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2章-3
第32話
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それからしばらく。
俺たちはなにをするわけでもなく、橋にちょこんと座って明るくなりはじめる空を眺めていた。
今なら言ってもだいじょうぶかもしれない。
そんな気持ちが俺の背中を押した。
「あのさ。一昨日のことなんだけど」
「はい?」
「あの、許嫁としてそばにいれるかっていう、アレ……」
「あぁ……あれですか」
マキマは大きく伸びをすると清々しく首を横に振る。
「あれは……もういいんです。今のわたしは神聖騎士隊の隊長です。隊長としてティムさまをお護りするのがわたしの役目だって、それがはっきりと分かったんです。だからあの話は忘れてください。変なこと言ってごめんなさい」
「いや、そういうことならいいんだけどさ! ははは……」
どこか自分の中で区切りをつけたようなその言葉に俺の胸はちくりと痛む。
(なにしんみりしてんだよ)
下心があってマキマにそばにいてほしいって言ったわけじゃないだろ!?
そんな風に自分につっこみを入れてると。
「あっ! 見てくださいティムさま」
「……っ、え、みんな……?」
マキマが指す方へ目を向けると、ウェルミィ、ヤッザンのおっさん、ブライのじいさんの三人が駆け足で向かってくるのが分かった。
「もぅ~! ひどいってマキマっ! うちが先にお兄さまとお話するって約束だったじゃん~!」
「ごめんなさい。ウェルミィさま。どうしてもお伝えしたいことがあったんです」
「そーゆうの抜け駆けって言うんだよ!? むきぃ~~!」
「ワッハハ! まあまあいいじゃないですか! どうやら我々の気持ちは伝わったようですしなぁ!」
「? なんだ、我々の気持ちって」
「うむ? まだ伝わっておらぬのではないかのう?」
「あ、すみません。まだお伝えしておりませんでした」
俺が首を傾げてるとウェルミィが人差し指を立てながら迫ってくる。
「お兄さまひとりだけ行かせたりしないんだからね~♪」
「え?」
「ティムさま。わたしたち〝四人で〟ご一緒について行ってもよろしいでしょうか?」
俺は驚いてみんなの顔を見渡した。
まさか全員来てくれるとは思ってなかったから当然だ。
「本当にいいのか? 俺と一緒に来るってことは、また魔王に襲われる危険があるってことなんだぞ?」
「むしろそんな危険な状況でお兄さまひとりにはさせられないよぉー!」
「そうですとも! 自分は神聖騎士隊副隊長! 命に代えてでもティムさまをお守りしたいと思いますぞ!」
「フォッフォッ。これもなにかの縁じゃ。老いぼれの残されたこの命。ティムさまのために使うとするかのう~」
「みんな……」
「皆さんすべて承知の上でこう言ってくれてます。ティムさま、どうか頼ってください」
マキマのその言葉に俺は頷いた。
「ありがとう。これから厳しい道が待ってるかもしれないけどよろしく頼む」
「もちろんだよお兄さまっ♡」
「自分をどんどん頼ってください! 力となりますぞー!」
「ワシも最大限お役に立つのじゃ~」
5年前のルーデウスになくて今の俺にあるもの。
それは仲間を信じてともに道を進もうとする強さかもしれない。
そんなことを俺は思った。
◇◇◇
「さて。これからどうしようか」
「もちろんお兄さまについて行くだけだよ~!」
「と言われてもなぁ……。特にこれといって当てはないんだけど」
ほとんど見切り発車的に領主館を出たから最初にどこへ向かうか決めてなかった。
半神へと進化するには種族のオーブを集める必要がある。
すべての種族のもとをまわるんだとしても、やっぱり最初って肝心だ。
それによって今後の方針も変わってくるわけだし。
どんな種族がいるか、みんなでそれぞれ挙げてみることに。
===========================
[種族 一覧]
【アドステラー大陸】(北西)
〇人族
魔族の登場までは世界で最大の種族だった。
知能、戦闘能力それぞれ並み以上でスキルという異能を扱うことができる。
〇オーク族
豚を先祖に持つ種族。
知能は低く、まともに言葉を話すことはできない。
本能の赴くままに行動する。
〇ワーキャット族
猫を先祖に持つ種族。
