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1章-1

第3話

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 わけも分からないまま俺が連れて来られたのは村の祭殿だった。

(なんでこんな時間にみんな集まってるんだ?)

 祭殿には村人のほとんどが集合していた。
 そして、壇上にいる村長に父さんが俺を差し出す。

「村長、申し訳ございません。うちの息子が『勇者さま一行は本当に村にやって来るのか』などと言い出しまして」

「ふむ。それはまことか?」

「はい。ほら、お前もどういうわけかきちんと村長に説明しろ」

「え? 俺っ?」

 説明って言われても……。

 そんな風に俺が言い淀んでいるとまわりがざわざわと騒ぎはじめる。

「不届き者だ!」
「なんて恥知らずなことを言い出すんでしょう!」
「そんなことを考えている者はこの村に必要ないわ」
「今すぐ追い出すべきだ!」

「ちょっと待ってくれ、みんな! 俺はただ単に気になってたことを訊いただけで……」

 俺がそう弁解しようとしていると村長がゆっくりと口を開く。

「この者をルーデウス村から永久追放することにする」

 は……永久追放……?
 
 なに? 
 俺の聞きまちがい?


 が、どうやらそういうわけじゃないらしい。

 まわりの村人たちは足並みを揃えて「追放だ! 追放!」と声高に叫んでいた。

 おかしい。

 どうして勇者さまたちが本当にやって来るのかって訊いただけで、村から追い出されなくちゃならないんだ?

「母さんもなんか言ってくれよ。こんなのっておかしいじゃないか」

 近くまで来ていた母さんに助けを求めるも。

「なんて子に育ってしまったのかしら……悪夢だわ……」

 と、まるで聞く耳を持たない。
 父さんもさっきから一緒になって「追放だ!」と声を張り上げてるし。
 
 ダメだ。
 父さんも母さんも話を聞いてくれない。

 そこでふとバージルのおっちゃんの姿が目に入る。

「おっちゃん! おかしいだろ追放なんて。なんか言ってやってくれよ」

 そんな風に助けを求めるが、バージルのおっちゃんはこれまで見たことないくらい冷たい表情を浮かべていた。

「とっとと村から出ていけ。そんなこと言い出すヤツがこの村にいる資格はねぇ」

「な、なんで……! どうしちゃったんだよみんな……!?」

 こうなったら信じられる相手はひとりしかない。
 俺は祭壇の下に降りると人混みをかき分けて妹の姿を探す。

 いた!

「ヨルっ! お前からもなにか言ってくれ! このままじゃ俺、本当に村から追い出されちまう……!」

「えっとね、お兄ちゃん」

 どうしてだろうか。
 目の前のヨルの表情は不思議なくらい明るかった。

「もう顔なんか一生見たくないよ。お願いだから早く消えてね♪」

「!?」

 それで俺の心は完全に砕かれた。
 
 村の男たちに強引に連れ出される形で俺はルーデウス村から追放されてしまう。

「二度と我が村の敷居をまたがせるな」

 そんな村長の言葉がいつまでも頭の中でリフレインした。



 ◇◇◇



 ドンドン、ドンドン!


「おいっ! たのむ、開けてくれ!」

 外壁の門を精一杯叩くも扉は開かない。
 それから何度叩いてみても結果は同じだった。

 門がぜったいに開かないってことが分かると、自分が村を追放されたっていう事実がようやく現実のものとなる。

(俺がなにしたっていうんだ)

 外の森にはモンスターがうようよと棲息している。
 夜、こんな開けた場所に居続けたらいつ襲われるか分からなかった。

 ポケットに入れっぱなしになってた金のメダルを取り出す。

(あんなヨル……はじめて見た。いったいどうしちゃったんだよ)

 ヨルだけじゃない。
 父さんも母さんも、バージルのおっちゃんも村長も、村のみんなも。

 普段は本当にいい人たちであんな風に豹変するとかあり得ない。

 けどいつまでも嘆いてるわけにはいかなかった。
 
「とりあえずどこか身を隠せそうな場所に移動するしかないな」

 こんなところにいたらみすみすモンスターに殺されるようなもんだ。

 こういうときこそ人としての真価が問われる。

「うん、前向きに考えよう。きっとこれからいいことがあるに違いない!」

 たとえカラ元気でもいい。
 そんな風に思いながら村の敷地を出ようとする。

 すると突然。

 目の前に光のウィンドウが立ち上がった。

 そこにはこんな内容が表示されていた。

===========================

煌世主ギラメシアの意志】を感知しました。
EXスキルが覚醒します。

===========================

「んんっ? なんだこれ」

 煌世主ギラメシアの意志? 
 EXスキル?

 画面に触れてみるも特に反応はない。
 いや、いきなり意味が分からないんだが。


 この光のウィンドウは、大気中に存在する精霊粒子が集まって仮想的に表示される案内板みたいなものだ。
 
 司祭さまによる祝福を受け、『天恵の儀式』で樹妖精ドライアドと契約を終えた者は「ステータスオープン」と微精霊に呼びかけることで、好きなタイミングでこのウィンドウを起動させることができる。

 わけだけど。

(こっちが呼びかけずにこんな風に起動したのははじめてのことだな)

 ひとまずアナウンス画面を閉じると、俺は改めて「ステータスオープン」と唱えて自分のステータスを表示させた。

===========================

〈ティム・ベルリ〉

年齢:15歳 種族:人族
職業ジョブ:村人 AP 1

レベル 1
HP 10/10
MP 5/5
攻撃力 5
守備力 5
魔法力 5
ちから 3
みのまもり 3
きようさ 3
すばやさ 3

[スキルポイント] 0
[所持ルビー] 0ルビー
[所持アイテム] なし

===========================

 そこには見慣れたステータスが表示されていた。
 見たところ特に変わりはない。

 このウィンドウは便利な代物で、ここで自分のステータスを確認できるほか、『特技』や『魔法』の習得もできたりする。
 まあ、スキルポイントが0だからどの道習得はできないんだけど。

 そんな風にステータス画面をスクロールしていくと。

「あれ?」

 スキルの項目に見たことのない名前が追加されていることに気づく。

「EXスキル【オートスキップ】? は?」

 まさかさっきアナウンス画面に表示されてたEXスキルがうんぬんって……これのことか?


