どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ

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2章-2

第16話

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 広場のモニュメントを背にしてウェルミィは小さく口にする。

「……お兄さま。準備はいいかな……」

「ああ。覚悟はできてるよ」

「んへへ……なんか、いつかのお兄さまみたい……とってもかっこいいよ……ごほっ、ごほっ……!」

「ウェルミィさま!?」

 ヤッザンのおっさんが駆け寄ろうとするも妹はそれを手で制する。

「うちは……へーきだから……。心配しないで……」


 バッゴォオオオオオン!!


 そんなことを話しているうちにまた近くで爆音が響いた。
 モンスターの雄叫びもさっきよりも大きくなってる。

 この場にいる誰もがもう時間がないことを自覚していた。

 またいつここに魔王が現れるか分からないんだ。

「それじゃ……お兄さま、スキルを使うから……目を閉じて……」

「分かった」

 言われたとおり目を閉じるとウェルミィがぎゅっと手を握ってくる。

「蒼穹をかける閃光の道しるべよ……聖なる輪を描きし、慈愛に満ちた天の雨粒を……海底へと響き……幾千の命、幾億の運命……奏でるは優しき音色、そこにある万象を認めるならば……永遠の安息へと導き、時を遡り……汝の意識をここに呼び覚まさん……」

 途切れ途切れに祝詞が読み上げられた瞬間。

 
 シュルピーーン!!


「!」

 俺の全身はまばゆい輝きに包まれる。
 それはどこか懐かしさを感じる暖かな光だった。

 淡い光の輪がまわりに降りてきて、しばらくすると波がおさまっていく。

(……っ、終わったのか……?)

 ゆっくりと目を開けるとそこには柔らかな笑みを浮かべるウェルミィの姿があった。

「……んへへ、お兄さま……。あとは……よろしくね……」

 コトンと。
 エネルギーが尽きたみたいに妹は目を閉じて動かなくなってしまう。


 次の刹那。

 光のウィンドウが俺の前に起動する。

===========================

自身の中に眠る真の力が超覚醒しました。

〈村人〉から〈勇者〉へとジョブチェンジを行います。
固有スキル【命中率0%】は【煌世主ギラメシアの意志】へと書き換えられました。

===========================

 アナウンス画面が表示されたそのとき。
 内側から燃えたぎるようなパワーがみなぎってくるのが分かった。

(すごいっ! これが勇者の力なのか!?)

 だがまわりの騒ぎ声が聞えてきたことでいちど冷静になる。

「マズイぞ。非常に危険な状態じゃ!」
 
 声のした方へ目を向ければ、ウェルミィはヤッザンのおっさんに介抱されながらぐったりとしていた。
 どうやらまた意識を失ってしまったようだ。

(ウェルミィ……)

 痛々しい妹の姿に目を奪われてるとマキマが声をかけてくる。

「ティムさま。お気分はいかがでしょうか?」

「さっきまでとぜんぜん違うよ。力がどこまでも無限に溢れ出てくるみたいだ」

「そうですか」

 どこかホッとしたような顔を浮かべる。

 マキマの中では、ウェルミィの容態を案ずる気持ちと俺が再覚醒したことを喜ぶ気持ちが複雑にせめぎ合っているのかもしれない。

 ウェルミィのもとへ近寄ると、俺は艶やかなブロンドの髪をやさしく撫でた。

「……俺のためにほんとごめんな。かならず魔王を倒して戻ってくるから。もう少しの間だけガマンしててくれ」

 そっと手を握ってやる。
 その手はさっきよりも冷たく感じられた。

 本当に時間がないんだ。

「ティムさま! 酒場まで案内していただいてもよろしいでしょうか!?」

「そうだな。おっさんこっちだ。ついて来てくれ」

 俺がそう言いかけたそのときだった。


 バッゴォオオオオオン!!


 ふたたびの爆音とともに、突如目の前が巨大な炎で包まれる。

(え?)

 あまりに突然のことに俺たちは唖然としてしまう。
 まるで瞬きをするような一瞬のうちに攻撃を受けたんだ。
 
 すると。

 夜空から黒い大きな影が舞い降りてくるのが分かった。

「ふぅ~。久しぶりの祖国の空気は気持ちがいいなぁ~」

「!」

 それがこの世に存在してはいけない異形の存在だって分かるのにそう時間はかからなかった。

(こいつ……まさか)

 上空から降りてくる大男の真っ黒な両翼を見て確信する。
 
(……魔王だ!)

 みんなもそれに気づいたようだ。
 すぐさま全員で陣形を組む。

「ようやく勇者さまのおでましかぁ~。まったく待ちくたびれたぜー」

 その圧倒的な存在感を前に一瞬だけ足がすくみそうになる。
 それはみんなも同じようだ。

「やはり魔王じゃったか……」

「へぇ~。おいぼれのジジイのくせによくオレサマの正体が分かったじゃねーか。ハハハッ! そうだよ。オレサマは冥界旅団の九極がひとり――ジャイオーンさまだ!」

 俺はまじまじと相手の姿を観察する。

(ジャイオーン……)

 頑強な紫色の肉体を持ち、両腕は獣毛で覆われている。
 特徴的な長い銀髪の上には鋭い角が二本覗いていた。

 けど、なんといっても目を引くのはその大きな漆黒の両翼だ。

「しっかしよぉー。ちょいと挨拶代わりに遊んでやったくらいでんなズタボロになるとか、あんたらの皇女さまもろすぎだぜ?」

「貴様っ! ウェルミィさまになんてことをしたんだ!」

 ヤッザンが両拳を前に構えながら叫ぶ。
 
「おいおい。その女はあえて生かしてやったんだから、こっちは感謝してほしいくらいなんだがなぁ~」

「なにっ……?」

「けどまぁ勇者が覚醒したってことはその女はもう用済みってことだ。ハハハッ! もうぶっ殺してもいいよなー?」

 それを聞いて俺は理解した。
 こいつは敵の俺が勇者として覚醒するのをあえて待ってたんだ。

「ニズゼルファさまには勇者として覚醒する前に殺せって言われてたんだけどよぉ~。んなチャンス、オレサマがみすみす逃すわけねぇーよなぁ? ずっと考えてたんだ。いつかてめぇと戦いたいってな」

 ジャイオーンはそう言って俺に目を向ける。

「ニズゼルファさまによればよ。これまで戦ったどの種族よりも歯ごたえがあったって話じゃねーか。だからてめぇは幻の中であえて生かされてたんだよ。いわばニズゼルファさまの観賞用モルモットだったってわけだ! ハハハッ!」

 自分の中でふつふつと怒りの感情が湧き起こってくるのが分かった。

「けどよー。まさかてめぇが檻から抜け出すとは思ってなかったみたいだぜ? こっちにも事情ってもんがあってなぁ。すっげータイミング悪いときにてめぇはニズゼルファさまの呪いを解いちまったってわけだ」

「タイミング? なにを言ってるんだ?」

「こっちとしてはよ。これから本格的に世界を掌握しようって考えてたわけよ。最近モンスターの異変を感じなかったかぁ? それはな。ニズゼルファさまがもうすぐ完全体となられるから大気中の魔素量が活発になったことが原因なのさ。モンスターはそれに反応しちまうからなぁ~」

 魔素量ってものがどういうものか分からなかったけど相手の言いたいことは理解できた。
 だからデボンの森のモンスターは街を襲うようになってたのか。
 
 けど、今はそれよりも気になる言葉があった。

「完全体だって?」

「クックック。そりゃてめぇも気になるよなぁ~。5年前のニズゼルファさまはまだ不完全な状態だったってことよ。これまではずっと力をため込んできたってわけさ」

「なんじゃと……? あれで不完全な状態じゃったというのか!?」

「世界を壊滅させたというのに……バケモノめッ……!」

 ブライのじいさんとヤッザンのおっさんが拳を震わせる。
 
「まぁ完全体となられるニズゼルファさまにとって勇者なんぞゴミ屑以下の存在なんだろーが。念のためってことでな。てめぇを葬るようにと冥界旅団の九極に指令が下ったってわけよ。そこで名乗りを挙げたのがオレサマだったってわけだ」

「そうか」

 どうやらウェルミィたちが生きのびたって情報も相手側は把握してたようだ。

「勇者と皇女が合流するタイミングでふたりとも確実に殺せってな。皇女はてめぇの中に眠った力を呼び起こさせるスキルを持ってるからその前に仕留めろって話だったんだが……まぁ今言ったとおりだ」

「俺と戦いたかったと?」

「ハハハッ! よく分かってるじゃねーか! ニズゼルファさまが仕留めそこなったてめぇをオレサマのこの手でぶち殺す! ほかの九極の連中にもジャマはさせねぇー。なぜならオレサマがこの世界でいちばん最強の存在だからだ!」

 目を血走らせながら不敵な笑みを浮かべる大男を見上げて思った。
 こいつは狂ってるんだって。
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