派手で目立ちたがり屋な性格をしており、常に美しい装飾品を身につけている。
〇半鳥族
背中に大きな翼を持つ種族。
比較的大人しい性格だが、自分たちの身に危険が迫ると集団で復讐する習性がある。
〇蜥蜴人族
鋼鉄の硬い鱗と尻尾が特徴。
防御能力は種族随一と言われており、地中深くにシェルターを作り生活している。
【ザンクト大陸】(西)
〇エルフ族
森の中でひっそりと暮らす長寿の種族。
尖った耳が特徴でそのほとんどは女である。
平和と音楽をなによりも好む。
〇トロール族
環境適応能力が非常に高い大型の種族。
ほかの種族を捕食することがあり、再生能力も極めて高い。
〇獣人族
異種族との交流を断絶する孤高の種族。
すばやさに長けており、高速戦闘を得意とする。
〇不死身族
負のエネルギーを動力とする。
その外見は非常に醜く、生命が尽きるまで無尽蔵に動き続ける。
集団で行動することはなく、それぞれが独自に行動する。
【ミカエリス大陸】(中央)
〇魔族
世界最強の種族。
九人の魔王からなる冥界旅団が実権を握り、それを大魔帝ニズゼルファが統べる。
極意という優れた異能を扱う。
【ランドマン大陸】(南)
〇蒼狼王族
イヌイヌ族が進化した種族。
進化したことで戦闘能力が大きく向上した。
料理や家畜の世話を得意とする。
〇オーガ族
『強き者こそ正義』という掟を持つ非常にストイックな種族。
また、受けた恩は返すという義理固い一面も存在する。
〇刀鎧始祖族
ドワーフ族が進化した種族。
武器や防具の製造に長け、モノづくりで右に出るものはいない。
〇コロポックル族
神出鬼没の小人。
非常に温厚な性格をしており、自然をなによりも愛する。
【グシオン大陸】(東)
〇竜族
ドラゴンを先祖に持つ種族。
知能が非常に高く、戦闘能力もずば抜けている。
基本的な能力は魔族よりも優れており、虎視眈々と叛逆の時を狙っている。
〇巨人族
種族の中でいちばん大きな肉体を持つ。
どのような劣悪な環境でも生きのびることができるが、動きが鈍いのが難点。
【ジャムルフィン大陸】(北東)
〇牛頭人族
牛を先祖に持つ種族。
巨大な斧の扱いを得意とし、非常に好戦的な性格をしている。
腕力がなによりの誇りでそのほとんどは男である。
〇マンドレイク族
植物を先祖に持つ種族。
無数の触手を自在に動かし、相手のエネルギーを奪うことを得意とする。
〇サキュバス族
人族の女と非常に似た外見をしている。
背中に黒い翼を持ち、妖艶な美で男どもを誘惑して捕食する。
〇妖精族
とても美しい容姿を持つことで知られる小人。
歌を歌うことで相手を夢の世界へと誘う特殊な力を持つ。
森や湖などの美しい場所を好んで住まう。
【海中】
〇マーマン族
海の中で魚たちに混じりながら生活を送っている。
ほかの種族との交流をなによりも好み、さまざまな場所に出没する。
===========================
魔族によって支配されたミカエリス大陸とここランドマン大陸以外では、現在16もの種族が暮らしてると言われている。
みんなでどうするか話し合うもなかなか行先は決まらない。
いちばん無難なのはコロポックル族に会いに行くことだけど、神出鬼没だからどこにいるか分からないんだよなぁ。
霧丸なら知ってるんだろうけど、これからひっそりと出て行こうって時に訊きにいくわけにもいかず……。
とそんな風に悩んでいると、マキマがこんな提案をしてくる。
「でしたら、いちどコスタ王国へ向かってみるというのはいかがでしょうか?」
「そうですなぁ! コスタ国王は勇者さまが来れば力を貸してくれるという約束ですし!」
「うむ。それに拠点となる場所は必要じゃろう」
たしかにこれからいろいろな種族の協力を得る必要があるわけで。
じいさんが言うように拠点はあった方がいいけど。
「でも俺が行って本当にだいじょうぶなのかな。魔王連中は俺を狙ってるわけだし」
またいつここと同じ目に遭うか分からないんだ。
けど。
四人は特に気にする素振りもなくこう続ける。
「その点は心配せんでもいいはずじゃ。コスタ王国には大きな結界もあるしのう。モンスターは簡単には侵入できないはずじゃ」
「それに精鋭の王国騎兵団もおりますしなぁ~。挨拶のために訪れるくらい問題ないはずですぞ!」
「前はコスタ王国と関係はよくなかったのかもだけど状況が状況なんだし! お兄さまが来たらぜ~ったい喜ぶって! だって勇者さまなんだもん♡」
「ティムさまご安心ください。なにかあればわたしからも国王にお話いたします」
これだけみんなが言うんだ。
信じてみよう。
「分かった。それじゃひとまずコスタ国王に会いに行こう。オーブ集めはそのあとで考えようか」
俺がそう言うとみんなそれに賛成してくれた。
それから。
街の出口まで来るころには地平線から朝陽が覗きはじめていた。
新しい朝がはじまろうとしてるんだ。
そんな輝かしい予感を胸に抱きながら歩いてると、出口のあたりにいくつかの人影があることに気づく。
すぐ分かった。
見間違うはずがない。
これまでずっと一緒にいた仲間たちなんだから。
そう。
そこには幹部のみんなが揃ってたんだ。
「……」
少しだけ後ろめたさがあって足を踏み出すのを躊躇ってしまう。
でも。
マキマがそっと手を握ってくれる。
「だいじょうぶです。皆さんティムさまの味方ですから」
「マキマ……」
勇気を出して一歩踏み出すと、霧丸がゆっくりと頭を下げた。
「申し訳ありませんティムさま。実はブライ殿からロザリオテン城の跡地であった話をすべて聞かせていただきました」
「そうだったのか」
「約束を破ってすまんのう。じゃが、やはり彼らには知る権利があると思ったんじゃ」
「水臭いやないか、ティムはん! なにも言わず出て行こうなんて……ちと寂しいわ~」
「そうですよ! 吾輩たちはティムさまと一緒にいたいんですから!」
「ご、ごめん……」
ドワタンとルーク軍曹の気持ちが伝わってきて思わず尻込みしてしまう。
幹部のみんなの気持ちを思えば、俺の選択は自分勝手のなにものでもない。
けど。
「ですが、主さまのご決断は尊敬したいと思います」
「え?」
てっきり止められるものだと思ってたからガンフーのその言葉は予想外だった。
「魔王と実際に対峙して分かりました。我たちでは力不足だと」
「せやな。ワイらがティムはんについて行っても足手まといになるだけや」
「そうですね。それは吾輩たちの望むことではありません」
「我々のことでしたら心配なさらないでください。ティムさまが繋いでくださったこの強固な種族の絆は、誰にも打ち破れないですから」
霧丸がそう言うと、ガンフー、ドワタン、ルーク軍曹は力強く頷いた。
「モンスターが攻めてきたら、今度こそ辺境調査団が残らず倒してみせますよ~!」
「この国のオーブは、我の命に代えても守り抜いてみせます」
「せやから、オーブを集めて無事帰ってくるんやで、ティムはん!」
「ここがティムさまの故郷だということを忘れないでください。いつまでもティムさまのお帰りをお待ちしております」
「……ありがとう、みんな。かならずオーブをすべて集めて帰ってくるから。そのときまでこの国のことは任せたぞ!」
その言葉に幹部のみんなは胸に拳を当てて敬礼する。
こうして。
俺たちは大勢の仲間たちに笑顔で見送られる形で出発することになった。
新たな勇者一行の旅立ちだ。
ポケットに入ったままの金のメダルを握り締め、ルーデウス村での日々をふと思い返す。
いつかやって来ると待ちわびていた勇者さま。
自分がその役目を果たすことになったっていうのはなんとも不思議な気分だ。
いつ勇者さまが訪れるのか、なんてことはもう考える必要はない。
今後の行き先は俺自身が決めることだからだ。
世界を救うその日まで――俺たちは前へ進み続ける。
俺たちはなにをするわけでもなく、橋にちょこんと座って明るくなりはじめる空を眺めていた。
今なら言ってもだいじょうぶかもしれない。
そんな気持ちが俺の背中を押した。
「あのさ。一昨日のことなんだけど」
「はい?」
「あの、許嫁としてそばにいれるかっていう、アレ……」
「あぁ……あれですか」
マキマは大きく伸びをすると清々しく首を横に振る。
「あれは……もういいんです。今のわたしは神聖騎士隊の隊長です。隊長としてティムさまをお護りするのがわたしの役目だって、それがはっきりと分かったんです。だからあの話は忘れてください。変なこと言ってごめんなさい」
「いや、そういうことならいいんだけどさ! ははは……」
どこか自分の中で区切りをつけたようなその言葉に俺の胸はちくりと痛む。
(なにしんみりしてんだよ)
下心があってマキマにそばにいてほしいって言ったわけじゃないだろ!?
そんな風に自分につっこみを入れてると。
「あっ! 見てくださいティムさま」
「……っ、え、みんな……?」
マキマが指す方へ目を向けると、ウェルミィ、ヤッザンのおっさん、ブライのじいさんの三人が駆け足で向かってくるのが分かった。
「もぅ~! ひどいってマキマっ! うちが先にお兄さまとお話するって約束だったじゃん~!」
「ごめんなさい。ウェルミィさま。どうしてもお伝えしたいことがあったんです」
「そーゆうの抜け駆けって言うんだよ!? むきぃ~~!」
「ワッハハ! まあまあいいじゃないですか! どうやら我々の気持ちは伝わったようですしなぁ!」
「? なんだ、我々の気持ちって」
「うむ? まだ伝わっておらぬのではないかのう?」
「あ、すみません。まだお伝えしておりませんでした」
俺が首を傾げてるとウェルミィが人差し指を立てながら迫ってくる。
「お兄さまひとりだけ行かせたりしないんだからね~♪」
「え?」
「ティムさま。わたしたち〝四人で〟ご一緒について行ってもよろしいでしょうか?」
俺は驚いてみんなの顔を見渡した。
まさか全員来てくれるとは思ってなかったから当然だ。
「本当にいいのか? 俺と一緒に来るってことは、また魔王に襲われる危険があるってことなんだぞ?」
「むしろそんな危険な状況でお兄さまひとりにはさせられないよぉー!」
「そうですとも! 自分は神聖騎士隊副隊長! 命に代えてでもティムさまをお守りしたいと思いますぞ!」
「フォッフォッ。これもなにかの縁じゃ。老いぼれの残されたこの命。ティムさまのために使うとするかのう~」
「みんな……」
「皆さんすべて承知の上でこう言ってくれてます。ティムさま、どうか頼ってください」
マキマのその言葉に俺は頷いた。
「ありがとう。これから厳しい道が待ってるかもしれないけどよろしく頼む」
「もちろんだよお兄さまっ♡」
「自分をどんどん頼ってください! 力となりますぞー!」
「ワシも最大限お役に立つのじゃ~」
5年前のルーデウスになくて今の俺にあるもの。
それは仲間を信じてともに道を進もうとする強さかもしれない。
そんなことを俺は思った。
◇◇◇
「さて。これからどうしようか」
「もちろんお兄さまについて行くだけだよ~!」
「と言われてもなぁ……。特にこれといって当てはないんだけど」
ほとんど見切り発車的に領主館を出たから最初にどこへ向かうか決めてなかった。
半神へと進化するには種族のオーブを集める必要がある。
すべての種族のもとをまわるんだとしても、やっぱり最初って肝心だ。
それによって今後の方針も変わってくるわけだし。
どんな種族がいるか、みんなでそれぞれ挙げてみることに。
===========================
[種族 一覧]
【アドステラー大陸】(北西)
〇人族
魔族の登場までは世界で最大の種族だった。
知能、戦闘能力それぞれ並み以上でスキルという異能を扱うことができる。
〇オーク族
豚を先祖に持つ種族。
知能は低く、まともに言葉を話すことはできない。
本能の赴くままに行動する。
〇ワーキャット族
猫を先祖に持つ種族。
派手で目立ちたがり屋な性格をしており、常に美しい装飾品を身につけている。
〇半鳥族
背中に大きな翼を持つ種族。
比較的大人しい性格だが、自分たちの身に危険が迫ると集団で復讐する習性がある。
〇蜥蜴人族
鋼鉄の硬い鱗と尻尾が特徴。
防御能力は種族随一と言われており、地中深くにシェルターを作り生活している。
【ザンクト大陸】(西)
〇エルフ族
森の中でひっそりと暮らす長寿の種族。
尖った耳が特徴でそのほとんどは女である。
平和と音楽をなによりも好む。
〇トロール族
環境適応能力が非常に高い大型の種族。
ほかの種族を捕食することがあり、再生能力も極めて高い。
〇獣人族
異種族との交流を断絶する孤高の種族。
