迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
8 / 90
序章

第8話

しおりを挟む
「ゼノくん。私をこの迷宮から出してくれないか?」

 エメラルドが口にした言葉の意味が分からず、ゼノは混乱する。
 
(だって、お師匠様をここから出すには、大賢者様の魔法が必要で……)

 そこで、ゼノはふとある可能性に気が付く。
 ひょっとして……と、ゼノがそう思ったところで、エメラルドが声を上げた。

「私は何も理由なく、君に聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕を渡したわけじゃないんだ」

「どういうこと……ですか?」

 どこか予感めいたものを感じながら、ゼノは訊ねた。

「君には、その2つの力を使って、私をここから出してほしいんだよ」

「!」

「聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕のスキルは、ゼノくんじゃないと扱えない。私ではムリなんだ。だから、これは君にしか頼めないことなんだよ。どうか、私の願いを聞いてくれないだろうか?」

 それは、ゼノが初めてされるエメラルドの頼みごとであった。
 これまで彼女から、こんな風に何かをお願いされた経験は一度もない。

 ゼノにとって、これまでの恩を返す最大のチャンスと言えた。

「……さっきも言ったように、私はこの迷宮から出られないことを、自分への罰だと思ってきたから。それはべつにいいんだ。でも、一度でいいから地上に上がって、あいつの魔法の犠牲となってしまった人たちに懺悔がしたい。そうでもしないと……死んでも死にきれないって思ってね」

「死ぬだなんて……そんな縁起でもないこと言わないでください」

「まぁ、死にたくても私は死ねないんだけどね。けど、できればこの魔法も君に解いてほしいんだ。おそらく、666種類の中にその魔法もきっとあるはずだから」

「っ……。でも、そんなことをしたら……」

 エメラルドは小さく頷く。
 
 普通、人族はそんなに長く生きることはできない。
 エメラルドは、いわば魔法で強制的に生きながらえているに過ぎないのだ。

 それがどれほど精神的に辛いことか。
 たった15年しか生きていないゼノにとっては、到底理解できるようなことではなかった。

 エメラルドの望みを叶えてしまえば、彼女を失ってしまうかもしれない。

 それでも。
 ゼノは彼女の願いを無視することはできなかった。

「……分かりました。俺にできることなら、全力で取り組みたいと思います。でも、まずはお師匠様をこの迷宮から出すのが先です」

「ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていたよ」

 2人の間に、緩やかな静寂が流れる。
 今のゼノとエメラルドは、お互いに言葉を交わさなくとも、相手の感情が分かるような関係になっていた。



 ◆



「それで、具体的に俺はどうすればいいんでしょうか?」

 エメラルドを迷宮から出すためには、〔魔導ガチャ〕で魔石を手に入れる必要がある。
 そこまでは理解できるゼノであったが、果たしてどんな魔法を使う必要があるのかまでは分からなかった。

(☆7の魔石ってことはないだろうし。☆6とか☆5の魔石が必要なのかな)

 けれど。

 彼女から返ってきた言葉は、ゼノの想像を遥かに越えていた。

「えーっと……。あいつが操ることができたすべての魔法を列挙する必要があるね」

「……は、はい? すべて……とは?」

「666種類ある魔石をコンプリートする必要があるって言った方が、分かりやすかった?」

「い……いやいやいやっ! 分かりやすいとか分かりづらいとか、そういう問題じゃなくてっ……!」

「?」

「さらっと、すごいこと言わないでください! コンプリートって……どれくらい時間がかかると思ってるんですか!? というか、俺にはそんなこと絶対に無理ですよ!」

 すべての魔法を列挙する必要があるということは、☆7の魔石も入手しなければならないということだ。
 
(魔大陸へ渡って、その上で獄獣を何体も倒して、さらにそれより強い敵を倒さなくちゃならないなんて……。急に話がぶっ飛びすぎてるっ!)

