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1章-1

第4話

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「……ぅぅ……」

 翌日。
 強烈な空腹感を抱いて俺は目を覚ました。

 ぬおぉぉ……。
 腹が減り過ぎて気持ちわるい……。

 頭がぐるんぐるんまわってる。

 なんとか這い上がるようにしてその場から立ち上がると、眩しい陽の光が木々の間から差し込んできた。
 
 すでに陽は頭上高くまで昇っている。
 三の鐘正午くらいになってるかもしれない。

(今ごろちょうどヨルと一緒に昼食を食べてるころか)

 そんなことを考えていると、昨日自分が村から追放されたっていう事実がよみがえってくる。

(けど、そういえばあれから既視感をまったく抱いてないな)

 ムギが酒場のテラス席で暴れ回るデジャブを見たので最後だ。

 
 にしても昨日は本当に不思議なことがあった。
 追放やデジャブもそうなんだけど、それよりもいちばん謎なのはあの女の子の歌声だ。

 あれはいったいなんだったんだろうな。


 ぐうぅぅ~~!


 が、今はそれよりも早急に解決しなきゃならない問題がある!
 
「なにか食うものを……」

 このままだとモンスターにやられる前に空腹で死んでしまう。
 だるい体を起こすと俺は近くに食料がないか探すことにした。



 ◇◇◇



「ひとまず結界の中になにか落ちてないか探すか……」

 結界の外には獰猛なモンスターが多く潜んでいる。
 スライム相手にあの体たらくなんだ。

 次にモンスターに襲われたらまちがいなく死ぬ。
 そう思うと怖くて結界の外には出られなかった。


 しばらくそのまま森の中を歩きまわっていると。

(――?)

 奇妙な感覚が襲ってくる。
 
 それは昨日のデジャブと似たような感覚だった。

 でも、それとは少し違う。

 昨日のは次に起こることを予測することができた。
 けどこの違和感はそういうんじゃなくて。

(この場所……。なんとなく見覚えがある気がする)

 だがそれはあり得ない。
 だって俺は生まれてこの方、ルーデウス村から出たことがないし。

 ……だよな?

 そう思って改めて過去を思い出そうとするけど。

(はぁ、ダメだ)

 やっぱり記憶にモヤがかかったようになって上手く思い出すことができない。

 しかし。
 その後も閃きのような奇妙な感覚は続いた。


(そうだ。たしかこの先にダンジョンがあって)

 得体の知れない閃きを頼りに森の中を足早で歩き続けると、蔦の絡まった木々の奥にダンジョンが隠されているのを俺は見つける。

 『叢雲むらくもの修練場』と、そんな風に呼ばれていたことも思い出した。

 そして。
 脳裏に誰かの姿がぼんやりと浮かんでくる。

 黄金のローブを身にまとった屈強な壮年の男だ。

 男はこんなことを口にした。

 〝この隠しダンジョンは修練の場として存在している。中には強敵のモンスターが多く潜んでいるから注意するのだぞ〟

 あれは誰の言葉だったんだっけ?

(ダンジョンの中にはほしにくの実がいっぱい落ちてるから、こもって修練するにはもってこいって話だったよな?)

 ほしにくの実の味は正直言って美味しくない。
 けど腹持ちはいいアイテムだ。

 食べるものが見つからない現状、ほしにくの実は魅力的だった。

「まあけど、いくら食料が落ちてるからって中にはモンスターがうじゃうじゃいるんだろうし……ないな」

 どうしてここにダンジョンがあるって分かったのか謎だったけど、さすがに中へ入るわけにもいかず。
 もとの場所に戻ろうとするが、ふと思い留まった。

「そうだ。EXスキルが覚醒したじゃないか」

 【オートスキップ】とか表示されてたっけ?
 俺はまだその内容を確認していない。

 ちなみにこのEXスキルっていうのは、固有スキルと違って誰もが所有してるわけじゃない。
 ごく限られた一部の者だけが『天恵の儀式』の際にこれが覚醒する……んだけど。

