上 下
56 / 68
2章-2

第20話

しおりを挟む
(はぁ、はぁ……。ルーデウスさま……)

 マキマは今ブライとともに大通りを走っていた。

 あのあと。

 ウェルミィを酒場の地下室へと運び終えるとヤッザンを守役としてその場に残し、ふたりは戦況を確認するためいちどもとの場所へ戻ることにしたのだ。

(だいじょうぶ……。ルーデウスさまが魔王に負けるはずがない)


「あそこを見るんじゃ!」

 突然、ブライが声を上げる。
 目を向ければそこにはモンスターの大群に囲まれた集団の姿があった。

「アニキ~っ! どうすればいいんですかぁー!」

「次から次へと湧いて出てくるッス~!?」

「とにかくなんとかするんや!」

「霧丸殿。これではきりがないぞ」

「まさかここまでモンスターが入り込んでいるとは……」

 取り囲まれていたのはドワタンたち三人とガンフー、霧丸だった。

 それを見てブライは両手を前に構える。

「マキマ嬢! 助太刀するのじゃ!」

「はい!」

 〈攻撃魔法〉をブライが唱えるとそのあとに続いてマキマが〈剣技〉を繰り出す。

「虚空を曲げし罪深き天界の審判、葬礼たる裁きを喰らい尽くせ――《終焉の使者ダークネスデスロール》」

「ここでわたしが止めてみせます! 《不死鳥チェンジラッシュ》!」


 バヂィバヂィバヂィーーーン!!

 ズッバシュギギギーーーンッ!!


 ふたりの攻撃が見事に炸裂し、周囲のモンスターははじけ飛ぶように四方へ放り出された。



 ◇◇◇



「ふはぁ~助かったでぇ……。人族のくせにワイら助けるなんてあんたら見直したわ……」

「はぁ……命拾いしましたぁ……」

「オイラ死ぬかと思ったッスよぉ……」

 ドワタン、ドワ太、ドワ助はその場でへたりと座り込む。
 一方で霧丸はマキマとブライに頭を下げた。
 
「本当に助かりました。あなたたちは先ほど入口にいらした方たちですね」

「礼には及ばんのじゃ。それと自己紹介がまだじゃったな。ワシの名はブライじゃ。こちらはエアリアル帝国の神聖騎士隊隊長のマキマ嬢じゃ」

「神聖騎士隊……どうりで強いわけだ。命拾いしたぞ。オーガ族を代表して礼を言おう」

 ガンフーが差し出してきた手をマキマは握り返す。

「あなたは……ひょっとしてガンフーさんですか?」

「? なぜ我の名前を知っている?」

「フォッフォッ、そなただけではないのじゃ。お主らは自由市国ルーデウスの幹部じゃな? だとすれば皆の名前は分かるでのう~」

「はい。ルーデウ……ティムさまから皆さんのお名前は聞いてたんです」

「そういうことでしたか」

 霧丸が納得したように呟いた。

「それで。どうしてこんな場所に残っておったのじゃ?」

「我々は仲間を外へ逃がすために誘導していたのだ」

「街の東側では、ルーク軍曹と辺境調査団の者たちが同じように誘導に当たっています。西側は某たちが担当していたというわけです」

 ガンフーと霧丸がそう説明したあとでドワタンが口を挟む。
 
「んでまぁ。ワイらが最後まで残って街を見まわってたんやけど……さっき見たとおりや。モンスターの大群に囲まれてしまったんや」

「数も多いしどうしようって困ってたんッスよ!」

「だから本当に助かりましたぁ~!」

「なるほどのぅ」

 頷くブライに代わって今度はマキマが訊ねた。

「街の皆さんは無事に逃げることができたんでしょうか?」

「うむ。西側の居住区に住んでいる者たちは全員退避させることができたぞ」

「ルーク軍曹のことです。東側の皆も上手く外へ逃がしてくれていることでしょう」

 蒼狼王族サファイアウルフズも、オーガ族も、刀鎧始祖族エルダードワーフも。
 種族進化を果たしているため、そのあたりの生存能力は折り紙付きだ。

 マキマは街の皆が全員生きのびてくれていることをひそかに祈った。

「んで。あんたらはどうしてこんなとこにおんねん?」

「わたしたちは魔王と戦ってるティムさまのところへ向かってたんです」

「そういうことじゃ。先を急がねばならんのでのぅ。そなたたちは気をつけて外へ退避するんじゃ」

 そう言ってこの場をあとにしようとするふたりだったが。

「ちょ、ちょっと待ちぃーや! 今なんて言ったんや!?」

「魔王とか……聞えた気がしましたけど……」

「オイラたちの聞き間違いッスかね?」

 騒ぐドワタンたちとは対照的になにかを理解したように霧丸は口にする。

「やはりこれは魔王の仕業でしたか」

「それで主さまは無事なのか?」

 ガンフーに問われてマキマは首を横に振る。

「……分かりません。ですがティムさまが負けるはずがありません。かならず魔王を倒してくださいます」

「そうじゃな。それを確認するためにもワシらは向かわなければならんのじゃ」

 ブライが言いかけたそのときだった。


 ズドゥゴゴゴゴゴゴーーーンッ!!


 突如、鼓膜をぶち破るような爆音があたりに鳴り響く。

 かと思えば次の刹那。
 瞬く間に居住区が破壊され、火の海と化す光景が目に飛び込んでくる。
 
(まさか魔王!?)

 マキマはとっさに剣を引き抜く。

 が。
 そんなもので太刀打ちできないのは明白だった。

 街のあちこちで爆音が鳴り響き、同時にものすごい勢いで火柱が上がりはじめる。
 
 まるで地獄を切り取ったかのような光景が目の前では繰り広げられていた。
 
 その牙はこの場にいる者たちにも向かい……。

「【空間の封殺ヴァニティースペース】!」

 ブライがとっさに唱えると皆の足元に魔法陣が出現する。
 攻撃を防ぐ防御壁だ。

 これによりマキマたちは間一髪のところで攻撃を防ぐことに成功するのだった。


「なにが起こったんや!?」

「ひとまず助かりましたぁ……」

「アニキっ~! オイラたち生きてるッスよぉ~!」 

 尻もちをつきながら混乱するドワタン、ドワ太、ドワ助の三人。
 彼ら同様、霧丸とガンフーもなにが起こったのか分からないといった表情を浮かべる。

「ブライさま……助かりました。本当にありがとうございます」

「うむ。なんとかギリギリのところで間に合ってよかったのじゃ」

 マキマだけはブライがとっさの判断で皆を救ったということを理解していた。

「ブライ殿、これは……あなたの力なのか?」

「ワシのEXスキルじゃ」

 驚きながら訊ねてくるガンフーに対してブライは説明する。
 
「この【空間の封殺ヴァニティースペース】の効果が生きてるうちはあらゆる攻撃から身を守ることができるのじゃ」

「なんという……すごい能力だ」

「それだけじゃないんです。ブライさまがこの【空間の封殺ヴァニティースペース】を使用してる間は時間の流れも止めることができるんです」

「えぇっ!? 時間の流れも止められちゃうんッスか!?」

「アニキっ! やっぱ人族のスキルってとんでもないですよぉ~!」

「せやな。まだ全員を認めたわけやないけど、こんな力をワイらのため使うなんて人族の中には気持ちのええやつもおるってよう分かったで」

「しかし。これだけのスキルを扱えるとは……ブライさんはいったい何者なんでしょうか?」

 不思議そうに口にする霧丸の言葉にマキマが返答する。

「ブライさまはもともとエアリアル帝国の指南番をやられていて陛下の家庭教師でもあったんです」

「それは……すごい」

「しっかしエアリアル帝国の生き残りちゅー話はほんまやったんやなぁ」

「? ティムさまからなにも聞かされていないんですか?」

 マキマがそう訊ねるとガンフーが首を横に振る。

「あのあと主さまは領主館バロンコートへと戻られたが、そなたらについてはなにも話さなかったのでな」

「そうだったんですか」

「ティムはんのことやからなんか考えがあって話さんかったんやろ思ってたわ。ひょっとして……さっきあんたらが言ってた魔王ってのと関係あるんか? このめちゃくちゃな攻撃はそいつが引き起こしてるんやろ?」

 真剣な表情で訊ねてくるドワタン。
 
 それもそのはずだ。
 こんなわけの分からない状況に置かれて不安で仕方ないのだろう。
 
 それは彼だけじゃなくほかの皆にしても同じようだった。

「ブライさま……」

「うむ。状況が状況じゃ。この場にいる全員にもワシらの事情を知っておいてもらった方がいいかもしれん。魔王がここまでやって来た理由と密に関わっておるからのぅ」

「そうですね」

 こうしてブライは自分たちがどうしてランドマン大陸までやって来たのか、その理由を皆に説明することになった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

処理中です...