 だが、それを口にした当の本人はというと、ゼノの慌てっぷりもまるで気にする素振りがない。
 
「〝俺にできることなら、全力で取り組みたいと思います〟って、今言ってくれたじゃないか」

「すべての魔法を列挙するなんてそんな偉業……俺にできることなんかじゃないですって!」

「べつに魔法をすべて使う必要はないんだよ。魔石をコンプリートしてくれたら、それで私はこの迷宮から出ることができるんだ」

「それがハードルが高すぎるんですよ……!」

「そうかな?」

 なんでもなさそうにそんな言葉を口にすると、エメラルドはあっけらかんとこう続ける。

「大丈夫。ゼノくんにならできるよ」

「また、根拠もなくそんなことを……」

「いや、違うよ。最初に会った時言ったよね? 〝君はいずれ、大賢者ゼノのような規格外の魔導師になる〟って。5年前のあの言葉は嘘じゃない。私は信じているんだ。君が世界で最強の大賢者になるって」

 毎回、こんな風に言われているが、未だにゼノには実感がなかった。
 ただ、エメラルドに言われたことを守り、今日まで特訓を続けてきただけなのだ。

「さすがに冗談ですよね? だって、俺は魔法適性ゼロで……」
 
「冗談なものか。もっと自分を信じてくれ。魔法適性ゼロだとか、そんなことはもう関係ないんだよ。君はこれまで私の特訓にも弱音を一切吐くことなく、ずっと努力し続けてきた。これからは、その成果を示す時なんだよ」

「……」

「ゼノくん。私の願いを叶えてくれ。これは、君にしかできない……君だからこそできることなんだから」

 そこで、エメラルドは輝かしいほどの笑みをゼノに向ける。
 さすがにこんな笑顔を見せられては、ゼノは何も言い返せなかった。

(……そうだ。お師匠様は俺の命の恩人なんだ。ここまで言ってもらって、できないなんてことは言えない)

 それに、自分で言った言葉の責任もある。

「すみません……。ちょっと弱気になってました。お師匠様がそう言ってくれるなら、自分を信じて全力でやってみたいって思います」

「私のことは気にしなくていいから。どれだけでも私は待つつもりだよ」

「はい」

 できることなら、エメラルドをなるべく早くこの迷宮から出してあげたいと思うゼノだったが、さすがにこればかりは、どれくらいの時間がかかるかは未知数だった。

(とにかく、やれることを1つずつこなしていくしかなさそうだな)

 ゼノはホルスターを腰に身につけると、そこに聖剣クレイモアを収める。

「それじゃ、俺はこのまま地上へ上がった方がいいですね?」

「いや、ちょっと待ってくれ。あと1つ大事なことをまだ話していないんだ」

「まだ何かあるんですか?」

 正直、ここまでの間に一気に知識を詰め込んだせいで、ゼノの頭はパンク寸前だった。
 だが、そんな弱音も吐いていられない。

「きちんとスキルがゼノくんに渡ったかどうか確認しておきたいんだ。一度、君のステータスを見せてくれるかい?」

「あ、はい」

 ゼノが「ステータスオープン」と唱えると、目の前に光のディスプレイが現れる。
 
 ちなみに、これも魔法陣と一緒でエメラルドから教わったものだ。
 たとえ魔力値が0でも、修行を積めばこれくらいのことは習得できることをゼノは初めて知った。

----------

【ゼノ・ウィンザー】
[Lv]24
[魔力値]0 [術値]0
[力]12 [守]6
[魔攻]170 [速]9 

----------

 そこには、お馴染みのステータスが表示されていた。

 これまでこの迷宮の魔獣を倒したり、修行を続けていく中で、Lvが1から24まで上がったのはゼノとしても嬉しいことだったが、魔導師であれば、本来Lvが10や20になった段階で何かしらの魔法が習得できる。

 だが、ゼノの魔力値は0のため、これまでに習得した魔法はなかった。

 まるで、〝お前は魔導師ではない〟と現実を突きつけられているようで、ゼノは自分のステータスを見るのがあまり好きではなかった。

 そのまま画面を下へスクロールしていくと。

「……っ? ええぇっ!? なんか増えてるんですけど!?」

「うん。ちゃんと渡ったようだね」

 そこには、これまで無かった項目が追加されていた。

----------

[スキル]〔魔導ガチャ〕
[魔石コンプ率]000/666
[所持魔石]なし
[所持クリスタル]青クリスタル×50
[Ωカウンター]000.00%

----------

 [スキル]という項目には、たしかに〔魔導ガチャ〕が追加されている。
 その下には、[魔石コンプ率][所持魔石][所持クリスタル]と続いていた。
 
 そして、そのさらに下には……。

「? なんですか、このΩカウンターって」

 それは初めてゼノが目にする名前だった。
 
 Ωカウンター?
 それだけを見ても、これが一体何を表すものなのかまるで分からない。

「よく気付いたね。それこそが、まだゼノくんに話していなかったことなんだ。これから話す内容は、とても重要なことだからよく聞いてくれ」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...