 俺の場合、村の敷地を出た瞬間にこいつが覚醒した。

 ぶっちゃけよく分からん。

(謎だけどEXスキルが追加されたのは素直にうれしいぞ)

 ひょっとするとこれがなにかの役に立つなんてことがあるかもしれない。

 そう考えた俺は「ステータスオープン」と唱えて光のウィンドウを起動させた。
 EXスキルの項目をタップしてみる。

===========================

◆EXスキル【オートスキップ】

[効果]
ダンジョンの攻略をスキップすることができる。
かならず生還できることが約束され、経験値や報酬を授かることができる。
スキルの使用時、ダンジョン名と周回数を入力する必要あり。

===========================

 はい?
 意味が分からず、俺はそこに表示された内容を二度見した。

「ダンジョンの攻略をスキップすることができる……。なんだよこれ、チートすぎるだろっ!?」

 まず〝攻略をスキップ〟って文言がいかつすぎ。
 ずいぶんポップに書かれてるけど、その規格外のぶっ壊れっぷりに俺は気づいていた。

「かならず生還できることが約束されるって、モンスターに襲われて死ぬ心配もないってこと? んなバカな……」

 正直言ってまだ信じられない。
 いちど実際に使ってみないと。

 少しだけ緊張しながら、俺は【オートスキップ】の項目を改めてタップした。

 するとすぐに実行画面が表示される。

===========================

【オートスキップ】を実行します。
ダンジョン名と周回数を入力してください。

ダンジョン名【   】
周回数【   】

===========================

 ダンジョンの名前はたぶん『叢雲の修練場』だ。
 とするとあとは周回数だな。

「ひとまず様子見のために1回でいっか」

 光のウィンドウをタップしながら入力を終える。

===========================

ダンジョン名【 叢雲の修練場 】
周回数【 1回 】

入力内容を受理しました。
こちらの内容で実行してよろしいですか?(Y/N)

===========================

 本当に実行するか一瞬迷うも、俺は〝YES〟を選択する。


 ぱんぱかぱーん!


 直後、気の抜けるようなファンファーレとともにリザルト画面が表示された。

===========================

〈ダンジョン攻略結果〉
戦闘回数 12回
討伐数 0回
獲得EXP 0
獲得ルビー 0ルビー
探索アイテム ほしにくの実×1

===========================

「え? なに? 俺なんもしてないんだけど」

 特に体に変わったところも見当たらない。
 
 戦闘回数12回? は?

 この一瞬のうちに俺はダンジョンの中に入ってモンスターと戦ったとでも言うのか?
 
 何気にほしにくの実を1個ゲットしたことになってるけど。


 ふと腰にぶら下げた魔法袋に目がいく。
 
(この結果が事実だとすればこの中には……)

 この魔法袋ってのはこの世界の誰でも携帯してる便利グッズで、ここにアイテムを入れて持ち運べたりできるのだ。
 異次元空間に繋がってるからどれだけものを入れても問題ないっていう優れモノ。
 
 収納されたアイテムはイメージすることで自由に取り出せる。

 俺はこいつをどうしても量が多くて薪が運べないときとかに使うくらいで、ほとんど使用していなかった。
 だから今、この中はからっぽのはずなんだけど。

「まさかな」

 けど念のために確認しておいて損はない。


 ひとまずほしにくの実をイメージしながら魔法袋の中に手をつっこむ。
 すると、なにかが手に触れた。

 この感触は……。

「うおぉいっ! マジかよ!?」

 魔法袋から引き抜くと俺の手にはほしにくの実が握られていた。

 こいつが袋の中にあったってことは。
 俺、本当にダンジョンの中に入ったのか?

 あのまばたきするくらいの一瞬のうちに。

「こいつはやべぇスキルだわ……」

 やっぱ俺の目に狂いはなかった。
 チートすぎる!
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