すばやさに長けており、高速戦闘を得意とする。
〇不死身族
負のエネルギーを動力とする。
その外見は非常に醜く、生命が尽きるまで無尽蔵に動き続ける。
集団で行動することはなく、それぞれが独自に行動する。
【ミカエリス大陸】(中央)
〇魔族
世界最強の種族。
九人の魔王からなる冥界旅団が実権を握り、それを大魔帝ニズゼルファが統べる。
極意という優れた異能を扱う。
【ランドマン大陸】(南)
〇蒼狼王族
イヌイヌ族が進化した種族。
進化したことで戦闘能力が大きく向上した。
料理や家畜の世話を得意とする。
〇オーガ族
『強き者こそ正義』という掟を持つ非常にストイックな種族。
また、受けた恩は返すという義理固い一面も存在する。
〇刀鎧始祖族
ドワーフ族が進化した種族。
武器や防具の製造に長け、モノづくりで右に出るものはいない。
〇コロポックル族
神出鬼没の小人。
非常に温厚な性格をしており、自然をなによりも愛する。
【グシオン大陸】(東)
〇竜族
ドラゴンを先祖に持つ種族。
知能が非常に高く、戦闘能力もずば抜けている。
基本的な能力は魔族よりも優れており、虎視眈々と叛逆の時を狙っている。
〇巨人族
種族の中でいちばん大きな肉体を持つ。
どのような劣悪な環境でも生きのびることができるが、動きが鈍いのが難点。
【ジャムルフィン大陸】(北東)
〇牛頭人族
牛を先祖に持つ種族。
巨大な斧の扱いを得意とし、非常に好戦的な性格をしている。
腕力がなによりの誇りでそのほとんどは男である。
〇マンドレイク族
植物を先祖に持つ種族。
無数の触手を自在に動かし、相手のエネルギーを奪うことを得意とする。
〇サキュバス族
人族の女と非常に似た外見をしている。
背中に黒い翼を持ち、妖艶な美で男どもを誘惑して捕食する。
〇妖精族
とても美しい容姿を持つことで知られる小人。
歌を歌うことで相手を夢の世界へと誘う特殊な力を持つ。
森や湖などの美しい場所を好んで住まう。
【海中】
〇マーマン族
海の中で魚たちに混じりながら生活を送っている。
ほかの種族との交流をなによりも好み、さまざまな場所に出没する。
===========================
魔族によって支配されたミカエリス大陸とここランドマン大陸以外では、現在16もの種族が暮らしてると言われている。
みんなでどうするか話し合うもなかなか行先は決まらない。
いちばん無難なのはコロポックル族に会いに行くことだけど、神出鬼没だからどこにいるか分からないんだよなぁ。
霧丸なら知ってるんだろうけど、これからひっそりと出て行こうって時に訊きにいくわけにもいかず……。
とそんな風に悩んでいると、マキマがこんな提案をしてくる。
「でしたら、いちどコスタ王国へ向かってみるというのはいかがでしょうか?」
「そうですなぁ! コスタ国王は勇者さまが来れば力を貸してくれるという約束ですし!」
「うむ。それに拠点となる場所は必要じゃろう」
たしかにこれからいろいろな種族の協力を得る必要があるわけで。
じいさんが言うように拠点はあった方がいいけど。
「でも俺が行って本当にだいじょうぶなのかな。魔王連中は俺を狙ってるわけだし」
またいつここと同じ目に遭うか分からないんだ。
けど。
四人は特に気にする素振りもなくこう続ける。
「その点は心配せんでもいいはずじゃ。コスタ王国には大きな結界もあるしのう。モンスターは簡単には侵入できないはずじゃ」
「それに精鋭の王国騎兵団もおりますしなぁ~。挨拶のために訪れるくらい問題ないはずですぞ!」
「前はコスタ王国と関係はよくなかったのかもだけど状況が状況なんだし! お兄さまが来たらぜ~ったい喜ぶって! だって勇者さまなんだもん♡」
「ティムさまご安心ください。なにかあればわたしからも国王にお話いたします」
これだけみんなが言うんだ。
信じてみよう。
