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2章-1
第5話
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俺が世界を救う勇者さま?
覚悟していたとはいえ、またとんでもない話が飛び出してきたな。
けどマキマの表情は真剣そのものだ。
冗談を言ってるわけじゃないってことはすぐに分かった。
「大魔帝ニズゼルファを倒し、世界に平和をもたらすことができるのはルーデウスさま以外におりません。どうかご自身の使命を思い出してください」
「使命……」
「はい。勇者として大魔帝を倒すという使命です」
当然、そんな使命を背負った覚えはない。
でも。
そんな風に感じるのにも理由があったようだ。
続くマキマの言葉でこれまで抱いてきた違和感の正体が判然とする。
「驚かないでお聞きください。あなたさまが生まれ育ったというルーデウス村という村は……実在しないのです」
「!?」
「ルーデウスさまは5年もの間、大魔帝ニズゼルファの呪いによってその幻の村でずっと同じ一日を繰り返していました」
そのひと言から過去の扉が開くことに。
◇◇◇
今から10年前。
突如、出現した魔族の登場によって世界は混沌に包まれることになる。
魔族はモンスターを自らの手駒に変え、極意という特殊な異能によって瞬く間に世界中を掌握していく。
やがてその魔の手は人族にも及んだ。
そんな中。
ランドマン大陸のエアリアル帝国ではひとりの英雄が誕生しようとしていた。
それが第一皇子であるルーデウス・エアリアル――つまり俺だったようだ。
「このときルーデウスさまは15歳。ウェルミィさまは10歳でした」
俺は『天恵の儀式』を迎えたその日に〈皇子〉のジョブを授かるも、それがある特殊なジョブへと超覚醒する。
それが〈勇者〉のジョブだったらしい。
勇者っていうのは数百年おきに人族の間に誕生する英雄の名前でもあるみたいだ。
その歴史は大昔にまで遡るという。
人族に脅威が迫るタイミングで勇者は誕生することが多かったって話だ。
『死の大暴乱』の時代にも勇者は存在して、勇者は支配者としてほかの種族をまとめ上げ、モンスターの脅威から世界を守ったと言われているようだ。
そんな〈勇者〉のジョブを授かった俺もまた英雄と称えられた。
ランドマン大陸に襲いかかってきた凶悪なモンスターを次々に退け、エアリアル帝国の危機を救ったとマキマは口にする。
残念ながらまったく記憶にないが。
そして。
このままでは世界が魔族の手に落ちると考えた俺は、たったひとりで大魔帝ニズゼルファに戦いを挑む決意をしたのだという。
その話を俺はどこか他人事のように聞いていた。
(そんなすごい男が……本当に俺なのか?)
正直言ってまったく信じられない。
けどすごかったのはそこまでだったようだ。
マキマが神妙な表情でこう続ける。
「ですが、圧倒的な強さを持つルーデウスさまをもってしても大魔帝ニズゼルファには敵いませんでした」
その言葉に残りの三人は顔を俯かせる。
俺はというとさっき集会の間で聞いた話を思い出していた。
(そうだ。勇者さまは大魔帝に敗れたんだ)
みんなの話とも一致する。
どうやらマキマが嘘を言ってるって線はなさそうだ。
「エアリアル帝国に勇者が誕生したという話は魔族たちにもすぐ伝わったようなんです」
「そこで大魔帝が自らランドマン大陸へ向けて侵攻を開始したのじゃ」
「お兄さまはその情報を微精霊を通じて知ったんだよ。ニズゼルファが本土に上陸する前に倒そうって」
どうやら俺はランドマン大陸の前線にある小さな島で大魔帝を迎え撃とうとしたようだ。
その小島で一対一の戦いを挑み、敗れてしまったというのが真相らしい。
未だに俺が勇者さまだって話は信じられないけど。
いったんそれを受け入れない限り、続きに耳を傾けるのは難しそうだった。
オーケーだ。
ひとまずぜんぶ受け入れよう。
そう切り替えるといくぶん気持ちも楽になる。
「そのあと。ルーデウスさまはある村人へと転生させられました」
「だからさっき転生って言ったのか」
「うん。うちも最初その話を聞いたときは信じられなかったけどね」
「じゃが姫さま。【写天三眼】で確認したから間違いないのじゃ」
大魔帝ニズゼルファの呪いか。
まったく大したことしてくれやがる。
村人に転生させられた俺は記憶を消され、そこで同じ一日を永遠に繰り返すことになった。
詳しくは分からないけど、これもじいさんのスキルで判明したみたいだな。
(同じ一日を永遠に繰り返す、か)
だからあのとき。
デジャブを何回も見たのか。
(同じ一日を何度も繰り返していたから未来を予測することができたんだ)
タネが分かればなんてことはない。
昔の記憶をいっさい思い出せなかったのはこういう経緯があったからなんだ。
記憶を消されてたのなら思い出せなくて当然だ。
が。
次に新たな疑問が浮かび上がってくる。
(でも……。どうして同じ一日から脱出することができたんだ?)
5年もの間、同じ一日を繰り返してきたわけで。
なにがきっかけで呪いを打ち破ることができたのか、今思い返してみてもよく分からない。
そんな疑問の答えはこのあとの話で判明することになる。
覚悟していたとはいえ、またとんでもない話が飛び出してきたな。
けどマキマの表情は真剣そのものだ。
冗談を言ってるわけじゃないってことはすぐに分かった。
「大魔帝ニズゼルファを倒し、世界に平和をもたらすことができるのはルーデウスさま以外におりません。どうかご自身の使命を思い出してください」
「使命……」
「はい。勇者として大魔帝を倒すという使命です」
当然、そんな使命を背負った覚えはない。
でも。
そんな風に感じるのにも理由があったようだ。
続くマキマの言葉でこれまで抱いてきた違和感の正体が判然とする。
「驚かないでお聞きください。あなたさまが生まれ育ったというルーデウス村という村は……実在しないのです」
「!?」
「ルーデウスさまは5年もの間、大魔帝ニズゼルファの呪いによってその幻の村でずっと同じ一日を繰り返していました」
そのひと言から過去の扉が開くことに。
◇◇◇
今から10年前。
突如、出現した魔族の登場によって世界は混沌に包まれることになる。
魔族はモンスターを自らの手駒に変え、極意という特殊な異能によって瞬く間に世界中を掌握していく。
やがてその魔の手は人族にも及んだ。
そんな中。
ランドマン大陸のエアリアル帝国ではひとりの英雄が誕生しようとしていた。
それが第一皇子であるルーデウス・エアリアル――つまり俺だったようだ。
「このときルーデウスさまは15歳。ウェルミィさまは10歳でした」
俺は『天恵の儀式』を迎えたその日に〈皇子〉のジョブを授かるも、それがある特殊なジョブへと超覚醒する。
それが〈勇者〉のジョブだったらしい。
勇者っていうのは数百年おきに人族の間に誕生する英雄の名前でもあるみたいだ。
その歴史は大昔にまで遡るという。
人族に脅威が迫るタイミングで勇者は誕生することが多かったって話だ。
『死の大暴乱』の時代にも勇者は存在して、勇者は支配者としてほかの種族をまとめ上げ、モンスターの脅威から世界を守ったと言われているようだ。
そんな〈勇者〉のジョブを授かった俺もまた英雄と称えられた。
ランドマン大陸に襲いかかってきた凶悪なモンスターを次々に退け、エアリアル帝国の危機を救ったとマキマは口にする。
残念ながらまったく記憶にないが。
そして。
このままでは世界が魔族の手に落ちると考えた俺は、たったひとりで大魔帝ニズゼルファに戦いを挑む決意をしたのだという。
その話を俺はどこか他人事のように聞いていた。
(そんなすごい男が……本当に俺なのか?)
正直言ってまったく信じられない。
けどすごかったのはそこまでだったようだ。
マキマが神妙な表情でこう続ける。
「ですが、圧倒的な強さを持つルーデウスさまをもってしても大魔帝ニズゼルファには敵いませんでした」
その言葉に残りの三人は顔を俯かせる。
俺はというとさっき集会の間で聞いた話を思い出していた。
(そうだ。勇者さまは大魔帝に敗れたんだ)
みんなの話とも一致する。
どうやらマキマが嘘を言ってるって線はなさそうだ。
「エアリアル帝国に勇者が誕生したという話は魔族たちにもすぐ伝わったようなんです」
「そこで大魔帝が自らランドマン大陸へ向けて侵攻を開始したのじゃ」
「お兄さまはその情報を微精霊を通じて知ったんだよ。ニズゼルファが本土に上陸する前に倒そうって」
どうやら俺はランドマン大陸の前線にある小さな島で大魔帝を迎え撃とうとしたようだ。
その小島で一対一の戦いを挑み、敗れてしまったというのが真相らしい。
未だに俺が勇者さまだって話は信じられないけど。
いったんそれを受け入れない限り、続きに耳を傾けるのは難しそうだった。
オーケーだ。
ひとまずぜんぶ受け入れよう。
そう切り替えるといくぶん気持ちも楽になる。
「そのあと。ルーデウスさまはある村人へと転生させられました」
「だからさっき転生って言ったのか」
「うん。うちも最初その話を聞いたときは信じられなかったけどね」
「じゃが姫さま。【写天三眼】で確認したから間違いないのじゃ」
大魔帝ニズゼルファの呪いか。
まったく大したことしてくれやがる。
村人に転生させられた俺は記憶を消され、そこで同じ一日を永遠に繰り返すことになった。
詳しくは分からないけど、これもじいさんのスキルで判明したみたいだな。
(同じ一日を永遠に繰り返す、か)
だからあのとき。
デジャブを何回も見たのか。
(同じ一日を何度も繰り返していたから未来を予測することができたんだ)
タネが分かればなんてことはない。
昔の記憶をいっさい思い出せなかったのはこういう経緯があったからなんだ。
記憶を消されてたのなら思い出せなくて当然だ。
が。
次に新たな疑問が浮かび上がってくる。
(でも……。どうして同じ一日から脱出することができたんだ?)
5年もの間、同じ一日を繰り返してきたわけで。
なにがきっかけで呪いを打ち破ることができたのか、今思い返してみてもよく分からない。
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