22 / 68
1章-2
第22話
しおりを挟む
仲間を安全な場所へ退避させるために俺とガンフーはお互いにいちど身を引いた。
すると、真っ先にルーク軍曹が声をかけてくる。
「ティムさま! ガンフーさんは辺境調査団の団長である吾輩から見てもとんでもなく強い御方ですっ……」
「だろうな」
「それに本気となったオーガ族は手がつけられないことで有名です……。あのような挑発をされてかなり危険かと思います! なにかべつの方法で説得された方がよろしいのではないでしょうか?」
「あれはなにを言っても無駄って顔だ。オーガ族の流儀に従って力で証明しない限り説得は不可能だと思うよ」
「ですが……」
ルーク軍曹はまだ納得がいかないようだ。
ほかの仲間たちも不安げにこっちを見てくる。
「それにさ分かったんだよ。あいつはオーガ族の全員と一緒に心中するつもりなんだって」
「なっ……心中ですか!?」
「洞窟にこもってたのはたぶんそのためなんだろうし。ったく一族が絶滅するかもしれない危機が迫っているってのに。誰にも頼らずひっそりと死のうだなんてそんなのは美徳でもなんでもない」
俺は少し怒ってもいた。
だってそれはぜったいに間違ってるって分かるからだ。
「だから止めたいんだよ。そのためには俺が勝ってあいつに話を聞いてもらわなくちゃならない」
「ティムさま……」
「そう不安そうな顔するなって。だいじょうぶ、俺はぜったい負けないから。みんなは少し下がって戦いを見守っていてくれ」
背中をポンと軽く叩くとそれでようやくルーク軍曹も頷いてくれる。
「……分かりました。ティムさまがそこまでおっしゃるのでしたら吾輩たちはもうお止めしません。せめてもの助けとなるようにどうか我々の武器をお使いください」
「おう、ありがとな。きちんと使わせてもらうぞ」
ルーク軍曹が辺境調査団の仲間とともに後ろへ下がるのを見届けると俺は「ふぅ」と息を吐く。
(さてと。どうするかね)
HPが∞である以上負けないのはたしかなんだけど。
【命中率0%】のデメリットスキルがあるから勝てないのも事実だった。
なにか策を考えないとだな。
◇◇◇
「首領さま。全員が洞窟の中へと戻るのを確認しました」
女戦士長のクリエが手短に報告を済ませる。
それを聞いてガンフーは「そうか」と静かに頷いた。
「あの……本当によろしかったのでしょうか?」
「なにがだ?」
「ここ数日首領さまはまともに食事を取られておりません。そのような空腹状態で戦うのは非常に危険ではないでしょうか?」
「安心しろ。そんなことで我が負けることはあり得ぬ」
「そう……ですよね。無礼なことをお聞きしました。ご武運を首領さま」
クリエに見送られる形でガンフーは平地へと戻ってくる。
「もういいのか?」
「ああ。こちらは全員退避させた」
「そうか。こっちも準備はオーケーだ。そろそろはじめよう」
ティムがスッと槍を引き抜く。
その武器にガンフーは見覚えがあった。
(それは辺境調査団の複製槍。そんなもので我を倒すつもりか?)
ガンフーはイヌイヌ族と交流があったため、それらの武器が大した性能を持っていないことを見抜いていた。
逆にガンフーが今手にしているのは金獅子のハンマーというオーガ族の中では伝説と語り継がれてきた武器だ。
(先制攻撃を仕掛ければすぐにでも決着がつくはずだ。悪いが即刻終わりにさせてもらおう)
ティムが構えを取る前にガンフーは〈斧技〉の連続最強技を不意打ち気味に繰り出す。
「その身に刻むがいい! 《衝撃のファーストアタック》!」
が、ティムも即座に反応する。
「《鎧皇VV》」
その瞬間、ティムの体は聖なる光によって守られた。
これによってあらゆるダメージは無効化されることになる。
「そんな魔法が使えたとは驚きだ」
「無策ってわけじゃないんでね。そっちはこの魔法を解く術がないとみた」
〈弱体魔法〉の中にはこの効果を解くものも存在するがそもそもガンフーは『魔法』自体を習得していない。
オーガ族が魔法をほとんど使わず、スキルポイントを『特技』に全振りしているという話は有名だった。
「たしかにそのとおりだが……ハアァ! 《衝撃のファーストアタック》!」
ドゴゴゴゴーーン!