 ぴょん! ぴょん!


(げっ! モンスター!?)

 ウィンドウに目を奪われてるうちに俺はいつの間にかスライムの集団に取り囲まれてしまっていた。

 すぐに近くに落ちていた木の棒を拾い上げるとそれを武器代わりに応戦しようと試みる。

 が。


 スカッ! スカッ!


 俺の攻撃はスライムに当たらない。
 それも見事なほどきれいに。

 そこで俺は思い出した。

 村人の固有スキルが【命中率0%】っていうデメリットしかないスキルだってことを。

(なにやってんだよ! こんなことしても意味ないじゃん!?)

 こっちが攻撃も当てられないほどのザコだってことが分かったんだろう。

「スラ! スラ!」

 スライムたちはさらに仲間を呼び寄せると一斉に攻撃を仕掛けてくる。

「ちょ、ちょっとタイム……! うわあああぁっ~~~!?」

 木の棒をその場に投げ捨てると一目散にこの場から逃げ出した。



 ◇◇◇



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……。なんとか逃げのびたぞぉ……」
 
 5分くらい一心不乱に走りまわってようやく安全なところを見つけた。

 村の外に出たことで村人の最弱っぷりを痛感する。
 
 【命中率0%】という固有スキルがある以上、モンスターにはぜったい攻撃が当たらない。
 だから村人はほとんど村の外に出ないんだ。

 
 ちなみにこの固有スキルはジョブによって決まってしまう。

 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】。
 どの村人もこれと同じスキルを所有することになる。

 人族は15歳になって『天恵の儀式』を迎えると司祭さまからジョブを授かることになる。
 このとき、固有スキルも一緒に授かることになるのだ。

===========================

【戦士職】
剣士、武闘家、アーチャー、盗賊
アサシン、暗黒騎士、ウォリアー、モンスター使い
トリックスター、ネクロマンサー、弓使い

【魔法職】
魔術師、魔法剣士、回復術師、薬師
道具使い、幻術師、召喚師

【聖職】
司祭、シスター、予言者

【文化職】
商人、占い師、踊り子、大道芸人
錬金術師、吟遊詩人、船乗り、羊飼い
算術師、大工、彫刻士、調理師、村人

===========================

 ここに挙げたジョブはほんの一例だ。
 そのほかにも王族系のジョブや〈剣聖〉〈バトルマスター〉などの特殊系のジョブも存在する。

 この中でも〈村人〉は最底辺のジョブと言っていい。

(はっきり言って【命中率0%】なんてハズレもいいところだし)

 けど悲しいかな。
 これだけジョブがあったとしても、将来就けるジョブの素質は生まれながら決まっているって言われてるんだよなぁ。

 15歳になって〈剣士〉のジョブを授かる者は生まれながらその素質があるし、〈魔術師〉のジョブを授かる者もまた生まれながらその素質を持っている。

 つまりそれは〈村人〉にも言えることで。
 〈村人〉の家系に生まれた以上、『天恵の儀式』でほかのジョブを授かる望みはほとんどない。

 ごたぶんに洩れず、俺も〈村人〉のジョブを授かったわけだ。










 それからしばらく身を隠せそうな場所を探して歩いていると。

「ん?」

 森の中に結界が張られているのを確認する。

(どうしてこんなところに)
  
 結界には何種類か存在して、それがどういう役割のものなのか色で判別することができる。
 たとえば赤色の結界なら自分たち以外の種族の侵入を防ぐことができる。

 目の前に張られた結界の色は黄色。

 ということはこいつはモンスターの侵入を防ぐ結界ってわけだ。

 ルーデウス村に張られた結界も黄色だったりする。

 んで、なんで俺が結界を見て驚いたのかっていうとそれには理由がある。

 実はこの結界は〈賢者〉の固有スキルである【天空侵犯フォトンブリッツ】を使わないと張ることができない。
 てことは〈賢者〉がこいつを張ったってわけで。

(賢者がこの森までやって来たってことか?)

 もちろんルーデウス村にそんな偉人は存在しない。
 村長が〈司祭〉のジョブを持っているくらいだ。

 そう考えると村の結界も〈賢者〉が張ったってことになるな。

 うーん。
 考えれば考えるほどよく分からなくなる。


「ま、いっか」

 ひとまずこれで助かった。
 結界の中に身を隠せばモンスターに襲われる心配もないだろうし。

 そう思って結界に近寄る。

 するとその結界の上に見覚えのある紋章が浮かび上がってることに俺は気づいた。
 
(この紋章……つい最近どこかで見たような)


 けど、思い出せたのはそこまでだった。

 結界の中へ足を踏み入れると俺は近くの木にもたれかかる。

「はぁ、とんでもない一日だったわ」

 いちど腰をかけてしまうとすぐに眠気がやって来た。
 そのまま俺はウトウトして……。
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