「分かった。それじゃひとまずコスタ国王に会いに行こう。オーブ集めはそのあとで考えようか」
俺がそう言うとみんなそれに賛成してくれた。
それから。
街の出口まで来るころには地平線から朝陽が覗きはじめていた。
新しい朝がはじまろうとしてるんだ。
そんな輝かしい予感を胸に抱きながら歩いてると、出口のあたりにいくつかの人影があることに気づく。
すぐ分かった。
見間違うはずがない。
これまでずっと一緒にいた仲間たちなんだから。
そう。
そこには幹部のみんなが揃ってたんだ。
「……」
少しだけ後ろめたさがあって足を踏み出すのを躊躇ってしまう。
でも。
マキマがそっと手を握ってくれる。
「だいじょうぶです。皆さんティムさまの味方ですから」
「マキマ……」
勇気を出して一歩踏み出すと、霧丸がゆっくりと頭を下げた。
「申し訳ありませんティムさま。実はブライ殿からロザリオテン城の跡地であった話をすべて聞かせていただきました」
「そうだったのか」
「約束を破ってすまんのう。じゃが、やはり彼らには知る権利があると思ったんじゃ」
「水臭いやないか、ティムはん! なにも言わず出て行こうなんて……ちと寂しいわ~」
「そうですよ! 吾輩たちはティムさまと一緒にいたいんですから!」
「ご、ごめん……」
ドワタンとルーク軍曹の気持ちが伝わってきて思わず尻込みしてしまう。
幹部のみんなの気持ちを思えば、俺の選択は自分勝手のなにものでもない。
けど。
「ですが、主さまのご決断は尊敬したいと思います」
「え?」
てっきり止められるものだと思ってたからガンフーのその言葉は予想外だった。
「魔王と実際に対峙して分かりました。我たちでは力不足だと」
「せやな。ワイらがティムはんについて行っても足手まといになるだけや」
「そうですね。それは吾輩たちの望むことではありません」
「我々のことでしたら心配なさらないでください。ティムさまが繋いでくださったこの強固な種族の絆は、誰にも打ち破れないですから」
霧丸がそう言うと、ガンフー、ドワタン、ルーク軍曹は力強く頷いた。
「モンスターが攻めてきたら、今度こそ辺境調査団が残らず倒してみせますよ~!」
「この国のオーブは、我の命に代えても守り抜いてみせます」
「せやから、オーブを集めて無事帰ってくるんやで、ティムはん!」
「ここがティムさまの故郷だということを忘れないでください。いつまでもティムさまのお帰りをお待ちしております」
「……ありがとう、みんな。かならずオーブをすべて集めて帰ってくるから。そのときまでこの国のことは任せたぞ!」
その言葉に幹部のみんなは胸に拳を当てて敬礼する。
こうして。
俺たちは大勢の仲間たちに笑顔で見送られる形で出発することになった。
新たな勇者一行の旅立ちだ。
ポケットに入ったままの金のメダルを握り締め、ルーデウス村での日々をふと思い返す。
いつかやって来ると待ちわびていた勇者さま。
自分がその役目を果たすことになったっていうのはなんとも不思議な気分だ。
いつ勇者さまが訪れるのか、なんてことはもう考える必要はない。
今後の行き先は俺自身が決めることだからだ。
世界を救うその日まで――俺たちは前へ進み続ける。
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ストーリーがよくできていると思います。
エラそうですみません。
他の方の作品に比べて、ストーリーがすごくしっかり作られていると感じました。
誤字も少ないですし。
これからもがんばってください
寝技絞め技は出来るよね??でなきゃ一生童貞じゃん....
魔王との戦いの章を読んでますが何と前書きが多いのか!長くてイライラしてしまった、途中を飛ばして呼んでる。全体的に状況とかの説明が長すぎるとおもう、説明など最低限でわかるような文章が求められますね!