ガンフーは金獅子のハンマーをティム目がけて容赦なく振り回していく。
(あれは短時間攻撃を無効化するだけ。永遠に続くものではない)
こうして〈斧技〉を撃ち込み続けていれば効果が切れた瞬間に攻撃を与えることができる。
「いつまで耐えられるか見物だな、ティム・ベルリ!」
無数の刃がティムの体を刻み続ける。
今は〈補助魔法〉の効果でダメージは無効化されているがこれが切れた瞬間、ティムの肉体が八つ裂きにされるのは必至と言えた。
すると、真っ先にルーク軍曹が声をかけてくる。
「ティムさま! ガンフーさんは辺境調査団の団長である吾輩から見てもとんでもなく強い御方ですっ……」
「だろうな」
「それに本気となったオーガ族は手がつけられないことで有名です……。あのような挑発をされてかなり危険かと思います! なにかべつの方法で説得された方がよろしいのではないでしょうか?」
「あれはなにを言っても無駄って顔だ。オーガ族の流儀に従って力で証明しない限り説得は不可能だと思うよ」
「ですが……」
ルーク軍曹はまだ納得がいかないようだ。
ほかの仲間たちも不安げにこっちを見てくる。
「それにさ分かったんだよ。あいつはオーガ族の全員と一緒に心中するつもりなんだって」
「なっ……心中ですか!?」
「洞窟にこもってたのはたぶんそのためなんだろうし。ったく一族が絶滅するかもしれない危機が迫っているってのに。誰にも頼らずひっそりと死のうだなんてそんなのは美徳でもなんでもない」
俺は少し怒ってもいた。
だってそれはぜったいに間違ってるって分かるからだ。
「だから止めたいんだよ。そのためには俺が勝ってあいつに話を聞いてもらわなくちゃならない」
「ティムさま……」
「そう不安そうな顔するなって。だいじょうぶ、俺はぜったい負けないから。みんなは少し下がって戦いを見守っていてくれ」
背中をポンと軽く叩くとそれでようやくルーク軍曹も頷いてくれる。
「……分かりました。ティムさまがそこまでおっしゃるのでしたら吾輩たちはもうお止めしません。せめてもの助けとなるようにどうか我々の武器をお使いください」
「おう、ありがとな。きちんと使わせてもらうぞ」
ルーク軍曹が辺境調査団の仲間とともに後ろへ下がるのを見届けると俺は「ふぅ」と息を吐く。
(さてと。どうするかね)
HPが∞である以上負けないのはたしかなんだけど。
【命中率0%】のデメリットスキルがあるから勝てないのも事実だった。
なにか策を考えないとだな。
◇◇◇
「首領さま。全員が洞窟の中へと戻るのを確認しました」
女戦士長のクリエが手短に報告を済ませる。
それを聞いてガンフーは「そうか」と静かに頷いた。
「あの……本当によろしかったのでしょうか?」
「なにがだ?」
「ここ数日首領さまはまともに食事を取られておりません。そのような空腹状態で戦うのは非常に危険ではないでしょうか?」
「安心しろ。そんなことで我が負けることはあり得ぬ」
「そう……ですよね。無礼なことをお聞きしました。ご武運を首領さま」
クリエに見送られる形でガンフーは平地へと戻ってくる。
「もういいのか?」
「ああ。こちらは全員退避させた」
「そうか。こっちも準備はオーケーだ。そろそろはじめよう」
ティムがスッと槍を引き抜く。
その武器にガンフーは見覚えがあった。
(それは辺境調査団の複製槍。そんなもので我を倒すつもりか?)
ガンフーはイヌイヌ族と交流があったため、それらの武器が大した性能を持っていないことを見抜いていた。
逆にガンフーが今手にしているのは金獅子のハンマーというオーガ族の中では伝説と語り継がれてきた武器だ。
(先制攻撃を仕掛ければすぐにでも決着がつくはずだ。悪いが即刻終わりにさせてもらおう)
ティムが構えを取る前にガンフーは〈斧技〉の連続最強技を不意打ち気味に繰り出す。
「その身に刻むがいい! 《衝撃のファーストアタック》!」
が、ティムも即座に反応する。
「《鎧皇VV》」
その瞬間、ティムの体は聖なる光によって守られた。
これによってあらゆるダメージは無効化されることになる。
「そんな魔法が使えたとは驚きだ」
「無策ってわけじゃないんでね。そっちはこの魔法を解く術がないとみた」
〈弱体魔法〉の中にはこの効果を解くものも存在するがそもそもガンフーは『魔法』自体を習得していない。
オーガ族が魔法をほとんど使わず、スキルポイントを『特技』に全振りしているという話は有名だった。
「たしかにそのとおりだが……ハアァ! 《衝撃のファーストアタック》!」
ドゴゴゴゴーーン!
ガンフーは金獅子のハンマーをティム目がけて容赦なく振り回していく。
(あれは短時間攻撃を無効化するだけ。永遠に続くものではない)
こうして〈斧技〉を撃ち込み続けていれば効果が切れた瞬間に攻撃を与えることができる。
「いつまで耐えられるか見物だな、ティム・ベルリ!」
無数の刃がティムの体を刻み続ける。
今は〈補助魔法〉の効果でダメージは無効化されているがこれが切れた瞬間、ティムの肉体が八つ裂きにされるのは必至と言えた。
45
お気に入りに追加
1,193
あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~
川嶋マサヒロ
ファンタジー
ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。
かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。
それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。
現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。
引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。
あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。
そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。
イラストは
ジュエルセイバーFREE 様です。
URL:http://www.jewel-s.jp/
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる