも、当然のことながら閉まっている。

 仕方ないので、そのまま夜の町を歩き回り、酒屋の裏に積まれた樽の影に1人分の休めるスペースをモニカは発見する。
 こうして、休息できる場所を見つけることはモニカは得意だった。

(……そうです……。わたしはずっとこうやって、住む場所を点々としながら生きてきたんです)

 樽の影に体を沈めると、突然、過去の記憶が思い起こされた。










 モニカが生まれ育ったのは、ソワソン領にあるトレイア孤児院という小さな孤児院であった。
 両親の記憶はなく、物心つく頃には、モニカはすでに孤児院の中にいた。

 だが、自分はラッキーだったとモニカは回想する。

(だって、わたしにはヒーラーとしての素質がありましたから)

 ただ素質があった、というだけではない。
 術値は、とてつもなく高かったのだ。

 素質のない子供たちは奴隷商に引き渡されていったので、モニカのその考えは間違っていない。
 本当に運が良かったのだ。

 それから10歳の誕生日を迎えたモニカは、【術式固定の儀】で高い術値で固定することに成功し、聖女見習いとしてソワソン領のグリューゲル修道院に引き取られることになる。

 入院当初のモニカは、聖女見習いとして精一杯毎日を生きていた。
 当時の女院長は人格者で、孤児であるモニカに対して、とても親身で優しかったのである。
 
 だが、孤児院からやって来たモニカに対して、周りのシスターたちの風当たりは強かった。

(……皆さん、わたしが孤児院出身ってだけで嫌っているようでした)

 シスターたちがモニカを毛嫌いしていた理由の一つは、彼女が稀にみるほどの美少女だったからである。
 また、女院長から優遇されていることや、自分たちよりも高い術値を持っていることも、毛嫌いの理由となっていた。

 そういったさまざまな嫉妬の感情を押し付けられる形で、モニカはいじめを受けてしまう。

 けれど、そんな中にあっても、モニカはグリューゲル修道院に馴染むために頑張った。
 もう、ここしか自分の居場所はないと分かっていたからだ。

 シスターたちによるいじめは女院長がしっかりと咎め、モニカは徐々に、修道院の中で自分の居場所を見つけられるようになる。

 ――しかし。
 そんな日々も長くは続かなかった。

 ある日、女院長が盗賊に襲われて命を落としてしまったのだ。

 彼女はその日、ソワソン領の領都トーメントの南方教会まで足を運んでいたのだが、どうやらその帰り道に不運にも襲われてしまったようだった。

 女院長によって守られてきたモニカの生活は、それから一変してしまう。
 シスターたちによるいじめは再開し、王都の総本山教会から赴任してやって来た新院長のポーラは、モニカに対してとても厳しく当たった。



 彼女は、人族と亜人族の混血であるハーフエルフだった。

 現在、このメルカディアン大陸で生活を送る亜人族は少ない。
 歴史的な背景により、地域によっては亜人族に対する差別が色濃く残っている所も存在し、自分が亜人族であることを隠していたりもする。

 だが、聖マリア教を信仰する南方教会は亜人族に対しても寛大だ。
 大聖女マリアが〝種族の壁を越え、無償の愛で癒しを与えましょう〟という教えを説いていたためだ。

 特に、人族と亜人族の混血は、貴重な存在として南方教会では扱われていた。
 種族の架け橋となる存在と考えられているからである。

 ポーラもそのうちの1人で、そういった背景により、彼女はグリューゲル修道院の新たな院長として赴任して来る。
 修道院の立て直しを期待されていたのだ。

(……そうです。ポーラ院長が来てから、わたしの生活はいろいろとおかしくなっていったんです……)

 ポーラは、魔法至上主義を掲げる国に対抗するには、南方教会の結束が不可欠であり、ヒーラーの血を絶対に絶やしてはいけないという純血主義的な考えを持っていた。

 そのため、どこの両親から生まれたかも分からない孤児のモニカを異物として捉え、前院長が残した負債と考えていた。

 また、他のシスター同様に、自分よりも遥かに高い術値を持つモニカに対して、妬みの感情を抱いており、それが厳しく当たる原因の1つとなっていた。

 そんな環境に居続ければどうなるか。

 あの事件は、ある意味で必然だったと言えるかもしれない、とモニカは回想する。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...